認知症と後見人制度の関係性 家族が知っておくべき5つのポイントとデメリット
認知症患者の権利を守る:後見人制度の基本と重要性
認知症が進行すると判断能力が低下していくことは避けられません。そんな中、本人の権利と財産を守るために存在するのが後見人制度です。この制度の基本的な仕組みと重要性について、詳しく見ていきましょう。
認知症と後見人制度:なぜ必要なのか
認知症の方の数は年々増加しており、2025年には約700万人に達すると予測されています。
この増加に伴い、認知症の方の権利を守る仕組みがますます重要になっています。後見人制度は、認知症の方が自分で判断することが難しくなった際に、本人に代わって財産管理や生活に関する重要な決定を行う制度です。
認知症の方は判断能力の低下により、詐欺や悪徳商法の被害に遭いやすくなります。また、必要な医療やケアサービスの契約を自分で行うことが困難になる場合もあります。
後見人制度は、こうしたリスクから守り、適切な生活環境を維持するために不可欠な仕組みなのです。
法定後見制度と任意後見制度の違いを理解する
後見人制度には、大きく分けて「法定後見制度」と「任意後見制度」の2種類があります。それぞれの特徴を理解することが、適切な制度選択につながるのでしっかりと理解しておきましょう。
法定後見制度は、すでに判断能力が低下した人のために家庭裁判所が後見人を選任する制度です。一方、任意後見制度は、判断能力があるうちに自分で後見人を指定しておく制度です。
このグラフから分かるように、法定後見の利用者数が圧倒的に多くなっています。しかし、任意後見制度は本人の意思をより尊重できる点で注目されています。
後見人制度を利用するタイミングと判断基準
後見人制度を利用するタイミングは、認知症の進行度合いによって異なります。一般的には、以下のような状況が見られたときが利用を検討するタイミングです。
財産管理に支障が出始めた時(銀行取引や支払いの混乱など)
重要な契約や手続きが必要になった時(施設入所や不動産売却など)
医療行為の同意が必要になった時
悪徳商法や詐欺の被害にあいそうな時
ただし、これらの状況が見られても、すぐに後見人制度を利用する必要がないこともあります。まずは、かかりつけ医や地域包括支援センターに相談し、専門家の意見を聞くことが大切です。
成年後見人、保佐人、補助人の役割と違い
法定後見制度には、本人の判断能力に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。それぞれの役割と違いを理解しておくことが重要です。
成年後見人
判断能力が著しく低下している人を対象とし、財産管理と身上保護に関するほぼすべての法律行為を代理します。
保佐人
判断能力が著しく不十分な人を対象とし、重要な財産行為について同意する権限を持ちます。本人の同意があれば、代理権も付与されます。
補助人
判断能力が不十分な人を対象とし、特定の法律行為について同意したり代理したりする権限を持ちます。
どの類型を選択するかは、医師の診断書や本人の生活状況をもとに、家庭裁判所が判断します。認知症の進行度合いに応じて、適切な支援が受けられるよう設計されているのです。
認知症の親に後見人をつける手続き:家族が知っておくべき5つのポイント
いざ認知症の親に後見人をつけるとなった際の手続きは、多くの家族にとって初めての経験です。
本人と申立人の関係を見てみると、配偶者や親、子などの親族が行っている割合が最も多く、約半数に上ります。
ここでは、スムーズに手続きを進めるために知っておくべき5つのポイントを詳しく解説します。
後見人制度の申立て:誰が、どこに、どのように行うのか
後見人制度の利用を開始するには、家庭裁判所に「申立て」を行う必要があります。申立ては、本人、配偶者、四親等内の親族、市町村長などが行うことができます。
申立ての流れは以下の通りです。
申立書類の準備
家庭裁判所への申立て
家庭裁判所による審査(本人の判断能力の鑑定など)
家庭裁判所による審判(後見人等の選任)
申立ては本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。申立書類の作成は複雑ですが、家庭裁判所のウェブサイトでフォーマットが公開されています。
不安な場合は、弁護士や司法書士などの専門家に相談して申し立ての準備をするのが良いでしょう。
必要書類の準備と診断書の取得方法
後見人制度の申立てには、多くの書類が必要です。主な必要書類は以下の通りです。
申立書
申立事情説明書
本人の戸籍謄本
本人の住民票
親族関係図
財産目録
収支予定表
後見人候補者の履歴書
診断書・鑑定書
特に重要なのが「診断書」です。これは本人の判断能力を医学的に証明する書類で、必ず指定の書式を使用する必要があります。
かかりつけ医に相談し、家庭裁判所指定の診断書フォーマットを使用して作成してもらいましょう。
家庭裁判所での審判プロセスと面接のポイント
申立てが受理されると、家庭裁判所での審判プロセスが始まります。このプロセスでは、本人の判断能力や生活状況、財産状況などを詳しく調査します。
申立てから後見人選任までの平均期間は約4ヵ月で、審判プロセスの中では家庭裁判所の調査官による面接が行われることがあります。
この面接では、本人の現在の状況と後見人制度を利用する必要性を具体的に伝え、後見人候補者の適格性について説明するようにしましょう。
面接の際は、事前に家族で話し合い、認知症の方の状況や制度利用の必要性について整理しておくことが大切です。
後見人の選任:家族か専門職か、選択の基準
後見人には、家族や親族が就任する「親族後見人」と、弁護士や司法書士などが就任する「専門職後見人」があります。どちらを選択するかは、以下の点を考慮して決めましょう。
本人の財産の規模と複雑さ
家族間の関係性
専門的な法律知識や財産管理能力の必要性
本人の意思や希望
近年は、専門職後見人の割合が増加傾向にあります。これは、財産管理の複雑化や家族関係の変化などが背景にあると考えられます。
ただし、専門職後見人を選任する場合は、報酬が必要になることに注意が必要です。
後見人制度にかかる費用と助成制度の活用法
後見人制度の利用には、いくつかの費用がかかります。主な費用は以下の通りです。
申立て費用(収入印紙代、郵便切手代など):約1万円
鑑定費用(必要な場合):5〜10万円程度
後見人の報酬
後見人報酬の相場としては、管理財産が500万円未満の場合は2万円程度。500万円以上5000万円未満の場合は3〜4万円程度。5000万円以上の場合は5〜6万円程度です。
これらの費用負担が難しい場合は、各自治体が実施している「成年後見制度利用支援事業」を活用することができます。この事業では、申立て費用や後見人報酬の助成を受けられる場合があります。利用を検討する際は、お住まいの市区町村の窓口に相談してみましょう。
認知症の後見人制度のメリットとデメリット:家族の視点から考える
後見人制度には、認知症の人とその家族を支える多くのメリットがありますが、同時にいくつかのデメリットも存在します。ここでは、家族の視点から制度のメリットとデメリットを詳しく分析しますので、制度利用の判断材料として検討してみてください。
後見人制度のメリット:財産管理と身上保護の安心感
後見人制度の最大のメリットは、認知症の人の財産管理と身上保護を専門的に行えることです。具体的には以下のようなメリットがあります。
財産の適切な管理
後見人が本人の預貯金や不動産を適切に管理することで、資産の散逸を防ぐことができます。
必要な契約の締結
介護サービスの利用契約や施設入所の契約など、本人に代わって必要な契約を締結できます。
不利益な契約の取り消し
認知症により判断能力が低下している間に結んでしまった不利益な契約を取り消すことができます。
医療行為への同意
本人に代わって医療行為への同意を行うことができます(ただし、一定の制限があります)。
これらのメリットにより、家族の負担が軽減され、本人の生活の質を維持することができます。
制度利用のデメリット:自由な財産活用の制限と費用負担
一方で、後見人制度にはいくつかのデメリットも存在します。主なデメリットは以下の通りです。
財産活用の制限
本人の財産は後見人の管理下に置かれるため、自由に使用することが難しくなります。
プライバシーの制限
財産状況や生活状況が後見人に把握されるため、プライバシーが制限されることがあります。
費用負担
申立て費用や後見人の報酬など、一定の費用がかかります。
制度からの離脱が困難
一度制度を利用し始めると、本人の判断能力が回復しない限り、制度から離脱することが難しいです。
権利の制限:後見類型では、選挙権や契約締結権などの一部の権利が制限されます。
これらのデメリットは、本人の自由や尊厳に関わる重要な問題です。制度利用を検討する際は、これらのデメリットも十分に考慮する必要があります。
家族が後見人になる場合の利点と課題
家族が後見人になる「親族後見人」には、利点と課題があります。
まず、利点としては以下が挙げられます。
本人の意思や生活歴を熟知している
迅速な対応が可能
報酬が不要な場合が多い
一方、課題としては以下があります。
専門的な知識や経験が不足している可能性がある
家族間の利害対立が生じる可能性がある
後見業務の負担が大きい
家族が後見人になる場合は、これらの点を十分に考慮し、必要に応じて専門家のサポートを受けることが重要です。
専門職後見人を選ぶメリットとデメリット
弁護士や司法書士などの「専門職後見人」を選ぶ場合のメリットとデメリットは以下の通りです。
【メリット】
専門的な知識や経験を活かした適切な財産管理が可能
中立的な立場で本人の利益を守ることができる
複雑な法律問題や財産問題に対応できる
【デメリット】
報酬が必要となる
本人や家族との関係構築に時間がかかる可能性がある
日常的な見守りや細やかな対応が難しい場合がある
専門職後見人を選ぶ場合は、本人の財産状況や家族の状況を考慮し、適切な専門職を選択することが大切です。
後見人制度を利用しない選択肢:代替手段の検討
後見人制度の利用が適切でない場合や、まだ利用する段階ではない場合には、以下のような代替手段を検討することができます。
日常生活自立支援事業
認知症高齢者や知的障害者などが地域で自立した生活を送れるよう、福祉サービスの利用援助や日常的金銭管理サービスを提供する事業です。
任意後見制度
判断能力があるうちに、将来の後見人を自分で決めておく制度です。本人の意思をより尊重できる点が特徴です。
家族信託
信頼できる家族に財産管理を任せる仕組みで、柔軟な財産管理が可能です。
見守りサービス
地域包括支援センターや民間企業が提供する見守りサービスを利用し、日常生活を支援する方法もあります。
これらの代替手段は、後見人制度ほどの法的な権限はありませんが、本人の状況や家族の希望に応じて柔軟に選択できるメリットがあります。
後見人制度を利用しなかった場合、必要以上の買い物や詐欺被害によって損失が発生してしまったり、必要なサービスを受けられないといった事態になる可能性があります。
また、介護サービスの契約ができないことによって適切なケアが受けられないことや、緊急時の医療同意ができず、適切な治療が遅れることも考えられます。
これらのリスクを考慮しつつ、本人の状況や家族の意向に合わせて、最適な支援方法を選択することが重要です。
まとめ
認知症の後見人制度は、本人とその家族を支える重要な仕組みです。しかし、その利用には慎重な検討が必要です。
本人の意思を尊重しつつ、家族の状況や財産管理の複雑さなどを総合的に判断し、最適な選択をすることが大切です。
制度利用を検討する際は、地域包括支援センターや弁護士、司法書士などの専門家に相談することをおすすめします。また、早い段階から家族で話し合い、将来の備えをしておくことも重要です。