真っすぐ、時に曲がりながら 若者が刻む田んぼのリズム 釜石で田植え体験イベント
釜石市甲子町の水田で3日、県内外の若者たちが田植えに取り組んだ。青々と成長した「ひとめぼれ」の苗を積んだ田植え機での作業に挑戦。真っすぐだったり、曲がりくねったりと多彩な苗の点描が現れた。電子音楽と食を組み合わせた体験型イベント「DEN DEN GAKU」での一場面。農作業を通じ自然や人との触れ合いも楽しんだ。
小佐野町でゲストハウスを運営する「シェアヴィラやまとき」代表の大井祥紀(よしき)さん(30)を中心とする企画。田植えとのかかわりがあるとされる日本古来の伝統芸能「田楽」に、現代の感性を取り入れた新しい体験を提案するのが狙いで、東京を拠点に活動を展開するクリエイティブチーム「ノット」とタッグを組んだ。
体験の場は「やまとき田んぼ」(約40アール)。生まれは釜石だが、育ちや生活拠点は首都圏の大井さんが昨年から挑むコメ作りの場で、祖父(故人)から引き継いだ大切な水田だ。この日は、水を張った17アールの田んぼで作業。大井さんの実演後、希望者が小型の田植え機を動かした。
山形県にある東北芸術工科大デザイン工学部3年の星川涼介さん(20)、小林晴(はる)さん(20)は農業初体験。農機の操縦も初めてだったが、「ゆっくり、気張らず。ちょっとずれてもいいから」「植える先、前を見て」とのアドバイスを受けて気楽に挑み、「楽しい」と声をそろえた。「コメ農家は就きたい仕事のイメージがなかった」と本音を明かしつつ、「育ったコメを食べたい」「自然が豊かで、ジブリみたい。ひとときでも現実から離れ、リフレッシュになる」と、農業に対する好感を植え付けた。
田植え体験は午前中に始まり、昼休みには野外でバーベキューを堪能。午後の作業時にはノットが電子音楽を響かせる中、首都圏などから訪れた若者ら約30人が機械を動かしたり、作業の進み具合を見守ったりした。
「みんなでやるから楽しい」。参加者の様子を見つめながら、大井さんは実感した。「コメ農家は辞めていく人も多く、衰退してしまう」と危機感を抱き、「みんなで楽しんでやる農業を広げたい。(祖父が残してくれた)田んぼがちょうどいい広さで、自分も楽しみながらできる。こういう形なら、農業も残っていくのでは」と考えている。
コメ作りへの挑戦には地域の協力も欠かせない。苗を提供するのは、甲子町の農業佐々木隆さん(83)。大井さんの祖父の代からの付き合いだといい、若い挑戦者をあたたかく見守る。「新規に従事する人が増えるのは、いいことだ。パワーがあり、研究も熱心。販売網などアイデアも持っている。若い人の力を借りながらでなければ、やっていけない」と歓迎。若者たちが田んぼに描いた点線に目を向け、「秋に応えてもらえるよう、丁寧にやらないと」と助言を残した。
やまとき田んぼでの田植え作業は今月いっぱい続く見込みで、地元の子どもたちも手伝う予定。大井さんはこうした農業体験のほか、ゲストハウスを拠点に首都圏の人との交流など活動を広げていく考えだ。