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池上彰さん「歴史の第1稿に携わっているという意識を持って、 ジャーナリストとして日々活動しています」【杉田敏の 現代ビジネス英語】

NHK出版デジタルマガジン

池上彰さん「歴史の第1稿に携わっているという意識を持って、 ジャーナリストとして日々活動しています」【杉田敏の 現代ビジネス英語】

NHKの記者、ニュースキャスター、「週刊こどもニュース」の“お父さん”を経て、情報番組の解説や執筆活動、さらには大学教授として活躍中の池上彰さん。

複雑な情報のわかりやすい解説はどのように生まれているのか、そして英語学習について、語っていただきました。

※『杉田敏の 現代ビジネス英語 2024年 秋号』より一部抜粋して掲載。

アウトプットを意識したインプットを心がけています

杉田: 池上さんと初めてお会いしたのは30年ほど前、NHKの職員食堂でした。「講座をいつも聞いています」と声をかけてくださって。

池上: ええ、そうでした(笑)。

杉田: 私の子どもたちは、池上さんが担当されていた「週刊こどもニュース」をよく見ていたんです。複雑なニュースをわかりやすく解説してくださる番組で、私もおもしろく拝見していました。

池上: ありがとうございます。実際、大人の視聴者も多かったですね。

杉田: 数年前にあるテレビ番組で東京大空襲を特集されたときは、下町生まれの私としては強い関心を持っている内容だったので、メールで感想を送らせていただきました。

池上: ええ、あの番組では東京都慰霊堂を訪ねてから、大空襲に見舞われた隅田川周辺を歩きました。

杉田: 池上さんが扱う内容は多岐にわたります。番組を作るうえで、知識のインプットとアウトプットをどのように心がけているのでしょうか? 例えば新聞は何紙に目を通していますか?

池上: 紙の新聞は11紙です。全国紙の全紙と、あとは地方紙。各地の新聞社が送ってくださるんです。

杉田: すごい数ですね! 英字新聞は?

池上: 「ニューヨーク・タイムズ」と「ワシントン・ポスト」、それに「ウォール・ストリート・ジャーナル日本版」の電子版を購読しています。あとは大学の講義で毎週名古屋に赴くので、そのときに名古屋のコンビニで「ジャパンタイムズ」を買って読んでいます。

杉田: 11紙はくまなく目を通すのですか?

池上: 朝は、家に配達される全国紙にざっと目を通します。地方紙は郵送で午後に届くので、仕事から帰ってから目を通します。目にとまった記事は取っておいて定期的に見返し、本当に必要だと思う記事はスクラップします。

杉田: 「新聞は世界の昨日の歴史」という表現がありますね。

池上: 「ジャーナリズムは歴史の第1稿である」という表現も。ジャーナリズムやジャーナリストの語源 journal は、日記という意味です。つまり日々の出来事を記録していく人がジャーナリスト。その記録が歴史になる。私自身、歴史の第1稿に携わっているという意識を持って、日々活動しています。

杉田: 紙の新聞以外にネットやテレビは?

池上: 全国紙はデジタル版も購読しているので、速報はデジタル版から知ることが多いですね。NHKのウェブニュースも毎日チェックしています。テレビは視聴時間が取れず、もっぱら見るものではなく出るものになっています(笑)。

杉田: 膨大な情報を、頭の中でどのように整理しているのでしょうか?

池上: 「週刊こどもニュース」に出演していたときのことですが、どう説明したら子どもたちが理解できるかを意識しながら専門書や資料を読むと、内容がよく頭に入ったんです。その経験から、今もアウトプットを意識したインプットを心がけています。

杉田: 以前、池上さんと対談したときに、その記憶力に驚きました。数字の記憶力で知られたNHKの名物アナウンサー・鈴木健二さんみたいだなと。

池上: 実は数字は記憶で伝えておらず、元NHKアナウンサーの松平定知さんの手法を拝借しています。アナウンサーはたいてい目線の先に置かれたプロンプターを見ながらニュースを読みますが、松平さんは数字や誰かのコメントを伝えるときは、あえて下を向いて机の原稿を読むんです。そうすると、「ちゃんと正確を期しています」というシグナルになるんですね。そこに気づいて、すぐにまねしました(笑)。

ジャーナリストの仕事と責任は、いつの時代も変わらない

杉田: ところで以前、テレビ番組で「機械翻訳したウクライナ語の記事を参考にしてお伝えします」と話されていました。機械翻訳はよく活用しますか?

池上: 活用します。その場合は必ず、「機械翻訳した内容を、私の責任でお伝えします」という注釈をつけています。

杉田: 生成AIは使いますか?

池上: 時々おもしろ半分で使いますが、仕事に関する原稿はすべて自分の手によるオリジナルです。

杉田: 紙の新聞が売れなくなっています。アメリカでは新聞の発行がない都市 news desert が増え、ニューヨークでさえ新聞の売店を見かけなくなっています。ホテルでも紙の新聞は置かなくなりましたね。

池上: 「部屋にあるタブレットでニュースを読んでください」と言われますよね。前回ニューヨークに行った際は、グランド・セントラル・ターミナルの売店まで紙の新聞をわざわざ買いに行っていました。

杉田: 紙の新聞はいずれなくなるとお考えですか?

池上: 完全になくなることはないと思いますが、一時期のような発行部数に戻ることはないでしょう。ただ、フランスの新聞「ル・モンド」などは、発行部数は少なくても大変な影響力がありますよね。そうしたいわゆる高級紙として、一部の新聞が残っていくのではないでしょうか。

杉田: ジャーナリズムの将来については、どのようにお考えですか? 新聞の衰退、デジタルメディアの発展、シティズン・ジャーナリストの台頭など、取り巻く環境が変化していますよね。

池上: 今はちょうど過渡期と言えるのではないでしょうか。ただ、正確なニュースをより多くの人たちに伝えるというジャーナリストの仕事と責任は、いつの時代も変わらないと思います。

社会部の記者時代は、外灯の明かりで英語のテキストの内容を覚えました

杉田: 英語教育についてのお考えもお聞きしたいです。小さな子どもから「小学校低学年から英語を始める必要がありますか?」と聞かれたら、何と答えますか?

池上: 「必要ありません」と答えます。まず母語をしっかりと勉強することが大切で、英語は中学生からでも十分学べますよと。

杉田: 全く同感です。ご自身はどのような英語の勉強をしてきましたか?

池上: 大学受験のときに『新々英文解釈研究』という参考書がよいと聞いて、そこに載っている例文の書き写しと音読を延々とやりました。社会部の記者として夜回りをしていたころは、郊外の住宅街で担当の刑事が帰ってくるのを待つ時間を有効利用したくて、外灯の明かりや自動販売機の明かりを頼りにNHKラジオの英語のテキストの内容を覚えました。暗い住宅街を行ったり来たりしながらぶつぶつと暗誦するんです。勤務が規則正しかったキャスター時代は、帰宅後に杉田先生の「ビジネス英会話」の録音を繰り返し聞いていました。

杉田: あるウェブサイトで「池上彰は英語が堪能」と書かれているのを見たことがありますが……。

池上: とんでもない。とりあえず最低限の取材のやり取りができるくらいです。立食パーティーなどで雑談を楽しむなんてことはできません。

杉田: 以前、私がテキストで取り上げた架空の化粧品会社が、実在の会社をモデルにしていると知って、取材に行かれたとおっしゃっていましたね。その行動力に驚きました。

池上: 杉田先生の講座は英語が身につくだけでなく、最新のビジネス情報を知るうえで格好の教材です。アメリカに取材に行くと、「杉田先生がテキストで紹介していたのはこのことだったのか」と思うことも多いですよ。

杉田: そう言っていただけるとうれしいです。このムックでも、常に新しい話題を扱うようにしています。

池上: アメリカの最新情報はどのように入手しているのですか?

杉田: 「ニューヨーク・タイムズ」や「ワシントン・ポスト」をはじめ、欧米の新聞の電子版をいろいろと購読しています。

池上: 新しいことばをキャッチする必要もありますよね。例えばトランプ前大統領が使い始めたことばなど。

杉田: 政治的なことばは一過性のものが多く、トランプ氏が前回の選挙で使ったことばも、残っているのはMAGA (Make America Great Again)くらいではないでしょうか。一方で、コロナ関連のことばはずっと残っています。人々の習慣だけでなく、言語にも大きな影響を与えているんですね。新しいことばと言うと、池上さんはご著書の中で、Fast News Slow Journalism ということばを使われていましたね。感銘を受ける内容でした。

池上: もともとはBBCが使い始めたことばなんです。速報ばかりでなく、世界の出来事をじっくり掘り下げる必要があると感じて、私も使うようになりました。

杉田: 日本ではまだあまり語られていないことで、そこに目をつけるところはさすがだなと思います。

……フルバージョンは『杉田敏の 現代ビジネス英語 2024年 秋号』に掲載中。
■『杉田敏の 現代ビジネス英語 2024年 秋号』より一部抜粋。◆撮影/海野惶世
◆取材・構成/髙橋和子

池上彰(いけがみ・あきら))

1950年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、73年にNHK入局。報道記者、キャスターを歴任する。94年から11年間、「週刊こどもニュース」のお父さん役を務め、さまざまなニュースの丁寧な解説で人気を集めた。2005年にNHKを退職した後、フリージャーナリストとしてテレビ、新聞、雑誌、書籍など、幅広いメディアで活動しているほか、名城大学教授、東京工業大学特命教授、立教大学客員教授などとして5つの大学で教えている。主な著書に『おとなの教養』シリーズ(NHK出版新書)、『伝える力』シリーズ(PHPビジネス新書)、『知らないと恥をかく世界の大問題』シリーズ(角川新書)、『池上彰の 未来を拓く君たちへ(』 日経ビジネス人文庫)、『なぜ世界を知るべきなのか』(小学館YouthBooks)などがある。

杉田敏(すぎた・さとし)

昭和女子大学客員教授。1944年東京・神田の生まれ。66年青山学院大学経済学部卒業後、「朝日イブニングニュース」記者を経て71年オハイオ州立大学に留学。「シンシナティ・ポスト」経済記者を経て、73年PR会社バーソン・マーステラのニューヨーク本社に入社。日本ゼネラル・エレクトリック取締役副社長(人事・広報担当)、バーソン・マーステラ(ジャパン)社長、電通バーソン・マーステラ取締役執行副社長、プラップジャパン代表取締役社長を歴任。NHKラジオ講座「やさしいビジネス英語」「実践ビジネス英語」などの講師を、2021年3月まで通算32年半務める。2020年度NHK放送文化賞受賞。著書に『アメリカ人の「ココロ」を理解するための 教養としての英語』(NHK出版)、『英語の新常識』『英語の極意』(集英社インターナショナル)ほか多数。

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