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大沼心①アニメ業界へ飛び込む転機となった 『天地無用! 魎皇鬼』

Febri

Febri TALK2025.06.09 │ 17:00

大沼心演出家/アニメーション監督

①アニメ業界へ飛び込む転機となった
『天地無用! 魎皇鬼』

『ぱにぽにだっしゅ!』や『化物語』など多くの新房昭之監督作品に参加し、そのイズムを受け継ぎ、現在は監督として数多くの作品を手がけている演出家・大沼心が選ぶアニメ3選。1本目は、将来を決めかねていた青春時代に出会い、アニメ業界へと足を踏み入れるきっかけとなった『天地無用!魎皇鬼』。

取材・文/岡本大介

アニメクリエイターインタビュー_FebriTALK天地無用! 魎皇鬼

主人公にヒーロー性を求めてしまう

――子供の頃からアニメが好きだったのでしょうか?
大沼 いえ、どちらかというとアニメよりもゲームのほうが好きでしたね。小学生のときにファミコンが登場した世代なので、まわりの友達も含めてそちらに夢中になっていました。小学校に上がる前だと『機動戦士ガンダム』の再放送を見ていた記憶がありますけど、自分はストーリーをまったく理解できず、ガンプラだけがひとり歩きして流行っていた感じです。あと同じ時期に見た作品で強烈におぼえているのは『ガンバの冒険』です。これも再放送なんですけど、ノロイというイタチのキャラクターが恐ろしすぎて、けっこうなトラウマになりました(笑)。

――アニメに興味が湧いたのはいつからですか?
大沼 かなり遅くて、高校を卒業したくらいです。ゲームが好きだったこともあり、将来はエンタメ業界に進みたいという漠然とした想いがあって、その一環でアニメを見まくっていた時期があったんです。

――そこで出会ったのが『天地無用!魎皇鬼』だったんですね。
大沼 そうです。この時期に90年代のOVAをいろいろと見ていたんですけど、個人的にいちばん刺さりました。とにかくキャラクターが魅力的でしたし、ドタバタなコメディの雰囲気もよくて。こういう肌触りのアニメを見たのは初めてで、当時の僕にとって斬新だったんです。

――ドタバタなコメディは大きな魅力ですよね。
大沼 ただ、僕はドタバタコメディってそんなに得意じゃないんですよ。でも、この作品はドタバタしつつも、最終的にはヒーロー物語として結実していくじゃないですか。今考えてみると、僕がとくに惹かれたのは主人公像だったのかもしれません。柾木天地(まさきてんち)って、序盤はわりといじられキャラで頼りなかったりもしますけど、終盤に覚醒してからは最高にカッコよく描かれるんですよ。「光鷹翼(こうおうよく)」のシーンとか、胸熱ですごく印象に残っています。

――たしかに天地はヒーローとして覚醒していきますね。
大沼 ですよね。僕は主人公にヒーロー性を求めてしまうタイプなんです。それも、何かしらの芯を持っていることが重要で、それがないとどうしても好きになれない。それは自分が作品を手がける上でも大切にしているところで、昔から変わっていないです。

――とくに印象的なシーンはありますか?
大沼 それが……キャラ以外はあまりおぼえていなくて(笑)。天地をはじめ、キャラがみんな魅力的だったことだけは強烈におぼえているんですよね。魎呼(りょうこ)を演じられている折笠愛さんの声が素敵だったなあとか、あとは原作者の梶島正樹さんが出した同人誌を買いに行ったなあとか、そういう思い出ばっかりですね。

――大人になってから見直したりはしていないんですね。
大沼 していないです。僕は基本的に同じ作品を二度見ることはほとんどありませんから。今回、取材を受けるにあたって久しぶりに見ようかとも思ったんですけど、やめておきました。もちろん、今見ても面白いと感じるとは思うんですけど、僕自身の経験値が段違いに増えているので、大きく印象が変わったら怖いじゃないですか。思い出は美しいまま残しておきたいなと(笑)。

いつかは主人公が最高にカッコいい作品を作りたい

――他に印象に残っている要素はありますか?
大沼 終盤に大きなバトルがあるじゃないですか。具体的にどのシーンというわけではないですが、あのあたりの作画や演出はインパクトがありましたね。いわゆるヌルヌルと動くタイプの絵ではないんですけど、この頃のAICさんの作画はノリノリで、素人ながら見ていてすごく惹かれました。当時は単純に「アニメーターってすごいなあ」と思っていたんですけど、業界に入っていろいろなことを知っていくと、あれは演出の力も大きかったんだなと気づきました。いいシーンを生み出すための段取りや設定の重要性については、この作品で気づかされることが多かったと思います。

――当時の大沼さんは、漠然とエンタメ業界を目指していた時期だったんですよね。
大沼 そうです。そんなときにこの作品と出会い、アニメ業界を目指そうと決めました。それなら、まずは絵が描けるようにならなければと考えて、専門学校に入ったんです。

――それまではあまり絵を描いてこなかったんですか?
大沼 そうなんです。僕の母親は元マンガ家のイラストレーターなので環境は整っていたんですけど、兄がすごく絵がうまくて、それと比較されるのが嫌だったんです。なので、頑なに避けてきたんですけど、『天地無用!魎皇鬼』を見たときに初めて「自分で絵を描いて、それを動かしてみたい」と感じたんですよね。それまではとくにアニメーターになりたいとは考えていなかったんですけど、不思議ですよね。

――アニメ業界に入るきっかけだけでなく、絵を描くことに目覚めた作品でもあるんですね。
大沼 さらに言えば、いつかは自分も主人公が最高にカッコいい作品を作ってみたいという思いも芽生えました。……思った以上にめちゃめちゃ影響を受けていますね(笑)。そんなわけですから、僕の中では昔から今に至るまで、どんなときも金字塔として輝き続けています。

KATARIBE Profile

大沼心

演出家/アニメーション監督

おおぬましん 1976年生まれ。東京都出身。アニメーターとして活動後、演出家へ転向。多くの新房昭之監督作品に参加して頭角を現す。主な監督作は『バカとテストと召喚獣』『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』など。現在、監督最新作『プリンセッション・オーケストラ』が好評放送中。

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