長野県上田温泉『祥園・寿久庵』で“くノ一美奈子”から学ぶ「快眠」と「長寿食」
城下町の面影残る長野県上田の地に湧く上田温泉。忍者が大好きで数々の資格をもつ、女将“くの一美奈子”が「快眠」と「長寿食」にこだわり、宿泊者の健康長寿を手伝う。
今回の“会いに行きたい!”
女将の久保美奈子さん
武家屋敷の跡地に佇む、元料亭の駅近温泉旅館
上田は天正11年(1583)に戦国武将・真田昌幸が上田城を構えた真田家の本拠地で、いまも城下町の風情が残る。
上田駅から徒歩5分圏内という好立地に、意外にも趣ある木造の温泉旅館が立つ。客室はたった5室のみ、各室からよく手入れされた日本庭園が眺められる。
「このあたりは、殿様の馬を管理していた武士が住んでいた場所で、明治になって城を治めていた松平家が東京に引き揚げると、蚕の取引所に訪れる人々を迎える旅籠(はたご)や料亭ができました」と、女将の久保美奈子さんが歴史を解説する。
現在の『祥園・寿久庵(じゅきゅうあん)』は、上田に四つあった大きな料亭のうちの一つ。
明治・大正の頃の立派な床柱や船底天井、木製の回転窓、組子細工の明かりとりなど、和の意匠が残され、「蚕都(さんと)」として栄えた上田の町の豊かさを物語っている。
2021年まで営業していた「ホテル祥園」は信州ハムの創業者である美奈子さんの祖父が、昭和33年(1958)にホテルを買い取り、宴会や法事、結婚式なども手がける地域の交歓の場として、機能してきた。
祖母、母、美奈子さんと3代にわたって女将を引き継いできたが、コロナ禍で企業の接待などがストップしたこともあり、ホテルは売却。現在は2009年から別館として営んでいた『寿久庵』のみを営業している。
忍者学会に所属して忍者修練場を作る
美奈子さんは生まれも育ちも上田。歴史が好きで、戦国時代に真田一族に仕えた忍者に興味をもった。
忍者というと、手裏剣(しゅりけん)を投げ、忍術を操る伊賀(三重県)や甲賀(滋賀県)を発祥とする忍びの者のイメージがあるが、実は上田にも忍者がいて、テレビドラマにもたびたび登場している。
「真田忍者は高い塀に飛び乗ったり、屋根の上を音もなく歩いたり、オリンピックの体操選手さながらの身体能力をもっています。さらに、体によい食材や薬草にも詳しいんです」
美奈子さんは「国際忍者学会」に所属して、忍者研究を行い、2019年に「第3回国際忍者学会」が上田で開催されたときは、受け入れ側としても尽力した。
上田を「忍者の里」として認知してもらえるように、市と協力して、上田城跡公園の中に「忍者修練場」も作った。ここでは日にちを限定して、手裏剣や吹き矢体験のイベントを行っている。これまでの町づくりのあれこれは“くノ一美奈子”の名前で、『真田忍者で町おこし』の著書に認(したた)めて出版もした。
3歳から日本舞踊を習い、若い頃から資格マニアだった美奈子さん。大学で学んだ食物学の知識を生かした管理栄養士を皮切りに、テーブルコーディネーター、ハーブコーディネーター、発酵食品ソムリエ、栄養睡眠改善トレーナーなど、取った資格や免許はざっと30以上。さまざまな分野の家元やその道のプロからじきじきに指導を受けた。
ホテル時代は仲居さんと日本舞踊や鼓を練習して、「祥園の姫太鼓」と銘打って、百畳の舞台で披露していたこともある。「人との出会いがすべてです」と笑う。
不眠症を薬ではなく、食で治した経験を生かす
『日本長寿食事典』(悠書館)など「長寿食」に関する著書を多数もつ、永山久夫先生との出会いもその一つ。永山先生は長寿食や健脳食の研究の第一人者で、自身も90歳を超え健康長寿を実践している。
「ここは忍者の里だから、忍者の携帯食である『兵糧丸(ひょうろうがん)』を作ったらいいよ」というアドバイスから、実際に作って試食などもしてみた。
地元紙の『東信ジャーナル』には健康食材をテーマに、月1回、「長寿食の学校」というタイトルで連載もしている。その挿絵を永山先生に描いてもらっているという間柄だ。
そんな縁もあって、『寿久庵』では、美奈子さんが健康のために最も大事であると考えている「快眠」と「長寿食」を宿づくりの2大テーマとした。
その二つを意識したきっかけは、美奈子さんの旦那さんが不眠症になり、精神科で薬を飲んでも治らなかったのに、食に気をつけたら1年で治ったという経験によるもの。「食と睡眠には相関関係がある」ことを実感したのが原点だった。
提案する「快眠プラン」は、快眠につながる料理メニューを料理研究家とともに考案し、寝具は質の高い睡眠環境を目指している「エアウィーヴ」を採用。
客室には「忍者ヨガ」と題したヨガプログラムを収録したDVDとヨガマットを置き、宿泊者は滞在中、自由に取り組むことができる。
「忍者ヨガ」といっても高い身体能力を必要とするものではなく、丹田(たんでん)の呼吸法や初心者でもできる基本のヨガポーズが中心。最後に忍者の印を結ぶ動作を取り入れることで、ストレスを緩和し、気分を落ち着かせる作用があるという。
さらに、朝の日光を浴びると体内時計がリセットして睡眠ホルモン「メラトニン」を生成するといわれていることから、「屋上ハーブ園」を造って日光浴をすすめる。また、廊下の本棚には快眠やハーブの本を置き、気軽に情報を入手できるようにした。
真田忍者の里に泊まり、博識な女将から長寿のエッセンスを学び、日々の生活に取り入れてみたい。
女将おすすめ! 立ち寄りスポット
真田が築いた難攻不落の名城へ『上田城跡公園』
真田昌幸が築城した上田城は、2度にわたって徳川軍を退けた名城。廃城後は公園として整備され、隅櫓(すみやぐら)や石垣が残る。
おいしいもの探しでぶらぶら歩き「柳町」
白い土壁に格子戸やうだつの上がる町並みが趣たっぷり。300mほどの通りに造り酒屋や発酵パン店、そば店などがある。
祥園・寿久庵
住所:長野県上田市大手1-1-84/定休日:無/アクセス:北陸新幹線上田駅から徒歩5分
取材・文・撮影=野添ちかこ
『旅の手帖』2024年12月号より
野添ちかこ
温泉と宿のライター/旅行作家
神奈川県生まれ、千葉県在住。心も体もあったかくなる旅をテーマに執筆。著書に『千葉の湯めぐり』(幹書房)、『旅行ライターになろう!』(青弓社)。最近ハマっているのは手しごと、植物、蕎麦、癒しの音。