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『島だと思ったら怪物だった』 恐怖の大怪魚たちの伝説

草の実堂

画像 : アスピドケロン 草の実堂作成
画像 : 魚を食べると頭が良くなる? pixabay cc0

魚、それは島国に住む我々にとって欠かせない食材である。
特にマグロのような大型の魚は、可食部も多く脂が乗っており人気が高い。

しかし神話や伝承には、逆に人間をとって食べてしまうような恐ろしい大怪魚の逸話が存在する。

今回は、伝説の巨大魚たちについて紹介したい。

1. ホーガ

画像 : ホーガ 草の実堂作成

ホーガ(hoga)とは、メキシコの海に生息するとされた怪魚である。

16世紀の探検家アンドレ・テヴェや医師アンブロワーズ・バレの著書にて、その存在が言及されている。
ホーガは豚のような顔を持ち、体色をカメレオンのように変化させ背景に溶け込む能力を持つという。

獰猛な肉食魚であり、動くものを手当たり次第に丸呑みにする。
その対象には人間も含まれており、時にはシャチのように地上に乗り上げて襲いかかるという逸話もある。

このため、現地の人々はホーガを積極的に駆除していたという。

興味深いことに、その味はビンナガマグロに似ており、美味であったとされている。

2. ダンダーン

画像 : ダンダーン 草の実堂作成

ダンダーン(Dandan)とは、『千夜一夜物語(アラビアンナイト)』の一編、「陸のアブド・アッラーフと海のアブド・アッラーフの物語」に登場する、巨大な魚である。

昔、アブドラという名の漁師がいた。彼がいつものように漁をしていると、網にかかったのはなんと人魚であった。
その人魚もまた、名をアブドラといった。
彼らは陸の果物と海の宝石を物々交換するようになり、親睦を深めたという。

そんなある日、人魚のアブドラが漁師を「我が家に招待したい」と言い出した。
人魚の住処は当然、海の中である。普通の人間では溺れ死んでしまうだろう。
しかし「ダンダーン」という魚の肝油を体に塗ることで、水中でも呼吸ができるようになるというのだ。

ダンダーンはあらゆる陸上生物よりも大きく、象程度なら一飲みにしてしまう人魚たちにとって恐るべき天敵だった。

しかし、このダンダーンには一つの弱点があった。それは「人間」すなわちアダムの子孫である。
ダンダーンは人間の肉を食べれば即死し、人間の叫び声を聞くだけでも死ぬという。

漁師のアブドラは全身にその肝油を塗り、海中に潜った。すると、本当に水中で呼吸ができるようになったのだ。

その後、彼らは海中で実際にダンダーンと遭遇したが、漁師が叫び声をあげると瞬く間に死んでしまったという。

3. 赤えい

画像 : 赤えい 草の実堂作成

アカエイとは、実在するエイの一種であり、そのヒレは非常に美味であるが、尾部にある毒針には十分な注意が必要である。
それとは別に、赤えい(あかえい)という妖怪がいるのをご存知だろうか?

天保12年(1841年)に桃山人が記した『絵本百物語』において、この赤えいという妖怪が言及されている。

伝えられるところによれば、ある時、安房国(現在の千葉県南部)から出港した船が遭難し、海上を漂流していた。幸運にも、やがて島影が見えたため、船員たちは安堵し、その島に上陸することにした。

しかしどうやら無人島のようで、いくら探しても民家どころか人っ子一人いない。
辺り一面に謎の植物が生い茂り、岩の隙間には魚が泳ぎ、水たまりは全て海水だったという。

「こんな島の上では生き延びれない」そう思った船員たちは船へと戻ることにした。
そして船を出したその刹那、なんと島が海中へズブズブと沈み出したではないか。

実は、彼らが島だと思い込んでいたものは、巨大なエイの化け物「赤えい」だったのだ。

赤えいの体長は約12km以上に達するとされ、普段は海中に潜んでいるが、背中に溜まった土砂を落とすために時折浮上してくるという。その際、赤えいはすぐには沈まず、まるで昼寝をしているかのようにしばらく海面に浮かんでいるため、しばしば島と誤認されることがあったようだ。

赤えいが沈み出せば、上陸していた人間たちは当然、海の藻屑となる。
また、赤えいが沈む際には猛烈な渦と荒波が発生するため、周辺を船で通過することさえ危険である。この怪異への唯一の対処法は、不審な島を見つけたとしても決して近づかないことである。

このように「島かと思ったら巨大な魚だった」という伝承は、実は世界各地に残されている。

次に紹介する話も、そのような巨大な魚にまつわる伝説の一つである。

4. アスピドケロン

画像 : アスピドケロン 草の実堂作成

アスピドケロン(Aspidochelon)は、北欧などに伝わる巨大生物であり、その姿はクジラともウミガメとも言われている。(古代においてクジラは魚と見做されていた。故に本稿では魚として扱う)

アスピドケロンについて言及した最古の文献とされるのは、2世紀頃に刊行された書物『フィシオロゴス』だとされている。

同書によれば、アスピドケロンは普段海上を漂っており、その背中はまるで砂浜のように見えるという。
このため、船乗りたちはアスピドケロンを島と誤認し、上陸してしまうことがあった。

そして宴のために火を焚こうものなら、その熱を感じとったアスピドケロンは海中に沈み始める。
楽しいパーティーが一転して、阿鼻叫喚の地獄に変わるというわけだ。
哀れにも船乗りたちはそのまま溺れ死に、アスピドケロンの餌となってしまうという。

また、アスピドケロンは海中で甘い香りを放ち、周囲の魚をおびき寄せて捕食するとも伝えられている。

まさに存在そのものがブービートラップのような怪物である。

最後に

このように、海には人間の想像を超えるような巨大な生物や怪異の伝説が存在する。これらの伝説は、自然への畏怖と未知への好奇心を掻き立て、人々に語り継がれてきたものである。

次に船出する際には、目の前の「島」が本当に安全な場所であるか、ふと疑念を抱くことになるかもしれない。

参考 :
『幻想動物事典』『千夜一夜物語 第940夜‐第946夜』
普遍宇宙誌(La cosmographie universelle)著.アンドレ・テヴェ
怪物と驚異(Des Monstres et Prodiges)著.アンブロワーズ・パレ

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