【コラム】私は子供の頃「肉が食べられない子」だった。そんな私を一気に肉好きにさせた某チェーン店に感謝
私は子供の頃、肉が食べられなかった。アレルギーとかではなく、苦手だった。
特に脂身とか、皮とか、なんだか「かたいところ」とか、そのあたり。
【画像】カンボジアのスラム街で「なんだかよくわからない肉」を食べていた頃(2003年)
レバーや、鰻の肝焼きなんかは食べられるのに、いわゆる普通の「肉」に対し、どうにもこうにも箸が進まなかった。
一度でも脂身などのドツボにハマると、噛み切れなくて1時間以上クチャクチャ噛み続けて父に怒られるなんてしょっちゅう。
トンカツやカツ丼の分厚い脂身なんて論外。
ヒレならイケる。
そんな子だった。
おかげで魚を食べることに関しては、父から “まるで猫が食べたかのよう” と褒められるほど上手な子供に育ったが、年頃になると「やはり肉も食べないと……」となった。
特に、中2の夏にキックボクシングのジムに入門してからは (高1でやめたが)、ますますその思いは強くなった。
肉を食べないと強くなれない。
でも食べられない。
どうしたら……と、そんな悩んでいる最中、突如として恵比寿の駅近くにドドーンとデッかくオープンしたのが、ほかでもないあの「吉野家」だった。
ここが『キン肉マン』の歌でもよく出てくる「牛丼ひとすじ……」のあの店だな。
しかも安い。
これならお小遣いでも食べられる……。
意を決して入店すると、いきなり「お〜、羽鳥ィ!」と声がした。
なんと、キックのコーチがカウンターの対面でメシを食っていたのだ。
「オメーもよくここに来るのかぁ〜?」
「いえ、初めてっす」
「そうか〜! 今日はオレがおごってやる! 好きなもん食え〜!」
思わぬコーチの大盤振る舞いに驚きつつも、私は控えめに「並」を注文。
だって人生初の吉野家。
しかも、苦手を克服するのが目的なのに、いきなり大盛りとか無理だし……。
1分もしないうちに着丼。
これが牛丼……!
あっ、私の大好きな紅生姜もあるぞ。
これを入れたら良いのだな?
お肉は薄い。
でも脂身はメチャクチャある。
大丈夫かなぁ……。
食べられるかなぁ……。
対面ではコーチがニコニコしながら私を見ている。
まるで子供を見るような優しい眼差しで、14歳の私を見つめている。
意を決して食べてみた。
すると……!
イケるやん……!
ウマイやん……!!
脂身も全然いけちゃうやん……!
「うまいかァ?」
「押忍、ウマイっす!」
コーチは私の分まで支払いをして、背中越しに親指を立てた「グー」のポーズ。実にかっこよく店を去った。
丼に目を戻すと、おいしそうな肉とごはん。
あれだけ苦手だった肉が、一瞬にして「おいしそうな肉」になっていることに我ながら驚きつつ、あっという間に完食した。
その後も、代官山にあったキックのジム帰りの「恵比寿の吉野家通い」は続いた。
大盛りにもチャレンジしたし、牛皿も試した。
おしんこは必須だな……とか、今に至る基本チューニングはこの頃に完成させた。
そしてふと気づいたら、吉野家の肉以外でも、ちょっとした脂身くらいなら何の気にもせず食べられるようになっていた。
とんかつもヒレではなくロースを頼むようになっていた。
その後、引っ越しを機にキックをやめ、すぐにおそば屋さんで働き始めるが、そこでの「まかない」も私を鍛えた。
あれだけ苦手だった「カツ丼」が大好物になった。
カツカレーなんてごちそうだ。
肉南蛮そばの美味しさを知り。
鴨南蛮そばの肉の味にうなり。
親子丼のためにササミを切り。
スタミナうどんで、あらためて牛肉のうまさを知る。
そして月日は経ち──。
放浪の旅をしていた私はカンボジア・プノンペンにあるスラム街の住人になり、「なんだかよくわからない肉」を普通に食べていた。
ケニアのマサイ族からは、シメたてのヤギの生血や内臓をふるまわれつつ、おもてなしの心や命に感謝しながらボイルしたヤギ肉をたらふく食べた。
ふと気づいたら私は「肉好き」になっていた。
いまだに “噛み切れないホルモン系” は得意ではないが、なんだか徐々に食べられるようになっている気がする。
幼少期、親父は肉が食べられない私を怒りつつも心配していたと思う。
こいつは肉も食えずに世の中を生き延びれるのだろうか、と。
その心配は杞憂に終わった。
何かをきっかけにして、人は変わる。
経験や環境で、人はガラリと別人になる。
時と共に、好みも変化したりもする。
今がダメでも、そのうちいけるようになったりもする。
何もしなかったら、きっと何も変わらない。
家でゴロゴロしながらネット見てるだけじゃ何も変わらない。
勇気を出して動いたら、世界はどんどん変わっていく。
「変えよう」と思いながら動いたら、そのうちきっと人生は一変する。
何事も経験。
人生はチャレンジ。
一歩踏みだす勇気。
その一歩が、人生を変える。
そう思いながら、私は毎日を生きている。
執筆:GO羽鳥
Photo:RocketNews24