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桂ざこばの芸を継ぐ弟子ら、一門で51年ぶりとなる三人同時襲名へ「ひとりじゃなくて3人であることに意味がある」

SPICE

左から桂そうば、桂ちょうば、桂ひろば 撮影=ハヤシマコ

3月20日(木・祝)、大阪・サンケイホールブリーゼにて『三人同時襲名披露公演』が開催される。2000年に桂ざこばに入門した桂ひろばと、2001年に弟子入りした桂ちょうば、社会人経験を経て2005年に入門を決めた桂そうばによって果たされる3人同時での名跡の襲名は、実に51年ぶりの出来事。3名それぞれにとっての大きな一歩であるだけではなく、一門にとっても意義深い1日となる公演を目前に、今回SPICEではひろばとちょうば、そうばの3人に話を聞いた。落語との運命的な出会いから長年走り続けてきた彼らが到達した一つの集大成。師匠である桂ざこばの血を引きながらも、新たな落語家として進み始めようとする3人が今考え直す落語の魅力。ちょうばが「3人であることに意味がある」と語ってくれた通り、手を取り合い、お互いを吸収し合いながら進化を遂げた先には、まだ見ぬ噺家の姿が待っているはずだ。

桂そうば、桂ちょうば、桂ひろば

3人それぞれが果たした落語との運命的な出会い

――まず、皆さんが落語を始めたキッカケ、そして数ある一門の中でざこば師匠に弟子入りした理由は何だったのでしょうか。

桂ひろば:僕が落語と出会ったのは、大学生の頃です。「友達になりたい」と思った先輩が落語研究会に所属されていたことで、落語に触れるようになったんです。その先輩に「落語家になりたいです」と相談したら、ざこば師匠の落語と合いそうな気がすると言われたんですよ。そこから公演を観に行かせてもらったのちに、入門を決めました。落語に興味を持ってから入門するまでが短かったこともあり、2人と比べたら入門以前の公演数は少ないのですが、これまで25年やってくる中で落語が自分に合っていたのだろうと思います。

桂ちょうば:高校1年生の時、『ざこば・鶴瓶らくごのご』という番組の観覧に友達に連れられて行ったのが落語と出会ったキッカケでしたね。それまで漫才やコントしか観たことはなかったのですが、「こんな芸能があるんだ」と衝撃を受けた。そこから師匠の落語会を観に行くようになりましたし、師匠が落語の入り口だったんですよ。

――落語を知らない状態でスタジオ観覧に行くことを決めた理由は何だったのでしょう。友達に誘われたと言えど、全く関心がなければ断ってしまいそうなものですが。

ちょうば:お恥ずかしながら、ゲストの方を一目見たくて行くことを決めました。だから、本当に落語のことは知らなかった。でも、結果的にそこで運命的な出会いをしてしまったという。

――全く予期せぬ出会いだったのですね。そうばさんは、なぜざこば師匠に弟子入りされたのですか?

桂そうば:私は落語家になる前にサラリーマンで、ある日突然銀杏BOYZやサンボマスター、ガガガSPのようなロックンロールを聴き始めたんです。そうしたバンドのライブに足を運ぶ中で、やりたいことをやっている皆さんが輝いて見えた。そこで自分がやりたいことを考えた時、学生の頃やっていた落語が浮かんできたんですよ。それで、落語家の中で一番ロックな人だと思っているざこば師匠に弟子入りを決めました。

――ざこば師匠のどういった部分からロックの精神を感じていたのでしょう。

そうば:学生時代に観に行った落語会で師匠がやっていた演目が「強情」だったんですよ。そのお話は頑固者しか登場しないストーリーで。そこにロックを感じましたし、今でも私の中にロックの精神は根付いていると思います。

「3人であることに意味がある」同時襲名に込められたメッセージ

桂そうば、桂ちょうば、桂ひろば

――皆さんはそれぞれの経緯で落語に衝撃を受け、入門を決意したわけですが、ここまで20年以上落語を続けてきた中で、改めて落語の魅力はどういった部分にあるとお考えですか。

ひろば:僕はアルバイトでさえ数カ月で辞めてしまうくらい飽き性なんですけれど、落語は全く飽きずに25年続けることができています。それが何よりも落語の楽しさを象徴していると思いますし、やっぱり落語は奥が深いんですよね。同じネタをやっていても日によって反応が変わったり、一緒にやるメンバーも変わったりと常に環境が変わっていく。そうやってその日その日で「今日はこういう感じにしよう」と考えるのが楽しいなと。

ちょうば:何千人、下手したら何万人の噺家たちによって練りに練られたお話が、時代の変化に対応しながら今も残っている。そういう芸能はなかなかないと思うんですよね。古典落語には色々な人が手を加えたくなる魅力と価値があるのだと感じていますし、落語は映像を想像しなきゃいけないから見るものが人によって違う。だから、100人いれば100通りの落語があって。想像力を膨らませれば膨らませた分、面白くなっていくところも魅力だと思います。

――それこそ、ひろばさんが仰っていたような、その場限りの魅力ですね。

ちょうば:師匠も「落語は一期一会」とよく仰っていましたけど、同じ演者の同じ演目でも、自分の置かれている環境やポジションによって全く違う作品に思えるんですよ。そういう一回きりである部分も良いなと。

そうば:ちょうばさんと重なるところもありますが、古典落語の何気ない台詞は自分だけで物語を作っていたら出てこないものなんです。先人の方の知恵が集まっているからこそ、1つ1つの台詞に深みがある。噺家はそれを自分1人で引き受けることができるのも楽しくて。話がウケたら自分のおかげだし、滑ったら自分の責任だし。その責任感が自分に合っていたんだと思いますね。

――そうばさんはお話を生み出すことにも積極的に取り組まれていますが、お話いただいた通り、落語には伝統的な側面が含まれています。そういった中で、自分のオリジナリティや現代性、革新性とのバランスはどのように確保していらっしゃいますか?

そうば:自分の中での線引きは明確にあるんですけども、言葉にするのは難しくて。とはいえ、公演の中で確かめながら、上手くバランスをとっています。

桂そうば、桂ちょうば、桂ひろば

――バランスに関しても、話の内容と同様にその場で様子を見ながら決めていると。皆さんは入門の年は異なりますが、生まれ年は同じで。今回の同時襲名によって、ある種同期のような見方も生まれると考えているのですが、お互いに対してはどういった関係性だと感じているのでしょう。

ひろば:さっき楽屋で同じような話をしていたんですけれど、その時ちょうばが良いことを言っていたのでぜひ。

ちょうば:ハードルが高いな。まず、はっきりと言ってしまえば、わざわざ同時襲名じゃなくても良かったと思うんですよ。でも、そうなったのは、3人であることに意味があるからだと受け止めていて。1人だと足りないところがあるかもしれないけれど、3人の能力を集めたら良い噺家が生まれるはず。だから、この期間でお互いにお互いの良い所を吸収しろっていうメッセージが込められていると感じているんですよね。その上で、兄さんは誰からでも愛されるずば抜けた人柄の良さがあるし、そうばさんは頭の良さや行動力があるなと……以上です。

ひろば:ちょっと待ってください。さっき、ちょうばは「僕にはお笑いのセンスがある」って言っていたんですよ(笑)。

そうば:一番面白いと思っているんかいっていうね。でも、それぞれ全く芸風が違うので、その面白さはあると感じていて。どこかにざこば師匠の影響は感じるけども、全く違う落語家である楽しさはあるんじゃないかな。

「ここからまた始めていく感覚」独り立ちのキッカケとなる同時襲名

桂力造を襲名する桂ひろば

――過去の会見でもお話されているかと存じますが、改めて皆さんがそれぞれのお名前を選んだ理由についても伺わせてください。ひろばさんは二代目桂力造を襲名されます。どういったキッカケで決めたのですか。

ひろば:襲名させてもらうことが決まり、どの名前にするかを考える中で「力造が良いな」と思うようになって。周囲が「力造っぽいな」と言ってくれたこともあり、自分でもその気になってきましたし、周りがしっくりくるのであればと名前を決めました。

――周囲からの後押しも大きかったんですね。

ひろば:周りの噺家に認めてもらえたのであれば大丈夫だと思えたんですよ。

桂米之助を襲名する桂ちょうば

――太鼓判を押してもらったことで自信を持てるようになったと。ちょうばさんは、四代目桂米之助を襲名されます。

ちょうば:私は10年以上佐ん吉さんと一緒に落語会を開催しているんですが、その会場の世話人の方が米之助師匠の教え子だったんです。そのご縁で米之助師匠のご家族と知り合うことになり、数年前から「空き名跡にしているのもなんだから、ご縁のある方に継いでほしい」とお声がけいただいていて。当時は丁重にお断りしていましたけれど、襲名の話が挙がったことでせっかくであればご縁のある名前にしたいと思い、今回改めてご家族に相談させていただきました。

――以前はお断りの返事をしていた中で、今回お名前を引き受ける覚悟を持てたキッカケは何だったんですか。

ちょうば:正直に言えば、プレッシャーもありましたし、迷っていた部分もあったんですよね。でも、普段は私の仕事に口を出さない家族が「これから飛躍していくためにも、プレッシャーのある米之助という名前を継いだ方が良いんじゃない」と伝えてくれて。その言葉を聞いて、ご縁があるのに引き受けないのは違うなと。

――ご家族の言葉で襲名に伴うプレッシャーと向き合う覚悟ができた。

ちょうば:そうですね。あとは、米之助師匠のご家族の方から「ちょうばさんはちょうばさんなりの新しい米之助を作っていってくれたら良いから」と仰っていただいたことも大きかったです。先代のイメージを引き受けなきゃならないと考えていたところもあったので、その言葉で肩の荷が下りました。

桂惣兵衛を襲名する桂そうば

――自分自身のスタイルで良いと思えたことがちょうばさんにとって大きかったのだと感じました。そうばさんは、二代目桂惣兵衛になられます。どのような背景で惣兵衛を選んだのでしょう。

そうば:大阪だと名跡自体の数が多くないということもあり、基本的には「文」か「枝」の字が入るんですけど、大人の事情でその2文字を継ぐと揉めそうだとなりまして。それ以外の名前を考える中で、初代文治の本名である惣兵衛が良いなと思ったんです。そうばと惣兵衛で響きが近いのもありましたし。

――芸名ではなく、本名を受け継ぐことに対して、異なる重圧もあったのだろうと思うのですが。

そうば:確かに、通常であれば襲名するというのは、芸名であったり、落語家としての性質であったり、色々なものを受け継ぐべきなのかもしれないです。とはいえ、僕自身は本名をいただくことに対して、違った感覚を抱いているわけではなく。純粋にいただいた襲名の機会に、自分が今までやってきたことを披露できたら良いなと思っています。

――そもそもの話になりますが、名前が変わることは人生の中でそうそうないと思うんですね。先ほど、そうばさんの話の中でこれまでやってきたことを出したいといった旨も語られていましたが、今回の襲名は一つの集大成としての感覚が近しいのでしょうか。それとも、心機一転といった感じでしょうか?

ひろば:襲名する人自体が多くないこともあり、入門した時は自分が襲名するとは全く思っていなかったので、ここからまた始めていく感覚ですかね。力造になって、これから力造の落語を作っていくっていう。

ちょうば:今回の公演に伴って衣装を一新しましたし、新たなスタートを切ろうと考えています。

――逆に、長年共にしてきた今のお名前が変わってしまうことに対する寂しさやネガティブな感情は抱かなかったのでしょうか。

ひろば:これまでは「ば」の文字があるから、ざこば師匠の弟子だとすぐに分かってもらえましたが、それが分かりにくくなってしまうことは少し寂しいです。でも、師匠が亡くなってしまったこの時期に襲名するのも、師匠から「お前も1人でやっていけよ」と肩を押されているような感じがして。もう独り立ちする時が来たんだなと。

ちょうば:この機会がなかったら、区切なくダラダラと芸能生活を続けていたんじゃないかと思うんですよね。でも、襲名で一度区切をつけることで、改めてスタートダッシュを切ることができる。名前は変わっても、ざこば師匠の弟子であることに全く変わりはありませんし、心の中には師匠がいますから。凄く良い機会をいただいたと思っています。

そうば:率直なところ、初めて着到板を返し、出番になって「桂惣兵衛です」と言う時になるまで、自分がどうなっているのか想像が付かないんですよ。もしかしたら、やっぱり違和感があるかもしれないし、最初から馴染んでいるかもしれない。でも、今は前向きな気持ちが大きいです。

――3月20日(木・祝)に大阪・サンケイホールブリーゼにて『ひろば改め二代目桂力造 ちょうば改め四代目桂米之助 そうば二代目桂惣兵衛 三人同時襲名披露公演』が開かれます。改めて、どういった1日にしたいですか。

ちょうば:46歳になって、一生忘れられない日が来ることなんてなかなかない出来事だと思いますから、とにかく1日を楽しみたいですね。

そうば:誰もが襲名できるわけではないので、僕らの落語を観た人に「この3人だったら襲名しても大丈夫だよね」と思ってもらえる落語ができたらなと。

ひろば:自分の人生の中でも一番印象に残るイベントだと思うんですよね、確実に。なので、やるしかないです。

桂ちょうば、桂ひろば、桂そうば

取材・文=横堀つばさ 撮影=

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