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NHK紅白歌合戦の中森明菜「十戒(1984)」19歳にしか歌えない “背伸びと反抗”

Re:minder

1984年07月25日 中森明菜のシングル「十戒(1984)」発売日

2度目の紅白出場で歌った「十戒(1984)」


アイドルポップス花盛りの1984年、睨みをきかせる少女が1人。髪をなびかせ、美しきブラックに身を包み、体をのけぞらせる中森明菜が目に浮かぶ――。インパクトが大きい明菜のビジュアルのなかでも、この「十戒(1984)」は “即、脳内に映像が浮かぶ” 楽曲だ。

1984年末の『第35回NHK紅白歌合戦』、中森明菜はこの曲で2度目の出場を決めた。同年、彼女がリリースしたのは「北ウイング」「サザン・ウインド」「十戒(1984)」、そして「飾りじゃないのよ涙は」。「十戒(1984)」、そして「飾りじゃないのよ涙は」。どれもビッグヒットである。「飾りじゃないのよ涙は」は11月とリリースが遅めであったものの、オリコン初登場1位を獲得しているし、この中からどれを紅白で歌うか、選ぶのはさぞ難しかったことだろう。

この「十戒(1984)」は売野雅勇の作詞。この年は河合奈保子の「唇のプライバシー」、チェッカーズの「涙のリクエスト」、郷ひろみの「2億4千万の瞳-エキゾチック・ジャパン-」近藤真彦の「ケジメなさい」など、売野の楽曲が多く出場を決めていた。明菜は、1983年の紅白初出場も売野の楽曲「禁区」で出場している。「十戒(1984)」は、売野が「禁区」以来、3作ぶりに提供したシングルだったのである。それでまた紅白出場というから、なんとも強い引きを感じる。そしてなにより、この『NHK紅白歌合戦』のパフォーマンスは、私たちに不思議な戸惑いと確信を与えてくれたのだった。

青いドレスの「十戒」にびっくり!



この年の司会は、アナウンサー鈴木健二と女優の森光子。選手宣誓は小泉今日子と芦屋雁之助、トップバッターは早見優とシブがき隊。非常に趣深い人選である。そして我らが中森明菜の登場は紅組で7番目。新沼謙治の「旅先の雨に」という、ほのぼの歌謡曲のあと。この順番もまた趣深い。

司会の紹介のあと、舞台は真っ暗になり印象的なイントロが流れる。ゆっくりとステージが明るくなり、明菜が登場… “かわいい!” と思わず声が出る。が、その “THE アイドル的な可憐さ” と同時に “おっ?” と戸惑いも浮かぶ。というのも、彼女の装いは、ブルーのふんわりドレスと、同じ色のデコラティブなヘッドアクセサリー。アイシャドウもブルー。耳には大きな十字架が揺れていて、それもブルー。そして出た…! この時代流行していた、選ばれし人がつければオシャレになり、それ以外の人がつければ顔色が死ぬ青みがかったピンクのリップ。

当然ながら明菜は前者だ。ブルーを基調にしたメイクにツンとした顔で楽曲の世界に入り込む彼女は、不機嫌なプリンセスのようである。しかし、やはり “ブルー” が意外だった。1年の締めくくり、いろんな意味でイレギュラーを楽しめるのが『紅白』の醍醐味。わかってはいるが、頭の中で、いつもの無造作におろした髪、黒のチュールスカートにレースのグローブ、ヒールのついた黒いブーツではないことに戸惑っている自分がいる!

逆にいえば、いつもの黒の衣装がブルーの衣装と比較することで、1ミクロンの隙もないほど完璧であることを確信した。のけぞる振り付けでぶわりと垂れる髪、胸で揺れる十字架のネックレス。すべてセットで「十戒(1984)」なのだ――。しかし、そこは明菜姫。堂々としたパフォーマンスに、違和感は次第に飲み込まれていく。彼女があえて年末の晴れ舞台で、普段とは真逆の爽やかなブルーで魅せてくるあたりに、これまた “私の表現を縛らないで” という自己表現も感じる。クッ、ニクイぞ明菜。結局は、万華鏡のようにツンとデレをキラキラと魅せてくれる彼女に萌えるのである。

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異様にテンポが速かった紅白バージョン


演出も見ていこう。今の紅白ならきっと、「十戒(1984)」の作曲・編曲を手掛けた(編曲は萩田光雄と共作)ロック / フュージョン界のギタリスト、高中正義とコラボ企画をぶち上げていたかもしれない。それはそれで観たかったが、1984年の演出もまた、当時らしい華やかさがある。

歌に登場する “イライラする” 彼氏をイメージしただろう(多分)、ツッパリ風な装いをしたイケメンダンスチームであるダンシング・スペシャルが『ウエスト・サイド・ストーリー』さながらのダンスを踊り、彩りを添えていた。そして理由は定かではないが、なぜか楽曲のテンポが異様に速く、それも相まってなかなかの迫力である。

10代ラスト、初々しさと決意の狭間の貴重な明菜


中森明菜は、当時19歳。「十戒(1984)」はその年齢にしか歌えない “背伸びと反抗” に満ちている。歌いっぷりも、大人たちのコントロール下では決して終わらないという決意のようなものを感じたものだ。

「飾りじゃないのよ涙は」をフライングスタートにし、1985年に入ると「ミ・アモーレ〔Meu amor é・・・〕」「SAND BEIGE -砂漠へ-」と一気に大人びた歌が増え、20代を大きく花咲かせていく。その直前、少女と大人の狭間の彼女が1984年の紅白で見せた、意外な “ブルーの十戒” は、まさに開く直前の蕾のよう。繊細で、ちょっと不思議で儚げで、たまらなくエモーショナルである。

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