ゲノムをどう使って病気を治すの?【眠れなくなるほど面白い 図解 生命科学の話】
ゲノムをどう使って病気を治すの?
正常な細胞を移植する
ゲノム編集の治療は、遺伝子が原因の病気に対して行われます。遺伝子に異常が起きると、生命に必要なタンパク質がつくられなくなったり、逆に必要以上につくられたり、不要なタンパク質や異常なタンパク質がつくられたりして、病気の原因になります。ということは、遺伝子の異常を正すことができれば、病気を防いだり治療したりできるということで、これを可能にするのが、ゲノム編集治療です。
世界で初めてゲノム編集治療が行われたのは2014年、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症の患者に対してでした。治療法は、感染の原因になる遺伝子を破壊し、正常な細胞を患感染者に移植するというものです。その結果、半数の患者の症状が消え、薬の服用も不要になったと報告されています。
また、2015年には、1歳の白血病患者にゲノム編集をした免疫細胞を移植する治療が行われ、経過は良好だと伝えられました。この場合は、ドナーが見つかるまでの「つなぎ」の処置だということでしたが、その後、白血病へのゲノム編集治療の研究は、加速度的に進んでいるようです。
このように世界中でゲノム編集が注目されているいま、日本でも世界最高水準の、国民がより広く活用できるゲノム医療の実現をめざして、「ゲノム医療推進法」が成立しています。
ゲノムを治療にいかすしくみ
ゲノム編集治療は、病気の原因になる異常な遺伝子をはずして、正常な遺伝子に置き換え、体を正常な状態に戻す治療。これによって患者は本来の免疫力を取り戻すことができる。さまざまな編集の種類や方法が研究され、一人ひとりに合った治療法の開発が期待されている。
治療の手順
①…患者の血液細胞を取り出す②…健康な人から取り出した正常な遺伝子を患者の細胞に組み込む③…正常な遺伝子を組み込んだ細胞を培養して増やす④…③の細胞を患者の体に戻す
ゲノム編集治療のメリット
2024 年現在、世界中でゲノム編集治療の安全性・有効性が承認されているのは、鎌状赤血球貧血症だけですが、今後、ほかの病気への応用も期待されます。従来の治療は、手術や定期的な注射も必要でしたが、ゲノム編集治療は遺伝子から根本的に治すので、1 回の治療でも OK。正常な細胞を傷つけることがないので、副作用が少ないのもメリットです。
【出典】『眠れなくなるほど面白い 図解 生命科学の話』著:高橋祥子