不登校のキミはどう生きるか? 鴻上尚史が解く「不登校」の背景 学校・教師が抱える問題とスマホの悪影響
不登校に迷う子どもと親へ。作家・演出家の鴻上尚史さんインタビュー第4回/全4回。学校が抱える問題とスマホの悪影響とは。
「学校がつらい」 小島よしおが子どもattiへ伝授! を救う“パワーギャグ”と隠された意味とは?作家・演出家の鴻上尚史さんは、俳優、映画監督、ラジオ・パーソナリティなど多彩な経歴の持ち主。また、小学校教師の両親に育てられた影響もあってか、子どもや教育についても多くの著書等で発信し続けています。今年(2024年)6月に刊行した著書『君はどう生きるか』(講談社)では、現代を生きる10代の「キミ」へ向けて、生きるヒントを真面目に考えつづったといいます。
本のタイトルが「君たち」ではなく「君」なのは、今の子どもは「君たち」とひとくくりにできない一人ひとりが本当に違う「多様性」の時代の子どもだからです。
不登校30万人時代の今、鴻上さんが考える学校の問題や子どもたちについて、伺います。
●鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)PROFILE
作家・演出家。1958年愛媛県生まれ。早稲田大学法学部卒業。1981年に劇団「第三舞台」を旗揚げ以降、数多くの作・演出を手がける。紀伊國屋演劇賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞戯曲・シナリオ賞など受賞。エッセイスト、小説家、テレビ番組司会、俳優、映画監督、ラジオ・パーソナリティなど幅広く活動。『君はどう生きるか』(講談社)ほか、著書多数。
国がお金をケチっている限り教師も子どもも救われない
僕は人生相談(鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい『世間』を楽に生きる処方箋/AERA dot.)を長くやってるんですが、そこに現役の教師からの相談がたくさん来ます。
「私は毎日、生徒の髪の毛が耳にかぶさっているかどうかをチェックしています。自分はいったい何の仕事をやってるんでしょうか」「リボンの幅が2センチじゃなくて3センチだと指導しないといけない。これって教育なんでしょうか」ってね。
じつにまっとうな感覚です。でも、まっとうな感覚を持っている先生ほど、学校という場所の居心地は悪くなります。
教師の仕事がブラック化している実態は、すっかり知られるようになりました。意味がわからない校則で生徒を縛り付けることに疑問を感じてないとしても、上からの意味のない指示や意味のない書類作りに追われて、学校の先生はもうクタクタです。
しかも、親からの理不尽なクレームや、「それは家庭の躾の問題でしょ」と言いたくなるような過大な要求も受け止めなければなりません。
先生にとっても、学校は苦しい場所になっています。その苦しさを生徒にぶつけることもあるかもしれない。よかれと思って、規則や恐怖で生徒を縛り付けるかもしれない。
なるべく時間をかけたくない中で子どもたちをおとなしくさせるには、厳しく管理するのがいちばん効率的です。こんな教育をしてたら、自分の頭で考えられない子どもになっちゃうんじゃないかとか、そんなことを考える余裕はありません。
日本の学校教育がどんどんいびつになって、教師が極限まで追い詰められているいちばんの理由は、国がお金をケチっているからです。今のままでは教師も子どもも救われません。
公的教育費の対GDP比率を比べてみると、日本はなんと132位(2023年/※1)。スウェーデンやアイスランドやアイスランドは7%を越えているのに、日本はわずか3.24%です。
だから、教師はいつまでたっても相対的に低い給与で、たくさんの雑用に追われなきゃいけない。ブラックな仕事であることが知れわたった今では、こういう言い方は語弊があるかもしれませんが、優秀な若者が選ぶ仕事ではなくなりました。
競争率が下がって、昔に比べて「なりやすい仕事」になったら、ますますいろんな影響が出てくるでしょう。
集団は30人を超えるといきなり狂暴になる
小学校の「30人学級」も、がんばって実施している地方自治体も一部にはありますが、全国的にはやっと「もうすぐすべての学年が35人学級になります」という段階です。
演劇をやってきたからわかるんですけど、ワークショップにしても何かの集団にしても、30人を超えると急に凶暴になるんです。
全体の雰囲気が何となくすさんで、お互いに相手の失敗を笑い合う。他人のミスを許さない不寛容な世界になるんです。今日は和気あいあいとしているなと思って数えてみると、27~28人だったりするんですよね。
自分でいうのも何ですが、僕はベテランのワークショップリーダーなので30人がひとつの境目になる。経験の浅い人だったら20人が限界じゃないかな。
20人までなら、ひとりひとりに目が届くし、きめ細かく対応することもできる。大人ばっかりの集団でもそうなんだから、子どもはなおさらでしょうね。
文部科学省にお金がなくて日本の学校が35人学級を続けていることと、不登校が増え続けていることとは、深い関係があると思います。
30人学級でもまだ多い。欧米諸国は10人台~20人台前半です。そうなれば子どもにとっても先生にとっても、学校が今よりもずっと居心地のいい場所になるでしょう。教師のブラックな労働環境も改善します。
こういうことを言うと、「昔はひとクラス50人ぐらいいたけど不登校はいなかった」なんて“反論”があるかもしれない。社会状況がぜんぜん違う今、どうすれば不登校を減らせるかという話をしているときに、「昔はひとクラス50人ぐらいいた」と言ったところで何の意味もありません。
ひとクラス50人に戻せば不登校がなくなるとは、誰も思わないですよね。揚げ足取りが好きな大人が増えたのは、ネット社会の弊害かもしれません。
スマホがもたらしたマイナスの影響
子どもたちにとって、もちろん大人にとってもですけど、インターネットというのは大きな存在です。便利でおもしろいけど、やっかいで恐ろしい。人類は今、壮大な実験をしている最中です。
いわばキングコングみたいな怪物を上手に御する方法は、まだ見つかっていません。世の中を大きく変えてくれていると同時に、弊害もずいぶん出てきています。
心がやわらかい子どもは、ともするとネットやSNSに振り回されてしまう。でも縁を切るわけにはいきません。その接点となるスマホと、どう付き合えばいいのか。
最近書いた本(『君はどう生きるか』講談社)の中で、スマホがもたらすマイナスの影響を7つ考えてみました。その中で、自分を守るためにとくに意識してほしいのは「自意識を拡大した」「不安を加速した」のふたつです。
「自意識を拡大した」というのは、自分が人からどう見られているかが、無限に気になってしまうということ。「自分は何をおもしろいと思うか」より「何をおもしろいと思えばたくさんの『いいね』がもらえるか」が基準になる。そうなると、キミの心は迷路に迷い込んでしまいます。反応なんて気にしないで、自分が本当に好きなものや興味があるものを見つけましょう。
「不安を加速した」は、あらゆる情報が入ってくるようになったおかげで、自分と他人を比較し続けなければいけなくなったということ。そんなことをしていたら、自信も安心も得られずに不安ばかりがふくらみます。
何かの分野について、自分以上に詳しい人がどこかにいたって関係ありません。大事なのは、キミが「それが好き」ということです。
孤独な時間を奪ったり、公私の境目をあいまいにしたりなど、ほかにもマイナスの影響はたくさんあります。スマホを見るのがつらくなったら、あるいは常に見ていないと不安になるようなら、半日ぐらい電源をオフにしてみましょう。
折に触れて「これは自分の心を疲れさせるものだ」「これは自分自身を見失わせるものだ」と、念入りに自分に言い聞かせて、スキあらばキミを振り回そうとする悪だくみをけ散らしてください。
学校を取り巻く環境にせよ、その外側にある社会を取り巻く環境にせよ、今の時代に子どもをやっていくのもラクではありません。でも、今の時代は「お先真っ暗」なのかというと、そんなことは絶対にない。
「今は未来に希望なんてない」と言いたがる大人も、たしかにいます。でもそれは、その人が自分の人生に限界や絶望を感じていて、それを正当化するために言っているだけです。「あなたといっしょにしないでください」と思っていればいい。
学校に行っていても行ってなくても、友だちが多くても少なくても、何が得意で何が苦手でも、キミは何にだってなれる。キミはあらゆる可能性を持っています。
キミがどんな幸せを求めるかで、君の人生が決まります。キミの幸せを決められるのは、君だけです。人生という「自分の幸せを探す旅」を思いっきり楽しんでください。
取材・文/石原壮一郎
※1=公的教育費の対GDP比/GLOBAL NOTE
現代を生きる中・高校生の「君」に向けて鴻上さんが「本当に役に立つアドバイス」を詰め込んだ『君はどう生きるか』(講談社)。大人もハッとさせられる一冊。