ケアマネ不足の深刻化で介護が受けられなくなる?原因と対策を解説
深刻化するケアマネ不足の実態と要因
全国的なケアマネ従事者数の推移と将来予測
ケアマネージャーの従事者数は、2018年度の189,754人をピークに減少傾向に転じ、2022年度には183,278人にまで落ち込んでいます。この数字だけを見ても、4年間で約6,500人もの現場を支える人材が失われていることがわかります。
さらに深刻なのは、新規参入者の減少です。介護支援専門員実務研修受講試験の受験者数は、2017年度までは10万人を超えていましたが、現在は5万人前後まで半減。合格者数も2017年度までは2万人を超えていましたが、現在は2万人を下回る状況が続いています。
この傾向が続けば、2033年までの10年間で、ケアマネージャーの担い手は急激に減少していくことが予測されています。一方で、高齢者人口は増加の一途をたどり、2040年には高齢化率が35%を超えると推計されています。
介護保険制度の要であるケアマネージャーの不足は、介護を必要とする人が適切なサービスを受けられない事態につながりかねません。特に、認知症の高齢者や医療ニーズの高い高齢者など、複合的な課題を抱える利用者への影響が懸念されています。
ケアマネ不足が特に深刻な地域の特徴
ケアマネージャー不足の深刻度は、地域によって大きな差があります。特に、都市部と地方部で異なる課題が浮き彫りになっています。この地域格差は、単なる人口分布の違いだけでなく、地域特有の社会構造や経済状況とも密接に関連しています。
都市部では、高齢者人口の急増に対してケアマネージャーの増加が追いついていない状況です。特に東京、神奈川、千葉、埼玉などの首都圏では、一人のケアマネージャーが抱える利用者数が多く、きめ細かな対応が難しくなっているケースが報告されています。
さらに、都市部特有の問題として、高齢者の独居世帯や高齢者のみの世帯が増加しており、ケアマネジメントの複雑化も課題となっています。
一方、地方部では、もともとのケアマネージャー数が少ない上に、新規参入者の確保が困難な状況が続いています。特に中山間地域や離島では、一人のケアマネージャーが広範囲をカバーせざるを得ず、移動時間の負担が大きくなっています。また、地方部では医療機関との連携も都市部に比べて困難なケースが多く、ケアマネージャーの負担をさらに増大させています。
また、地方部特有の課題として、以下のような状況が報告されています。
事業所の統廃合による介護サービスの空白地帯の発生 高齢のケアマネージャーの退職後の後任が見つからない 若手人材の都市部への流出 地域包括支援センターの人員不足による業務圧迫
居宅介護支援事業所においては、利用者一人一人に対するケアマネジメントに重点を置くべきところ、人手不足により十分な対応ができない状況が生まれています。また、地域包括支援センターでは、本来の役割である地域全体の支援に注力できない実態が浮かび上がっています。特に、介護予防支援や地域のネットワーク構築といった重要な役割が十分に果たせていないことが指摘されています。
地域における人材不足は、介護保険制度の根幹を揺るがす問題となっています。特に、地方部では介護サービスの選択肢自体が限られており、利用者の意向に沿ったケアプランの作成が困難になるケースも報告されています。
現役ケアマネの年齢構成と高齢化問題
現役ケアマネージャーの年齢構成を見ると、高齢化が着実に進んでいることがわかります。特に、ベテランケアマネージャーの多くが定年退職を迎える年齢に差し掛かっており、今後10年で大量退職時代を迎えることが予測されています。この「2030年問題」は、介護業界全体にとって大きな課題となっています。
業界団体の調査によると、介護支援専門員の平均年齢は年々上昇傾向にあり、60歳以上の割合が増加しています。一方で、新規参入者の中心となるべき20代・30代の若手ケアマネージャーは減少傾向にある状況です。
この年齢構成の偏りは、将来的なサービス提供体制の持続可能性に大きな影を落としています。一方で、シニア層のケアマネージャーには豊富な経験と知識があり、複雑な事例への対応力が高いという強みがあります。このため、シニア層が働き続けることができる環境の整備も重要な課題となっています。特に、フルタイムでの勤務が難しい場合でも、短時間勤務やパートタイムでの活躍の場を確保することが求められています。
高齢化に伴う課題の一つに、デジタル化への対応があります。ICTの活用が進む中、従来の紙ベースの作業に慣れたベテラン層の中には、新しいシステムへの適応に苦慮するケースも見られます。この「デジタル・ディバイド(情報通信技術を使える人と使えない人の間に生まれる差)」の解消も、現場の大きな課題となっています。
さらに、現役ケアマネージャーの中には、自身の介護や親の介護と仕事の両立に悩む「ダブルケア」の課題を抱える人も増えています。このような状況下で、いかに人材を確保し、質の高いケアマネジメントを維持していくかが、業界全体の重要な課題となっています。
ケアマネ不足の主要因と現場への影響
増大する業務負担とシャドウワークの実態
ケアマネージャーの業務は年々増加傾向にあり、本来業務以外の負担が大きな課題となっています。厚生労働省の検討会の資料によると、業務は「法定業務」「保険外サービスとして対応しうる業務」「他機関につなぐべき業務」「対応困難な業務」の4つに分類されます。
特に問題となっているのが、いわゆる「シャドウワーク」(法定業務以外の業務)の増加です。具体的には、利用者の入院時の対応、救急搬送時の同乗、書類作成の代行など、本来の業務範囲を超えた対応を求められるケースが増えています。これらの業務は、ケアマネージャーの善意に依存する形で行われており、大きな負担となっています。
法定業務においても、書類作成や関係機関との連絡調整など、事務的な業務が増加しています。特に、医療ニーズの高い利用者や、複合的な課題を抱える世帯の増加により、連携すべき関係機関が増え、調整業務の負担が増大しています。
業務の増加は、利用者への直接的な支援時間の確保を困難にしています。本来、利用者との信頼関係構築や丁寧なアセスメントに時間を割くべきところ、事務作業に追われる実態があります。この状況は、ケアマネジメントの質の低下にもつながりかねない深刻な問題として認識されています。
資格更新と研修制度における課題
ケアマネージャーの資格維持には、定期的な更新研修の受講が義務付けられています。初回の更新研修は88時間、2回目以降は32時間と定められており、この受講時間の確保が現場の大きな負担となっています。さらに、研修費用も受講者の自己負担が基本となっており、経済的な課題も指摘されています。
研修制度に関する具体的な課題として、研修に必要な時間が多いことが挙げられています。
実務研修:87時間 更新研修(初回):88時間 更新研修(2回目以降):32時間 主任ケアマネージャー研修:70時間 主任更新研修:46時間
特に地方在住のケアマネージャーにとって、研修会場までの移動時間や交通費が大きな負担となりかねません。また、研修期間中の代替職員の確保も困難な状況があり、小規模事業所では特に深刻な問題となっています。
厚生労働省の検討会では、研修の質を確保しながら、いかに受講者の負担を軽減するかが議論されています。特に、オンライン研修の導入や、分割受講の仕組みなど、より柔軟な受講方法の検討が進められていますが、この更新制度そのものを検討する必要もあると考えています。
処遇面での問題と若手人材確保の難しさ
給与水準が業務負担に見合っていないことが、若手人材確保の大きな障壁となっています。介護業界全体の処遇改善が進められる中、ケアマネージャーの待遇は他の介護職と比較しても必ずしも優位とは言えない状況です。
若手人材確保における具体的な課題として、以下の点が指摘されています。
5年以上の実務経験要件が新規参入のハードルに 研修費用の自己負担が大きい 責任の重さに比して給与水準が低い
特に、資格取得までの期間が長く、その間の経済的負担が大きいことが、若い世代のケアマネージャー志望を妨げる要因となっています。また、夜間や休日の対応を求められるにもかかわらず、それに見合った手当が十分に支給されていないケースも多く報告されています。
現在、厚生労働省では受験資格要件の見直しや、実務経験年数の短縮など、参入障壁を下げるための検討が進められています。また、一部の自治体では独自の支援制度を設けるなど、人材確保に向けた取り組みが始まっています。
ケアマネ不足解消に向けた具体的対策
ICT活用による業務効率化の推進策
ケアマネージャーの業務負担軽減策として、ICTの活用が本格的に推進されています。特に注目されているのが「ケアプランデータ連携システム」です。このシステムにより、介護サービス事業所との連絡調整や給付管理業務が効率化され、事務作業の大幅な削減が期待されています。
具体的なICT活用による効率化の取り組みとして、以下が進められています。
AIによるケアプラン作成支援システムの開発 タブレット端末を活用した訪問記録の電子化 オンラインによるサービス担当者会議の実施 電子署名による書類のペーパーレス化
しかし、課題も存在します。連携する介護サービス事業所側の導入が進んでいないことや、高齢のケアマネージャーのデジタルスキル向上が必要といった点です。これらの課題に対し、国は導入費用の補助や研修支援を行うなど、積極的な支援策を展開しています。
ICTの活用は、単なる業務効率化だけでなく、ケアマネジメントの質の向上にも寄与することが期待されています。例えば、AIによる過去の事例分析を通じて、より適切なケアプランの提案が可能になるといった効果も見込まれています。
研修制度改革による負担軽減の方向性
研修制度の改革は、ケアマネージャー不足解消の重要な鍵として位置づけられています。2024年12月の厚生労働省の検討会では、研修の質を確保しながら受講者の負担を軽減する方向性が示されました。具体的には、更新研修について利用者への支援時間を確保する観点から、大幅な負担軽減を図ることが提言されています。
新たな研修制度改革の主なポイントは以下の通りです。
オンライン受講の本格導入 研修の分割受講制度の確立 地域医療介護総合確保基金による受講費用の補助拡大 全国統一的な研修カリキュラムの整備 過去の研修実績を考慮した時間数の調整
特に注目されているのが、オンライン研修の拡充です。これにより、地方在住のケアマネージャーの移動負担が大幅に軽減されるとともに、業務との両立がしやすくなることが期待されています。また、オンデマンド配信の導入により、受講者が都合の良い時間に学習できる環境も整備されつつあります。
さらに、都道府県による研修の質の確保も重要視されています。研修向上委員会の在り方を見直し、より効果的な研修プログラムの開発と実施が進められていますが、研修制度そのものを検討する必要があります。
処遇改善と人材確保に向けた新施策
2024年から本格化する処遇改善の取り組みは、ケアマネージャーの待遇改善を通じた人材確保を目指しています。具体的な施策として、他産業・同業他職種と比較して見劣りしない処遇の実現や、働く環境の改善が進められています。
新しい処遇改善策には、以下のような取り組みが含まれています。
事務職員の配置加算の拡充 ケアマネジメントの質に応じた報酬体系の見直し シニア層の活用を促進する柔軟な勤務体制の導入 カスタマーハラスメント対策の強化 潜在ケアマネージャーの復職支援プログラムの整備
特に注目すべき点は、受験要件の見直しです。現在は保健・医療・福祉の実務経験が5年以上必要とされていますが、一定の要件を満たした場合の実務経験年数の短縮や、新たな資格の追加が検討されています。これにより、より幅広い人材の参入が期待されています。
また、シニア層の活用も重要な戦略として位置づけられています。豊富な経験を持つシニアケアマネージャーが、その専門性を活かしながら働き続けられる環境づくりが進められています。具体的には、短時間勤務制度の導入や、若手育成役としての新たな役割の創出などが行われています。
超高齢社会を迎える日本において、ケアマネージャー不足の解消は喫緊の課題です。ICTの活用や研修制度の改革、処遇改善など、さまざまな対策が講じられ始めていますが、これらの取り組みを確実に実行し、介護の質を維持・向上させていくためには、行政、事業者、そして現場の声を丁寧に拾い上げながら、持続可能な体制を構築していくことが求められています。