アヌシー国際映画祭で実感。メジャーなハリウッド作品とはまた違う魅力…世界が日本のアニメに注目するワケ
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はアヌシー国際アニメーション映画祭についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
6月8〜14日に開催、仏・アヌシー国際アニメーション映画祭で実感した、世界が注目する日本アニメ
先日私が参加した「アヌシー国際アニメーション映画祭」は、フランスのアヌシーで開催される世界最古かつ最大のアニメーション映画祭です。1960年にカンヌ映画祭から独立して始まりました。今年は6月8日から14日までの7日間にわたって開催され、短編のインディペンデント作品(自主制作作品)からアメリカの大手CGスタジオによる作品まで、幅広いジャンルのアニメーション映画が上映されました。
また、「MIFA(Marché international du film d'animation)」という国際アニメーション映画市場も併催されており、こちらは今年で40周年。世界中のアニメーション関係者が集う重要な商談の場所です。さまざまな国や地域のアニメーション産業がブースを出したり、企画中の作品のピッチ(プレゼンテーション)を行ったりしていました。
今回私は、日本の新作アニメーションを紹介するピッチイベント(「Japanese Feature Animations in Progress」)で、2つの司会を担当しました。ひとつは、吉本ばななさんの小説を原作に湯浅政明監督がアニメ映画化する『ひな菊の人生』について、湯浅監督にインタビューするもの。もうひとつは、映画祭のコンペティション10作品のうちのひとつに選ばれた『ホウセンカ』について、木下麦監督と松尾亮一郎プロデューサーにお話をうかがうというものです。
ちなみに、このピッチでは(僕は司会をしていませんが)ほかにもふたつのプレゼンテーションがありました。まず『ゴジラ-1.0』でVFXのアカデミー賞を受賞した総合映像制作プロダクション・白組による、新作『ミント』の紹介。これは“目”をモチーフにしたユニークなオリジナルキャラクターが主人公の作品です。さらに『どーもくん』やNetflixの『ポケモンコンシェルジュ』などで知られるストップモーションのスタジオ・ドワーフによる『HIDARI』と『Sunny』についての紹介。『HIDARI』は、左甚五郎を題材にした木工人形のストップモーションによるアクション作品。『Sunny』は児童養護施設を舞台とする松本大洋さんの漫画の映像化。いずれも広くビジネスパートナーを求めていました。
このようにアヌシー国際アニメーション映画祭(とMIFA)は、クリエイティブからビジネスまで幅広く扱っていて、その多様さや規模の大きさを実感しました。上映本数も桁違いで、すべてを見るのは到底無理でしたね。
僕はコンペ作品を見ることに重点をおいて、事前に日本で見た『ホウセンカ』を含めると、7作をなんとかおさえることができました。残念ながらトップの賞であるクリスタル賞受賞作『Arco』は、ちょうどいい時間帯の上映があっという間に満席になって観られませんでした。
STUDIO4℃の青木康浩監督による『ChaO』は審査員賞を受賞。審査員賞は、実質的にクリスタル賞に次ぐ第2位の賞です。長編コンペにおける日本作品の入賞は、2016年の『夜明け告げるルーのうた』(クリスタル賞)、『この世界の片隅に』(審査員賞)以来となります。この映画は、人魚のお姫様とサラリーマンの男の子がの出会いを、笑いと涙を織り交ぜながら描いた作品で、ビジュアルが非常にユニークでした。この8月に日本で公開予定なのでぜひ見てみてください。
近年、アヌシー国際アニメーション映画祭で日本の存在感はさらに高まっています。ハリウッドのメジャー作品のようなエンタメ性とは違う、少しクセのある題材を印象的に描く日本のアニメがこうしてどんどん世界に出ていくのは、結構重要なことではないかと、改めて考えました。