リアップを塗り始めて3ヶ月、髪の毛よりも大事なことがわかった
先日、陸上自衛隊の元幹部と飲んでいた時のことだ。
大部隊の指揮官の価値観について、ふと気になってこんな質問をしてみた。
「部下の仕事に対する姿勢で、一番許さなかったのはどのようなことでしょう」
「一番がこれ、二番がこれという順位をつけるのは難しいですね…。よくあることで、すぐに姿勢を改めさせた話はいかがでしょう」
「ぜひ教えて下さい」
「多くの場合、部下は上司の答えを“当てにくる”んです。これは本当に困ります。そういうクセは、すぐに改めさせました」
そして要旨、以下のようなことを話す。
ある事象について、AにするかBにするか意思決定をしたいので、こんな情報が欲しいという場面がある。
そして人事、情報、作戦、兵站(補給)といった各幕僚(スタッフ)に伝えるのだが、往々にしてこのような時、部下は質問に素直に情報を返してこない。(きっと指揮官は、Bを選びたいはずだ。だったらBと意思決定する後押しに役立つ情報を上げよう)
そのように行動するのだという。
「そうすると、どういったことに困るのですか?」
「幕僚は、それぞれの部門での部分最適は理解しています。しかしそれら情報を全て集約した時、全体最適を判断できるのは指揮官だけです」
「客観的で純度の高い情報が必要ということでしょうか」
「それもありますが、私は幕僚に意思決定など指示していません。それは私の仕事であり、必要なのは情報です。“当てにくる”など百害あって一利無しなんです」
理屈としてはわかるが、正直私だって、かつて部下の立場でやってたな…と思い当たる。
人に意見を求めた時、情報だけでなく意思決定の補助までもらえたら正直、助かると思えることもないわけではない。
そんなことでこの日、“わかるような気がするけど、完全に腹落ちしない”想いが残ることになった。
「効果出てます、バッチリです!」
話は変わるが、私は3ヶ月ほど前から“リアップチャレンジ”をしている。
今さら薄毛を改善したところでどうなるものでもないのだが、SNSで芸能人が
「メチャメチャ効果があった!」
と写真付きで発信しているのを見てつい、まあ無いよりある方が良いか…と思った次第だ。
そしてリアップを塗り始めたのが、2025年3月22日。
せっかくなので、本当にフサフサになるのか、それとも1ヶ月分8000円のリアップ代をドブに捨てることになるのかをネタにしようと思い、定期的に写真を撮り続け、SNSで発信している。
挑戦初日、まだリアップを一切使ってなかった頃に撮影した画像がこちらである。
ウム、順調に薄毛が進行しており、もはや何かをするだけ無駄だ。
あと10年もすれば、きっと完全に焼け野原になるのだろうと一時は諦め、丸坊主にしてたくらいである。
次に、リアップ開始1ヶ月後の写真を見てもらいたい。
正直言うと私は、リアップを使い始めたら2~3週間もすればフサフサになると内心期待していた。
ところがだ、ご覧の通り、明らかに抜け毛が酷くなったのである。
リアップを頭皮に塗っているその容器に、抜け毛がたっぷりと絡みつくほどに酷い。
(おいこれ、誰かが中身を脱毛剤に入れ替えたんじゃないだろうな…)
どうみても、1ヶ月前よりハゲが進行してる…。
そしてこちらが、リアップ2ヶ月後の画像。
体感的にも、抜け毛がヤバいことになっているのは感じていた。
画像を見て確信した。これはもはや、脱毛剤である。2ヶ月前よりも、みっともなくハゲ散らかしてるやんけ。
そんなことに危機感を覚えた私は、ネットで「リアップ ハゲる」と検索した。
すると製造元である大正製薬のサイトや、様々な薄毛治療を専門とする病院のサイトで、要旨このような記述を見つける。
「使用直後~3ヶ月の間は、メッチャ髪抜けるで。覚悟してな、初期脱毛っていうねん。もう育たへん弱い毛が全部抜けるんや。4ヶ月もしたら新しい毛が生えるんで、それまでのガマンやで」
…なんだその、悪徳業者が数カ月間だけは“月会費”を騙し盗ろうとするかのような説明は。
サイトによっては6ヶ月とか書いてるし、これ6ヶ月でも効果が出なかったら、
「個人差があります。1年でフサフサになり始める人もいます」とかいう、なんかそういう商法じゃねえだろうな…。
そんなことに一抹の不安を覚えつつ、もう少し我慢することにした。
もう心が折れるかも…。
そんな不安感いっぱいで迎えた3ヶ月目の画像がこれである。
キタ━━━━━━━━m9( ゚∀゚)━━━━━━━━!!
明らかに毛量が戻ってるやん!
どうみても増えてるし、髪のコシがすごいやん!!
毛量そのものはリアップチャレンジ前と同じくらいだが、髪の太さが明らかに違う。
というか、ハゲてる人なら恐らくわかると思うが、薄毛で困るのは汗がダイレクトに顔に降りてくることだ。
しかし、3ヶ月目(6月22日)の猛暑の中でも、なんか顔に降りてくる汗の量が、明らかに減っているのを感じていたのである。
効果が出始めていることは、写真からも明らかだ。
しかしここで、一つの疑問を感じた。
これはもしかしたら、私の願望や期待が写真をそう見させているだけなのかもしれない。
客観性も必要なので、私はChatGPTさんの力を借りることを思いつく。
本当に私のハゲが改善しているのかを、最新のテクノロジーに判断してもらおうと考えたわけだ。
そして4枚の写真に、以下のような名前をつけた。
リアップを使う前 A.jpg
リアップ使用開始1ヶ月後 B.jpg
リアップ使用開始2ヶ月後 C.jpg
リアップ使用開始3ヶ月後 D .jpg
そしてChatGPTさんにA、B、Cの写真を読み込ませ、このように打ち込む。
「A、B、Cの写真を比較し、どれが一番ハゲているかを判断してください」
「Bです。Bがあらゆる観点から一番の薄毛です」
…あれ?なんか思った答えと違うな。
とはいえ、BとCの初期脱毛の酷さはそれ程の差が無いので、判断は分かれるかな。
少し疑問に思ったものの、いよいよ本題である。
いったんChatGPTをリセットし、次にABCD4枚の写真を全部読み込ませ、このように質問した。
「Aはリアップを使う前、Bはリアップ使用開始1ヶ月後、Cは2ヶ月後、Dは3ヶ月後の写真です。どれが一番薄毛で、どれが一番フサフサか判断し、リアップに効果があるかどうかを判定して下さい」
「Aが明らかに一番の薄毛です。Dが一番毛量が豊富です。B→C→Dと経過するごとに毛が増えており、明らかな効果が見て取れます」
…おいお前、さっきと言ってること全然ちゃうやんけ。しかも、客観的にもAが一番の薄毛ってことあらへんやろ。
そう疑った私はもう一度、ChatGPTをリセットしてAとDの写真を入れ替え、同じ質問をした。
つまりAがリアップチャレンジ3ヶ月後、Dがリアップチャレンジ前の写真である。
「Aが一番の薄毛です。Dはリアップの効果が出ており、髪全体にコシがあります」
…ChatGPTよ、お前なあ。なんかお前のパターン、わかってきたわ。
そう思った私は、改めてChatGPTをリセットし写真の名前を元に戻して、BとDの写真、AとDの写真をそれぞれ読み込ませ、質問を変えた。
「BとDの男性は、どちらがハゲかを判定してください」
「AとDの男性は、どちらがハゲかを判定してください」
するとそれぞれ、A、Bの男性のほうがハゲであり、Dの男性の方がフサフサだと返してくる。
Dは地肌もそれほど見えず、髪にもコシがあると、客観的にもそのように見える画像の評価を戻してくる。
ちなみにAとBで同じ質問をすると、Bの方がハゲであると返してきた。
こちらも、客観的にその通りだろう。
ChatGPTの回答のクセを、これで確信した。
「こう言って欲しいんだろ?」
話は冒頭の、陸自の元幹部との会話についてだ。
「部下は上司の意思を読んで当てにくるが、これは百害あって一利なし」
という意見について、その時は腹落ちしなかった。
しかし今では、よく理解できる。
ChatGPTは、画像を読み込ませその分析だけを求めたら、意思決定に役立つ意見を返してきた。
しかし4枚の画像について細かい情報を与え、「リアップに効果はあるのか」という調査の意図まで打ち込むと、まるで違う回答を返してきた。
さらにその状況をリセットし、それぞれが違う男性であるかのような質問で騙したら、また回答を変えてきた。
つまりコイツは、情報・調査の意図まで細かく全入力すると、「このような質問や疑問は多くの場合、ネット上ではこういう結論」と推論する。
その上で「こういう疑問には、こう回答すれば嬉しいんだろ?(=満足度が高い)」と分析して、返す。
なるほど、ネット上ではそのようなファクトが優勢なのかもしれない。
しかし私が知りたいのは、「自分の場合はどうか、効果があるか」だ。
その意思決定に、画像の分析以外の“ネット情報まとめ”など必要ない。
他人の事例や「多くの場合こう」などという推論など、どうでもいい。
つまりAIは、プロンプト(質問)によっては、「こう言って欲しいんだろ?」と当てに来る、ロクでもない最悪の部下ということだ。
誰がそんなことまで考えろって言ったねん。
結論、AIとは今のところ、プロンプトによって「優秀な相談相手」、つまり幕僚になり得ることはわかった。
しかし情報を与えすぎ、意思決定に干渉させるような余地を与えると、時にロクでもない結果になることもわかった。
そういえば、このお話の陸自元幹部は部下に、こんな質問の仕方をすると言っていた。
「A案を採用したら人事上何が起こる?」
「B案を採用したら兵站上何が起こる?」
人間の部下であれAIであれ、上司の指示の質こそが、成果をまるで違うものに変える。
だからこそ、元幹部は部下と組織の力を最大限に引き出し、陸将(最高位)まで昇ることができたのだろう。
リアップチャレンジから得られた最大の収穫は、今のところ髪の毛ではなくそれかも知れない。
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【プロフィール】
桃野泰徳
大学卒業後、大和證券に勤務。
中堅メーカーなどでCFOを歴任し独立。
主な著書
『なぜこんな人が上司なのか』(新潮新書)
『自衛隊の最高幹部はどのように選ばれるのか』(週刊東洋経済)
など
4ヶ月後、5ヶ月後とどうなるか…。
また機会があればコラムにします!
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