キリンジは KIRINJI になったけれど決して伝説なんかではなく現在進行形の音楽家である!
1998年メジャーデビュー、現在進行形の音楽家KIRINJI
KIRINJI。声に出して読めば “キリンジ”。イントネーションについては読む人それぞれにお任せする。時々『EIGHT-JAM』などのテレビ番組で、“伝説的バンド” と称されることがあるが、決して伝説ではなく現在進行形の音楽家であることを、この機会に声を大にしてお伝えしたい。
1969年6月生まれの堀込高樹さん、1972年5月生まれの堀込泰行さんの兄弟で1996年キリンジを結成、1997年インディーズデビュー、1998年メジャーデビュー。2000年にリリースした6枚目のシングル「エイリアンズ」(オリコン42位)は、特段の大ヒットではなかったが、多数のアーティストによるカバーや、オリジナル音源がCMで使われたこともあり、多くの人に知られる楽曲になっている。作詞・作曲は堀込泰行さん。キリンジとしての活動に加え、兄弟それぞれがソロプロジェクトやソロ活動、他のバンドとのコラボレーション等も行っていた。
2013年に弟の堀込泰行さんがキリンジを脱退して独自の活動を開始。その後は兄の堀込高樹さんが “KIRINJI” 名義でバンド活動を行い、2021年からは “変動的で緩やかな繋がりの音楽集団” として精力的な活動を続けている。あるときは堀込高樹さんのソロ、あるときは様々なサポートメンバーや他のグループとのコラボレーション。屋号はそのままに、店構えや取り扱っている商品が少しずつ変化していく商店を想像してもらうとわかりやすいかもしれない。
時代の半歩先を進む、クールでミステリアスなKIRINJI
活動形態に変化はあれども、堀込高樹さんが生み出す複雑でポップなメロディやコード使い、鋭い視線、シニカルでいて美しい言葉の紡ぎ方は本質的には変わらない。筆者は2001年に「悪玉」(アルバム『3』収録)でキリンジを知り、高樹さんのリリックとメロディのファンになった。以後聴き続けており、何回かライブにも足を運び、気がつくと四半世紀近くになる。なお、2024年10月にNHK総合でオンエアされた音楽番組『tiny desk concerts JAPAN』においても「悪玉」は披露された。こちらは現在でもNHKワールドJAPANで視聴可能である。
堀込高樹さんの作る音楽に一貫して感じる印象は、形状でいうとどこか尖った、やわらかい多面体。クールでミステリアスで、ときどきなまめかしい。動物でいうと猫。猫をモチーフした楽曲も存在する。時代の半歩先を進むチャームポイントはソロプロジェクトの弾き語りでも通底している。涼やかな美声でメロディアスな曲を歌う “兄弟でのキリンジ” は現時点では過去のものになってしまっているが、“伝説的バンド” と言われるのもちょっと違うでしょ、と思うのだ。
堀込高樹は、韓国のアーティストと積極的に共演
2000年代初頭からクラブ向けのリミックスも積極的にリリースしていたキリンジだが、KIRINJIになった2013年以降は、それまでのAOR的なアプローチが目立つスタイルから変化し、音楽的冒険がより一層強まった。『ネオ』(2016年)でエレクトロの要素を強め、『愛をあるだけ、すべて』(2018年)、『cherish』(2019年)ではエレクトロとオーガニックを絶妙に融合したダンスミュージックやヒップホップ的なサウンドにもフォーカス。ソロプロジェクトになってもその傾向は大きくは変わらない。
堀込高樹さんは2019年のシングル「killer tune kills me feat. YonYon」や2023年に配信された「ほのめかし feat. SE SO NEON」で韓国のアーティストと共演。2023年には韓国の野外音楽フェスである『仁川ペンタポート・ロック・フェスティバル』にバンドで、台湾のLUCfest 2023には弾き語りで出演した。ラテン語圏や欧米でも聴かれているというから、今後は海外のフェス参加も増える可能性に期待している。KIRINJIになって以降、サポートメンバーを従えたバンド形式やフェス出演に加え、ギター1本の弾き語りでも日本全国いろいろな場所で公演を行っている。
メジャーデビュー25周年を記念したライブがBlu-rayで発売
筆者も2024年11月2日に早稲田大学で行われた弾き語りライブに参加した。キリンジ時代の「愛のCoda」「Drifter」などの難しい曲をギター1本で再現しているのと、高い声までよく出ているのには正直なところ驚いた。「非ゼロ和ゲーム」ではステージとオーディエンスの掛け合いが自然発生的に広がり盛り上がったことも書いておきたい。
2024年5月25日にはメジャーデビュー25周年を記念して、LINE CUBE SHIBUYAで一夜限りのプレミアムライブが行われた。このライブを収録したBlu-ray『KIRINJI 25th ANNIVERSARY LIVE』が2025年1月29日に発売された。ライブ音源の一部は既に前年12月から配信リリースされており、サブスクで聴くことも可能だ。筆者のお気に入りは、MELRAWさんの中毒性のある、歌に絡みつくサックスが存分に聴ける「あの娘は誰?とか言わせたい」だ。収録されている31曲には、キリンジ時代からバンド、ソロプロジェクト、また堀込高樹名義で発表された曲も含まれている。
先日、高樹さんはレギュラー出演しているラジオ番組『NEW MUSIC, NEW LIFE』(α-STATION)で、 “今後のライブでは、堀込高樹名義の『Home Ground』からも歌っていきたい” と語っていた。KIRINJIという屋号で、どのような音楽がこれから生み出されるのか、その動きをずっと注目していきたい。