復活エレジー、新生ヒブリア…メロディック・メタルの祭典! “Evoken Fest 2024”レポート Vol.1
2019年の第3回からコロナ禍を挟んで実に5年振り──メロディック・メタルの祭典“Evoken Fest”が、東京は渋谷のストリームホールにて4日間にわたり開催された! 10月18日(金)の前夜祭的な“The Eve”を皮切りに、翌日&翌々日に言わば本祭“Day 1”&“Day 2”があり、月曜日の後夜祭的“Extra”まで、一部日替わりで総勢15バンドが出演。大トリは復活したエレジー(オランダ)が務め、ようやくの来日を果たした新生ヒブリア(ブラジル)、これが初来日のグローリーハンマー(英スコットランド)、2017年の第1回“Evoken Fest”から皆勤賞(?)のダーディアン(イタリア)を始め、ベテランから中堅、そして若手有望株までが大集結して、他にもフランス、デンマーク、スウェーデン、中国、そして日本…と、出演バンドの顔触れは実にグローバル。過去開催に負けず劣らずマニア垂涎のメンツが揃い、当然ながら本誌読者注目必至のギタリストも多数ラインナップされていた…!!
ELEGY
オランダから突如出現した期待の新人として、エレジーがここ日本に紹介されたのは1993年。プログレッシヴな劇的メロディック・メタル・サウンドを満載するデビュー・アルバム『LABYRINTH OF DREAMS』(1992年)は、日本のHR/HMファンの心を瞬く間に掴んだ。それから幾度となくドラスティックなメンバー・チェンジをくぐり抜けながら、アルバム7枚を残して2000年代前半に活動休止してしまった彼らだが──昨年まさかの再始動!…からの再来日!(1997年以来、27年ぶり3度目) その報せに耳を疑った人は多いはず。
今回はバンド中〜後期の看板ヴォーカルであるイアン・パリー(vo)に加え、何と、結成メンバーながら1999年に脱退していたヘンク・ヴァン・ダー・ラーズ(g)が復帰。さらに、2nd『SUPREMACY』(1994年)&3rd『LOST』(1995年)に参加していたギルバート・ポット(g)も出戻って、初期のツイン・ギター体制までが復活し、リズム隊もマーティン・ヘルマンテル(b)&ダーク・ブルイネンバーグ(dr)と、お馴染みの面々が揃っていたのだから、往時を知る者にとってはたまらないものがあっただろう。
Ian Parry(vo)
Henk Van Der Laars(g)
Gilbert Pot(g)
Martin Helmantel(b)
Dirk Bruinenberg(dr)
実際ショウは、そんなメンバー編成から期待される通り、初期〜中期のナンバーのみに絞られたセットリストで進み、集ったファンのノスタルジーをこれでもかとビシバシ刺激。イアンは自身が加入した初作品にして名作4th『STATE OF MIND』(1997年)からの「Trust」や「Visual Vortex」はもとより、『LABYRINTH OF DREAMS』からの「The Grand Change」や「Take My Love」といった、超絶ハイ・トーンを駆使せねばならない曲も力強くこなし、この再結成が決して“終わったバンドの同窓会イベント”ではないことを身をもって伝えてくれる。御年64歳なのに若い時と変わらぬ…どころか、高音域に至ってはより太くなったように感じられる進化した声は、“超人”“鉄人”といった表現がぴったりだ。
ギター面ではやはり、ブランクを感じさせないツイン・リードの迫力がどの曲でも最大の聴き所となっており、技巧的ながらも力技でゴリ押す荒々しさがこのバンドの魅力と受け取っていいだろう。「Spirits」(『LOST』収録)など、曲によっては大胆な変拍子を前面に出す彼らだが、プログレ的な知性よりあくまでもパワフルなイメージが勝つのは、この辺りが要因か。中でもレーサー・エックス的な弾きまくりが炸裂した「All Systems Go」(『LABYRINTH OF DREAMS』収録)は、テクニカル・ギター・ファン的な目線で最大のハイライトとなっていた。
そんなギター・チームのうちでも主役を張ったのは、やはりヘンクの方で、どの曲においてもメロディと肘で弾く爆発的なシュレッドのバランスが素晴らしい。彼の野生味あふれるルックスと相まって…。例えば「1998(The Prophecy)」(『LOST』収録)や「Anouk」(『SUPREMACY』収録)といったメロウなインスト曲でもそれは変わらず、ショウの勢いを削ぐことなく食欲を増すアペタイザーとして、しっかり機能させていたのは特筆に値する。
例えば、『LOST』からだったら他にもキャッチーで歌える曲がたくさんあるのになぁ…とか、よりパワー・メタル然としていた『SUPREMACY』からももっと…とか、色々要望したいことはあるものの、ぜいたくは言うまい。他の国では端折ることもあった4thからの「Shadow Dancer」もちゃんとやってくれたし。
これが最後の来日ではないんですよね? 新作も期待していていいんですよね? …と一応、念押しをしておきつつ、次にまた彼らから便りがあるまで楽しみに待ちたい。
(坂東健太/ヤング・ギター編集部)
エレジー Evoken Fest 2024 Day 1 – 2024.10.19 セットリスト
1. Equinox(SE)
2. Trust
3. The Grand Change
4. Visual Vortex
5. Take My Love
6. 1998 (The Prophecy)
7. Spirits
8. Losers Game
9. All Systems Go
10. Shadow Dancer
11. Anouk
12. Circles In The Sand
13. Frenzy
14. State Of Mind
15. I’m No Fool
エレジー Evoken Fest 2024 Day 2 – 2024.10.20 セットリスト
1. Equinox(SE)
2. Trust
3. The Grand Change
4. Visual Vortex
5. Take My Love
6. 1998 (The Prophecy)
7. Spirits
8. Losers Game
9. All Systems Go
10. Shadow Dancer
11. Anouk
12. Circles In The Sand
13. Frenzy
14. State Of Mind
15. I’m No Fool
16. Manifestation Of Fear
HIBRIA
総勢15のバンドが軒を連ねた当フェスにおいて、エレジーと並び…いや、それ以上にオーディエンスの注目を集めていたのが、ブラジル出身のこのヒブリアだったのは間違いのないところだろう。
熟練の技巧に裏打ちされた緻密なアンサンブルの一方で、聴く者に小難しさを感じさせない快活でエネルギッシュなパワー・メタルを体現した衝撃のデビュー作『DEFYING THE RULES』がリリースされたのは2004年。あれから早20年が経過し、バンドの代表曲「Tiger Punch」を収めた2nd作『THE SKULL COLLECTORS』(2008年)による飛躍を経ての2009年単独来日公演、そして2012年の“LOUD PARK”出演と、順風満帆なキャリアを歩んでいた彼らだったが、6th作『MOVING GROUND』(2018年)のリリース・タイミングで届けられた「アベル・カマルゴ(g)を除く全メンバー脱退」の報はファンを驚かせた。以降、流動的なラインナップが続く苦難の時期を乗り越えて、2022年2月にようやく新生ヒブリアによるスタジオ作『ME7AMORPHOSIS』をリリース。それから2年半超の歳月を経て、2015年9月以来約9年ぶりとなる日本でのステージがここに実現したのである。
実はアルバム・リリース以降にもメンバーの交替があり、来日時のラインナップはアベル以下、ヴィクター・エメカ(vo)、ヴィセンテ“ヴェレス”テレス(g)、オタヴィオ・キロガ(dr)、急遽招集された元メンバーのベニュール・リマ(b)という顔触れ。オタヴィオは現在23歳、バンド加入時はなんと17歳だったという逸材だ。今回のステージはそんなオタヴィオを始め、ユーリ・サンソンに替わるフロントマンのヴィクター、さらにアベルと新たなギター・タッグを形成するヴェレスら、新メンバーのお披露目的な意味合いも有していた。
Victor Emeka(vo)
Abel Camargo(g)
Vicente Telles(g)
Benhur Lima(b)
Otavio Quiroga(dr)
事実、2日間のステージでそれぞれ演奏された新作からのナンバーはわずか1曲ずつ(初日は「War Cry」で2日目は「Shine」)で、その他セットリストを構成する残りの5〜6曲を初期楽曲で固めていた(しかも2日目は6曲中4曲が1st作からセレクト)辺りは、「旧ラインナップによる技巧的なナンバーを現メンバーでどれだけ再現できるか」というファンの懐疑的な思いを払拭するためのものだったと言えるだろう。また、ハイ・トーン・ヴォイスを駆使しながらも前任者より野太く咆哮するスタイルのヴィクターと、切れ味鋭いドラミングに天賦の才を感じさせたオタヴィオのパフォーマンスが、ヒブリアの新たな可能性を示していた点も特筆しておきたい。
そして注目のギター・コンビはというと、アベルの安定したプレイは言わずもがな、新加入のヴェレスの技巧レベルの高さに驚いたギター・ファンも少なくなかったはず。元々アベルの生徒でヒブリアのファンだったという彼は、自身のヒーローにジョン・ペトルーシ、キコ・ルーレイロ、ガスリー・ゴーヴァンら世界有数の技巧派を挙げており、その出自宜しくスウィープやタッピングといった高難度技を余裕綽々でコナしていく姿はまさに痛快の一言。しかも全編を通して長髪を振り乱した激しいアクションをキメながら…なのだから、改めて“秘境ブラジル”の底深さを痛感した格好だ。
惜しむらくは、フェスという慌ただしい状況ゆえ、(初日のステージに関して言えば)終始サウンド・バランスが悪く、ヒブリアの音楽において重要な要素を占める動きの多いベース・ラインがバスドラに掻き消されてほとんど聴こえなかったこと。目視する限りベニュールもかなりテクニカルなプレイを連発していただけに、その点は悔やまれる。だが、そこは彼らのこと、不死鳥の如きスピリットで再び日本の地に舞い戻り、単独公演による万全の環境で現メンバーによる圧巻のアンサンブルを聴かせてくれることを期待したい。
(平井 毅/ヤング・ギター編集部)
“Day 2”のMCでアベルは、『DEFYING THE RULES』全曲再現ライヴに興味があるか…と観客に問い掛けた。もしや来年それが日本で…!?
ヒブリア Evoken Fest 2024 Day 1 – 2024.10.19 セットリスト
1. Intro(SE)〜Shoot Me Down
2. Silent Revenge
3. War Cry
4. Steel Lord On Wheels
5. Millenium Quest
6. A Kingdom To Share
7. Tiger Punch
ヒブリア Evoken Fest 2024 Day 2 – 2024.10.20 セットリスト
1. Intro(SE)
2. Steel Lord On Wheels
3. Millenium Quest
4. A Kingdom To Share
5. Defying The Rules
6. Shine
7. Tiger Punch
GLORYHAMMER
英スコットランド発のヒロイック・パワー・メタラー、“グロハマ”ことグローリーハンマー。“Evoken Fest”のラインナップには、これが初来日というバンドが少なくないが、その中でもオーディエンスの関心を最も集めていたのは、間違いなく彼等だったろう。
2010年にエイルストームの首魁クリストファー・ボウズ(key, vo)によって結成され、これまでに4枚のアルバムを発表。ヨーロッパ方面で絶大な人気を誇るものの、ここ日本ではなかなかチャンスに恵まれず、もう何度も来日しているエイルストームと比べると、本格ブレークには到っていない…との印象だ。しかし、今回の来日で人気、知名度ともに爆上がりすること必至! 実際、10月20日の“Day 2”でセカンド・ビルを務め、翌21日の“Extra”では堂々ヘッドライナーを任され、両日とも観客の盛り上がりは凄まじいものがあった。
ただ今回、首魁クリストファーは来日せず…。というか、ここのところ彼は、エイルストームの活動が多忙なせいか、あまりグロハマのライヴ/ツアーに帯同することなく、エクストリーム・ウィザード・メタル・バンド:ウィザードスローンの同僚で、実は2016年頃よりグロハマに関わってきたマイク・バーバー(key, g)が代役として起用されることが多くなっている。この“Evoken Fest”でも御多分に漏れず、元々クリスが演じていた魔王ザルゴスラックス役はマイクが担い、彼がキーボードではなくギターをプレイして、何とツイン・ギター編成に…!(どうやらバンド史上初だった模様)
あ…いきなり“ザルゴスラックス役”と言われても「!?」となる人が続出かも? 壮大なスペース・オペラやヒロイック・ファンタジーを下敷きにするグロハマは、当初よりメンバー各自に担当キャラクターが割り当てられていて、ライヴではメンバー全員がコスプレ衣装でパフォームするのだ。ここで来日メンバーを記しておくと──アンガス・マクシックス王子ことソゾス・ミカエル(vo)、騎士団長プロレティウス卿ことポール・テンプリング(g)、宇宙神フーツマンことジェームス・カートライト(b)、飛行潜水艦隊指令ララトールことベン・ターク(dr)、そして、闇の魔王ザルゴスラックスことマイク…となる。ちなみにソゾスは、現ANGUS McSIXのトーマス・ヴィンクラーの脱退(事実上の解雇だった…)を受け、2021年より加わった“2代目アンガス”だ。
Angus McFife II/Sozos Michael(vo)
Ser Proletius/Paul Templing(g)
Zargothrax/Mike Barber(g)
The Hootsman/James Cartwright(b)
Ralathor/Ben Turk(dr)
そんな彼等のショウは、曲間や曲中にちょっとした寸劇が盛り込まれる。ゴブリンがアンガスの“栄光のハンマー”を盗もうとして叩きのめされたり、ザルゴスラックスとアンガスの対決が繰り広げられたり、ジェイムズがフーツマンに成りきって仰々しく曲紹介したり…と。多くの観客がオモチャのハンマーを掲げて、そんな世界観を大いに楽しみ、フロアのあちこちにユニコーンのマスコットが揺れていたりも。
「Wasteland Warrior Hoots Patrol」のサックス・ソロはゴブリンが飛び入りで…!?
今回、クリス不在でマイクがギターを弾いたので、鍵盤パートはオーケストレーションなどと同様に同期音源で賄われ、一部シンセ・ソロをマイクがギター・ソロとして再現していたのにも驚かされた。ギター・ソロに関しては、ポールがメロディックかつオーセンティックなプレイ担当なのに対し、マイクはよりテクニカル&トリッキーなプレイ担当といった印象も。
セットリストは、続き物である4枚のアルバムからバランス良くセレクト。どの曲も勇壮&劇的だがキャッチーさもあり、共に歌いたくなる分かり易いサビを持つから、とにかく盛り上がりまくる。曲間に「Hoots…Hoots…Hoots…」と謎のパワーの源の名を観客全員でコールするのも、グロハマのライヴならではの光景だ。そしてショウ最終版には、ザルゴスラックスがアンガスに敗れ、アウトロとしてウンスト王国の国家が流れる中、フーツマンの戴冠式が厳かに(?)行なわれ──毎回それにて終幕。ファンタジックな遊び心満載のショウに、誰しもが酔い痴れたのであった…!!
(奥村裕司)
グローリーハンマー Evoken Fest 2024 Day 2 – 2024.10.20 セットリスト
1. Incoming Transmission(SE)
2. Holy Flaming Hammer Of Unholy Cosmic Frost
3. Gloryhammer
4. Fly Away
5. Angus McFife
6. Also Sprach Zarathustra@Strauss(SE)
7. Wasteland Warrior Hoots Patrol
8. Keeper Of The Celestial Flame Of Abernethy
9. Universe On Fire
10. Hootsforce
11. The Unicorn Invasion Of Dundee
12. The National Anthem Of Unst(SE)
グローリーハンマー Evoken Fest 2024 Extra – 2024.10.21 セットリスト
1. Incoming Transmission(SE)
2. Holy Flaming Hammer Of Unholy Cosmic Frost
3. Gloryhammer
4. The Land Of Unicorns
5. Fly Away
6. Angus McFife
7. Also Sprach Zarathustra@Strauss(SE)
8. Wasteland Warrior Hoots Patrol
9. The Siege Of Dunkeld (In Hoots We Trust)
10. Masters Of the Galaxy
11. Keeper Of The Celestial Flame Of Abernethy
12. Universe On Fire
13. Hootsforce
14. The Unicorn Invasion Of Dundee
15. The National Anthem Of Unst(SE)
レポート後半はこちらから!
INFO
メロディック・メタルの祭典“Evoken Fest 2024”後半編レポート!
(レポート●ヤング・ギター編集部、奥村裕司 pics●奥村裕司)