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【新連載 Biz Search#1】社員の能力最大化によって、米菓業界に新風を吹き込むアジカル株式会社 PART1

にいがた経済新聞

アジカル株式会社・西山徹社長

新潟県の広大な越後平野に抱かれた旧亀田町。亀田製菓の発祥地として知られるこの地で、アジカル株式会社は米菓業界に新たな波を起こしている。特に注目すべきは、アジカルが実施する小ロット生産戦略だ。昨年、両国国技館で大相撲開催中の15日間限定で、特別デザインの商品を市場に投入し、わずかな期間で数百万円を売上げるヒットを飛ばした。

亀田製菓本社(新潟市江南区)

◆イノベーションを牽引するアジカルの挑戦

亀田製菓。ライスイノベーションカンパニーと銘打ったそのグループの一翼として、アジカルはある。

親会社は既に国内の米菓シェア32.9%を誇り、海外売上も順調に伸ばしている。2030年には売上1400億円を目指そうという数値から勘案しても、新潟を代表する企業ということで異論は無いだろう。

亀田製菓グループの財務ハイライト<IR資料より>

会話の冒頭、アジカルの西山社長は、自らの会社をこう前置きした。

「うちはあくまで、中小企業だ」。

亀田製菓と同じ素材を販売しているのだが、戦略の上では親会社とも競合関係という。親会社と同じものを、親会社とは違う戦い方によって、商品の価値を高め、消費者を魅了する。

アジカル株式会社 西山徹社長

緩やかな風に吹かれていれば、心地よい。田園の稲穂もビジネス環境もそういうものだ。しかし、「停滞した水は濁る」と、多くの著名な経営者も、またマネジメント論の定石としても諭している。

ビジネスリーダーたるもの、現状に甘んじることなく、未来への一手を考えるべきだ。その意味においてアジカルの挑戦は、単なる「売れそうな商品」「おいしい商品」の開発ではない。亀田製菓への貢献にも当然つながっていて、コメ文化の牽引者としての地域経済への波及も、米菓市場の起爆剤としても使命感を持って実現しようとする戦略的思考がある。

亀田製菓が米のポテンシャルを最大限に引き出し、その亀田製菓のポテンシャルを最大の武器として利用し、新たな価値を提供する試みは、県内外の事業創造者や商品開発者に大きな示唆を与えている。

◆ライバルを超える戦略:亀田製菓との巧妙な共存

亀田製菓発祥の地。この地のすぐ傍で生まれ育ち、工場敷地内も幼少の頃の遊び場だったという西山社長。

電灯に集まるノコギリクワガタは、今よりも多く容易く採集できたと振り返る。越後平野の田園は部分的に昔と変わらない風景を描くものの、気候変動や都市化によって目には見えない確実な変化がある。たとえば亀田製菓創業の1957年の新潟県平均気温(気象庁)は12.7℃、2023年には15.4℃となっている。自然環境も、消費者の感覚も、経済の構造やインフラも、刻刻と変化している。

もともとアジカルは受託製造企業(パッカー)であり、1987年の創業以来その役割をグループ企業の子会社として担ってきた。

2000年頃から、亀田製菓ブランドを利用して単体での事業拡大をはかり始めた。ここでいうブランドとは、柿の種、ハッピーターンなど誰もが知るヒット商品と言い換えて間違いない。

自社を「中小のパッカー企業」として捉えたとき、いくつかのリミッターは完全に外される。子会社でありながらも、他社の商品開発に耳を傾け、その他社の商品開発に対し熱をもって取り組む。また自社商品のコンセプト違いとして開発した柿の種は、王道である「亀田製菓の柿の種」とは異なる売り場でフェイスを確保し、あとは消費者の選択に託す。フレーバーやパッケージに売れる工夫を加え、小ロットでやり遂げたアジカルの変化球商品は、王道を通過し終えた消費者にとって、選択優位性がある。

アジカルの商品は王道、つまり直球のど真ん中ではないが、ボール球でもない。ストライクゾーン内で遊び心を加えている。その意味で、たしかに親会社と競合関係と言えるのだ。現時点のアジカルの売上のうち、およそ3割が亀田製菓からの受託業務、残りの7割は親会社ではなく、外部から「外貨獲得」を実現している。

大手企業、つまり親会社には難易度の高い、決断力、社内決裁フロー、初回提案までのスピード、そして小ロット。これに加えて、社風として全社員のDNAのように根付いているチャレンジングな“アジカルスピリット”が商品開発の全工程に転嫁する。

昨年は、大相撲が行われる15日間のみ、両国国技館限定の商品を打ち出し、数百万円を売り切った。これもまた、商品提案までのスピードと、エリア限定、時間限定の小ロットを可能にする体制が生み出せるヒットだ。

しかし、よく考えてみれば、アジカルの変化球商品は、親会社のブランド価値と収益に恩恵を与えている。アジカルの商品がヒットすることによって、王道の亀田ブランドに跳ね返り、「本体」のイメージや認知度を上振れさせているわけだ。

中小企業だと言い切ることで、迅速な意思決定と、柔軟な経営戦略を手に入れた。

では次に、どのようにして“アジカルスピリット”を全社員に共有させ維持しているのか。それが垣間見えるポイントが1つあった。

<パート2へ続く>

【新連載 Biz Search #1】社員の能力最大化によって、米菓業界に新風を吹き込むアジカル株式会社PART2

濵畠 太
ビジネス書作家、マーケター、ブランドマネージャー。
東証プライム上場企業4社で広報、プロモーション領域責任者を歴任。2013年より、企業に所属しながらビジネス書の出版、研修講師など社外に活動の場を広げ、現在も複数地方の自治体や中小企業の経営コンサルティングを受託している。
<著書>
『小さくても愛される会社のつくり方』(明日香出版社)
『わさビーフしたたかに笑う。業界3位以下の会社のための商品戦略』(明日香出版社)
『20代でつくる、感性の仕事術』(東急エージェンシー)
『ヒット商品を生み出す最良最短の方法』(こう書房)
『「こち亀」両さんのビジネスをマーケティング的に分析してみた』(総合法令出版)
『倒産寸前だった鎌倉新書はなぜ東証一部上場できたのか』(方丈社)

<Biz Search>
ビジネス書作家・濵畠太が新潟企業の事例研究を通して、新潟ビジネスにおけるトレンドと戦略、地域の課題や未来を発信するレポート。マーケ、ブランド戦略の専門家である同氏が調査員となって、新潟企業のトップを訪問、地方発のイノベーションに斬り込む。

ディレクション 伊藤 ナヲキ

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