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「トリオ」の展示で見えてくる、所蔵作品の新しい魅力 ― 東京国立近代美術館「TRIO」展(レポート)

アイエム[インターネットミュージアム]

セーヌ川のほとりに立つパリ市立近代美術館。皇居近くの東京国立近代美術館、大阪市中心部に開館した大阪中之島美術館。いずれも大都市にある美術館として、個性あふれるモダンアートのコレクションを有しています。

3つ美術館のコレクションから共通点のある作品でトリオを組んで構成するというユニークなコンセプトの展覧会「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」が、東京国立近代美術館で開催中です。


東京国立近代美術館「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」会場入口


展覧会はプロローグとして「コレクションのはじまり」から。3館の初期のコレクションから、椅子に座る人物像がセレクトされています。

パリのドローネーの作品は、開館の契機を作ったジラルダン博士の遺贈品。東京の安井曾太郎は、最初の購入作品のひとつ。大阪の佐伯祐三は、美術館構想にきっかけになった実業家・山本發次郎の旧蔵品です。


「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」(東京国立近代美術館)展示風景 (左から)佐伯祐三《郵便配達夫》1928年 大阪中之島美術館 / ロベール・ドローネー《鏡台の前の裸婦(読書する女性)》1915年 パリ市立近代美術館 / 安井曽太郎《金蓉》1934年 東京国立近代美術館


会場は大きくは7章での構成。さらに小さなテーマを設定し、計34のテーマでトリオの作品を見せていきます。

第1章「3つの都市:パリ、東京、大阪」は、3館のキュレーターがそれぞれ自らの街を題材にした作品を選びました。

ユトリロはモンマルトルの丘に近い通りを描写。長谷川利行は新宿のビル街を荒々しいタッチで表現しました。河合新蔵が描いた道頓堀は、「水の都」大阪を代表する風景です。


「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」(東京国立近代美術館)展示風景 (左から)モーリス・ユトリロ《セヴェスト通り》1923年 パリ市立近代美術館 / 長谷川利行《新宿風景》1937年 東京国立近代美術館 / 河合新蔵《道頓堀》1914年 大阪中之島美術館


第2章は「近代化する都市」。科学技術の進展により、機械化、工業化、産業化が都市部に集中すると、都市の姿が大きく変容。中でもパリとニューヨークでは、路上もアートが生まれる舞台になりました。

佐伯祐三は乱雑にポスターが貼られたパリの街角を作品に、デュフレーヌは複数の層からなるポスターを壁から剥がして、それをカンヴァスに貼って作品にしています。バスキアはニューヨークのアトリエとストリートの両方で作品を制作しています。


「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」(東京国立近代美術館)展示風景 (左から)ジャン=ミシェル・バスキア《無題》1984年 大阪中之島美術館 / 佐伯祐三《ガス灯と広告》1927年 東京国立近代美術館 / フランソワ・デュフレーヌ《4点1組》1965年 パリ市立近代美術館


第3章は「夢と無意識」。20世紀は近代化が進む一方で、それまでのどの時代よりも夢や無意識などの領域にも関心が向けられました。過去の作品を参照することで、作品に現実と非現実のあわいを出現させる作家も出ています。

かつてルソーが住んだ地に転居したブローネルは、ルソーへのオマージュといえる作品を制作。マグリットは、ボッティチェリ作品に登場する花の女神を自作に登場させています。有元の作品には、他の多くの作品にもみられる古典的な女性像が中央に配されています。


「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」(東京国立近代美術館)展示風景 (左から)ヴィクトル・ブローネル《ペレル通り2番地2の出会い》1946年 パリ市立近代美術館 / ルネ・マグリット《レディ・メイドの花束》1957年 大阪中之島美術館 / 有元利夫《室内楽》1980年 東京国立近代美術館


第4章「生まれ変わる人物表現」では、古来より描かれてきた人物画において、表現の幅が広がった20世紀において描かれた作品を紹介。

横たわる女性像は、男性に見られる対象になり、しばしば官能性が強調されましたが、ここに並ぶマティス、萬鉄五郎、モディリアーニの作品は、見る者の視線を跳ね返すようなパワーが感じられます。


「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」(東京国立近代美術館)展示風景 (左から)アンリ・マティス《椅子にもたれるオダリスク》1928年 パリ市立近代美術館 / 萬鉄五郎《裸体美人》(重要文化財)1912年 東京国立近代美術館[展示期間:5/21-7/21、8/9-8/25] / アメデオ・モディリアーニ《髪をほどいた横たわる裸婦》1917年 大阪中之島美術館


第5章は「人間の新しい形」。美術家たちは理想的な人体美を追及する一方、伝統との決別も試みるなかで、私たちが普段目にする人間の姿とは、全く異なる姿を生み出しました。

リシエの作品は、フランス南西部の湿地帯に暮らす羊飼いが、移動のために竹馬に乗る姿をモチーフにしたもの。柳原はリシエからも影響も受け、大胆に人体をデフォルメした作品を制作しています。クラインの作品は、モデルに青い顔料を塗って紙に押し付ける絵画作品「人体測定」シリーズから生まれた作品です。


「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」(東京国立近代美術館)展示風景 (左から)柳原義達《犬の唄》1961年 東京国立近代美術館 / ジェルメーヌ・リシエ《ランド地方の羊飼い》1951年 大阪中之島美術館 / イヴ・クライン《青いヴィーナス》1962年 パリ市立近代美術館


第6章「響きあう色とフォルム」は、絵画や彫刻を構成するもっとも基本的な要素である色と形について。

岡本太郎は両大戦間をパリで過ごし、当時結成された抽象芸術家たちのグループ「抽象・創造」に参加。アルプらと親交を結びました。並んだ作品はいずれも有機的なフォルムをもっており、抽象的な表現と生命感の共存を意識しているようです。


「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」(東京国立近代美術館)展示風景 (左奥から)ジャン・アルプ(ハンス・アルプ)《5つの白い形と2つの黒い形の配置》1932年 パリ市立近代美術館 / 岡本太郎《コントルポアン》1935/1954年 東京国立近代美術館 / ジャン・アルプ(ハンス・アルプ)《植物のトルソ》1959年 大阪中之島美術館


最後の第7章は「越境するアート」。20世紀は、絵画や彫刻などこれまで美術とされてきた表現の範囲が大きく広がった時代でもありました。

ムレーヌの作品は鳥かごをモチーフにしつつ、開口部をガラスで封じて内側に空を囲い込んだもの。倉俣史朗の椅子は、家具とアートの境界上にある作品。冨井大裕の作品は折り紙をホチキスで留めただけで、指示書により新しい折り紙で作り直すこともできるため、作品の永続性に疑問を問いかけています。


「TRIO パリ・東京・大阪 モダンアート・コレクション」(東京国立近代美術館)展示風景 (手前3点、左から)倉俣史朗《Miss Blanche(ミス・ブランチ)》デザイン1988年/製作1989年 大阪中之島美術館 / 冨井大裕《roll (27 paper foldings) #15》 2009年、東京国立近代美術館 ©Motohiro Tomii Courtesy of Yumiko Chiba Associate / ジャン=リュック・ムレーヌ《For birds》2012年 パリ市立近代美術館


3館のキュレーターがそれぞれ発想を膨らませながら、20世紀初頭から現代までのモダンアートを見せていく展覧会。作品はテーマで作品がセレクトされているので、いつもの展覧会ではまず並ぶことがない作品が、同じセクションで紹介されており、新しい見方を促しています。

東京国立近代美術館での展示は8月25日まで。その後、大阪中之島美術館で開催されます(9月14日~12月8日)。

[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年5月20日 ]

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