思春期の「精巣・金玉・睾丸」はセルフチェックが重要 そのワケとは?
泌尿器科医・岡田百合香先生に聞く、精巣(金玉)トラブル連載3回目。思春期には、精巣に細菌感染や性感染症などを原因とした炎症が起こることも。また、陰嚢のコブや精巣の左右差で、大きな疾患が発見されることもあります。異変を感じたらすぐ病院へ。詳しく岡田先生に解説していただきました。
男の子の「精巣(金玉)トラブル」早期発見のために知っておきたいこと 泌尿器科医が解説泌尿器科医として、おちんちんの知識や正しい性教育を伝える活動をしている岡田百合香先生。男子の精巣(金玉)トラブルのなかで、最も緊急性の高い疾患「精巣捻転」(1回目)や、乳幼児期に多い疾患や事故(2回目)について教えていただきました。
今回は、思春期以降に起こりやすい、炎症やコブの出現などの精巣トラブルについてです。
成長すると、精巣のチェックは親がしにくいうえ、子どもからも親に伝えにくいもの。しかし、だからといって治療のタイミングを逃してしまったら大変です。思春期の子どもと精巣の病気について、岡田先生に解説していただきました。
岡田百合香(おかだ・ゆりか)
泌尿器科医。1990年岐阜県生まれ。2014年岐阜大学医学部卒業。愛知県内の総合病院泌尿器科に勤務する傍ら、助産院や子育て支援センターで乳幼児の保護者を対象にした「おちんちん講座」や「トイレトレーニング講座」、思春期の学生向けの性に関する授業などを行っている。男児(2018年生まれ)と女児(2021年生まれ)の母。
おたふく風邪のウイルスで精巣(金玉)がダメージを受ける!?
ワクチン接種の普及によって割と珍しい疾患にはなっているものの、知識として知ってほしいのが「ムンプス精巣炎」という疾患です。ムンプスというのは流行性耳下腺炎、いわゆるおたふく風邪のこと。
「1993年以降にワクチンが任意接種になったももの、思春期以降のムンプス罹患は、約30%の割合で精巣炎も併発すると言われています」(岡田先生)
ムンプス精巣炎の症状は、急な発熱と、強い精巣の痛み。炎症は片方だけの精巣に起きる場合もあれば、両側の精巣に起きる場合もあります。
「炎症により、精子の数が少なくなったり、動きが悪くなる『造精機能障害』を引き起こすことがあります。両側に炎症を起こした場合には、精巣が萎縮して無精子症を引き起こすことも。ただし、多くは自然に治癒していくケースが多く、現在は生殖補助医療の進歩もあるので、過剰に心配する必要はありません。
ワクチンが未接種だったり、これまでおたふく風邪に罹ってない男性は、こういう疾患があることを頭に入れておきましょう。おたふく風邪に罹患した後、精巣に炎症が起こればすぐに相談してください」(岡田先生)
細菌感染からの炎症「精巣上体炎」
細菌感染からの炎症「精巣上体炎」
もうひとつ、細菌感染による精巣の炎症で「精巣上体炎」があります。
イラスト/オヨネ
「精巣上体というのは、精巣の上のほうにちょこんとかぶさっている臓器。こちらはまた違う種類の細菌感染によって起こるのですが、性感染症などが原因にある場合もあります。菌は、尿道から逆行性で入ってくることが多いとされています」(岡田先生)
思春期・成人期以降だと、性感染症であるクラミジアや淋菌などが一般的な原因で、尿道に炎症を起こし、それが精巣上体まで広がるというケースがあります。
「炎症が起こると、陰囊が腫れて、熱を持ちます。精巣の痛みから、精巣捻転を疑う場合もありますが、尿検査で細菌感染がないか、エコーで血流が通っているか、などで判断ができます」(岡田先生)
これら、精巣炎や精巣上体炎の治療は基本的には対症療法で、細菌感染がある場合は抗菌薬を投与します。適切な治療を受ければ、症状は1週間ほどで落ち着いてくる場合がほとんどです。
まずは病院で診断を
思春期以降は性感染症、細菌感染が主な原因ですが、小児が精巣上体炎を起こす場合は原因不明のことも多いと言います。小さな子どもが精巣上体炎を繰り返す時は、尿の通り道の先天異常などがないか検査が必要です。
「精巣関連の異常については、まずは病院で診断を受けることを優先してください。『精子は熱に弱い』というのは割とよく知られていますが、自己判断による『自宅で冷やして様子を見よう』というケアについては推奨できません」(岡田先生)
陰嚢のコブは5人に1人の割合で出現
精巣の上の方にコブができる「精索静脈瘤」という病気があります。静脈は、身体から心臓に戻っていく血管。 つまり精巣から心臓に戻っていく血管にできるコブのことを指します。
「精巣の静脈の合流先は右と左で異なっていて、左側のほうが流れが悪くなりやすく、精索静脈瘤のほとんどが左側にできると言われています」(岡田先生)
イラスト/オヨネ
「健康な人の20%の割合で認められる症状ですが、程度が軽い人だと気が付かなかったり、何の症状もない場合も。痛み・違和感が強い場合や不妊で悩んでいる場合には手術による治療を検討します。一方で、幼児期や思春期、今すぐに子どもが欲しいという段階でない状態で治療をするべきかというと、明確な基準がなく議論が分かれるところです」(岡田先生)
治療の時期や有無は、個別の判断になることが多いと岡田先生。もし、子どもの頃にコブを発見したら、一度専門医にかかって診断してもらったあと、子どもにその事実を伝えておくことが大事です。
「精索静脈瘤に限らず、停留精巣や鼠径ヘルニアといった本人の記憶が残らない年齢の治療歴も子どもが成長していく上で必要な健康情報です。将来泌尿器科系のトラブルや悩みを持った時に、本人が幼少期の既往歴、治療歴を把握していることは検査や治療を考える上でも非常に重要です。
その都度子どもに分かる言葉で情報を伝え、『大人になってから気になることがあったら泌尿器科で相談してね」と伝えておいてください」(岡田先生)
大人も子どもも定期的にセルフチェックを
性器周辺の病気については、保護者が正しい知識を持つことと同時に、「幼少期から、子ども自身にもきちんと伝えておくべき」と岡田先生は言います。
「精巣は、『痛みがあったり、左右で大きさが違ったらすぐに病院に行かなきゃダメだよ』ということと、『日頃から触ってセルフチェックをしてほしい場所だよ」ということを伝えてください。命に関わる病気である精巣腫瘍(癌)も若い世代に多くみられ、左右差や腫れで気が付くケースが多いです。セルフチェックは、できることなら学校の保健体育の授業などで教えてほしいところ。女性が乳がんのセルフチェックの大切さを啓発されているように、男性にも精巣のセルフチェック習慣の大切さがもっと伝わってほしい、と感じています」(岡田先生)
子どものころは保護者がチェックし、ある程度の年齢からは自分でチェックできるようにしておきたいところ。
「保護者が直接確認できるのは幼少期だけ。子どもが自分の身体のこととして知識を持って、触って確認して、変化に気づいたら病院へ行くという行動が選択できるよう、小さなころからの子どもへの知識や情報、スキルの提供が重要になってくると思います」(岡田先生)
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筆者(3兄弟の母)の長男は、現在小学校6年生。修学旅行のお風呂では、「誰々にちんちんの毛が生えてきた!」なんて話題で大盛り上がりの年齢です。岡田先生の話を伺って、親子で照れることなくおちんちんの話をしてみよう、とチャレンジ。
「毛が生えるっていうのは、大切なところだからだよね。毛で守ってるんだよ」「そういえばおちんちんで気になるところはある?」「タマタマ(金玉)が急に痛くなる病気があるんだよ」などとある日話してみたところ、最初はニヤニヤと面白がりながら聞いていた我が子も、病気の話には真剣な顔をしていました。
女性である母親には、いまいちピンとこない男性器まわりのトラブルですが、男性器も子どもの身体の一部。身体と同じく、おちんちんや金玉も日頃から労って、痛みなどのトラブルがあれば病院にかかって当たり前のこと。「トラブルがあったら受診する」ことの大切さを、子どもたちには、今後も伝え続けていこうと思います(夫にも)!
取材・文/遠藤るりこ
『泌尿器科医ママが伝えたい おちんちんの教科書: 0才からの正しいお手入れと性の話』著:岡田百合香(誠文堂新光社)