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「型にはまってみることも多様性」 神山まるごと高専の創設メンバー山川咲さんは、娘の小学校入学とどう向き合った?

OTEMOTO

CRAZY WEDDINGの創業者であり、神山まるごと高専の初代クリエイティブディレクターをつとめた山川咲さん。2024年は、結婚15周年の日に離婚届を出したことを夫婦で仲良く公表し、娘の英さんが小学校入学を迎えた、変化の大きな1年でした。新しい家族として歩み始めた山川さんに、こどもとの向き合い方、学校という場のとらえ方について語っていただきました。

※このインタビューは2024年3月に実施しました。

山川咲(やまかわ・さき) / クリエイティブディレクター
1983年東京生まれ。2歳のとき父が会社を辞め、ワゴンカーで日本放浪の旅へ。千葉の大自然の中で暮らす。2012年に「CRAZY WEDDING」を創設。2020年にCRAZYを退任後、ライフスタイルブランド「SANU」や私立高専「神山まるごと高専」、循環商社「ECOMMIT」に取締役や理事として参画。著書に『幸せをつくるシゴト』(講談社)
yukino kawahara / 土屋鞄製造所


娘は2024年4月に小学生になります。

6年間通った保育園を卒園しようとしている今は、せつなくてたまりません。自転車の後ろに乗せてこの道を走るのはあと何回だろうと考えるだけで涙が出ちゃいます。毎日、戻れない時間を歩んでいるんだなという感覚があります。

思いが強すぎて卒園文集にも気合が入り、14ページも書いたうえ、デザイナーに発注して家族アルバムの冊子までつくりました。もはや仕事並みの本気度です(笑)。

制作した卒園文集より
画像提供:山川咲さん

せつなさって、大切な記憶や愛しい瞬間を思い出すからこそつきまとうもの。涙は出るけれど、せつなさを楽しんでいるといえるのかもしれませんね。

公園に行ったことがなかった

私は2回流産し、3回目の妊娠では切迫早産で入院。2017年に娘を出産しました。

新生児のころは、「おっぱいは飲めているかな」「体重は増えているかな」と心配で、毎日体重をはかりで量ったり、顔に手をかざして息をしているかを四六時中確かめたり。いま思えば狂気の沙汰なんですが、人間の赤ちゃんは誰かにお世話をされないと生きていけないので、みんな通ってきた道なんですよね。こどもと、その子の成長を支える日々を生き抜いたみなさんに「お疲れさま」と心からの祝福を伝えたいです。

制作した卒園文集より
画像提供:山川咲さん

娘が0歳のころからずっと仕事が忙しく、私は国内外を飛び回っていました。出張や海外視察に娘を連れて行き、移動中に授乳しました。普段の家事育児は夫と分担し、シッターさんも頼んでいたので、1歳までは自分で公園に連れて行ったことがなくて、「ちゃんと子育てできているんだろうか」と不甲斐なくて泣いたこともありました。

美しいものを娘に教わる

2020年、「CRAZY」を退任して独立したタイミングで、鹿児島県の奄美大島で2カ月半、娘と2人だけで過ごしました。そこで娘との時間を取り戻した気がします。それからは定期的に一緒に旅に出ていて、今では一番の旅の相棒です。

出典:Instagram@saki_view

私の旅は、行き先を決めずにキャンピングカーで寝泊まりしたり、奈良から東京まで6時間ぶっ通しで車を走らせたりするような、どこまでも自由なものです。実はすごく怖がりなんですが、車中泊をするときにも娘と一緒だと安心感があります。しっかり者で、最近では「あれ持った?」「そろそろ歯磨きしよう」などと仕切ってくれます。

私が運転する後ろで娘がチャイルドシートに座り、2時間くらい何も話さないこともあります。「寝てる?」と聞くと、「ううん、外を見てる」と。私がよく空や花や水面を見ては「きれいだね」と娘に話すのですが、娘から教えてもらう「きれいさ」の眼差しもあることを知りました。娘が描いた旅の絵は、私の視点とはまったく違っていて、「そんなふうに見ていたんだ」と驚かされることもあります。

生き様を見せていく

旅をともにすると価値観の違いがわかります。娘と意見が合わないこともあります。最近は日常生活でも、着たい服や食べたいものなど、ささいなことでケンカになります。意思のある人生を生きることが私のモットーなのですが、娘もそうで、言い換えるとお互いに我が強いので、意思と意思のぶつかり合いになることもしばしばです。

それでもやはり、娘との対等な関係性は大切にしていきたいと思っています。彼女の人生を生きるのは彼女で、私が手助けできるわけでもないからです。

私にできるのは、娘の意見を尊重すること。それから、私が自分で選んだ人生を懸命に生きている背中を見せること。こどもの人生は私のものではないので、彼女が自由に生きるための機会をどのように提供できるかが大事だと考えています。

出典:Instagram@saki_view

私の父もそうやって「生き様」をこどもに見せる人でした。フジテレビのアナウンサーだった父は、私が2歳のとき突然、仕事を辞めて家族を連れ、ワゴンカーで日本一周する旅に出ました。2年ほど放浪し、千葉県の自然に囲まれた古民家で暮らすことになりました。

米や野菜を育てたり、お風呂を薪で焚いたり。自然と共生する暮らしは今でこそ先進的なようですが、ひたすら過酷で、当時は「なんで普通の親じゃないんだろう」と嘆いていました。でも、父が好きなように生きていて楽しそうだった姿はとても印象に残っています。自分が40代になった今、父の生き方に大きな影響を受けてきたのだと実感しています。

こどもと一緒に学ぶ

ひとりの人間として、こどもも大人と対等な立場で接すること。これは私たち夫婦が子育てで大切にしていることでもあり、私が立ち上げから参画している「神山まるごと高専」でも、学生と接する時に、15歳の「自由と責任」のある人間として接することを大切にしています。

2023年4月にやっとの思いで開校した神山まるごと高専は、徳島県神山町の全寮制の高等専門学校で、「テクノロジー × デザイン × 起業家精神」の3つのカリキュラムを軸にして、人間の未来を変える学校を目指しています。

神山まるごと高専では、先生と生徒が対話する授業がおこなわれている
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

開校前に教員を採用するとき、「教える先生ではなく、一緒に学ぶ先生」を募集しました。先生は「無知なこどもに正解を教えてあげる大人」ではなく、こどもと一緒に考えたり、生きる姿勢を見せたり、仕事って楽しそうだという雰囲気を醸し出したりする存在であってほしいという思いからです。

授業の内容やテストの点数だけでなく、身近にいる大人がどんな生き方をしているかも含めてこどもたちは複合的に学んでいます。そんな学びができる学校をつくりたいし、こどもに対して大人の姿勢が問われているのだと思います。

自然の中にある校舎
Akiko Kobayashi / OTEMOTO

型にはまってみるのも多様性

一般的には「学校」と聞くと制約があるイメージがあります。校則などのルールが厳しかったり、集団で同じ行動をしなければならなかったり。自由だった保育園生活から一転することを指し、「学校に閉じ込められる」という表現を耳にすることもあります。

学校が「世界はつまらない」ということを習得する場所にはなってほしくありません。こどもって、「世界で一番かわいい人は?」と聞かれると「はい!」と即答するほど無敵ですよね。大人が高いお金を払って研修を受けてまで取り戻そうとしている自己肯定感を、こどもは生まれながらにして持っていますから、その才能を削がない場所であってほしいです。

出典:Instagram@saki_view

一方で、自由な親に育てられた私にとっては、小学校という"普通"の場所に行けたことは財産でした。学校というのはある種の「型」ですが、必ずしもそれ自体が悪いわけではなく、型にはまった環境で力を発揮するタイプの人もいます。自由な世界だけを体験するより、自由な世界もそうじゃない世界もあるということを知っていたほうがいい。型にはまってみることもまた、多様性なんだと思います。

変化の節目を楽しむ

だからあまり不安はなく、娘が小学校に入学してからも「何だってできる」「どこへでも行ける」という感覚があります。世の中に正解はないけれど、変化することだけは正解だと信じていて、新しい機会を常にポジティブにとらえています。

出典:Instagram@saki_view

入学は家族も変化を迎え入れやすいタイミングなので、この節目を活用して「これもやろう」「あれも変えよう」と挑戦したいことがたくさんできました。東京を離れて暮らそうと決めて場所を探し回り、兵庫県の淡路島にセカンドホームを建てました。入学後も、娘との旅の時間をもっと増やしたいし、長期出張など自分のやりたいことにもドライブをかけていきたいです。

安定して落ち着いた幸せのかたちもありますが、不安でも怖くても、一歩を踏み出して変化を迎え入れていかない限り、未来のワクワクはありません。私にとっても新しい人生が始まることを楽しみにしています。
※このインタビューは、2024年3月に実施しました。

※ ネウボラ = フィンランド語で「アドバイスの場」という意味。妊娠期から子育て期まで切れ目のないサポートを提供する自治体が日本でも増えています。
特集「6歳からのネウボラ」 / OTEMOTO

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