夏だ! 海だ! 若大将の季節! 若大将といえばこの曲「ぼかぁ幸せだなぁ」のセリフも一世を風靡したエバーグリーンのラブソング 加山雄三「君といつまでも」
この人と言えばこの曲という、究極の一曲を持っている幸せな歌手がいる。舟木一夫の「高校三年生」、いしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」、坂本九の「上を向いて歩こう」などは、時代を超えて歌い継がれるまさしくそんな歌だ。西田佐知子の「アカシアの雨がやむとき」や橋幸夫と吉永小百合のデュエット曲「いつでも夢を」も歌手名と同時にその曲のタイトルが思い出される。そして、加山雄三の「君といつまでも」もまた、ラブソングの決定版として究極と言える一曲に数えることができるだろう。
加山雄三といえば、戦前戦後を通じて美男子の代表格のような俳優の上原謙を父に、同じく俳優の小桜葉子を母に持つ二世俳優であり、母方の高祖父は明治の元勲・岩倉具視という家系に生まれ、慶應義塾大学卒業というスマートなイメージ。湘南の茅ケ崎育ちで、スキー、サーフィンをはじめスポーツ万能、ギター、ピアノ、ウクレレと楽器も得意で、ピアノコンチェルトを作曲するほどの音楽の才にも恵まれ、画も描けば、料理をさせれば玄人はだしの腕前で、船の設計までしてしまう。そして〝カッコいい〟という表現がピッタリの容姿で、主演した映画『若大将シリーズ』の主人公・田沼雄一そのもので、男たちが憧れる存在だ。実際、南こうせつ、谷村新司、さだまさし、THE ALFEEのメンバー、桑田佳祐ら、多くのミュージシャンたちからも憧れの兄貴として慕われている。ぼくも小学生のころ、若大将映画の封切日には必ず父親に映画館に連れていってもらうほど加山雄三は輝いていた。スポーツ万能だが、スポーツで汗を流せばスッキリというような単純なものではなく、たとえば星を見つめて詩作するようなロマンチストの面も、そして理系の知力と文系の感性とを併せ持つ人物だと、加山雄三から感じ取っている。
慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後の1960年に東宝に入社しているが、入社動機は映画で一旗揚げて船の資金を調達できればというもので、会社員として映画界に就職する感覚で東宝に入社したのだ。入社の年に『男対男』で映画デビューを果たした。三船敏郎主演、池部良、志村喬、白川由美らの共演で谷口千吉がメガホンをとっている。また同年の岡本喜八監督『独立愚連隊西へ』では、2作目にしてはやくも主役に抜擢されている。西部劇テイストのアクション・コメディともいうべき味わいの作品だった。
映画俳優としては、そのほかにも黒澤明監督『椿三十郎』や『赤ひげ』、成瀬巳喜男監督作で高峰秀子と共演の『乱れる』、司葉子と共演の『乱れ雲』、森谷司郎監督、高倉健主演の『八甲田山』など、巨匠と言われる監督の作品にも出演している。黒澤監督は加山の自宅を訪れた折に加山がふるまう手料理をいつも喜んでいて、加山をとても可愛がっていたというのは有名な話である。
また、東宝スタア総出演による稲垣浩監督の『忠臣蔵 花の巻・雪の巻』では浅野内匠頭を演じており、堀川弘通監督の『狙撃』では浅丘ルリ子、森雅之らと共演し、若大将のイメージを覆すようなニヒルな殺し屋を演じた。浅丘や森の演技が高く評価されたのに対して、加山への評価は低かったが、浅丘は「加山さんがとてもカッコよかった」と絶賛している。61年には岩下志麻、田宮二郎、三田佳子、山﨑努、吉永小百合とともにエランドール賞新人賞を獲得した。
映画『若大将シリーズ』は、61年に第1作の『大学の若大将』が公開され、81年の『帰ってきた若大将』まで全17本が制作された東宝の人気シリーズ。水泳、ボクシング、ヨット、アメリカン・フットボール、スキー、サッカー、フェンシングなどスポーツ万能で、気っぷがよく面倒見もいい大学生の若大将は加山雄三そのものに映った。第12作の『フレッシュマン若大将』からは、大学生からサラリーマンに設定も変えられ、マドンナもそれまでの星由里子(澄ちゃん)から酒井和歌子(節ちゃん)にバトンタッチされた。
「君といつまでも」は、シリーズ6作目『エレキの若大将』の挿入歌として披露される。若大将が「澄ちゃんのために歌を作ったんだ」と澄ちゃんに歌って聴かせるシーンで、澄ちゃんは初めて聴いたはずなのに2コーラス目をなんとデュエットするのだ。違和感を覚えた加山が指摘するも、「映画だからいいんだ」と押し切られ、ロマンチックなシーンなのに、加山はどこか仏頂面で歌っている、というエピソードも有名だ。
映画俳優として人気を博していた加山雄三は、日本におけるシンガーソングライターの草分け的存在でもある。日本で初めて多重録音を手がけたことでも知られている。ソングライターとしてのペンネーム弾厚作は、加山が敬愛する作曲家の團伊玖磨と山田耕筰を合わせたものであることも周知のとおり。
「君といつまでも」をはじめ、「恋は紅いバラ」「夜空の星」「蒼い星くず」「夕陽は赤く」「お嫁においで」「霧雨の舗道」「夜空を仰いで」「旅人よ」「別れたあの人」「幻のアマリリア」「ある日渚に」「いい娘だから」「大空の彼方」「美しいヴィーナス」「ぼくの妹に」「海 その愛」などなど、ふと思い浮かべるだけでも多くのヒット曲をうんだ。作曲はもちろん、「夜空を仰いで」と「ある日渚に」は作詞も手がけており、それ以外の作詞は岩谷時子で、作詞・岩谷時子、作曲・弾厚作の作品は149作にのぼるという。
「君といつまでも」は65年12月に5枚目のシングルとしてリリースされた。作詞は岩谷、作曲は弾厚作、編曲は森岡賢一郎。カップリング曲は「夜空の星」で、こちらの編曲は寺内タケシが手がけている。レコード販売350万枚の大ヒットとなり、66年の日本レコード大賞の大本命との呼び声も高かったが、大賞は橋幸夫の「霧氷」が受賞し、「君といつまでも」は特別賞になった。66年のNHK紅白歌合戦にもこの曲で初出場を果たし話題をよんだ。青江三奈、「下町育ち」の笹みどり、西野バレエ団の金井克子、ジャッキー吉川とブルー・コメッツ、「バラが咲いた」のマイク真木、「骨まで愛して」の城卓也らもこの年が初出場だった。
それぞれ25組の出場歌手のうち、白組は中盤要の13番目にレコード大賞受賞橋幸夫の「霧氷」、14番目にレコード大賞最優秀歌唱賞舟木一夫の「絶唱」、15番目に特別賞加山雄三の「君といつまでも」という最強の布陣で臨んだ。紅組の対戦相手はそれぞれ大ベテランの江利チエミ、大ヒット曲園まりの「夢は夜ひらく」、歌う映画スタア吉永小百合だった。また白組司会の宮田輝は、「白組最後のお願いでございます」と、人気絶頂期の舟木と加山を引き連れ客席へ挨拶に降り立っている。
「君といつまでも」は何と言ってもセリフが大人気で、ワンコーラスを歌い終えた加山が、人差し指で鼻をこすりながらテレた表情で「ぼかぁ、幸せだなぁ……」と言えば客席が大いにわいた。そして「死ぬまで君を離さないぞ、いいだろ」と、ここでニヤッと笑うのが女性たちのハートを撃ち抜いた。まさに、究極とも言えるストレートな求愛だ。
加山は紅白歌合戦に2022年までに通算18回出場し、メドレーも含めると「君といつまでも」を4回歌唱している。アルバム収録曲でシングル・リリースはされていないにも関わらずスケールの大きな「海 その愛」も4回も歌唱している。2022年6月19日にコンサート活動から引退することを発表し、同年の紅白歌合戦が人前で歌う最後となっているが、このときに歌ったのも「海 その愛」だった。86年から3年連続で白組司会も務めた。コンサート活動は行われていないが、音楽活動はその後も続けている。
本年4月に88歳の誕生日を迎えた若大将。加山雄三が80歳を迎える2017年に弊誌でも特集「加山雄三 80歳の青春グラフィティ」を組み、インタビューも実施した。
「長年にわたり第一線で音楽活動を続けてこられた原動力は?」と質問すると、「音楽のプロだと思ったことは一度もないし、音楽を仕事だと思ったこともない。音楽は生涯をかけて愛する親友だから」という答えが返ってきた。好きだから、趣味だからずっと続けていくことができる。加山雄三の音楽は永遠のアマチュア・スピリッツにより生み出されてきたと言えるだろう。
発売から60年経っても色褪せることなく「君といつまでも」は、さらに人々の想いを吸収しながらエバーグリーンの輝きを放っている。
文=渋村 徹 イラスト=山﨑杉夫