Yahoo! JAPAN

「キレやすい子ども」と信頼関係を築く3つの方法 親が変わるべき「𠮟り方」と「ほめ方」[児童精神科医が解説]

コクリコ

児童精神科医が説く「キレる子ども」の受け止め方第4回。キレにくい親子関係の築き方について。全4回。

【イラストで見る】「よいところを探そう」と思いながら、子どもの行動をよく観察し様子を見守る

これまで“キレる”子どもの「気持ち」や、その行動の「止め方」について紹介してきましたが、子どもとの接し方では、キレているときの対応と同様に、キレていないときの支援も重要です。児童精神科医・原田謙先生の書籍『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』から、親子の信頼関係を築く方法を一部抜粋して3つご紹介します。

子どもと何気ない時間を分かち合うシェアタイム

落ち着いているときの日常的な取り組みは、いわば「土台づくり」のようなものです。日常生活のなかで子どもの話を聞いたり、子どもをほめたりすることによって、信頼関係の土台を築いていく、あるいは築き直していくのです。

土台づくりのために、週に1回「シェアタイム」を実施しましょう。子どもと何気ない時間を分かち合うという方法です。親が子どもと一対一で、20~30分程度の時間を過ごします。

この時間の目的は一緒に楽しむことです。子どもに主導権を与え、子どもの望むことをします。指示や命令は出さないでください。本人の希望にそって、絵を描いたりボードゲームで遊んだりします。料理やドライブもよいでしょう。

基本的には何をしてもよいのですが、テレビゲームや動画視聴のように並んで画面を見続けることは適度な交流にならないので、できれば避けたいものです。

一緒に楽しむことが親子の距離を縮める。  Photo by iStock

シェアタイム中に好ましい行動があったらほめてください。一方、暴力や暴言が出た場合には、シェアタイムを中止してクールダウンなどを実行します。中止になる可能性を、事前に説明しておくとよいでしょう。

また、中学生以降は本人が親と遊ぶことを好まなくなったり、塾や部活動で忙しくなったりして、シェアタイムを設定しにくくなる場合もあります。

その場合には「塾への送迎のときに話を聞く」「メッセージアプリで何気ないやりとりをする」といった交流をするのもよいでしょう。何気ないやりとりが、親子関係をほぐすことにつながり、シェアタイムの代わりになります。

「共感」できなければ「共有」を意識する

子どもとの間に信頼関係を築くためには、大人がその子の気持ちに共感を寄せることが大事だとよくいわれます。しかし、キレる子どもの気持ちには共感しにくいこともあります。

例えば、子どもが友達のことを「死んだほうがいい」「殺したい」と言っているときに「殺したい気持ち、わかるよ」とは言いがたいのではないでしょうか。

子どもの発言に「共感」しにくいとき、私はその子の気持ちを「共有」することを意識しています。子どもの話をそのまま受け止めて「殺したいと思っているんだね」などと返答するのです。

共感できなくても、話題を共有することはできます。「そうなんだ」と受け止めたあと、「どうしてそう思うの?」と聞いてみると、子どもがもう少しくわしく語り出すこともあります。

子どもが「あの子に死んでほしいだけ」「お母さんには関係ない」などと答えて、話をはぐらかすこともあります。そのときはしつこく質問しないで、次にまたその話をする機会を待ちましょう。

少なくとも話を受け止めることを続けていけば、子どもの気持ちを共有することができます。その子がふとした瞬間にもらす本音を、聞き取れるようになっていきます。

子どもが少しでも話をしたら、「話してくれてありがとう」と言葉をかけ、積極的にほめてください。「おだやかに話ができて嬉しいよ」といった形で、大人が気持ちを伝えるのもよいでしょう。

また、質問をしすぎて対話を嫌がられたときなどには、素直に非を認めることも大切です。子どもは、間違ったときには間違ったと認める大人を信頼します。大人を信頼して、気持ちを打ち明けられるようになると、緊張がほぐれて不安が軽減します。大人はそのためのサポートを心がけましょう。

𠮟るときは「次につなげること」を意識する

キレる子どもへの対応では、𠮟りすぎないことが大切です。しかしそれは「𠮟ってはいけない」ということではありません。危険なことがある場合や暴力がある場合など、𠮟るべきところは𠮟りましょう。

子どもがキレて暴れてしまったときには、まず暴力を止めます。そしてクールダウンやタイムアウトなどの方法で、気持ちの切り替えを促します。

その際、親として子どもを思う気持ちから、𠮟ることもあるでしょう。人の子ではなく自分の子どもだからこそ、𠮟るのです。その気持ちまで押し殺す必要はありません。

𠮟るときのポイントは、ほめるときと同じです。子どもを曖昧(あいまい)に𠮟るのではなく、具体的な行動を𠮟ります。「あなたが悪い、ダメだ」「どうして優しくできないんだ」などと言って、その子の存在を否定してはいけません。「相手の子を叩いてはいけない」「死ねというのは暴言です」といった形で、行動の問題を指摘します。

子どもが落ち着いてきて、キレたときの行動を振り返るときには、どうしても不適切な行動を話題として取り上げる必要があります。そのときは、否定的な面だけを伝えるのではなく、子どもがよくがんばっていたところを言葉にするのも大切です。

例えば、「騒いじゃったけど、そのあとは落ち着いていたね」と言って、行動を修正できたことをほめます。𠮟るというマイナスな対応に、プラスの要素を付け加えるのです。その一言が、子どもの次の行動の改善につながります。𠮟るときには、「次につなげること」を意識しましょう。

子どもが暴れて植木鉢を倒してしまっても、自分で片づけをしていたらそのことをほめましょう。  イラスト/めやお『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』より

プラスの要素が見つからない場合には、振り返りのあとにも、子どもの行動をよく観察してください。「よいところを探そう」と思いながら、様子を見守ります。そうすると「物を倒したけど、あとで自分で片付けた」「友達を叩いてしまったけど、あとで謝罪できた」といった形で、肯定的な面が見えてくるものです。

⼦どもには“ほめる・𠮟られる”経験も⼤切

子どもはよいところをほめられる経験を通じて、自分の長所を理解していきます。しかし、それだけでは自尊心は十分に育ちません。できていないところ、足りないところを指摘される経験も必要です。

𠮟られる経験によって自分の悪いところを意識し、受け入れる感覚が身についていきます。大人からまったく𠮟られていない子どもは、「自分は大切にされていない」と感じてしまうものです。それは自尊心の低下につながります。

ほめることと𠮟ることは、どちらも大切です。子どもの自尊心を育てていくためにも、子どもとの信頼関係を築くためにも、𠮟ることも必要なのです。

やったことは悪い、でもあなたは悪くない

例えば、子どもが何か問題を起こしたら厳しく𠮟り、ほめるのは人よりもテストの点数がよかったときだけ、という接し方をしていて、子どもが自分を肯定できるようになるでしょうか?

それでは「条件付きの肯定」になってしまいます。競争に勝ったときにしかほめてもらえない子どもには、自尊心は育ちません。

「スポーツが得意」という長所も「怒りっぽい」という短所も、どちらもその子の一面として受け入れる。  イラスト/めやお『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』より

子どもが求めているのは「条件なしの肯定」です。よいところも悪いところもひっくるめて、受け入れてもらうことを願っています。

子どもは勉強をがんばったり家事を手伝ったりすることもあれば、キレて暴れてしまうこともあります。どちらもその子の一面として受け止めましょう。がんばっていることに目を向けて、よくほめながら、一方で、𠮟るべきときには𠮟る。そのようなバランスを心がけてください。

また、子どもを𠮟るときに大人が「やったことは悪い、でもあなたは悪くない」と意識することも大切です。子どもを一人の人間として無条件に肯定しているけれど、行動のこの部分だけは指摘する、という意識で𠮟るのです。

親も自分を大事にする

周囲の人に愚痴をこぼしながら、サポートを得ながら対応していても、うまくいかないこともあると思います。親も一人の人間です。完璧ではありません。子どもの発言や態度を許せなくて、怒ってしまうこともあるでしょう。

そういうときには自責の念にかられるかもしれません。「私は親失格だ」「俺が未熟なんだ」と落ち込んでしまう人もいると思います。しかし自分を責めないでください。

親も自分の「がんばったところ」を見つけるようにしよう。  Photo by iStock

親もときには怒ってもかまいません。感情的になりすぎたときには、あとでそのことを振り返って、「あの言い方はよくなかった」「次はこうしよう」と考えればよいのです。

そして、子どものよい面をほめるときと同じように、親も自分の失敗のなかに「がんばったところ」を見出すようにしましょう。

子どものほめ方で「子どもが25%、4回に1回できていればほめる」という意識を持つことをおすすめしています。例えば宿題を毎日こなすのが当たり前だと考えるのではなく、25%、4日に1回できていればほめるのです。そのくらい基準を下げると、子どもをほめやすくなります。

この考え方は親にも当てはまります。親も「25%ルール」で、キレる行動に4回に1回でもうまく対応できたら、自分のことをほめましょう。そしてまた次の対応へ進んでいきましょう。

親子には似ているところもありますから、暴力や暴言に対応していくなかで、子どもの短所が自分の短所と重なって見えてしまうこともあるかもしれません。子どもに「キレないように」と言いながら、自分が何度もキレてしまって、親のほうが精神的に落ち込むこともあります。キレる子どもへの対応というのは、難しいものなのです。

だからこそ、親も自分のことを大事にしてほしいと思います。できていないことがあっても、否定的にとらえないようにしましょう。この本を手に取ったということが、あなたが子どものために心を砕いている証拠です。

できているところに目を向けて、自分をほめながら、いろいろな方法を試してください。うまくいかないときには家族や周囲の人とお互いの努力をねぎらい、励まし合うことも大切です。支え合いながら取り組んでいきましょう。

構成/佐々木奈々子

───◆─────◆───

■今回ご紹介の書籍はこちら
キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』(著:原田謙/講談社)
児童精神科医の著者が25年以上の臨床で培ってきた、キレる子どもへの対応・支援法を、マンガを交えて解説します。

「暴力の止め方」「話の聞き方」「ほめ方・𠮟り方」「発達障害の場合」など、ノウハウ的な接し方だけでなく、子どもと向き合うときに意識したい大人側の心構えも重要。ブレない姿勢で、子どものこころに寄り添いながら対応をしていくことで、キレる行動は減っていくでしょう。本書では事例をマンガで紹介しながら対応のしかたを解説。子どものこころに寄り添う対応法がわかります。

『キレる子どもの気持ちと接し方がわかる本』(著:原田謙/講談社)

【関連記事】

おすすめの記事