フレイルとは何かを簡単に解説 あなたに知ってほしい3つの予防ポイント
フレイルとは?高齢者にわかりやすい定義と3つの特徴
フレイルの簡単な定義 - 虚弱と訳されるが「健康」と「要介護」の中間状態
フレイルという言葉を聞いたことがありますか? 最近、高齢者の健康を語る上で頻繁に使われるようになってきました。フレイルとは英語で「虚弱」を意味する "Frailty" が語源で、日本老年医学会が提唱した比較的新しい概念です。
フレイルの特徴は、健康と要介護の中間的な状態にあることです。年をとると徐々に心身の機能は衰えてきますが、その変化は一様ではありません。健康な状態から要介護状態への移行には個人差が大きいのです。
ある高齢者は90歳を迎えても自立して暮らせる一方、70代前半からさまざまな健康問題を抱え、日常生活に支障をきたす人もいます。つまり、フレイルとは加齢に伴う心身の脆弱化が進行し、ほんの小さなストレスで健康を崩しやすくなった状態を指すのです。
高齢期は個人差が大きく、同じ年齢でも健康レベルには大きな開きがあります。暦年齢だけでなく、体の衰えや病気のリスクを考慮した「生物学的年齢」の視点が重要になってきます。フレイルの概念は、こうした高齢期特有の課題に着目したものと言えるでしょう。
フレイルは可逆的な面があることが大きな特徴です。適切なアプローチを行えば、心身の機能を取り戻し、健康な状態に戻すことも可能なのです。
ただし、フレイルが進行すると、回復が難しくなるため、早期発見と予防が何より大切となります。
フレイルの3大要素 - 身体的、精神・心理的、社会的な側面から捉える
フレイルを理解するには、その特徴を身体面、精神・心理面、社会面の3つの側面から捉えるのが有効です。
身体的な側面としては、筋力や持久力の低下、動作の俊敏性や安定性の低下などがあげられます。stairs climbing(階段の上り下り)や重い荷物を持つのが億劫になったり、ふらつきや転倒が増えたりするのは、まさにフレイルの兆候と言えるでしょう。
精神・心理的な側面では、認知機能の低下による物忘れや理解力の衰え、意欲や関心の減退などが見られます。新しいことへの興味や参加意欲が低下し、無気力になる傾向があります。不安感や孤独感から、抑うつ状態に陥るリスクも高まります。
社会的な側面としては、人付き合いや社会活動への参加が減る傾向が挙げられます。外出の機会が減り、家に閉じこもりがちになると、身体を動かす機会や他者との交流が失われ、心身の活力が低下していきます。
このように、フレイルは身体・こころ・社会生活のあらゆる側面に影響を及ぼす複合的な問題です。それぞれの側面が相互に作用し合い、負のスパイラルを生み出すことで、心身の脆弱化が加速していくのです。
ただし、こうした変化は比較的ゆっくりと進行するため、本人も周りの人も気づきにくいことが特徴です。日常のささいな衰えの積み重ねが、やがて重大な健康問題につながるリスクを高めていきます。 近年の研究では、社会的なつながりの希薄化が、身体的・精神的なフレイルを招く要因になることもわかってきました。家族や地域社会とのつながりが弱まると、さまざまなサポートを得にくくなり、フレイルのリスクが高まるのです。
後期高齢者の10%以上がフレイルと言われる現状データ
では、どのくらいの高齢者がフレイルに陥っているのでしょうか。現状を示すデータを見てみましょう。
東京都健康長寿医療センター研究所 の調査によると、65歳以上の高齢者の8.7%がフレイルの状態にあることがわかっています。
急速に高齢化が進む日本では、2025年には65歳以上の高齢者が全人口の30%を超えると予測されています。単純計算すると、約310万人以上の高齢者がフレイルのリスクを抱えていることになります。
超高齢社会を迎えた日本にとって、フレイル対策は喫緊の課題と言えるでしょう。 これほど多くの高齢者がフレイルに陥る背景には、どのような要因があるのでしょうか。次の章では、フレイルの原因やメカニズムについて、専門医の視点からわかりやすく説明します。
フレイルの原因とメカニズムを専門医がわかりやすく解説
フレイルは加齢による心身の衰えが主な原因
フレイルの主な原因は、加齢に伴う身体機能の低下にあります。私たちの体は、年齢を重ねるごとに少しずつ衰えていくのが自然の摂理です。
高齢になると筋肉量が減少し、心肺機能や免疫力も低下します。骨の密度が下がって骨粗しょう症になりやすくなり、関節の可動域も狭くなります。さらに、認知機能の低下により記憶力や判断力が衰え、転倒のリスクも高まります。
こうした身体的な変化は、誰にでも起こる普遍的な現象ですが、その速度や程度には大きな個人差があります。75歳以上になると、健康上の問題を全く抱えていない人はさらに減り、複数の慢性疾患を併せ持つ「多病(multimorbidity)」の状態にある高齢者も少なくありません。
こうした慢性疾患の存在は、フレイルを加速させる大きな要因になります。例えば、関節リウマチや変形性膝関節症などの運動器疾患は、身体活動を制限し、筋力低下を招きます。呼吸器疾患や心疾患があれば、息切れなどの症状から活動性が低下し、体力の衰えにつながります。
また、加齢に伴う変化は一人ひとり異なるため、「暦年齢」と「生物学的年齢」は必ずしも一致しません。60歳でも80歳並みに老化が進んでいる人もいれば、その逆もあり得るのです。こうした個人差の大きさが、フレイルへの移行を予測しにくくしている一因と言えるでしょう。
活動量減少と栄養不足の悪循環がフレイルを招く
フレイルの進行には、身体的・精神的・社会的な要因が複雑に絡み合っています。中でも、活動量の減少と栄養の偏りや不足が引き起こす負の連鎖は、特に大きな影響を及ぼします。
まず、加齢に伴う筋力低下により活動量が減ると、それがさらなる筋肉量や体力の低下を招きます。すると、疲労感から外出や家事が面倒になり、ますます動かなくなる悪循環に陥ります。
活動量の低下は、食欲の減退にもつながりがちです。高齢期は複数の慢性疾患を抱えているケースも多く、薬の副作用で食欲が落ちることもあります。十分な栄養が摂れなくなると、筋肉量がさらに減少し、体力の回復も難しくなります。
加えて、認知機能の低下により、バランスの取れた食事を作る意欲や能力が失われることも。整った食事を用意するのが億劫になり、簡単な菓子パンやカップ麺で済ませたり、好みの食品に偏ったりしがちです。
食生活の乱れは、フレイルの入り口とも言われています。ビタミンやミネラル、良質なたんぱく質が不足すると、感染症への抵抗力が下がり、病気にかかりやすい体になります。低栄養状態が続くと、心身の健康を維持するのが難しくなるケースが多いのです。
慢性疾患や生活習慣病がフレイル進行のリスクに
フレイルを促進するもう一つの大きな要因が、慢性疾患の存在です。高齢期になると、生活習慣病をはじめとする何らかの疾患を抱えている人が多くなります。
こうした慢性疾患を抱えていることで、フレイル移行のリスクが高まることが分かっています。例えば、糖尿病は細小血管障害により全身に合併症を引き起こします。網膜症による視力低下、神経障害による四肢のしびれや感覚鈍麻、腎症から透析へと進行すれば日常生活動作(ADL)は大きく制限されます。
心疾患や呼吸器疾患も同様です。動悸や息切れなどの症状のため、思うように体を動かせません。徐々に運動機能が衰え、体力の低下が進んでいきます。
特に、がんや心疾患、脳卒中など命に関わる大病の治療後は、その影響が大きいと言えるでしょう。入院治療を経て退院しても、体力の回復には時間がかかります。再発への不安から過度に活動を控えてしまい、かえってフレイルが加速してしまうケースも少なくありません。
複数の疾患を併せ持つ「多病」の状態にある高齢者では、負担はさらに大きくなります。さまざまな健康問題が絡み合って複雑化することで、心身の脆弱化が加速度的に進んでいくのです。
慢性疾患を予防し、適切な治療とコントロールを継続することは、フレイル対策の大前提と言えるでしょう。治療中の疾患を悪化させないためにも、フレイルを意識した生活習慣の見直しが欠かせません。
介護予防の切り札!フレイル対策の具体策3つ
バランス良い食事で低栄養を防ぐポイント
フレイル予防の基本は、なんと言っても食事から。毎日の食事で必要な栄養素をバランスよく摂ることが、心身の健康維持に欠かせません。
高齢期は食が細くなりがちですが、エネルギーやタンパク質の不足は筋肉量の減少を招きます。主食・主菜・副菜のそろった「三食三彩」を意識し、特にタンパク質をしっかり摂るのがポイントです。
主菜には、良質なタンパク質が豊富な魚や大豆製品、卵、鶏肉などを取り入れましょう。肉類も適量なら積極的に摂ってOK。たんぱく質は筋肉を作る材料になるだけでなく、免疫力を高める働きもあります。
副菜には緑黄色野菜を中心に、色とりどりの野菜を取り入れるのがおすすめ。ビタミンやミネラル、食物繊維が豊富に含まれ、体の抵抗力を高め、便秘の予防にもつながります。
また、カルシウムの摂取も忘れずに。牛乳・乳製品、小魚、大豆製品などに多く含まれ、骨粗しょう症の予防に欠かせない栄養素です。
食事の際は、野菜から食べ始め、よく噛んでゆっくり食べることを意識しましょう。食べる順番を工夫し、一口30回以上噛むことで、満腹中枢が刺激され、自然と食べ過ぎを防げます。脳への刺激にもなり、認知機能の維持にもつながります。
加えて、欠食を防ぐための対策も大切です。買い物や調理が難しくなったら、配食サービスや宅配サービスを検討するのもおすすめ。地域のボランティアによる会食会や、民間の配食弁当など、利用できる社会資源は意外と多いものです。
ウォーキングなどの適度な運動習慣がカギ
次に運動の話です。「動かない身体はさびつく」とよく言いますが、まさにその通り。適度な運動習慣は、健康長寿の基本中の基本です。
ただし、高齢期の運動は、負荷の強さよりも継続が大切です。ハードルは低めに設定し、楽しみながら続けられることを意識しましょう。
例えばウォーキングなら、最初は1日10分程度からスタート。少しずつ時間を延ばして、1日30分を目標にするのがおすすめです。速歩きでなくても、ゆっくりでも構いません。継続することが何より大切なのです。
散歩の習慣は、ストレス解消や気分転換にもなります。近所を歩けば、自然と人との交流も生まれ、会話も弾みます。公園のベンチで一休みしながら、知人と立ち話を楽しむのもいいでしょう。
「楽しみながら」をキーワードに、自分に合った方法を見つけましょう。
自宅でできる運動も取り入れてみましょう。スクワットや腕立て伏せなど、自重を使った簡単な筋トレも効果的。イスを使ったストレッチや、テレビを見ながらできる体操など、ちょっとした隙間時間を活用するのもおすすめです。
仲間と一緒に体を動かすのも楽しいものです。公民館や集会所などで開かれる体操教室に参加したり、ラジオ体操の会に顔を出したり。地域のサロン活動で取り組まれている「コグニサイズ」など、運動と認知トレーニングを組み合わせたプログラムも人気です。
趣味や地域活動など社会参加でこころと脳を活性化
フレイル予防のカギを握るのが、社会とのつながりです。人や社会との交流が減ると、こころも体も不活発になりがち。家に閉じこもってしまえば、認知機能の低下や、うつのリスクも高まります。
大切なのは、自分の楽しみや役割を見つけること。趣味の活動に打ち込んだり、地域活動に参加したりすることで、生活に充実感が生まれます。「あの人に会いたい」「あのサークルに行きたい」と思えるような、心の支えになる居場所づくりを意識しましょう。
囲碁・将棋、書道、編み物、ダンス、合唱、ガーデニング…。あなたの好きなこと、やってみたいことから始めてみてください。サークル活動などに参加すれば、自然と仲間も見つかります。教え合ったり、協力したりする中で、あなたの知恵と経験が役立つこともあるはずです。
一人で趣味を楽しむのもおすすめです。音楽を聴いたり、絵を描いたり、本を読んだりと、自分だけの至福のひとときを過ごしてみるのも良いでしょう。新聞や本を読む習慣は、認知機能の維持にもつながります。
閉じこもりがちになったら、まずは月1回の外出から始めてみましょう。買い物のついでに、自治会の集まりに顔を出す。図書館で本を借りるついでに、近くの公園で体操をする。そんな小さな習慣の積み重ねが、フレイル予防への第一歩になるはずです。
専門職の視点:フレイル予防にはかかりつけ医や歯科医との連携も重要
かかりつけ医との連携でフレイルの兆候をいち早く発見
最後に、医療面からのアプローチの重要性を強調しておきたいと思います。毎日の生活習慣を見直し、必要な行動変容を起こすには、専門職の支援が欠かせません。
その中でも特に重要なのが、「かかりつけ医」の存在です。普段から体調管理を任せられる、信頼できる医師との連携は何より心強い支えになります。
定期的な健診は、自覚のない病気の発見や重症化予防に役立ちます。特定健診やがん検診など、行政が実施する健診は低料金で受けられるものも多いので、ぜひ活用しましょう。
気になる症状があれば、我慢せずにかかりつけ医に相談することが大切。ちょっとした不調も見逃さず、一緒に解決策を考えてもらいましょう。処方薬の飲み合わせなども、かかりつけ医に確認してもらうと安心です。
歯科医との連携で低栄養を防ぐ
歯科医との連携も忘れてはいけません。噛む力や飲み込む力の衰えは、低栄養のリスクに直結します。定期的な歯科検診で歯や入れ歯の状態をチェックし、口腔体操などで予防することが大切です。
服薬管理の工夫でフレイルのリスクを下げる
フレイルの進行を防ぐには、服薬管理も重要なポイントです。多剤服用による副作用が、フレイルのリスクを高めることも。かかりつけ薬剤師に相談し、飲み方を工夫してもらうことで安全性は高まります。
リハビリの専門職とも良好な関係を築こう
可能であれば、リハビリの専門職とも関係性を良くしておきましょう。ちょっとしたつまずきや体の痛みも、リハビリのプロに相談することができます。介護予防教室の情報も教えてもらえるので心強い味方です。
フレイルは身体的な衰えだけでなく、こころや生活、社会性の課題が絡み合う複雑な問題です。一人で抱え込まず、周りの支えを上手に活用する。そんな視点を忘れずに、楽しみながらフレイル予防に取り組んでいきたいですね。