【打楽器奏者鈴木彩さんのソロコンサート「Winged Seeds~翼果~」】 ビブラフォンから電子音!? ライブでしか味わえない音響経験が連続的に発生
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は2月15、16日に沼津市の沼津ラクーンで開かれた打楽器奏者鈴木彩さん(同市出身、ベルギー在住)のデビューアルバム発売記念コンサート「Winged Seeds~翼果~」を題材に。一般社団法人スケラボ(同市)のプロデュースで、三島市の美術家永冶晃子さんの映像とのコラボレーション。16日の公演を鑑賞。
およそ5年ぶりとなる鈴木さんの地元でのコンサートは、大窓から見える沼津の夜景を背景に置き、手前には透ける素材のスクリーンを張って永冶さんの映像作品を投影するという、多層的な視覚環境で行われた。
音程が異なる四つの植木鉢をたたきながらホメロスの叙事詩を朗読する難度の高い楽曲で幕を開け、マリンバやビブラフォンの楽器としての特性を最大限に引き出す演奏を次々繰り広げた。ほとんどの楽曲は音源で聴いていたものの、ライブでしか味わえない音響経験が連続し、驚きと陶酔の約1時間だった。
余韻を長く設定したビブラフォンは複数の音の重なり合いから、電子楽器のようなふわっとした響きが空間に浮かび上がった。水をテーマにした永冶さんの映像には、水面に生まれた波紋と波紋が干渉し合う場面や、波と波がぶつかって白く砕ける場面があって、まさにそうした現象を音像化したようだった。
振り子の原理で行ったり来たりする金属製のチェーンが、長さの異なる複数のアルミパイプをなでる和音を自動伴奏にして演奏する場面には度肝を抜かれた。板にアルミ箔を貼るなどして「プリペアード」したビブラフォンの「振動」そのものをリズムに取り込んだ楽曲は、「人力テクノ」とも言うべき聴き心地。鈴木彩というアーティスト個人の発想の自由さに加え、活動拠点にしているベルギー・ブリュッセルの音楽的風土の豊かさが存分に感じ取れた。
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