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西川口「好又鮮酒楼」で福建名物ビーフンを食らう【第2部後編 ガチ中華で淡水魚料理】

東京ディープチャイナ

西川口「好又鮮酒楼」で福建名物ビーフンを食らう【第2部後編 ガチ中華で淡水魚料理】

民俗学研究者の吉村風さんによる「ガチ中華で淡水魚料理」企画の第2部は、西川口の福建料理店が舞台。魚料理とその生態学的観点、さらには美食家ぞろいの個性的なメンバーが次々供される魚料理を食らい、大いに語ります。その後編です。

https://deep-china.tokyo/restaurant-info/34154/

(4)5品目<蛏粉>(アゲマキとビーフンのスープ)

さて、次の粉>(チォンフェン、アゲマキとビーフンのスープ)も淡水魚好きの人々と食べた甲斐がありました。

このスープ、実はメニューではアゲマキではなくマテガイのスープとなっていました。

メニューを見て「マテガイ美味しいし、珍しいから」と頼んだのですが、来た料理を前に、みなさんしげしげと貝を手に取ってみています。「どうしたんです」と聞くと、「これマテガイじゃないです。アゲマキです。」とのこと。

マテガイは二枚貝綱マテガイ科の貝で、ちょうど竹筒のような細長い殻に入っている貝です。一方、今回のスープに入っている貝は、マテガイと同じく細長めの二枚貝ですが、マテガイよりも長さが短く、もっと扁平で、長財布みたいな縦横比となっています。これはアゲマキまたはアゲマキガイとよばれる別の種の貝でした。

なぜマテガイのスープなのに、アゲマキが出されたのでしょうか?

5品目<蛏粉>(マテガイとビーフンのスープ)。メニューにはマテガイのスープと日本語訳があったのだけど…

実は中国ではマテガイは竹蟶(簡体字だと竹蛏。読みはヂゥーチォン)と呼び、アゲマキは蟶(簡体字だと蛏。読みはチォン)と呼びます。一方、日本ではマテガイに「蟶貝」(注5)の漢字を当てています。

つまり同じ「蟶」の字に中国と日本で違う種類の貝をあてているのです。これがメニューでは<マテガイとビーフンのスープ>だったのにアゲマキガイのスープが出てきた理由となります。(注6)

マテガイ料理が豊富に記されたメニュー。でも実は全部「蛏」なのでアゲマキ

アゲマキを手に取る。右に飛び出ている入水管と出水管が長く分かれ見えるのがアゲマキの特徴(マテガイは水管がかなり短くて、くっついて見える)だそうです。なお、この貝殻は標本にするそうです。さすが皆さん魚介類大好き

こういうのに目を配りながら食べるのも面白いところ。

さて、このスープの味は貝の出汁がとてもよく出ていて、

出汁にアゲマキ由来と思われる甘味を強く感じた。
この貝がうまみの塊であることをよく分かっていらっしゃる。シンプル、うますぎ。
アゲマキは初めて食べたのですが、大きくしたあさりのようでふわっとした食感もありつつ 貝柱や足の部分はサクッとした食感もあり とても美味しかったです。はまぐり みたいな強烈な旨味はないですがスープを飲むとちゃんと出汁が出ていて あっさりとして美味しかったです。
身をほじくるのが面倒でしたけど、食べるだけの価値はありますね。元々貝が好きですので汁ごと堪能しました。

とアゲマキの出汁の味に注目した感想が多かったです。

(5)6品目<海鮮小米粉>海鮮とビーフン煮・7品目<海鮮炒小米粉>海鮮焼ビーフン

さて、そろそろ腹も限界に近づいてきました。最後は福建名物ビーフンの汁有りと汁なしで〆たいと思います。ビーフン(米粉)はWikipediaなどでは福建省周辺で発生したとされていますが、いまいち出典はわかりません。(注7)

秦の始皇帝が桂林(広西チワン族自治区)を攻めたとき、北方の秦の兵士たちは南方の米を食べ慣れていなかったため、米を粉にして麺の形にして士気を上げさせた伝説や、古代中国、五胡十六国(三国志の時代の次の時代。紀元4世紀から)の時代に、兵乱を避けて南方に避難した北方の人々が米で麺を作って故郷を偲んだとする伝説などがありますが(注8)、いずれにせよ、小麦よりも米を食べる中国南部で多く食べられており、中国南部から東南アジア一帯で食べられている米を使った麺料理(ライスヌードル)の一つだといえます。

日本だと、「ケンミン焼ビーフン」が有名なせいか、汁が少ない焼きビーフンでたべられることが多いですが、中国では汁に入れて汁有りビーフンとして食べられることも多いです。

今回のビーフンは海に面した福建省の料理らしく海鮮。エビや貝など様々な魚介類が多く入った塩味のスープとつるつるとしたビーフンいただく、定番の料理となっています。

6品目<海鮮小米粉>海鮮とビーフン煮。汁物はやさしい。どことなくチャンポンにも似た感じ

参加者の皆さんも

これは見た目どおりの味です。この店、全般的に胃にやさしい。イガイ類が入っていたのが面白かったです。
汁ビーフンというのは初めて食べたんですが具材に海鮮がたくさん入っていてスープにその出汁が溶け込んで とても濃厚な味で美味しかったです。ビーフン もとても つるんと モチっとしていて 食感も良く箸が進みました。
このビーフン、とてもありがたかったです。〆にはピッタリ。

7品目<海鮮炒小米粉>海鮮焼ビーフン。確かにイガイ使うのあまり見たことないかも

といった感想を寄せてくださいました。慣れた料理が来るとやはりほっとしますね。

感想にあるイガイ(貽貝)というのはムール貝に似た貝のことです。(注9)

ムール貝というとついビール煮や白ワインで酒蒸にしたくなりますが、こうして海鮮スープで合わせても良い出汁が取れるものです。みなさんも、売っているのを見かけたら、ぜひ出汁としても使ってみるとよいかと思います。なおイガイを出汁にするときは、水から煮るのがコツです。

無心に魚料理を食う。さすがに満腹

おわりに―ガチ中華の淡水魚料理の魅力

東京で中華淡水魚料理を食べる会、いかがだったでしょうか?中国料理が多くの魚料理のバリエーション、特に淡水魚料理のバリエーションがあることがきっと伝わったのではないかと思います。

今回、<滕記鉄鍋屯>の3種類のコイ料理を食べているときに、ふっと頭をよぎったことがあります。それは「コイ料理のこの感覚、初めてジビエ料理を食べた時の感覚に似ているな」という考えです。

淡水魚。日本では泥臭いという人や、クセがあって苦手といって嫌う人も多いです。ジビエ肉も同じく、臭みやクセが苦手という人もいます。けれど、食材と手順をきちんと知った人が作った淡水魚やジビエ肉は、「臭み」はなく、食材のクセも、それをおいしさに変えた料理となります。

今回のコイ料理はいずれもそういう魅力的な料理でした。たぶんこれは、現在でも重要な食材の一つとして淡水魚を食べている中国の人々の料理の技術の深さを示すものでしょう。(注10)

ぜひ皆さんにもガチ中華の淡水魚料理味わっていただければと思います。

最後に参加者の感想を抜き出しまして了としたいとおもいます。

それぞれの料理の再現度も含めおもしろい会でした。
本来、中国の料理を考える上で淡水魚料理は避けては通れない道だと思いますが、国内ではその機会がほとんどないのが実情です。今回は複数の料理をはしごして食べることで、その一端を伺い知ることができた気がします。探索のハードルは高いでしょうが、さらなる探検が必要だと感じました。
近年は流通も発達して海産魚が中国全土で食べられると思いますが、広大な内陸地を持つため、中国ではもともとは淡水魚食文化がかなり盛んだったのだと思います。
個人的に趣味で、よく川魚料理を探して食べています。中国の川魚料理も本来すごく多様で面白いはずで、本場の味を食べてみたいのですが日本にある中国料理店では、海産魚のほうが入手しやすいこともあってか、現地では淡水魚で作っているであろう料理も、例えばハタやイシモチなど海の魚でかなり代用されている印象です。(たしかに、わざわざ現地の淡水魚を輸入してまで再現するニーズがあるかというと、一般の方にとってはそれほどではないと思います。)
特に印象的だったのはコイの鉄鍋です。独特の味付けや具材、一緒に食べるとうもろこしの蒸しパン、そして時折の白酒など、日本のコイ料理とは全く違った新しい食べ方を発見させていただきました。
現地で淡水魚で作られている料理を、日本でも淡水魚を使って作るというのは、ガチ中華のなかのさらにガチなのかなと思った次第です。
まず 西川口 がどこかわからなくて検索するとこから始まりました。集合時間より少し早く着いたので 西川口の駅の周辺を散策しましたが、日本人より 海外の人の比率が高いようで 街から聞こえてくる 会話も日本語以外の言語が多かったように思います。
チェーンのお店は日本のものでしたが それ以外の店は中華だったり外国のものが多く街の匂いも少し独特で不思議な空間でした。淡水魚 もそもそもあまり食べる機会はないのですが 今回は さらに中華の淡水魚ということでかなり珍しい料理をいただけるということで とても楽しみにしていました。
大鍋の料理であったり 鯉の丸ごと 姿上げだったり興味があっても一人や少人数ではなかなかチャレンジ できないのでこれだけの人数が集まってわいわいと楽しく淡水魚料理について意見を交わしながら食べることができたのはとてもいい機会でした
昔から横浜中華街にはよく行っていたが、淡水魚の中華料理は記憶に残る限り食べたことがなかったので新鮮な体験だった。ウナギにあのような食べ方があることは初めて知った。西川口には初めて行ったので、日本なのにあそこまで異文化が染みついた土地柄には驚かされた。
日本国外の淡水魚食について、知識がほとんどなかったためその一端をしれて大変有意義でした。
また、コイ自体はそもそも食べた経験が乏しいため、素材のよさに驚かされました。ウナギも、白焼か蒲焼をベースとした食べ方くらいしか食べたことがなかったため、調理法の幅広さを少しだけ感じられました。
見知った魚が初めてみる調理法で化けて出てくるのがなんとも新鮮で,楽しいひとときでした.もちろん美味しかったですし,ぜひまた行きたいなと思います.
普段なかなか食べる機会がなく、一人で食べてみるには勇気がいるもの料理ばかりでしたので、魚好きのみなさんと一緒に楽しくお喋りしながら食べることができ、大変貴重な経験となりました。また、複数のコイ料理を食べ比べするなど、大人数でなければできない経験もさせていただきました。
大勢で大きな魚を一緒に食べると、感想も述べ合えますし、色んな料理を堪能できますし、いいことばかりでした。西川口は初めてでしたが色んな楽しそうなお店があったのでまた行ってみたいです。普段はどちらかというと海水魚(?)をメインに食べているのですが、淡水魚はあっさりしていて美味しいなと思いました。また食べたいです。
これまで、国外の淡水魚を採ることはよくやっていたが、「食」の多様性についてはあまり考えたことがなかったため、中華でもこれだけ多様で美味しい料理が存在することをしれて良かった。
また,今回の会によって東北地方の料理など、知らなかった地域の食に触れることができ嬉しかった。今後も只の魚好きから一歩踏み出して、淡水魚料理を通して世界の食文化の多様性・楽しさを覗いてみたいな、と思った。

参加された皆さんありがとうございました。さて、次はどの淡水魚を食いに行きましょうか?

<好又鮮>のおねえさんとイセエビ。西川口で僕と握手!

※なお、今回の宴会料理はフラッといっても食べられるかはわかりません。時価だったり季節によったりで入荷が異なりますので、同様の宴会を考えられる場合、お店に必ず事前調整をしていくよう願います。

特に<好又鮮>のウナギは要予約かつ時価とのことで、こちらについては必ず事前に値段等含め相談をしてほしいとのことです。日本語を話せる店員さんが一人おられますので、その時は日本語で相談が可能です。

注5 日本ではマテガイについて「蟶貝」または「馬刀貝」の字をあてます。

注6 さらにややこしいことに、日本の魚市場では「マテガイ」も「アゲマキガイ」も区別せず、一緒に「マテガイ」として呼んでいたりします。

注7 「ビーフン」(wikipedia)

注8 「米粉」(百度百科)

注9 「ムラサキイガイ」(ぼうず蒟蒻市場魚介類図鑑)

注10 もっとも、中国でも若い人は淡水魚あまり食べなくなっているそうです。第1部でも書きましたが、今回1軒目の<滕記鉄鍋屯>では、予約をした際に「鯉を三匹も頼むとのことだが、本当にそんなに日本人は鯉を食べるのか? 中国でも若い人は鯉たべないよ」といわれたとのこと…

                                   (吉村風)

店舗情報

好又鮮酒楼

埼玉県川口市西川口1-22-11 鵜沢ビル
048-452-8482

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