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「トランプ2.0」と米国テクノロジー業界の動向 櫛田氏インタビュー

TECHBLITZ

米共和党のドナルド・トランプ氏が2025年1月、第47代大統領に就任し、いわゆる「トランプ2.0」が本格的に始動した。早速、様々な国への関税や、イーロン・マスク氏を新設の「政府効率化省(DOGE)」の責任者に据えるといった前例にない動きを見せる中、米国のシリコンバレーやテクノロジー業界に今後どのような影響を及ぼすのか。シリコンバレーの中心地から、リアルタイムに現地のテック業界に関する情報を収集・分析・発信している櫛田健児氏に見解を聞いた。(文中敬称略)

<font size=5>目次
トランプ政権とテック業界、「就任前」と「就任後」
社会政策と経済政策で異なる距離感
ここまでのカオスは想定外だった
トランプ政権からテック業界に吹く「追い風」とは

トランプ政権とテック業界、「就任前」と「就任後」

―共和党のトランプが米国の大統領に返り咲きました。これにより、米国のテクノロジー業界はどのような影響を受けると考えていますか。

 トランプ政権が就任後の2カ月であまりにも急激に色々なことをしてきたので、この質問に答えるにはまず論点を3つのポイントに分け考えないといけません。

 1つ目は、テック業界でのトランプ支持の実態です。シリコンバレーのテクノロジー業界で公にトランプを支持していた人達がいました。同時に、社会政策は民主党寄りであっても経済政策は密かに「トランプでも良いかもしれない」と思っていた人たちもいました。彼らは何を期待していたのか、という点です。

 2つ目は、事前の期待と世界経済、アメリカ経済への大打撃という現実とのギャップです。実際にトランプ政権になってから、多くの人の事前予想を遥かに上回るカオスをトランプが作り出しました。世界情勢と世界経済、そしてアメリカ経済へのダメージがこれほどまでとは想定しなかったので、トランプの経済政策に期待していた人たちは事前の期待と今の現状の違いにどう考えているか、という点です。

 3つ目は、事前予想を上回るカオスになってもなお期待できる領域はどういうところなのか、という点です。これは事前の期待とは多少異なる領域もあれば、トランプ就任前に期待していた領域でまだ期待できる、という領域です。

櫛田 健児カーネギー国際平和財団シニアフェロー1978年生まれ、日本育ち。スタンフォード大学卒、経済学、東アジア研究専攻。カリフォルニア大学バークレー博士号修了。スタンフォード大学アジア太平洋研究所でポスドク修了後、2011年から2022年までスタンフォード大学アジア太平洋研究所日本プログラムリサーチスカラーを務めた。カーネギー国際平和財団シニアフェローで日本プログラムディレクター。シリコンバレーと日本を結ぶJapan – Silicon Valley Innovation Initiative @ Carnegieプロジェクトリーダー。キヤノングローバル戦略研究所インターナショナルリサーチフェロー。東京財団政策研究所上席研究員(客員)。スタンフォード大学非常勤講師(2022年春学期、2023年冬学期)。

社会政策と経済政策で異なる距離感

―ではまず1点目ですが、なぜシリコンバレー出身の起業家や投資家がトランプ政権に対して歩み寄りを見せ、何を期待したのでしょう。

 シリコンバレー、テック業界と就任までのトランプ支持はそれなりに分かりやすい構図なのですが、すみません、これも3つのポイントで説明させてください(笑)

 まず、リベラルと保守という立ち位置は、社会政策と経済政策に分けて考えると分かりやすく、シリコンバレーでは社会政策がリベラルでも経済政策は保守の価値観の人がそれなりにいたわけです。

 シリコンバレーのエコシステムにいる人の多くは社会的価値観がリベラルです。つまり起業家や投資家、エンジニアや研究者、大学関係者や一般社員などに大多数は、社会政策に対してはリベラルな価値観の人が多いのです。アメリカ社会は大きな分断をいくつも抱えています。リベラル派と保守層を分ける社会政策の具体例をいくつか取り上げると分かりやすいのでいくつか並べます。

 分断しているアメリカのリベラルな社会政策の考え方では:社会保障はあった方が良い、健康保険は全員加入していた方が良い、教育には投資をした方が良い、移民はアメリカを強くしている、科学技術は世界トップの科学者たちが主導して文明のフロンティアを推し進めるべき、人工妊娠中絶は女性個人の権利として選択できるべき、マイノリティーやLGBTには優しい社会が望ましい、などというものです。

 これらの価値観に対し、近年の選挙戦での共和党は中道の保守層よりも右に寄った政策を進めてきました。

 上記と同じ項目を並べると真逆です:社会保障や所得分配制度よりも政府支出を減らすことを第一として社会保障制度のせいで働かない人もいるので社会保障を大幅にカットするべきで、国民全員が加入できる健康保険制度はフェアではないとして「オバマケア」というレッテルをつけて取り壊すべきで、教育省は解体するべきで、移民を多く受け入れすぎたアメリカは移民を厳しく規制し、不法移民は1日も早く強制退去させ、科学者たちは政治的なプライオリティーに沿った研究を行うべきで、人工妊娠中絶は殺人に相当するので完全に違法化するべきで、行きすぎたDEIによって白人に対する差別が起こるようになったのでDEIを全面禁止とするべき、などというものです。どれもリベラルとは真逆で、妥協点が見出しにくいか、全く見えません。でもトランプが率いる共和党が勝ったため、実際にはこちらの社会政策が急ピッチで進められています。

 しかし、これは社会政策の話であり、実は経済政策とは別軸で考えるべきなのです。シリコンバレーの起業家や投資家の多くは、経済政策は保守であり、共和党寄りと言っても良い状況だったのです。

 保守層は経済政策の中心は「規制緩和」と「減税」にあります。価値観としては政府の財政健全かと「小さい政府」も含まれていますが、実際のところここ40年を見ると、共和党政権の方が民主党政権よりも政府の財政支出を大幅に増やしています。そして支出増加の大部分は軍の支出だったりします。

 アメリカの富裕層は昔から減税と規制緩和を好む傾向があります。せっかく物すごく頑張って稼いだ収入に対してできるだけ所得税を払いたくないし、固定資産税や相続税も払いたくありません。経営者の場合、法人税も好きではありません。そして新しい技術やサービスを提供するスタートアップを猛烈な勢いで成長させていかなくてはいけない起業家や投資家には、邪魔な規制があらゆるところにあるので、規制緩和も好みます。そしてシリコンバレーは昔から首都のワシントンDCからは物理的にも遠いだけではなく、精神的な距離がとても遠く、一部のシリコンバレーの思想では政府すら必要ない完全なリバタリアニズム(無政府の完全自由社会)を推奨する人たちもいました。

 トランプ政権の誕生を支持していたテック業界の人たちの一部は、経済政策は保守的であり、社会政策よりも経済政策の価値観を重んじていた人たちですた。大っぴらに経済政策を優先させたが故にトランプを支持すると表明した人たちの例にはベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンとベン・ホロウィッツ(Andreessen Horowitz創業者の2人)がいます。しかし、多くのシリコンバレー関係者は同じように考えていても、社会政策の価値観がリベラルだったり、周りの人たちがリベラルな社会価値観を持っていたので、内心トランプを支持していてもあまり大きな声を出しませんでした。そして経済価値観と社会的価値観が両方ともトランプ寄り、保守寄りだった人たちは大きな声でトランプを支持しました。投資家のピーター・ティールやイーロン・マスクです。

「シリコンバレーの起業家や投資家の多くは経済政策は保守」と説明する櫛田氏

―なるほど。よく分かりました。シリコンバレー出身の起業家や投資家がトランプ政権に対して歩み寄りを見せた他の2つの理由はなんだったのでしょう。

 シリコンバレーがトランプにある程度歩み寄った2つ目のポイントは、バイデン政権がシリコンバレーに対してかなり否定的なスタンスを取っていたと見なされたからです。

 公正取引委員会は大手テック企業のGoogleやAmazonを執拗に攻め、現行の独占禁止法のセオリーではなかなか難しい切り口で大手テック企業の解体を推奨しました。実際には裁判には持ち込みにくい案件だったのですが、バイデン政権はアメリカが世界に誇る大手テック企業は世界中のプラットフォームとして自国の強みであるという観点ではなく、競争を阻害するほど大きくなってしまった危険な存在、と敵視すらしている論調がありました。

そしてバイデン政権はシリコンバレーとの人脈のパイプも弱かったのです。バイデン前大統領が国政に出たのが1972年にデラウェア州の上院議員になった時なので、大統領になる50年も前です。ずっとワシントンDCと、ワシントンのすぐ近くのデラウェア州を拠点としてきたので、元々シリコンバレーとのつながりも弱かったのです。逆に、共和党はピーター・ティールが自分の会社の元社員だったJD・バンス副大統領に対して、彼がオハイオ州の上院議員選に出馬した際に1,000万ドルの政治献金をしたことで政治への強いパイプを作りました。

 実はハリス前副大統領はサンフランシスコ近辺出身で、今のテック大手が急成長するタイミングでシリコンバレーの成功者たちがサンフランシスコの旧エリートたちを置き換えるタイミングで政治家としてのキャリアが急成長したので、シリコンバレーのコミュニティーには近かったのです。でも民主党の大統領候補選びが極めてイレギュラーで、2024年3月までには他の民主党の候補者たちが全員バイデン氏に負け、バイデン氏も再選を狙うつもりで大統領選を戦っていたのに、大統領選の4カ月前の2024年7月にトランプ氏とのテレビ登壇で多くの有権者を失望させたパフォーマンスの後、突然副大統領だったハリスを後任候補に指名したわけです。それまでのバイデン氏の選挙戦では富裕層に対して所得税を大きく引き上げるという大衆ウケする政策の約束や、キャピタルゲイン(資本利益)に対する増税も約束してました。これはストックオプションが重要なシリコンバレーエコシステムに対して大きな打撃となるものでした。しかも選挙期間中に一時期、「未実現資本利益」も税金の対象にするという話もあり、売る前にストックオプションの価格が上がったら税金を取られるという、シリコンバレーから見たらありえない政策まで約束してました。ハリス氏が大統領候補になったタイミングでこれらの増税の話は無くなりましたが、「時すでに遅し」だったかもしれません。

3つ目ですが、トランプ氏が大統領選を勝利した直後のテック業界の歩み寄りは「勝ち馬に乗れ」という力学だったと思います。バイデン政権からは突き放された気持ちのテック業界はトランプ氏が大統領に就任する前から多くの接触の機会と、テック業界の人材を受け入れました。Apple、GoogleやMetaのリーダーたちが次々にフロリダにあるトランプ氏のリゾートを訪問し、就任式に100万ドルずつ寄付したり、ベンチャーキャピタリストのマーク・アンドリーセンがそのリゾートに通い詰めて人事決定に携わったりしました。そしてもちろん、イーロン・マスクはこのリゾートに住み込んでトランプ氏の真横で世界の首脳たちとの電話会談に参加したり、聞いたりしていました。

 そこでシリコンバレーから見たら、トランプ政権は上手に活用できる存在として期待されました。

ここまでのカオスは想定外だった

―そしてトランプ政権が発足しました。テック業界にとって期待通りの展開だったのでしょうか?

「トランプ2.0」は「トランプ1.0」とはまるで異なる展開でした。トランプ1.0はあたかもトランプ氏が大統領になることを想定していなかったかのような政権立ち上げ期間にカオスがあり、さまざまな人がポジション取りに走ったり、次々に要人が解雇される混沌とした状態でした。しかし、トランプ2.0はかなりの事前準備がなされ、驚くほど統制が取れた状態で一気に猛ダッシュで始まりました。就任1週間で36の大統領令、就任1カ月で73もの大統領令を発令し、3月末の時点では100を超えました。

 ある程度の世界各国への揺さぶりみんな想定していました。例えば、ウクライナではなくてロシア側につくことは1期目からの流れで予想できました。ただ、シリコンバレーのほとんどの人たちはトランプ大統領がアメリカ経済にここまでダメージを与え、ここまで各国を揺さぶり、世界経済を本気で混乱に陥れるとは思っていなかったと思います。

 ここでまた社会政策と経済政策を分けて語りますが、多くの公のトランプ支持者と静かなトランプ支持者はトランプ政権の社会政策の方向性にはそこまで驚いていないと思います。不法移民を強制送還させる派では演出や、アメリカ社会の分断を煽る発言の数々などは想定内でした。ただ、方向性はともかく、ここまで短期間にここまでアメリカ社会のさまざまな深いところまでトランプ政権が介入すると思っていなかった人も多いと思います。憲法とは真逆のことを大統領令で書き、これまでトランプを起訴してきた法律事務所を攻撃する大統領令を書き、がん治療などを含む政府の研究費を凍結し、コロンビア大学に対する研究資金を含む政府予算4億ドルの凍結を命じたり、アメリカの市民権(グリーンカード)を保有している人を逮捕状無しで拘束して身柄を確保したり、数え上げると切りがありません。

 そして小さい政府を提唱する共和党政権は色々な行政機関を弱める動きは想定内の人が多かったが、イーロン・マスクのDOGE(政府効率化省)がここまで政府の中枢に入り込んでカオスを作りながら政府を一度壊してから作り変える活動を本気で進めると予想した人は少ない。DOGEの行政機関としての形態がそもそも未だに法的根拠はグレーで、その活動は数多くの裁判官が違法だという判決をすでに下しています。DOGEが行った政府職員の大量解雇は2万5,000人以上に上りましたが、その多くは実はそのような形で解雇ができないことが後で分かったり、議会によって承認されてすでに予算も配分された政府機関をDOGEおよび大統領機関が一方的に解体することは違法だという判決も出ています。しかし、裁判所は警察も軍隊も動かせないので、大統領がこれらの判決を無視したらいいのではないか、というシナリオにもホワイトハウスの関係者が言及しています。

 ここまでが社会的な揺さぶりですが、トランプ政権の経済政策とそのアメリカと世界経済へのダメージはほとんどの人にとって想定外だったことでしょう。

 トランプ大統領はまず隣国の同盟国であるカナダを揺さぶり、「所詮はアメリカの51番目の州だ」と侮辱し、「カナダは独立国家ではない」とまで言い放った。そして、貿易面では相当なサプライチェーンを共有するメキシコに対しても大規模な関税をかけると揺さぶった。

 そもそもトランプ流の交渉術は相手に自分の一手を読ませないことが力である、と彼が1980年代に出した「Art of the Deal」という本で書いてます。そして通常の政治家やビジネスパーソンに比べて揺さぶりの幅が広いのが特徴です。「今はパフォーマス?それとも実利を求めている?」などが本当に分からない交渉が多い。

 なので、関税を使って今までアメリカに不利益だった世界経済の構図をアメリカの利になるように作り変えるトランプ大統領の話はパフォーマンスで、関税という脅しを交渉のカードに使うつもりなのか、本当にかけるのかが最初のうちは分からなかった。しかし、カナダとメキシコに対して本当に関税をかけるということが本気だと世界が理解し、その前日に株価が暴落しました。そして関税はいったん延期されたが、その後やはりかかるということになった。自動車に対する関税もトランプ大統領は本気でかけるという理解で世界経済が動き始めました。そこで多くの企業はアメリカへの投資計画やサプライチェーンの再構築計画を打ち出したが、株価は下がる一方でした。

 アメリカの景気も減速の兆候を見せ、それに対してトランプ大統領は「一定期間のアジャストメントもあるかもしれない」と述べ、短期的には景気の後退も覚悟しているという考えをほのめかしたね。

 長々と語ってしまいましたが、簡単に言うと、シリコンバレーのテック業界は、アメリカ経済が短期的にでも後退し、株価が下がり、サプライチェーンが混乱することは事前のトランプ政権への期待には含んでいませんでした。むしろ逆風で、ここまでのカオスはビジネスにとってはマイナスです。

 大学の研究が滞ればスタートアップへのスピンアウトも減ります。執拗な移民規制や入国制限は世界中の人材の良いところ取りをするシリコンバレーには困ります。景気全体が低調だと流れてくる資金が減りかねません。そしてAppleなどは世界中にサプライチェーンがあり、中国への依存度もまだ高いので、世界の貿易が分断し、関税だらけの世界になるとしばらくは業績が落ちます。

櫛田氏は「トランプ大統領によるこれほどの揺さぶりは想定を超えていた」と状況を分析する

トランプ政権からテック業界に吹く「追い風」とは

―ではここまでのトランプ政権はテック業界にとってマイナス面が多かったと考えるべきでしょうか?逆にチャンスにはどんなものがありますか?

ありがとうございます。ちょっと話が長くなるところでした(笑) はい、ここまでのトランプ政権はテック業界にとって逆風の面がかなりありましたが、追い風の面もあります。

 これは当初、トランプ政権に期待していたテック業界の人たちが見ていたチャンスがまだ結構あるので、もう少し待てば色々見えて来るということです。

 例えば、AIの開発が加速します。

 中国のDeepSeekのおかげもあるのですが、生成AIのトップ研究者たちは1年ほど前からこのままの方向性で規模だけ追ってもあまり進化はないだろう、という人が結構いました。規模というのは巨大なデータセンターへの投資と、膨大な電力を使った生成AIの学習などです。中国のDeepSeekがかなり少ないリソースで結構良いものが作れたので、規模の話だけではないということが分かりましたが、そもそも今の生成AIのアプローチとは異なる手法も一気に飛躍する可能性があります。現代の機械学習ももともとはニッチな研究でしたし。

 AIの開発は政権とつながる話です。もし民主党政権になっていたら、AIの開発は安全性を重視して、割合「重い」政府の規制の対象となった可能性があります。でもイーロン・マスクを始め、政権に近いテック業界の人材はAIに対する規制を極力「軽い」もの、あるいは無規制にしたいと考えてます。したがってAIの開発と実装は加速するでしょう。ここでアメリカと、実装にはとても慎重な欧州との差がもっと開くでしょう。私個人は制約無きAIの開発と実装が一概に良いことだとは考えていませんが、これはシリコンバレーとテック業界には追い風です。

 そしてトランプ政権下の公正取引委員会はテック企業の解体論にはあまり興味がありません。むしろテック業界に対しては、DEIなどのプログラムを一切排除し、SNSでは言論の自由を確保するために検閲をしてはいけない、という主張をしてます。公正取引委員会による独占禁止法は、これらの政権の意向に反した場合に適応を検討するムチとして使うことを仄めかしている。大手テック企業にとっては独禁法や解体論に比べたら政権の意向に沿った方が遥かに飲みやすい条件なので、そちらに進んでいる。これは大手テック企業にとって強い向かい風が大幅に弱まったと解釈して良いはずです。

 あとは規制緩和ですね。これはDOGEがまずは手をつけやすいところから人員を削減し、組織を解体し、予算をカットしているのですが、いずれDOGEか行政機関内の勢力が色々な規制を弱めてくれることをシリコンバレーのテック業界は期待してます。

 アメリカ政府のデジタル化はこれまで色々なところで失敗しているので、上手なデジタル化が進めば、これもテック業界にとってはプラスです。

―他にどういう「追い風」があると思いますか?

 多分、今回のこの話の続編になると思いますが、軍からの良い形の調達というのは大きいと思います。シリコンバレーは歴史的にも、実は最近のウクライナでの戦争などでも軍の調達による多大な恩恵を受けてます。でも同時に、今のアメリカ軍の調達契約は非効率なものたくさんあります。これをもっとイノベーション寄りの調達契約に作り替えたらシリコンバレーは大きな恩恵を受けます。

 政府調達全体にも言えることです。イーロン・マスクはSpace Xをここまで成功させるにあたって、政府からの大型契約が重要だったのですが、かなり厳しい条件を満たすことで次の資金がアンロックされるというイノベーション促進型の契約でした。でも競争相手の既存事業者、BoeingなどはSpace Xよりも大きな研究開発予算をもらい、かなり緩い契約で伸び伸びと開発してきたとイーロン・マスクは考えています。ある程度は本当にそうで、コストや納期がオーバーランしても必ず利益が出るタイプの契約もあったようなのです。それに対して腹を立てているイーロン・マスクはNASAのトップにSpaceXにも乗った経験がある民間の起業家で成功した人を置くようにトランプ大統領の働きかけ、彼の要望が通ったようです。したがって宇宙開発や大きな政府調達や新しい企業やイノベーションに対する成功報酬のような形で加速する可能性があると思います。

 あとは暗号資産ですが、これはちょっと複雑です。規制が緩すぎるとステーブルコインだと主張している暗号資産が本当に預金者の資産を管理しているのかということや、ドルとの連動はどうやって確保しているのかという疑問に答えられません。ポンジ・スキームや、大手取引所のFTXが行ったような不正を今後避けるには規制の強化も必要かもしれません。トランプ政権の「AI・暗号資産政策担当官」のシリコンバレーVCのデビッド・サックス(クラフト・ベンチャーズ共同創業者)は暗号資産周りの精度を作成する役割も担うが、彼のファンドは暗号資産周りの投資を積極的に行ってきた。この辺もきちんと見ていくと良いでしょう。

 まだまだあるのですが、最後に自動運転について紹介させてください。現在、自動運転の規制は州単位でしか行われていなく、連邦政府レベルのでの規制はありません。したがって今、サンフランシスコやシリコンバレーの一部とロサンゼルスなどで活躍している無人自動運転タクシーのWaymo(Google傘下)はカリフォルニア州といくつかの州で展開していますが、すぐにはアメリカ全土で展開はできません。イーロン・マスクはWaymoに対抗してTesla社のCybercabというロボタクシーを発表し、できるだけ早く社会実装したいと語っています。そこで彼が政権の中核に入っているタイミングで連邦政府として自動運転の制度を作り、一気に自動運転を広めた場合、シリコンバレーの他の自動運転企業にはものすごい追い風になります。Nuroなどの新しい世代の自動運転のスタートアップもあり、トラックの自動運転を進めるスタートアップ、そしてRivianなどのEVに加え、既存の自動車メーカーも色々なところと組んで一気に業界が進む可能性があります。

―ありがとうございます。だいぶ長くなってきましたが、最後に一言これらについての言及はありますか?

 すみません、シリコンバレーの動きが早いので弾丸トークしかできない体質だったのですが、トランプ政権はさらに早いのでお伝えしたいことはいくら時間があっても足りません。

 ただ、一番伝えたかったメッセージは、今世界の政治経済は平常時ではないということです。混沌とした時代にまっしぐらです。でも混沌とした時代ことチャンスもたくさんあるのです。そしてシリコンバレーのエコシステムはこういったチャンスを成長の糧にしているのです。今後も色々進展が絶対あるので、また紹介させてください。

従業員数なし

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