熊本産スイカとメロンが神保シェフの魔法で輝く!「熊本市×JINBO MINAMI AOYAMA」フェアレセプションレポート
東京・南青山のイタリア料理店「JINBO MINAMI AOYAMA」で、2025年5月21日(水)から旬を迎えた熊本産のスイカとメロンを使ったメニューが2カ月間限定※で登場する。
そのスタートに先駆け、5月15日(木)に同店にてメディアを対象にしたオープニングレセプションが開催された。イベントの様子と期間限定メニューについてお届けしよう。
※食材の入荷状況により、熊本産食材提供の終了が早まる場合がございます。
今回のイベントを主催する熊本市は、熊本県の県庁所在地で人口約73万人を擁する九州で3番目に大きな都市だ。中心部には名城・熊本城がそびえ、古くから城下町として栄えてきた一方で、豊かな自然環境にも恵まれており、農業産出額は全国の市町村で第9位を誇る、全国有数の農業都市でもある。
阿蘇山系から湧き出る清らかで潤沢な地下水にあふれ、また昼夜の寒暖差が大きい熊本市の気候条件や水はけのよい土壌が、糖度が高く、みずみずしい野菜や果物を育てる。
熊本市について紹介する、熊本市農水局農水部農業政策課の中熊健二さん
なかでもスイカは、産出額・作付面積ともに全国の市町村でトップを誇る。
一般的にスイカは夏のイメージがあるが、熊本市では毎年2月から出荷が始まり、5月ごろに最盛期を迎える。主にビニールハウスで栽培される熊本市のスイカは、安定した出荷量と高品質が魅力で、豊富な品種がそろうが、いずれもシャリっとした歯ざわりと強い甘みが特徴だ。
また、熊本市はメロンの一大産地でもあり、産出額は全国第2位、県内では最も多くのメロンが生産されている。冬でも温暖な気候を活かし、年間二作の栽培を可能にしている。「肥後グリーン」を筆頭にさまざまな品種を栽培するが、香り高くしっかりとした甘さが特徴で、贈答用としても全国的に高い評価を得ている。
スイカとメロンを大規模栽培する前田ファームの前田達希さん
今回のフェアで提供されるスイカは「ひとりじめ」、メロンは「肥後グリーン」。いずれも熊本を代表する人気品種である。会場には熊本から生産者の前田達希さんが訪れ、それぞれの特徴について紹介してくれた。
「ひとりじめは小玉スイカですが、大玉よりも糖度が高く、13〜15度あります。これまでの小玉スイカは果肉が柔らかいものが多かったのですが、スイカらしいシャリ感のある食感にこだわって育てています。皮のギリギリまで果肉が詰まっているのも特徴で、一度食べたらこれしか食べたくないという方も多いんですよ」
一方の「肥後グリーン」は、熊本県内で絶大な人気を誇る大玉メロン。県外にはあまり出回らない、希少性の高い品種だ。
「鮮やかな翡翠色の果肉はしっかりと肉厚で、しゃきっとした歯ざわりとともに、濃厚でみずみずしい甘さが口いっぱいに広がります。見た目も美しく、贈り物としても喜ばれるメロンです」
スイカとメロンのおいしさの秘密は、熊本の水にあると前田さんは言う。
「熊本は地下水が本当に豊富で、一般の家庭でも蛇口をひねれば天然のミネラルウォーターが出てきます。農業でもその恵まれた水を活かしていますが、果実栽培では水をあげすぎると糖度が下がるため、最低限の水で育てるのが我々の腕の見せどころです。とくにメロンの美しい網目模様をつくるには、徹底した水分調整と温度管理が欠かせません」
前田さんの話に思わず「へえ」と声を漏らす参加者も多く、会場には小さなどよめきが生まれた。
続いて、「JINBO MINAMIAOYAMA」オーナーシェフ、神保佳永さんによる挨拶とコースの説明が行われた。
「まず、僕は料理人としても個人的にも熊本が大好きなので、今回も楽しく料理を考えました。主役はスイカとメロン。それぞれの良さをどう料理に生かすかをテーマにしています」
そう語る神保シェフは、実は熊本と深い縁を持つ。熊本県民テレビの「金チカっ!」に9年前よりレギュラー出演し、毎週、レシピを紹介する。地元の生産者とも長年のつきあいがあり、今年のスタッフ研修では熊本を訪れ、赤牛の牧場やワイナリーなど生産現場を実際に巡ったという。
日頃からメニューにも熊本産の食材を多用しているため、お客さまから「熊本出身なんですか?」と聞かれることもあるほどだ。
今回の期間限定コースでは、スイカとメロン以外の熊本産食材も随所に使用されている。神保シェフならではの、熊本への愛情が感じられるメニューとなっている。
乾杯の合図で、シェフの思いも込められた熊本の恵みを味わうひとときがゆるやかに始まった。
Amuse 西瓜 赤貝 発酵唐辛子
ひと皿目に提供されたのは、熊本産スイカ「ひとりじめ」と赤貝、発酵唐辛子を組み合わせた冷たい前菜。
赤貝はさっと湯通ししてカルパッチョに仕立て、そこにフレッシュなスイカ、スイカのジュース、さらに90℃で約6時間かけて乾燥させたスイカを合わせた。
辛味には発酵唐辛子と、イタリア・カラブリア地方でよく使われる唐辛子のジャムを使用。酸味にはホワイトバルサミコ酢、深みには日本の魚醤・いしるを加えるなど、多層的な味の組み立てがなされている。
熊本産小玉スイカ「ひとりじめ」
乾燥させた1玉分のスイカ
「正直に言うと、スイカがテーマだと聞いたときには『難しいな』と思いました」と、神保シェフは率直に語る。
「スイカはそのまま食べるのが一番おいしい食材。料理人にとっては、あえて手を加える必要がない。今回は発酵させたり、凍らせたり、煮詰めたりと、いろいろな角度からスイカと向き合いました。その中で、乾燥させることで甘味だけでなく香りや旨味が際立ったのは新しい発見でした」
ほとんどが水分であるスイカをセミドライ状にすることで、本来の味わいや香りが凝縮される。その効果を活かし、乾燥スイカは細切りにして旨味と香りのアクセントとして添えられている。
「今回はスイカのシャリっとした食感も大切にしたかったので、主役にはフレッシュなスイカを据えています。そのうえで、乾燥スイカで味と香りを補い、甘みや旨味のバランスをとりました。スイカの甘み、食感、香りを堪能できる、スイカがなければ成り立たない一皿ができたと思います」
最初にスイカの瑞々しい果実感が立ち上がり、赤貝の強い旨味が押し寄せるが、噛むほどに再び口の中にはじんわりとスイカの風味が広がっていく。乾燥スイカの効果なのかスイカを“食べた”という感覚がしっかりと残る、余韻の美しい構成だった。
「スイカの料理ってあまり食べたことがなかったので、正直どんなものになるのか想像がつかなかった。初めての感覚かつ印象に残る前菜から始まる素晴らしいコースでした」と話す来場者の言葉が、その完成度を物語っていた。
Amuse トマト ブッラータチーズ バジル
続いては、生産量全国1位の熊本のトマトを使ったカプレーゼ。
南イタリア原産のフレッシュチーズ・ブッラータをムース状に仕立てた土台の上に、薄くスライスした熊本産トマトを重ねる。重ねたトマトは、シナモンなど数種類の自家製スパイスでマリネし、一晩寝かせてから使用。さらにマリネの前には表面をさっと炙ることで、トマト本来の香りを引き出している。
その上には、塩と鷹の爪で乳酸発酵させたトマトをミキサーにかけ、取り出したジュースをゼリー状のシートにして重ねた。仕上げには、オーガニックバジルのオイルを。さらにオーガニックバジルのリーフを添え、見た目にも香りにも、清涼感のあるアクセントを添えた。
味だけでなく、食感や香りの重なりも意識した、丁寧に構築された一皿に、来場者たちはひと口ごとに確かめるように静かに向き合っていた。複雑でありながら調和のとれた味の流れに、思わず目を見開く人や、うなずきながら噛みしめる人の姿も見られた。
会食が進むなか、会場ではさまざまな質問も飛び交った。神保シェフは食材や調味料を実際に見せながら、ひとつひとつ丁寧に応じていく。発酵唐辛子の作り方や、熊本産トマトの魅力、産地や生産者のストーリーについても語られ、参加者たちは熱心に耳を傾けていた。料理だけでなく、その背景にある土地や人とのつながり、シェフの思いにまで自然と関心が広がっていく、そんな時間となった。
Pasta あか牛 ラグー スパゲッティ
パスタの提供前には、神保シェフが熊本産のあか牛の大きな塊肉を披露した。日頃から店でもあか牛を使用しているというだけあり、説明にも熱がこもる。
「今回はあか牛のヒレとサーロインを、熊本産トマトとともにじっくり煮込み、ラグーソースに仕立てました。赤身主体で脂が少ないあか牛は、旨味が凝縮されるのが特徴です。煮込むほどに旨味がぎゅっと詰まったソースであか牛のおいしさを堪能ください」
パスタというよりも肉料理を味わっているような、力強いあか牛の存在感を感じる味わいに、会場のあちこちから思わず笑顔がこぼれる。ひと皿ごとに熊本食材の物語が語られるコースに、終始和やかな空気が流れていた。
Dolce 肥後グリーン パンナコッタ アーモンドミルク
コースの締めくくりに登場したのは、会場をひと際沸かせたスペシャルなドルチェ。ずらりと並べられた皿の前に立ち、最後の仕上げを行う神保シェフの手元から、ふわりと白い煙が立ちのぼる。そのドラマチックな演出に、会場では「わあっ」と驚きの声が上がり、笑顔と熱気に包まれた。
熊本産メロン「肥後グリーン」を使ったドルチェ。メロンは、バニラと生姜、レモンを加えて炊いたシロップに漬けてコンポートに。熱々のシロップをカットしたメロンに注ぎ、やさしく火を入れることで、しっかりとした甘さの中にもメロンのフレッシュな食感と香りが残る仕上がりとなっている。
そのコンポートにアーモンドのジェラートとパンナコッタ、メロンのゼリーを合わせ、彩りにはノースポールのエディブルフラワーとメロン色のリーフクッキーを添えた。ソースには、メロンの風味をたっぷりと含んだコンポートのシロップを使う。
テーブルへと提供されてもなお、仕上げに加えた液体窒素で凍らせたココナッツミルクの白い煙が雲海のように皿の上で漂い、最後の一皿に静かな余韻と華やかさを添えていた。
熊本産大玉メロン「肥後グリーン」
「メロンには酵素が多く含まれていますが、加熱しすぎると酵素が飛び、果肉が崩れてしまううえに、香りも抜けてしまいます。だからコンポートは、熱々のシロップを注いで、余熱で火を入れる程度にとどめました。そうすることで、メロンが本来持っている風味や食感を活かすことができるんです」
そう語る神保シェフは、ゼリーにもひと工夫を施している。使用しているのはコンポートした果肉だけでなく、種の部分を裏ごしして取り出した果汁だ。
「実はメロンのいちばん甘い部分は、種のまわり。そこに濃厚な甘みが詰まっているんです。ただ、肥後グリーンの特徴はさっぱりとした甘味。その良さを活かすために、ゼリーはシート状にして、自然ながらも印象的な甘さと香りが広がるように仕立てました」
シェフの技と熊本食材への愛と敬意が、細部にまで宿っていたコースを終えた参加者たちの表情には満足がにじみ、会場には穏やかであたたかな空気が流れていた。スイカとメロンというテーマからはじまりながらも、その枠を超えて、熊本の食材の奥深さと、多彩な魅力が余すところなく伝わってくるイベントとなった。
スイカとメロンを手がける「きもと農園」の木本圭哉さん、神保シェフ、前田達希さん
イベント終了後、あらためて神保シェフに話を伺った。「熊本のスイカは、質の高さはもちろんですが、旬が早いというのも大きな魅力です。夏に出回るスイカとは別物として、この時期に提供できるのは熊本産ならではの強みですね」
今回使用した「ひとりじめ」については、こう続ける。「味にぼやけがなく、瓜臭さもまったくない。味の“濃さ”というより、“密度の高さ”を感じる品種です。だからこそ、乾燥させたときに独特の甘さと香りをしっかり表現できたのだと思います」
肥後グリーンについては「メロンにもいろいろなタイプがありますが、肥後グリーンは爽やかな風味が印象的で、さっぱりとしたデザートにぴったりだと感じました。濃厚なメロンも多い中で、最後にこの清々しい甘さで締められるのは魅力ですね」と語った。
「熊本は、海があって、野があって、山がある。料理人としてはまさに食材の宝庫です。店ではあか牛や天草の魚介を使っていますが、まだまだ知らない食材もたくさんあると思うんです。だからこそ、これからもっと時間をかけて熊本を訪れて、おいしさをもっともっと広げていきたい。わくわくしますね」
熊本産すいか・メロンを使用したメニューの提供について
場所:
JINBO MINAMI AOYAMA
〒107-0062
東京都港区南青山4丁目11−13 サンライトヒル青山
実施期間:
5月21日(水)~7月中旬予定
※食材の入荷状況により、熊本産食材提供の終了が早まる場合がございます。
提供メニュー:
・スイカを使用したアミューズ
・メロンを使用したデザート
※ランチ・ディナーどちらのコースでも提供します。
期間中は「熊本あか牛」を使用したメイン料理や、入荷状況に応じて「熊本県産の魚介類や野菜」なども使用予定です。
JINBO MINAMI AOYAMA 神保 佳永シェフ
1977年茨城県出身。国内のレストランをはじめフランス、イタリアでも修行を積み、2022年に全国の食材と文化を取り入れて独創的で優しい独自のセンスを皿に表現した五感で感じるリストランテ「JINBO MINAMI AOYAMA」をオープン。全国各地の野菜の産地訪問を重ね、調理方法も研究。“野菜の魔術師“とも呼ばれている。
text photo: 君島有紀