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【1984年の革命】中森明菜「十戒」マンネリな恋をズバリと切った最強のストレス解消ソング

Re:minder

1984年07月25日 中森明菜のシングル「十戒(1984)」発売日

びっくり! 全ダメ出しの恋愛ソング「十戒」


1984年、怒って怒って、最後まで怒りまくるという驚きの恋愛ソングが世に放たれた。中森明菜の「十戒(1984)」(以下:十戒)である。松田聖子が「ピンクのモーツァルト」で、大人の恋をする楽しさの極みのような名曲を歌っていたのと同時期だ。黒のドレスに十字架をつけ “イライラしちゃう” ではなく “イライラするのよ” でもない “イライラするわ” と面と向かって言い切る女の子の歌は衝撃だった。

「♪愚図ね」という強烈な一撃から始まり、ひたすら、腹が立つ点を端的に指摘する言葉が続き「♪イライラするわ」というカウンターパンチで終了。従来の恋愛ソングにある美しい風景の描写や比喩はゼロ。“でも愛してる” 的なやさしいオチもない。恋人に対する全ダメ出し、ガチ説教である。しかし、最高に気持ちいい!
マンネリな恋をズバリと切った、最強のストレス解消ソング。売野雅勇が天才的な言葉のリズムで、高中正義のメロディーには、怒りが散りばめられている。そのため、この歌はどこを切っても威圧感がハンパではない。

黒のドレスや振り付け、無造作に降ろした髪と大きな十字架のアクセサリーが、歌詞に描かれなかった2人の過去や諍いの歴史を物語っているようでもあった。これらの要素と歌をガシリと合わせ、清々しいほどの怒りを発散させた「十戒」。まさに19歳の中森明菜と最強のブレーンが生み出した、総合芸術である。

「少女A」から見える1人の少女の “怒り” の歴史


「十戒」が不思議なのは、聴いているうちにフッと「禁区」の歌詞「♪気持ちうらはら」が頭から引き出されることだ。この歌詞が「十戒」の主人公とつながり、実は不満や怒りすべてがうらはらで、愛を叫んでいるのかもと思える。

2枚目のシングル「少女A」から「1/2の神話」、さらに「禁区」、「十戒」という売野作詞の作品を続けて聞くと、シチュエーションは違えど、1人の、強がりで意思表示のヘタな女の子の成長が浮かんでくる。 しかもすべて怒っている。作品リリース時の明菜の年齢を振り返ってみると、「♪じれったい じれったい」とイラつく「少女A」(17歳)、「♪それでもまだ 私悪くいうの いいかげんにして」とキレる「1/2の神話」(17歳)。「♪それはちょっとできない相談ね」と睨む「禁区」(18歳)。そして、「限界なんだわ 坊やイライラするわ」と苛立つ「十戒」(19歳)。彼女はずっと世間の目、彼の態度に違和感を覚え、怒ったまま10代を終えるのだ。

いわば「十戒」は10代だからこそ許された反抗の集大成、最後の背伸びの歌といえる。そうすると歌詞には出てこない意味深な「十戒」というタイトルもまた、10代最後の恋の戒め、という風にも読み取れるのである。そうやって不器用なほどに、真正面から恋とぶつかった女の子は、たくさんの心の傷を抱え大人になり、「飾りじゃないのよ涙は」という、一段階レベル上の孤独へと進んでいく――。勝手ながら、そんな物語が浮かんでくる。

“怒る” を課せられた百恵と明菜


思えば、女性の歌手による、恋の不満、憎しみを歌った恋愛ソングの多くは “喜怒哀楽” の “怒” が “怨(恨)” だった。彼がいないところでの愚痴、もしくは別れたあとの思い出話、というシチュエーション。そこに1970年代後半、堂々と物申す怒りソングの覇者が登場した。山口百恵である。「♪馬鹿にしないでよ」と睨む「プレイバックPart2」。「♪はっきりカタをつけてよ」と迫る「絶体絶命」。「♪私あなたのママじゃない」と言い放つ「ロックンロール・ウィドウ」――。“対面でバトルしているシーン” を歌い、世の度肝を抜いた。そして誰もが、これからも百恵は怒りを歌ってくれると思っていた。なのに、あまりにも早く引退してしまった。

その後、様々なポスト百恵が登場したが、百恵の “怒りマインド” の正式な継承者は、やはり明菜であったと「十戒」を聴いて再確認する。中途半端な態度を取る彼に向かって、強い言葉できっちり物申せる強い女の子。70年代、百恵が歌った怒りソングが “ドラマ” とするならば、80年代の明菜は “心の声の代弁” のイメージである。

コピーライターの経験が活かされた売野の歌詞は、リアルでキャッチー、そしてストレートだ。歌詞だけ読めば、本当にガチ説教。しかしその中に “愚図” “坊や” という、ほんの少し、70年代イズムというか、非日常性的な言葉が混ざることで、そのガチ説教がドラマチックな歌になっている。憎い演出である。

また、売野が彼女に書いた曲は、すべて主人公の主張で終わる。「十戒」も、「♪イライラするわ」で終わる。主人公はこのあと別れるのか、許すかを想像する隙も与えない。怒りを放出させている瞬間を歌う。聴く私たちは、ともにフラストレーションの発散をする。それだけだ。だからこそ、「十戒」は格別に爽快なのである。

大きなターニングポイントとなった「十戒」


中森明菜にとっても、「十戒」は、本格的にセルフ・プロデュース力が認知され、大きなターニングポイントとなった歌だった。実は、松任谷由実もこの曲の歌詞を書いていたが、売野の歌詞が採用されたという。ユーミンの歌詞!10代最後の明菜に、ユーミンがどんな言葉をつづったのか興味津々だ。素晴らしかったに違いない。ただ、そちらが採用になっていたら、明菜のセルフプロデュース路線はもう少し後になっていたのかも…。

この清々しいほどの攻撃的な歌詞に、彼女自身が背中を押され、奮い立った部分もあったのではないだろうか。そう思えてしまうほど、「十戒」を歌う彼女のすべてから “自分のやり方で物申す” 覚悟が見える。そして40年経った現在もこの歌は、面と向かって怒れなくなった時代そのものにカツを入れてくるのである。

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