ロイヤル・オペラ『カルメン』は社会の闇を描き出す現代劇、新生スターのアイグル・アクメトチナに大注目~英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24
英国はロンドンのコヴェント・ガーデン、ロイヤル・オペラ・ハウス(ROH)で上演された、ロイヤル・オペラ、ロイヤル・バレエ団による世界最高峰のオペラとバレエを全8作品<バレエ4作品/オペラ4作品>、特別映像を交えてスクリーンで体験できる人気シリーズが「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン2023/24」だ。ライブでの観劇の魅力とは一味違う、映画館の大スクリーンと迫力ある音響で、日本にいながらにして最高峰のオペラとバレエの公演を堪能できる。
2024年9月6日(金)からは、ロイヤル・オペラ『カルメン』が、TOHOシネマズ日本橋ほか全国で1週間限定公開される。ダミアーノ・ミキエレットによる新演出で、社会の闇を描き出す現代劇に仕上がっている本作、オペラ界を席巻中の新生スター、アイグル・アクメトチナがタイトルロールを歌うことにも大注目したい。以下、演出家・洗足学園音楽大学准教授、家田淳氏の解説と共に本作の魅力に迫ろう。
【動画】The Royal Opera: Carmen cinema trailer
主人公カルメンが自分らしく生きようとする姿と、彼女の前に立ちはだかる運命を描いていく『カルメン』は、時代設定を変えても違和感の少ない作品。近年は現代に設定を移して観客に親近感を持たせつつ、社会の闇を描き出す演出が多く、家田氏が「今回のダミアーノ・ミキエレットの演出は現代でももう少し抽象的な設定にすることで、この物語の普遍性が際立つようになっている」と解説するように、ステージ上で回転する盆を効果的に使ってシンプルながら閉鎖的な空気間を演出するなど、独創的な演出も見どころの一つとなっている。
そんな本作の主演・カルメン役を務めたのが、昨年のロイヤル・オペラ・ハウス・シネマ『セビリアの理髪師』で主役ロジーナを歌って魅了したアイグル・アクメトチナだ。カルメン役でまさにオペラ界を席巻中の新生スターの彼女は、去年から今年にかけて、MET(メトロポリタン歌劇場)の新制作『カルメン』に出演したほか、ベルリン・ドイツ・オペラ、バイエルン州立歌劇場に登場、今後もグラインドボーン音楽祭、アレーナ・ディ・ヴェローナ他でも同役を歌う予定で、世界の主要歌劇場・音楽祭で次世代のカルメン旋風が吹いている。
ロイヤル・オペラ・ハウスによる、オペラ界最高峰の養成機関「ジェットパーカー・ヤングアーティスツ・プログラム」に19歳という若さで見事入所を果たしたアクメトチナは、プログラム在籍2年目、ロイヤル・オペラ・ハウスが本舞台の『カルメン』に主役のカバーとして参加していたところ、本役の歌手が降板し、いきなり主役デビューを果たして話題をさらったのである。たった21歳でカルメンを歌うのは、ROHの長い歴史における最年少記録だった。
アクメトチナ自身はインタビューの中で「カルメン役に限っては、事前に計算ができない。もちろん演出の決まり事は守るが、その日、その瞬間に自分がどうなるかは、やってみるまでわからない。舞台に立ったらカルメンとして生きる」と明かしており、同じ役を何度歌っても演技がありきたりにならないよう、稽古場では演出家とやりとりを深め、役の心理をつかみ、プロダクションごとに新たなカルメン像を造形しているのだという。
若くしてそのカリスマ性に注目が集まっているアクメトチナについて家田氏は「聴く者を体ごと包み込み、圧倒的な快感を与える声。天性のチャーミングなオーラ。加えて、技術と直感を組み合わせた、リアルで繊細な演技力がある」と賞賛を送っている。来年はカルメン以外の様々な役にも挑戦するというアクメトチナが、今後どんな風に羽ばたいていくのか、ぜひご注目いただきたい。
※家田 淳(演出家・洗足学園音楽大学准教授)による『カルメン』解説全文は下記URLにて閲覧可能です。