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【虚】の八犬伝と【実】である滝沢馬琴の28年が交錯するエンターテイメント大作「八犬伝」試写会レビュー

SASARU

南総里見八犬伝といえば、日本ファンタジー小説の原点と称えられる物語です。人形劇や歌舞伎、映画、ドラマなど様々な形でメディア化され、どんな物語かご存知の方も多いのでは。しかし、その作者、滝沢馬琴がどれだけの執念と年月をかけて八犬伝を書き上げたのかを知る人は少ないでしょう。
山田風太郎原作『八犬伝 上・下』 (角川文庫刊)は、フィクションである八犬伝の物語と、作者・曲亭馬琴(滝沢馬琴)の28年にも渡る壮絶な執筆の様子を同時進行で描く斬新な構成。虚と実が入り乱れる離れ業を、ダイナミックで緻密なVFXの活用と豪華キャスト陣により見事実写映画化しました。
公開に先駆けて試写会に参加したSASARU movie編集部が映画の見どころをレビューします。

八犬伝の気になるストーリー

(C)2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

時は江戸時代。人気作家・滝沢馬琴(役所広司)は、友人である絵師の葛飾北斎(内野聖陽)に構想中の物語「八犬伝」を語りはじめます。里見家にかけられた恐ろしい呪いを解くため、八人の剣士が八つの珠を手に運命に導かれるように集結し、壮絶な戦いに挑むという壮大にして奇怪な物語。
聞き終えた北斎はたちまち夢中に。手応えを感じた馬琴は「挿絵を描いてほしい」と依頼します。北斎は「文句を言われながら描くのはこりごりだ」と断り、娘婿に描かせてやって欲しいと言い出す始末。しかし続きが気になる北斎は、たびたび滝沢家を訪れては続きを聞き出し、馬琴の創作の刺激となる下絵を描きました。
八犬伝はやがて馬琴の生涯を懸けた仕事として異例の長期連載へと突入していきます。ところがクライマックスに差しかかった時、馬琴は両目を失明。完成が絶望的な中、義理の娘であるお路(黒木華)から「手伝わせてほしい」と申し出を受けるのですが…。

滝沢馬琴と葛飾北斎ほか、実力派俳優たちの珠玉の掛け合い

(C)2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

【実】パートでは、馬琴を役所広司、北斎を内野聖陽が演じます。
頭が硬く偏屈な馬琴に対し、天才肌の北斎は自由奔放で、歯に衣着せぬ発言を繰り出すような真逆のタイプ。一見噛み合わなさそうなこの2人のやり取りが絶妙です。八犬伝を聞かせてすぐ「石灰でカチンカチンに固めたような頭からこんな途方もない話が出てくるのが不思議だ」と言いながら、カタブツな馬琴の頭をペタペタと触る北斎の自由な振る舞いには驚きます。それを怒るでもなく北斎だから仕方がないか…といった様子で振り払う馬琴の姿がなんともおかしいのです。お互いを一流の創作者として認めているせいか、不思議とまるくおさまってしまいます。北斎が馬琴の背を借りて絵を描くシーンにはつい笑ってしまいました。
八犬伝完結までの時間の流れは、場所や衣装はもちろん、俳優たちの姿によって表されています。背筋がピンと伸びて堂々としていた馬琴の姿が、少しずつ背が丸くなり、声がしわがれていきます。北斎も杖をついて歩くようになり、妻・お百の悪態も弱々しくなっていく。時の流れを自然に感じさせる名優たちの表現力には驚くばかりです。

旬の若手俳優による絢爛豪華な八犬伝

(C)2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

八犬伝は室町時代の戦国の世が舞台。里見家の呪いを解くために立ち上がる八犬士たちには、渡邊圭祐、鈴木 仁、板垣李光人、水上恒司、松岡広大、佳久 創、藤岡真威人、上杉柊平といった注目の若手俳優をキャスティング。また、里見家の姫であり、八犬士を生み出す伏姫には土屋太鳳が出演。【実】と【虚】は拍子木の音で切り替わりを示すほか、見た目にも違いが。衣装は【実】より華やかで、歌舞伎や人形劇を意識した、オーバーアクトに見えるよう演じてもらったそうです。

(C)2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

【実】パートではセットや実際の建物を多様し、馬琴の仕事場をリアリティ重視で再現。八犬伝の本も国立国会図書館所蔵の実物をスキャンし、汚れを取り除き、製本当時の状態まで戻したという念入りぶり。一方【虚】ではVFXが大活躍!人を乗せることができるほどのサイズを持った犬・八房にはじまり、妖術や不思議な力を持つ珠が登場する八犬伝らしいファンタジーな舞台を表現。一部に国宝・姫路城の庭や廊下、正門やセットも使用しつつ、世界観に合わせた城をCGで補強し作り上げています。

家族との確執、揺らぐ信念…滝沢馬琴の壮絶な人生

(C)2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

八犬伝の構想を固めた馬琴は当時47歳。完結まで四半世紀以上もの時間をかけて書き上げました。当初、北斎に語った執筆予定期間は10年ほど。いかにその道のりが困難だったのかが、八犬伝の進行とともに【実】パートで描かれています。
作家ながら学者然として気難しく几帳面な馬琴。武家出身のため、作家業にはコンプレックスを抱えている様子。磯村勇斗演じる体の弱い息子・宗伯(鎮五郎)に厳しく接し、将来は大名お抱えの医師になって扶持(給料)をもらい、武家として生計を立ててほしいと期待を寄せています。しかし強気な妻・お百(寺島しのぶ)には頭が上がらず四苦八苦。友人である北斎には「息子をしつけすぎでは?」と指摘されるも、そんな筈はないとはねつけます。のちにこの言葉が馬琴に重くのしかかるのですが…。

(C)2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

馬琴は、現実世界で悪が栄える中で、せめて物語の中では善が勝つ世界を描きたいと願っていました。一方、歌舞伎作家・鶴屋南北(立川談春)は、世の中が不条理であるからこそ、物語も辻褄が合わない方が面白いと主張。舞台下のヒヤリとした空間で己の信念をぶつけ合う作家たちが、徐々にヒートアップしていく様子は目を見張るものがあります。

馬琴は、南北との出会いをきっかけに、自身の信念を揺るがされながらも、数々の困難を乗り越え、「八犬伝」に「正義」を貫くという強い想いを込めます。両目を失明してから見せる気迫には思わず息を呑むほど。

八犬伝の物語と滝沢馬琴の28年がぎゅっと凝縮された本作。馬琴が「八犬伝」に込めた想いを、ぜひスクリーンから感じ取ってくださいね。

映画『八犬伝』 基本情報

(C)2024 『八犬伝』FILM PARTNERS.

公開日:10月25日(金)より全国ロードショー
原作:『八犬伝 上・下』 山田風太郎(角川文庫刊)
監督・脚本:曽利文彦
出演:役所広司、内野聖陽、土屋太鳳、渡邊圭祐、鈴木 仁、板垣李光人、水上恒司、松岡広大、佳久 創、藤岡真威人、上杉柊平、河合優実、栗山千明、中村獅童、尾上右近、磯村勇斗、大貫勇輔、立川談春、黒木華、寺島しのぶ
製作:木下グループ
制作プロダクション:unfilm
配給:キノフィルムズ 2023/日本 G
公式サイト:https://www.hakkenden.jp
公式 X:https://x.com/hakkenden_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/hakkenden_movie

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