【インタビュー】6/22『Bloodsport Bushido』蒼い瞳のケンシロウの黒船襲来!ジョシュ・バーネットがアメリカのプロレスイベントを直輸入
第10代無差別級キング・オブ・パンクラシスト、第7代UFC世界ヘビー級王者を戴冠し、長きにわたりプロレスと総合格闘技の二刀流で活躍しているジョシュ・バーネット。彼がアメリカでスタートさせたプロレスイベント「ブラッドスポーツ」(以下BS)が6月22日(土)東京・両国国技館に初上陸。日本のカルチャーにも精通する“青い瞳のケンシロウ”が黒船を率いて開催する大会名はズバリ、『Bloodsport Bushido』だ。
カール・ゴッチ、ビル・ロビンソン、アントニオ猪木のプロレスに影響を受け、格闘技でも「プロレスラー」を名乗るジョシュにとって、日本での大会開催はまさに悲願。19年のイベント旗上げから10大会をおこない、4年を経ての“凱旋”は、彼の格闘家人生の集大成でもあるのだろう。選手はロープのない特殊なリングで闘い、勝敗はピンフォールがなく、ギブアップ、KOのみで決まる過酷なルール。レスラーの実力がはっきりと浮き彫りになるだけに過酷さに拍車がかかりそうだ。
異次元的カードも揃うなかで、元UFC世界ヘビー級王者でもあるジョシュは元WWEスーパースターで現IWGP世界ヘビー級王者のジョン・モクスリーと対戦する。選手としてもプロモーターとしても大一番を控えるジョシュに話を聞いてみた。(聞き手:新井宏)
――ジョシュ選手はアメリカで独自の大会『Josh Barnett’s Blood Sport』を主宰しています。2019年4月4日に第1回大会を開催し、メインでジョシュ選手が鈴木みのる選手とドロー。以来、今年4月までアメリカで10大会を開催しています。そもそもこの大会はどのようにして始まったのですか。
ジョシュ:最初はマット・リドルから声がかかったんだ。
――プロレスラーであり総合格闘家でもある、アメリカの選手ですね。今年2月に棚橋弘至選手を破り新日本プロレスのNJPW WORLD認定TV王座を奪取、4月にザック・セイバーJr選手に敗れ王座を明け渡したばかりです。
ジョシュ:イエス。2018年の夏に彼がWWEに行くことになり、GCWの方からオレに声がかかったんだ。そこでOKしたんだけど、いざやってみるとエージェントやらブッカーやら、いろいろと不慣れなこともしなければならなかった。プロモーターの自分が大会のコンセプトを伝えるのも難しかったしね。19年4月に開催した第1回大会は、正直、酷かったよ(苦笑)。
――コンセプトが伝わり切らなかった?
ジョシュ:そうなんだ。コーナーからロープをはずしたリングで、決着はピンフォールなしのギブアップ、ノックアウトのみ。このタイプのレスリングは誰もが理解できるものではないだろう。多くの人は、総合格闘技のムーブを連想したに違いない。が、そことはまた異なるものなんだ。
これは総合ではなく、あくまでもプロフェッショナルレスリング。カール・ゴッチさん、ビル・ロビンソンさん、アントニオ猪木さんらのような強さを追求するプロレスを受け継ぐものだ。かつてはそういうスタイルがプロレスだった。しかし現実には、彼らのレガシーを知る人は減っている。現在はさまざまなスタイルにあふれている。たくさんのレスリングプロモーションがあって、たくさんのレスラーがいる。多くのレスリングがある。でも、この種のスタイルは誰もやっていない。なので、誰もわからないなかで始まったんだ。
まずは実験的に始まったもの。だからこそ回を重ねるには信頼されることが必要だった。ここまで10大会やってきたが、第1回とは明らかに出場選手たちのアティチュード、完璧に異なるフィーリングになっている。自分がプロデューサーの立場として、ほかの選手に理解してもらう作業が必要だった。そこでゴッチさん、ロビンソンさん、猪木さんから得たものを伝えていく。彼らから得たものを現在のプロフェッショナルレスリングにインプットしていくんだ。
――日本ではハードコア的スタイルでも知られるGCWですが、GCWの協力によって開催されているBSではリング上はコーナーポストのみでロープがありません。プロレスにとってロープは重要なファクターです。あえてなくしたのはなぜですか?
ジョシュ:もとをたどればシュートスタイルのレスリング。BSのタイトルは、ジャン=クロード・ヴァン・ダムの映画から取ったんだよ(笑)。
――そういえば、ヴァン・ダム主演の『ブラッド・スポーツ』という格闘映画が80年代にありました。
ジョシュ:イエス。クールなギミックだと思ってね。ただ、リングでの闘いにギミックはない。まったくね。闘いはすべて真摯でリアルでなければならない。それによって観客からリアルな反応を得られるだろう。レスラー仲間からもね。なかにはこの時代にはそぐわないと言うレスラーもいるし、一目で理解されるのは難しい。そういう意見を非難するつもりはないし、間違っているとも言わない。ファンの声を聞く、ファンの見たいものを見せる、ファンのニーズを知ることはプロモーターの仕事だろう。それは正しい。が、ときにはファンを教育することも必要なんだ。
従来のプロレスとはまったく異なるアプローチで、見たことのないスタイルを知ってもらう。ロープのないリングで頼れるのは自分の力だけ。この環境はギミックには頼れない。リングの中で目の前に映るのは相手の選手のみ。そこで試されるのが闘うレスラーの実力。このリングに逃げ場、隠れる場所はないんだ。だからこそ、レスラーは思う存分、ホンモノの自分を見せつけることができる。そこではギミックとしてのキャラクターを忘れ、自分が何者であるかを見せつけてほしい。
――開催を積み重ねてきて、反応はいかがですか。
ジョシュ:おもしろいことに完全に分かれている。それでも回を重ねるごとにポジティブな反応が多くなってきて、ファンのサポートも大きくなっていった。こちらから声をかける前に出たいと言ってくれるレスラーが増えてきた。大きな団体のビッグネームから聞いたこともないレスラーまで。MMAファイターも含めてね。出たいと思ってもらえるのは、自分にとってとても光栄なこと。これまでにWWE、新日本、インパクト(TNA)、AEWが選手を貸し出してくれた。
それとともにBSは成長を重ねてきた。さまざまなアスリートが集うこの大会がプロレス団体からも認められているのだと思う。実際に参戦した選手からまた出たいと思ってもらえるのはうれしいね。
――ジョシュ選手はプロモーターであり、マッチメーカーであり、もちろんプレーヤーでもあります。
ジョシュ:イエス。多くの大会ではオープニングセレモニーのアイデアを出したりもしているよ(笑)。とにかくBSではさまざまな役割をこなしている。大会を印象深いものにしたいし、どう感じてもらうかが重要。そしてリングではレスラーがピュアな闘いで大会ブランドを上げてくれる。そういった循環ができてきたんだ。
――そしていよいよ、BSが日本初上陸を果たします。題して「ブラッドスポーツ武士道」。日本での開催に踏み切ったのは?
ジョシュ:オレの闘いの原点だからね。総合格闘技もプロレスも日本の影響が大きく、トレーニングをした場所でもある。その地に何か特別なものを持ってきたい。
当初はUWFスタイルの大会をやるのかとも聞かれたけれど、そうではない。UWFはあの時代だからUWFになった。UWF回顧の大会もいいだろう。UWFに受けた影響は確かに大きい。でも、それだけじゃない。ストロングスタイル、アマチュアレスリング、総合格闘技。そこからたどり着いたのがBSという独自のコンセプトなんだ。これはまた、アメリカのスタイルとも異なっている。
――日本のプロレス、格闘技に影響を受けてアメリカで誕生した、アメリカンスタイルではないプロレスとなりますか。
ジョシュ:そうだね。
――大会名にある武士道とは、文字通りの日本の武士道であり、かつてUWFインターナショナルが海外で放送されていたときの番組名「Bushido」から得た着想ですか。
ジョシュ:イエス。そうなんだ。武士道のアイデアは、サムライスピリットから。闘いへのアプローチの仕方やリングに向かう気持ち、そしてこのスタイルでできる限りピュアでリアルな闘いを追求する。Willing to die for what we believe in、信じるものに命を捧げる精神こそ武士道スピリットだと思うんだ。
――なるほど。ではなぜ、両国国技館というビッグアリーナでの開催なのでしょうか。
ジョシュ:オレが(03年8月31日に)キング・オブ・パンクラス王座を取った場所であり、格闘技のオーラ、スピリットにあふれている会場だからね。プロレス、キックボクシング、ボクシング、もちろん相撲。多くのコンバットスポーツイベントがおこなわれてきた会場であり、BSにとって完璧な会場と言えると思うよ。この会場の歴史を尊重したかった。
実は今大会の準備段階であるレスラーと話したんだ。両国スモーアリーナでできたらいいなとね。そのとき、そのレスラーから自分はまだ両国で試合をしたことがない、ぜひともそこで闘ってみたいと言われたんだ。外国人選手にとっても両国は特別な場所。観客もそうだろう。
――そうですね。日本初開催にあたり、出場選手の選考もいろいろ考えられたと思います。アメリカでの過去の大会に参戦した選手中心のラインナップになっていますね。BSの何たるかを見せるためにも、いいカードが並んだとの印象があります。
ジョシュ:サンキュー。まずは選手のスキルが最重要。ノーマルなプロレスに加え、何かプラスアルファを持っているか。ほかのリングで何度も闘ったマッチメークになる場合もあるだろう。しかしBSで闘えば、まったく違う試合になる。それが興味深いし、ここで何が生まれるか。レスラーに対する印象がガラリと変わる可能性もあるだろうね。アメリカには多くのコピーキャットがいるけれど、ここではモノマネ、付け焼刃は通用しない。純粋に実力が試される。
――日本のファンがこれまで見たことのないような闘いが展開されると。
ジョシュ:そうなると信じている。それが今回の目標でもあるよ。これまでに参戦した選手を中心に選びながら、ニューブラッド、新しい血も注ぎたいと考えている。鈴木秀樹はこのスタイルに対応できるだろう。対戦相手の佐藤光留にも期待する。鈴木みのると闘うティモシー・サッチャーには日本での努力を買いたい。興味深いマッチメークで新しい才能を見つけたいね。たとえば猪木さんがビッグバン・ベイダーを連れてきたときのようにね。まさかベイダーが猪木さんを秒殺するなんて誰も思わないだろ。
――そういった意味では、フィットネス界のレジェンドで俳優でもあるマイク・オハーン選手の参戦が興味深いです。プロレスデビュー戦になりますか。
ジョシュ:そうだと思うよ。彼はボディービルのレジェンドだ。多くの雑誌の表紙を飾り、映画にも出演している。とにかく彼は力がすごい。かつて(プロレスの)練習もしていたみたいだし、柔道の黒帯を持っている。相手にはIGFのリングにも上がり、BSにも参戦(5戦5勝)しているエリック・ハマーを選んだ。彼も大きくて強いから、ホットファイトになるだろう。
――それにしても異業界の大物をよく引っ張り出せましたね。
ジョシュ:日本ではあまり知られていないようだが、これを機に有名になるかもしれない。このカードはミステリーな点が売り。答えが見えていたらおもしろくない。そういうのも楽しんでもらえたらうれしいね。クエスチョンを提示したつもりだよ。
※マイク・オハーンはスケジュールの都合により来日不可となったため欠場。 これに伴い、マイク・オハーンと対戦予定だったエリック・ハマーがトーナメントに出場し、野村卓矢と対戦する。
――また、元WWEスーパースターのサンティーノ・マレラ選手が参戦します。WWE時代はコミカルなレスラーでしたが。
ジョシュ:マレラはカナダにプロレス総合格闘技道場をバトラーツの石川雄規と作った、本当は実力者なんだ。桜庭和志との試合では実力者の部分が出てくると思うね。
――これはとても興味深いカードです。我々が見たことがない本当のマレラが出てきそうですね。さらに、全日本プロレスのチャンピオンカーニバルに参戦のデイビーボーイ・スミスJr選手が船木誠勝選手と対戦。スミスJr選手はプロレス、総合格闘技に関してジョシュ選手に非常に近いものを感じます。
ジョシュ:スミスJrは19歳のときからマイスチューデントなんだ。キャッチレスリングをコーチしていたよ。
――スミスJr選手の父、故デイビーボーイ・スミスさんがイギリス出身というのもありますね。
ジョシュ:イエス。船木との闘いは、彼が何者であるかの証明にもなるだろう。彼には自分自身への挑戦だ。船木には、GLEATでのUWFルールでの試合でまったく衰えを感じさせなかった。オレは船木の試合を見て育ったし、見習った。まさにプロレスと格闘技のレジェンド。それだけに、プロレスと格闘技を愛しているスミスJrには期待しているよ。全日本のリーグ戦もね。
――ジョシュ選手は昨年9月、NOAHのリングで船木選手とシングルで対戦して勝利していますね。試合はピンフォールなし、KOまたはギブアップで決着のつくGHCマーシャルアーツルールでの対戦でした。そのときからBSの日本上陸を意識していたのですか。
ジョシュ:いや、まだそこまで考えてはいなかった(笑)。ただし、チャンスがあれば、そういう選手とはいつでも闘いたい。実際に闘ってからスミスJrとやらせてみたいと思ったね。
――さて、主宰者でもあるジョシュ選手はメインでジョン・モクスリー選手と一騎打ち。21年4月8日の第6回大会で対戦し、そのときはジョシュ選手が勝っていますが、現在のモクスリー選手は新日本のIWGP世界ヘビー級王者です。元UFC世界ヘビー級王者vs元WWEスーパースター&現IWGP王者という、とんでもない図式になりました。
ジョシュ:そうだね。前回の対戦はとてもバイオレントでものすごくブルータルな闘いになった。そのなかで自分が勝つことができた。当時は彼がIWGP USヘビー級王者だったが、基本的には相手が誰であろうが、何のベルトを巻いていようが問題ではない。リングに上がればただ闘うだけ、相手をダウンさせるだけ。ベルトの有無ではなく、そのレスラーが王者レベルの実力を持っているかが問題なんだ。今回、モクスリーはIWGP世界王者になった。そしてオレへのリベンジを狙ってくるだろう。彼がチャンピオンだからって、リベンジの手助けをするつもりはないよ。
この日はクイントン・“ランペイジ”・ジャクソンvs関根“シュレック”秀樹や4選手(飯塚優vs阿部史典、野村卓也vsトッド・ダフィー)のトーナメントもあるし、女子(小波vs福田茉耶)の試合もある。どの試合もみんな全力で闘ってくれるだろう。大会終了後、誰がファンのハートをつかんでいるか。そういう選手が出てくれば、我々の勝利だね。
――では、BS武士道で何を見せたいですか、ファンに何を感じてほしいですか。
ジョシュ:ファンが何を得るかをあらかじめコントロールすることはできないけれど、ファンのハートを貫くような何かを残したいとは思っている。なかにはバイオレントでブルータルな闘いもあるだろう。が、それはあくまでも闘いで生まれる副産物であり、試合に勝って、より高みにいきたいという気持ちの表れだ。そんなレスラーの気持ちも感じてほしいし、勝つためのサブミッション技や打撃技がどれだけ危険かも感じ取ってほしい。とにかく考えるよりも感じてほしいし、BSの世界観に浸ってほしいね。
ジョシュ・バーネット主宰『Bloodsport Bushido』の対戦予定カードは以下の通り。
ジョシュ・バーネットvs. ジョン・モクスリー
鈴木みのる vs. ティモシー・サッチャー
船木誠勝 vs. デイビーボーイ・スミスJr.
桜庭和志 vs. サンティーノ・マレラ
クイントン・"ランペイジ"・ジャクソン vs. 関根"シュレック"秀樹
小波 vs. 福田茉耶
佐藤光留vs. 鈴木秀樹
野村卓矢 vs. エリック・ハマー
飯塚優 vs 阿部史典
メインはバーネット自身が、現・IWGPヘビー級チャンピオンのジョン・モクスリーと激突する一戦。ハードコアマッチを得意とする強敵に対し、「カール・ゴッチに始まり、ビル・ロビンソン、 アントニオ猪木が受け継いだ、強さを追求するプロレスのスタイルの血を継ぐ」というバーネットが、どのように戦うのか。日本のファンが初めて目にするリング上での激しい“血闘”が、今から待ち遠しい。