いつかのレンタルビデオ店~ 小説家・清水晴木「晴れ、ときどき懐う(おもう)」
千葉県習志野市出身、在住の小説家・清水晴木さん。累計4万部突破の『さよならの向う側』シリーズなど多数の執筆した小説の数々は千葉を舞台にしています。そんな清水晴木さんが著作と絡めて千葉の思い出をつづります。
清水晴木さん
1988年生まれ。東洋大学社会学部卒。2011年函館イルミナシオン映画祭第15回シナリオ大賞で最終選考に残る。2021年出版の『さよならの向う側』はテレビドラマ化して放送。『分岐駅まほろし』『旅立ちの日に』『17歳のビオトープ』など著作多数。
いつかのレンタルビデオ店
2024年8月20日に新刊の『天国映画館』が中央公論新社より発刊される。
文字通り、人が亡くなった後に自分の人生の映画が上映される不思議な天国の映画館が舞台の物語だ。
この作品を書くことになったのは、私が小説家になる前、脚本家を目指していたという経緯がある。
小説、漫画、ドラマ、アニメなどたくさんの物語のある作品から影響を受けてきたが、その中でも映画は私にとって特別なものだった。
そんな映画と慣れ親しむことができたのには、町のレンタルビデオ店の存在が大きい。
しかしここ最近、閉店の報を耳にすることが多く、胸を痛めている。
幼い頃、家族でレンタルビデオ店に行くのが楽しみだった。
目当ては、5本まとめて借りると新作を含めても1000円というシステムの中で、好きな映画を選ぶことだった。
5本のうちの2本を、私と兄の2人で1本ずつ選ぶことができたが、その時はたった1本しか選べなくても、あの棚に敷き詰められた数万本の中から選ぶ1本は特別なものだった。
しかし今は、そんな場所自体が失われつつある状況になってしまった。
私が学生時代、足しげく通った幕張本郷のTSUTAYAも、京成大久保のGEOも閉店してしまっ
た。
いつか自分の書いた作品が映画化して、レンタルビデオ店の棚に並べられることは夢の1つだった。
その1本が誰かの特別な1本になってくれたのなら、お世話になったレンタルビデオ店へのわずかな恩返しにもなったかもしれない。
天国映画館も、そんな作品になってほしいと願いながら執筆を進めた。
天国にも、レンタルビデオ店はあるだろうか。