猫の健康を支える『必須脂肪酸』とは?働きや不足した場合のトラブルなど
必須脂肪酸は猫の健康維持に欠かせない
猫の健康を保つうえで、日々の食事に含まれる栄養素はとても重要です。その中でも「必須脂肪酸」は、猫の体内で合成できないため、毎日の食事からしっかりと摂取する必要があります。
必須脂肪酸の種類
猫にとって特に重要な脂肪酸は、次のように分類されます。
【オメガ3系脂肪酸】
✔DHA(ドコサヘキサエン酸):脳や神経の働きを支える
✔EPA(エイコサペンタエン酸):炎症を抑える働きや、免疫バランスの維持にも関与
【オメガ6系脂肪酸】
✔リノール酸:皮膚のバリア機能や被毛の艶を保つ
✔アラキドン酸:ホルモンの合成や免疫反応に必要とされる
必須脂肪酸の働き
必須脂肪酸は、体内で直接的・間接的にさまざまな作用をもたらしています。特に注目されているのが、以下のような働きです。
✔細胞膜の柔軟性を保ち、情報伝達をスムーズにする
✔皮膚のバリア機能を正常に保つことで、外部刺激から守る
✔炎症反応を調整し、慢性トラブルの進行を抑える
✔神経や脳の健康をサポートし、行動の安定に寄与する
✔ホルモンや免疫物質の原料となり、全身の健康維持に貢献する
このように、必須脂肪酸は単なる「栄養素」の枠を超え、猫の身体全体のバランスを整えるための要として機能しています。毎日の食事から十分に、かつ偏りなく摂ることが健康維持の基本となります。
必須脂肪酸が不足すると、猫の体に何が起こる?
猫の体は、必須脂肪酸の恩恵を受けながら日々健康を維持しています。ところが、この脂肪酸が不足すると、体のあちこちに不調があらわれてくることがあります。初期には見過ごされがちなサインも多いため、日頃からの観察と知識がとても大切です。
不足によってあらわれる主な症状
必須脂肪酸の不足が続くと、次のような変化が見られることがあります。
✔被毛の艶がなくなり、パサついた毛並みになる
✔皮膚が乾燥しやすくなり、かゆみや炎症が起こる
✔フケや脱毛が目立つようになる
✔外部からの刺激に弱くなり、傷が治りにくくなる
これらは特にオメガ6系脂肪酸が不足した場合に見られやすく、皮膚のバリア機能が低下していることが原因とされています。外部からの刺激やアレルゲンに敏感になり、繰り返し引っかいたり舐めたりする様子が見られたら、栄養の見直しが必要かもしれません。
また、オメガ3系脂肪酸が不足している場合には、炎症反応がうまく抑えられなくなり、関節痛や慢性のかゆみ、さらには行動面での変化(落ち着きがなくなる、睡眠の質が下がるなど)も指摘されています。
慢性的な不足が引き起こす健康リスク
脂肪酸の不足が長期間続くと、目に見える症状だけでなく、身体の内側でもトラブルが進行している可能性があります。
✔免疫機能の低下による病気への抵抗力の低下
✔ホルモンバランスの乱れによる内臓機能の不調
✔高齢猫における認知機能の低下や行動異常
✔炎症が慢性化し、腸や関節などへの負担が増す
こうした変化はすぐには表に出ないことも多く、定期的な健康診断で早めに気づくことが大切です。
必須脂肪酸を効果的に補う方法
必須脂肪酸は、猫の体にとって重要な栄養素ですが、体内でつくることができないため、日々の食事から意識的に取り入れることが必要です。特に毛並みや皮膚のトラブル、免疫機能の低下が見られる場合は、脂肪酸の摂取状況を見直すことで改善につながることもあります。
キャットフードに含まれる脂肪酸のチェックポイント
市販のキャットフードには、脂肪酸がすでに配合されているものもあります。ただし、すべてのフードに十分な量やバランスで含まれているとは限りません。以下の点に注意して選ぶことが大切です。
✔原材料に「魚油」「鶏脂」「亜麻仁油」などの脂肪酸源が記載されているか
✔DHA、EPA、リノール酸などの表記が明確にあるか
✔製造日や保存状態が明記されており、酸化対策がされているか
✔添加物が少なく、無香料無着色であること
脂肪酸は酸化しやすい性質を持つため、品質の劣化を防ぐ保存方法や、パッケージの工夫にも注目してみましょう。
また、「自然派」や「グレインフリー」「アレルギー対策」といった表示にこだわる方も多いですが、脂肪酸の種類や含有量についても併せて確認することが、健康維持には欠かせません。
サプリメントで脂肪酸を補うという選択肢
必要に応じて、キャットフードに加えて脂肪酸サプリメントを利用する方法もあります。次のような製品がよく使われています。
✔魚由来のDHAEPAサプリメント(カプセルや液体タイプ)
✔MCTオイル(中鎖脂肪酸)、亜麻仁油など植物由来の脂肪酸オイル
✔総合栄養バランスをサポートするプレミックスタイプ
サプリメントは、使用量を誤ると下痢や吐き気などの副作用が出ることもあるため、必ず表示に従うか、事前に獣医師に相談することが安心です。
まとめ
必須脂肪酸は、猫の体の中でさまざまな働きを担う、非常に重要な栄養素です。毛並みや皮膚の状態、免疫機能、脳や神経の健康にまで関わっており、不足すれば目に見える変化だけでなく、体の内側にも影響が及びます。
猫はこれらの脂肪酸を自分で合成できないため、毎日の食事からしっかりと補うことが欠かせません。キャットフードやサプリメントを上手に活用しながら、栄養バランスを整えていくことが、健康で穏やかな日々につながります。
猫が健やかに年齢を重ねていけるように、まずは「今の食生活を見直すこと」からはじめてみてはいかがでしょうか。小さな一歩が、大きな安心へとつながります。
(獣医師監修:葛野宗)