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「このバンドだから、人生賭けていいと思ってる」Blue Mash、最大規模のワンマン『この街を出て』で起こした革命

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Blue Mash『この街を出て -革命編-』

Blue Mash『この街を出て -革命編-』2025.3.27(THU)@大阪・BIGCAT

人の心が動くのは、人の本気が見えた時。人が命を燃やす時。大阪・寝屋川発の4ピースバンド・Blue Mashが3月27日(木)に心斎橋BIGCATで行なったワンマンライブ『この街を出て -革命編-』では、そんな瞬間が何度もあった。2018年の結成から、寝屋川VINTAGEを拠点に活動をしてきた彼らが7年かけてたどり着いた、バンド史上最大規模の単独公演。Blue Mashの歴史の中にあるBIGCATというライブハウスで魅せたこの日のライブは、Blue Mashが今後作っていく伝説の序章にすぎないと思った。Blue Mashが起こした革命の先を見たい。Blue Mashというロックスターがどこまでも走り続ける姿を見たい。そう思わせてくれる熱い熱いライブだった。

『この街を出て』はBlue Mash主催の自主企画ライブで、2022年から彼らのホームの寝屋川VINTAGEをはじめ、様々な場所と形で行われてきた。BIGCATでも何度か開催されたが、ワンマンはこの日が初めて。ロビーには過去の『この街を出て』のフライヤーの一部が貼られており、イベントの歴史を感じることができた。

満を辞しての最大規模のワンマン、チケットはソールドアウト。さらに当日は優斗(Vo.Gt)の誕生日で、荒川ソラ(Ba)、げんげん(Gt)、優斗の3人が大学を卒業したばかりとあって、場内はかなりの祝祭ムード。バンドマンや関係者もたくさん来場しており、ロビーからすでに熱気が充満していた。

フロアを埋め尽くしたオーディエンスも、準備万端で開演の時を待つ。銀杏BOYZの「BABY BABY」が流れると、マサヒロ(Dr)、荒川、げんげん、優斗の順で、メンバーがステージに登場した。待ちきれない様子のフロアは拳を突き上げて前に詰めかけ、サビの<BABY BABY>で大合唱。このシーンだけでも泣きそうなほどエモーショナルだったが、登場してぺこりとお辞儀をした優斗が顔を上げてパンパンのフロアを見た時、ほんの一瞬見せた表情が忘れられなかった。喜びと緊張と感動がないまぜになったような、なんとも言えない表情。どんな景色が見えたかは彼らにしかわからないが、この表情ひとつで優斗のこの舞台への想いがいかに大きいかを思い知った。一口水を飲んで、気合いを入れ直すようにぺちんと自分の頬を叩いた優斗の姿も印象的だった。楽器を持った4人がマサヒロの元へ集まり、少し長めの気合い入れ。そして革命のライブがスタートした。

優斗は「令和7年、この時代に本物のバンドのこと、好きな人、こんだけいること。この国を誇りに思います! よろしくお願いします!」と叫び、ゆっくりと「素直」を弾き語る。ビブラートをきかせ、大声で学生街での日々を歌う。記念すべきライブの幕開けを飾るファンファーレ。こんな日だから、門出の歌のようにも聴こえる。やがてメンバー全員が演奏にジョインして一気に加速すると、フロアから熱が解き放たれダイバーが発生。1曲目から会場を沸点に導くと、優斗は曲の間に言葉を挟みながら、自らの存在を楽曲で証明していった。

「10年前、13歳の俺はギターを始めました。19歳の春にこの場所に初めて立って、マサヒロとげんげんと出会いました。『十代白書』(関西最大の十代才能発掘プロジェクト)。センターマイクではなかった3ピース。結果は惨敗。悔しくて涙を流した。21歳の時、荒川ソラに出会った。22歳の春、パンパンのBIGCATにいるぜ!」と歩みを振り返り「2002」を投下。転がるダイバーでぐちゃぐちゃのフロアに、見事なギターソロをかましたげんげんがダイブ! 優斗は「800人やって! ありがとう来てくれて。あの頃と同じライブできてる気がします」と涙を拭いながら喜びを噛みしめ、「寝屋川でひとりぼっちの自分救いに来ました!」と「M19」へ繋ぐ。曲が演奏されるたびに、会場の熱がひとつ上がる。「ただのワンマンちゃうぞ、革命編やぞ!(優斗)」と煽ると、荒川も高まってベースを弾きながら膝立ちでスライディング。なだれるように「春のまま」をプレイすると、汗と熱気でフロアから湯気が立ちのぼっていた。

優斗は全国各地から観に来てくれた人がいるのをわかってる、として「今日俺がやりたいことは、全員置き去りにして死ぬほどカッコ良いライブすることです!」と宣言し、「このまま僕らが大人になっても」「嘘つきの話」、新曲の「桜新町」を連投。疾走するロックサウンドに乗せて、生きる証、ステージに立った証を刻んでいく。

中盤のMCはげんげんが仕切りを任される。大舞台でげんげんも荒川もマサヒロも若干緊張しているようだったが、フロアから大学卒業を祝われると笑顔を見せ、メンバー同士のゆるい掛け合いで空気を和ませた。優斗は「BIGCATでワンマンライブできる人生になるとは……思ってましたわ。でもいざ立ってみるとすげえ感動やし、逆にいつも通りやし。当たり前にシンガロングとか手拍子とかないやん。今まで自分がやってきたことが形になってることが幸せです」と笑顔を見せ、1月に配信リリースしたばかりの新曲「彼氏3」、「卒業の歌とげんげんとの始まりの歌」と言葉が添えられた「アフターユース」へと繋いでいった。全力投球のパワープレイながら、歌うようなげんげんのギターに、グルーヴィーにボトムを支える荒川のベース、安定感抜群のビートを繰り出すマサヒロのドラムの演奏力はさすが。耳に残るメロディーラインから、楽曲の良さも改めて実感する。

Blue Mashのライブでは、クラップもシンガロングも起こらない。こんなに盛り上がっているのに?という場面でも起こらない。それは優斗の「音楽で救うのは自分だから」という考えに基づいている。彼自身が音楽に救われたがゆえに、自分たちだけの音楽で目の前の人の背中を押す。数えきれない痛みや苦しみを知る彼は、自分で自分の背中を押すのが簡単でないこともきっと知っている。剥き出しの歌声と演奏が、心の傷を薄めてくれる。

後半は「曖昧よ」「17歳」、先月結婚した優斗の元カノとの恋愛を綴った「マーガレット」と、痛々しいほどの感情を込めた楽曲群でフロアを圧倒した。続く「東京ラストティーン」では、「俺が曲を書く時には、曲を書いた人は俺の延長線上にはもういなくて。いなくなった人の曲しか書けなくて。いなくなった人の歌詞を書いて、いなくなった人にメロディーを書いて、いなくなったものに名前をつけて、いなくなった街に歌を書く。そんなことを7年間続けてきました。でもこの曲だけはずっとそばに残って。今年も春が来て、来年も再来年も3月が来て、あの時と同じ匂いがして、この歌を口ずさむ。そんな気がする」と泣きそうな顔で真っ直ぐ歌声を放っていく。「俺のメロディーは全部後悔の先に成り立つ」と言う優斗。彼の実体験を元にして、解像度高く曲に込められた悲しみや傷、季節、色が、自分にも重なる気がするから不思議だ。

そして最新EP 「六畳半にて e.p.」のリード曲「ホワイトノイズ」を披露。ホワイトノイズとは、優斗曰く「赤ちゃんの時にお母さんのお腹の中で聞いている音」。起こる確率は相関関係がなく「いつ起こるかも何が出るかもわからへん」とのこと。一聴するとラブソングのこの曲に、優斗はもうひとつ大事な意味を込めた。それは仲間のバンドマンに向けて。

毎週一緒に梅田に飲みに行く同い年のバンドマンたちが大好きだと話す一方で、「俺、全員がそのまま30代で大きいステージに立てると思ってなくて。今ここに800人いるけど、多分あと10年したら、半分の人は結婚したり就職したり子供ができたりで、ライブハウスに来れなくなると思ってる。バンドマンも成功できる奴は一握り。全員仲良しこよしで大きいステージに上がる、そんなに甘い話じゃないと思ってるねん。でもバンドマンってすごい寂しくて、ボーカルってずっと1人ぼっちでさ、狭い部屋で1人で、隣人に気を配りながら小さい音でアコギ鳴らして鼻歌歌って、それに歌詞つけて。そんなことをしてるバンドマンが、俺はカッコ良いと思う。人生で初めてミュージシャンにも歌を書きたいなと思った。この曲はラブソングやけど、裏返すと応援歌になってます」と想いを語り「バンド辞めんなよ。バンド好きでいること辞めんなよ。俺が幸せにしてやるから」と、ステージを見守るバンドマンとフロアに、力強く歌と想いを届けた。

いよいよラストスパート。「俺らこの曲、死ぬまで歌うつもりで書いたんですよ! 俺の葬式で流してくれや!」と叫び「セブンティーン」を羨ましいほど命を燃やしてプレイすると、「あの時教室の隅っこで体育座りしてた俺が、仁王立ちしてステージ立ててるねんからさ! またライブハウスに来てくれ! 今日ずっと我慢して言わなかったことを最後言います! ガラガラのライブハウスから来ました、Blue Mashでした!(優斗)」と咆哮した。

「海岸線」の前のMCで優斗は「げんげん、マサヒロ、ソラ。お前ら(フロア)よく聞け。一緒に生きたい奴ってのは、この世にはそんなにいません。一緒に死にたい奴ってのはもっといません。俺この4人なら、人生共にしていいと思ってる! この4人だから歌えると思ってる! このバンドだから、人生賭けていいと思ってる! お母さんお父さん、就職しない親不孝な息子でごめんなさい! ロックバンドに就職します!」と涙ながらに宣言した。このMCは「海岸線」のライブ映像とともにBlue Mashの公式SNSで公開されているのでぜひ見てほしい。筆者はこの日最も心を動かされた。<この街で僕は1人唄う>を<この街で俺は4人で唄う>と歌詞を変え、フルパワーで叫び歌う優斗の決意と4人の熱い絆を、フロアは懸命に手を伸ばして受け取っていた。

本編ラストは「この街から」。イントロから熱狂したオーディエンスは、たまらないとばかりに前に詰め掛けて大騒ぎ。4人も一心不乱に演奏し、曲中に何度もピークが訪れる。歌いながら「気付けばBIGCATでワンマンやってました!」と言えば、荒川がフロアにダイブ! すさまじい熱狂を作り出して、優斗は「だから言うたやろ、革命編やって! 寝屋川VINTAGEから、俺たちがBlue Mashでした! 後悔ないわ。ありがとうございました!」と述べ、晴れやかな顔でステージを去った。

すぐさま起こったアンコールでステージに戻った4人。優斗は「ワンマン史上1番ヤバいフロアやな。感動して言葉が出ないです」と充実の表情を浮かべる。アンコール1曲目の「愛すべき日々」で、想いがあふれたオーディエンスがシンガロングしようとすると、優斗は「勘違いすんな! 絶対歌うなよ! 俺ら4人でお前に歌いに来たんや!」と叫び、すさまじい勢いで音を放つ。<ずっと歌っていたいんだ 此処から響く 爆音も耳鳴りも いつか君を救うはずさ>という強い歌詞が、より心に突き刺さる。さらに「俺の目標は、このメンバーと20代で武道館にお前らを連れていくこと!」との言葉に、興奮したダイバーが続出。ラストにこの日2度目の「M19」を豪速球で投げつけ、ライブは終了した。

前に出て手を繋ぎ、大きくお辞儀した4人に割れんばかりの拍手と歓声、「おめでとう!」の言葉が贈られる。そこに突如流れた、最新曲「ホワイトノイズ」のMV。このサプライズにフロアは大歓喜。天神橋筋商店街で撮影された映像を食い入るように見つめていた。MVが流れ終わると「完結 ご来場ありがとうございました!!」という優斗手書きのメッセージがビジョンに映され、会場は大きな拍手で包まれたのだった。

この日、全ての作詞作曲を手がける優斗の人生とBlue Mashの軌跡そのものを見た。バンドはステージで、もがけばもがくほど光を放つ。泥臭いまでに感情をさらけ出し、信じた音楽に言葉を込めて吐き出して、なりふり構わず汗をかく。優斗はMCで「ワンマンライブってしんどいな。俺の曲全部実話なので、1曲歌うたびに泣きそうになる」と笑っていたが、だからこそ観る者の心を動かすのだろう。全力で今を生きるBlue Mashの姿は、紛れもなく希望でロックスターだった。きっと4人が成し遂げたこの日の景色を、新たに生まれた夢を、奇跡を、光を、決意を、汗を、涙を、革命を、忘れることはないと思う。Blue Mashは間違いなくもっと大きくなる。「職業ロックバンド」として歩み始めた彼らの次なるステージも、見逃さないようにしたい。

取材・文=久保田瑛理 撮影=@_kinoko_photo_

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