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2025年「全国シェアリングシティ大賞」。シェアで公助を補完する受賞事例から“これからの公共”を考える

LIFULL

全国さまざまな自治体、企業の取組みが披露された全国シェアリングシティ大賞。以降の進展が楽しみだ

自治体部門大賞は北海道余市町の防災備蓄のランニングストック方式

余市町のランニングストック方式の仕組みを図で示したもの

近年広がるシェアリングエコノミーはインターネットを介して個人と個人の間で使っていないモノ・場所・技能などを貸し借りするサービス。それをさらに広げ、公助を民間などとの共助で補完し、サスティナブルな自治体運営に繋げていこうという試みが全国で広がっている。

シェアリングエコノミー協会ではこの試みをシェアリングシティを名づけ、そのうちでも先進的な事例を広く発信・称えるために全国シェアリングシティ大賞を設立。2025年5月12日に2回目となる授賞式が行われた。ここでは受賞した取組みと授賞式後に行われたフォーラムの一部をご紹介する。

まずは大賞。自治体部門で受賞したのは北海道余市町で、取組みは「産官学による広域防災連携が取組むランニングストック方式による防災備蓄の推進」。非常に簡単に説明すると自治体が購入した備蓄品を自治体の倉庫に保管するのではなく、購入先の物流拠点に必要になるまで預けておくというもの。事業者はその商品を通常通り販売するものの、常に一定量を残しておき、必要になった時点で連携している陸送、空送事業者に必要な現場に輸送してもらうという。

今年の大賞自治体部門は北海道余市町の防災に関する取り組みに

家庭での防災備蓄に普段の食料品を少し多めに買い置きし、賞味期限の古いものから消費し、消費した分を買い足すことで常に一定量の食料を備蓄し続けるローリングストックというやり方があるが、それの自治体拡大版とでもいえばよいだろうか。このやり方なら備蓄品の期限切れのリスクを減らすことができ、費用と手間を省いて無理なく災害に備えることができる。

余市町は近隣の積丹町、古平町、仁木町、赤井川村の5町村と防災連携(北後志広域防災連携)を結び、地元のサッポロドラッグストアーから防災備品を購入、寄託し、いざという時にはヤマト運輸、Space Aviation(京都市)に配送してもらうという仕組みを構築。それが大賞に繋がった。

シェアの考えが実現させた被災地へのキッチンカー派遣

被災地にキッチンカーを送るための障壁とその解決法

企業部門では株式会社シンクロ・フードの「『官民連携』によるキッチンカーを活用した防災・減災スキームの構築」が受賞した。これは同社が運営するキッチンカーや移動販売車の出店・運営を支援するプラットフォーム「モビマル」と、一般社団法人地域活性化プロジェクト縁GINが、大阪府と連携して能登半島地震の被災地にキッチンカーを派遣したというもの。

それだけ聞くと機動性の高いキッチンカーを派遣することのどこが難しいのかと不思議に思う人もいるだろうが、災害時には情報が錯綜し、現場は混乱している。被災現場に赴くキッチンカーなどの安全確保、災害保険加入などの必要もある。そうした混乱を整理し、役割を明確にしたことで派遣が可能になったそうで、今後は同じ仕組みを利用すれば被災現場でも早々に温かいご飯が食べられるようになるかもしれない。

ちなみに能登半島地震では大阪府が派遣元となり、当初18日間で71台が稼働、2万4000食弱を提供したとか。寒い時期の地震だったことを考えると、どんなに喜ばれたかは想像に難くない。

市中の空いている駐車場をイベント時に暫定的に利用すると何が起きるか

続く優秀賞では企業部門で4社が受賞した。大賞は自治体、企業ともに防災に役立つ仕組みが受賞したが、優秀賞はさまざまな分野の取組みが受賞している。順に紹介するとakippa株式会社の取組みは「駐車場シェア ×スポーツ・イベントで創る地域の新たな経済循環モデル」。豊田市、名古屋グランパス、同社が連携、試合時に不足する駐車場を民間、公共の使われていない駐車場、空き地などで補ったというもので、これによって約1500台分の予約可能な駐車場が確保できたという。

株式会社AsMamaが受賞したのは神奈川県箱根町と連携した「デジタルとリアルの融合!多世代のつながりと共助で支えあうまちづくり『箱根町子育てシェアタウン』」。観光が主産業である箱根町では子育て世帯に共働きが多く、休日も忙しい、地域が分散している、週末・休日には交通渋滞があるなど観光地ならではの課題があり、その解決のためのシェアのやり方を模索。親や高齢者、学生、地域の事業者など多様な参加を得てリアル、デジタルの両面からの取組みが行われている。

アプリ導入で先生の電話対応時間を2500時間以上削減

シェアすることで先生たちが電話対応する時間が大幅に削減された

株式会社タイミーは栃木県日光市と連携した「『働くを創造』する。労働力不足解消から挑む公民連携の新たな取り組み」で受賞した。1日1時間からのスポットワークで労働力不足を補おうというもので、これはどこの地域でも必要とされそうだ。

株式会社メルカリの取組みは「メルカリ・ヤクルト山陽・安芸高田市・三次市による リユース推進の実証実験」。地域の不用品を地域で循環させようというもので、担い手として地域を巡回しているヤクルトレディが関わっている点に注目が集まった。

自治体部門も4自治体が優秀賞を受賞している。佐賀県佐賀市は「地方の社会課題をイノベーションで解決!『みんなで子育てシェアリング』」という取組みで子育てを楽にするミニアプリを導入。市内の小中学校で共通に利用する学校出欠連絡ミニアプリ「れんらくん」の活用で1年間に2500時間以上の電話対応時間を削減できたという。それ以外にもイベント情報と交通情報を連携させるなど使いやすさを考慮した設計が行われており、ITを使いこなすとはこういうことか、と思った。

福岡市のデジタルノマド施策のポイント

福岡県福岡市の取組みは「“シェアが生まれる”世界中から『デジタルノマド』が集まるまちづくり」。ただ、人を集めるだけでなく、長く滞在してもらうためにさまざまなアクティビティを用意、民間事業者にサービス提供、スポンサードしてもらうなどしている点が新しいと評価された。

三重県桑名市は「公民連携ワンストップ対話窓口「コラボ・ラボ桑名」の取組みについて」で受賞した。2016年に創設したコラボ・ラボ桑名には2023年度までに308件の民間事業者からの提案があり、そのうち、92件が実現している。そのうちには開始から10年以上中断していた事業計画が実現した例などもあり、目に見える成果を上げている。

宮崎県宮崎市は「公民備蓄シェアによるサステイナブルな防災備蓄整備事業」に取組んでいる。これは民間の販売用在庫を災害時に宮崎市の備蓄として利用するというもので、市が保管している備蓄と在庫を一元管理できるのが特徴。あわせて公用車EVを災害時には避難所の電源として使えるようにしている。

新しい働き方、考え方で地域に変革を起こす事例も多数

交通難民問題に取り組む乗合送迎サービス、チョイソコの仕組み

続いてはメディアパートナー賞。3媒体がそれぞれに選んだ事例が表彰された。

移住、多拠点居住などに関する情報を発信するメディアTURNSが選んだのは株式会社アイシンの「地域と共に創る持続可能な乗り合い送迎サービス『チョイソコ』」。2018年からスタートしたこのサービスは地方自治体、地域の交通事業者と組んだ乗合送迎サービスで2025年3月時点で全国83自治体で展開している。

単に足を提供するだけでなく、イベントその他出かける目的を作り、外出を促進することで高齢者の健康増進、医療費・介護保険費の低減、地域活性化などにもつなげている。

人と地域を繋げるメディアLOCAL LETTERは株式会社NomadResortの「海外デジタルノマド誘致による地域経済活性化と持続可能な受け入れ体制の構築」を選んだ。これは沖縄県名護市と連携して11カ国、18名のノマドを誘致したもので、2024年11月の14日間の実証実験期間中に7件の商談が成立という驚くほどの成果を上げている。

最近聞くようになったデジタルノマドなる単語。経済効果の大きさに会場が湧いた
商店街と聞くと連続性を意識するが、トビチもありと考えると可能性が広がる

LIFULL HOME'S PRESSが選んだのは長野県辰野町の「空き家・空き物件の幸をシェアし、『トビチ商店街』という新たな価値観を起点に、自分たちで自分たちの町をつくる。誰もが作り手になれる町!」。

商店街をショッピングストリートではなく、そのまちのコミュニティ空間として再定義、シェアしていくという考え方がこの活動のポイント。飛び飛びでも良し、空いているところは余白と考えれば肩の力を抜いて取り組めるというものだ。

2017年から2024年までに32事業者によって18の建物がオープン、2014年度にはほとんど登録の無かった空き家バンクの登録も増加、成約件数で200件以上。能動的な人をサポート、DIY事業で空き家の利活用を可視化など分かりやすいキーワードも多く、多くの自治体の参考になるのではなかろうか。

市町村の垣根を越える連携で地域の利便性が大きく向上

九州電力株式会社の「業界初!電気自動車(EV)専業シェアリングサービスweev(ウィーブ)」

最後に分野ごとに用意された特別賞をご紹介しよう。
まずはシェア×安心安全で特別賞を受賞したのは九州電力株式会社。取組みは「業界初!電気自動車(EV)専業シェアリングサービスweev(ウィーブ)」。確かに電気自動車だけのシェアリングは珍しい。前出の宮崎市の事例では災害時にEVを電池代わりにするという取組みがあったが、EVは移動以外にも使えると考えると普及には大きな意味がありそうだ。

シェア×移動をテーマに福岡県古賀市の「電動アシスト自転車とコガバス(コミバス)のシェアで快適な移動と生活を!」も特別賞を受賞した。市で調達した電動アシスト自転車を地域の子育て世帯でシェア。合わせて隣接自治体である新宮町と市町村の垣根を越えたコミュニティバスを運行している。自治体の施策では対象が自治体内だけに限定されることが多いが、そこを変えるだけで利便性が大きくアップすることは多々あるはずだ。

シェアと関係人口、二地域居住を掛け合わせ、「ノウハウのシェアに基づく地域人材育成と地域DAO活用による関係人口創出」で特別賞を受賞したのは長野県飯田市。Airbnb Japan株式会社、株式会社南信州観光公社と連携、合宿型のエアビースクールを開講するなどして地域人材を育成。結果、取組みが始まって以降、地域の宿泊数は2.8倍に、Airbnbホストの総収入は7倍に、移住者は2.8倍、Uターン者は3.5倍に増加している。

地域で起業人材を育てるという発想の取組み

産業振興も地域の大きな課題だが、そこに取り組んだのが北海道厚真町。
「企業誘致しても田舎に企業なんてやって来ない!それなら起業家人材を自分たちで育てようと決心したまち」として2016年から起業家人材の育成を目指し、地域おこし協力隊制度を活用したローカルベンチャースクールを開催。開業支援、協働型協力隊事業制度などでチャレンジをバックアップすることで地域に多様なサービスを生んできたという。

大学生が取り組む、学生を対象にした無料のシェアサイクルに高い評価

生ごみの堆肥化で地域循環を作るというプロジェクト。都市部ならではの試みかもしれない

資源の循環をシェアし、生ごみの削減、地元農家と市民の繋がりに寄与したのがシェア×資源循環「おいしい地域循環「フードサイクルプロジェクト」(共創事業)」。
小田急電鉄株式会社と神奈川県座間市、農林水産省が連携して行ったもので、家庭の生ごみを堆肥化、座間市の資源ゴミ収集で一緒に収集してもらい、それを地元農家で活用、収穫した農産物を市民が購入、その生ごみを堆肥化という流れが生まれた。農林水産省との事業としては終了したものの、2025年度からは座間市主体の事業として継続が決まっている。

大学生が主役になって進められているのがシェア×地域コミュニティの取組み「シェアサイクルで地域格差を解消 ~学生の可能性と青春を彩る新たな移動サービス~」。主体となっているのは特定非営利活動法人Colorsで、専用チェーンとアプリを利用、学生同士が無料で自転車を貸し借りできるサービスを想定。公共交通機関の運賃が都会に比べて高くなりがちな地方の地域格差解消を目指している。対象が高校生も含めた学生となっていることに加え、無料で利用できるという点がなにより新鮮で、高い評価を受けた。

学生が自分たちの課題に自ら取り組んだ事例
企業も市民という発想でさまざまな施策を展開する福岡県大刀洗町

福岡県大刀洗町はシェア×人材をテーマに「地域と企業が共創する持続可能な人財循環促進プロジェクト」で特別賞を受賞した。これは町内企業を起業町民として位置づけ、町内求人情報を掲載、企業見学や体験事業を実施、交流事業を行うなどで地域と企業が人材、情報をシェアできるようにしたというもの。これによって町内で8名の就業者を生んだほか、障がい者雇用の創出、企業内での農産物販売で町内農家の利益向上などさまざまな効果を生んでいる。一部の企業のみが地域に関わるのではなく、町内にある企業すべてに働きかけ、交流が生まれているのは珍しいのではなかろうか。

自治体という垣根、明文化されていないローカルルールなど問題も明らかに

全国さまざまな自治体、企業の取組みが披露された全国シェアリングシティ大賞。以降の進展が楽しみだ

授賞式に続き、防災×シェア、地域交通×シェアなどとテーマを決めたトークセッションが行われた。いずれも充実した内容だったのだが、情報量が多かったため、ここではごく一部、印象に残った部分だけを取り上げたい。

ひとつは防災×シェアのセッションで何度か出てきたジャンルを超えた連携とシェアという意識。たとえば平谷祐宏尾道市長は観光と防災を一緒に考えるという事例として2020年に供用開始した市役所新庁舎の使い方をあげた。市中心部にあり、災害時に市民、職員、観光客を守る存在であり、かつ交流の場であり、観光客向けの駐車場を備えることで建設費をそれで賄うとも。

24億円の工事費がかかったそうだが、240台の駐車場代が年間6000万円となっており、40年で回収できるという計算。特に防災ではそれだけに意識を向けた施策が多いように感じているが、それを観光などと組み合わせるのは非常に役立つ手。そうした考えで取り組める自治体が増えれば税金も有効に使われるようになるだろう。

地域交通をテーマにしたセッションでは自治体の枠を超えた連携という考え方に共感した。
群馬県のGunMaas(群馬県内のバス、タクシー、鉄道などの交通手段やチケットの予約・購入・利用をスマホで一元的に行えるアプリ)はもともと前橋市が開発したものだが、県内自治体がそれぞれに開発を進めることで他自治体では使えなくなるようでは無駄と県が開発を引き受け、県内どこででも使えるようにしたという。

今後はサブスクにする、隣接する埼玉県、長野県などとの連携も考えていきたいとのことで、自治体を越えた移動に使えるようになればどれだけ役に立つことか。実現のためにはいろいろハードルがありそうだが、ぜひ、実現していただきたい。

関係人口、二地域居住×シェアというセッションで取り上げられた明文化されていないローカルルールの存在についての言及も記憶に残った。二地域居住関連法が施行され、国全体として二地域、多拠点居住を推進している現在ではあるものの、地方にはどこにも書かれていない、担当者の頭の中にだけあるローカルルールが少なくない。それが変化の障壁になっている事例は首都圏ですらよく聞く。その土地ごとに事情が異なることは分かるが、それが外から分からない状態は不親切。改善が進むことを期待したい。

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