【音楽のある街へ】渋谷~タワーレコード渋谷店の店長が音楽好き必見の街をご案内!
渋谷を「音楽の街」たらしめる要素はいくつもあるが、その筆頭に挙げられるのがレコード文化と『TOWER RECORDS』だろう。その渋谷店を率いる青木店長が自らの視点で選ぶ、音楽好き必見の渋谷の名店をご紹介。
【案内人】タワーレコード渋谷店 店長 青木太一さん
2002年入社。新宿・広島・名古屋などの店舗を経て2021年に渋谷店の店長に就任。Tシャツのボブ・マーリーからも分かるとおり生粋のレゲエラヴァー。休日はもっぱら湘南でランニングの日々。
世界最大規模を誇る音楽好きのメッカ『タワーレコード渋谷店』
TOWER RECORDSの旗艦店であり世界最大規模のCDショップ。8フロアにわたる広大な店舗では新譜・中古問わず多種多様なジャンルの音楽と出合うことができる。アナログレコードブームを受けて、2024年に2倍ほどの面積に増床した6FのTOWERVINYL SHIBUYAには常時約10万枚のレコードが並ぶ。
11:00〜22:00、無休。
☎︎03-3496-3661
青木さんおすすめの2枚
INNER CIRCLE『REGGAE THING』
1976年の大名盤。「これぞ!」なサウンドはレゲエの入り口にもぴったり。
Wendy Wander『Spring Spring』
台湾シティポップの注目株による2020年の作品。2025年10月には来日公演を開催。
シスコ坂ふもとの音楽酒場『虎子食堂(とらのこしょくどう)』
宇田川町に店を構える音楽酒場。カジュアルな料理に、選び抜かれたグッドミュージックが重なり合い、夜が更けるほどに独自の熱気を帯びていく。食事を堪能するもよし、音楽をさかなに一杯傾けるもよし。かつてのシスコ坂のふもとに、今日もミュージックラヴァーが集う。
11:30〜14:30(ランチは水のみ)・17:00〜23:30、月休。
☎︎03-6416-1197
渋谷に根づくレゲエの聖地『Coco-isle Music Market(ココアイル ミュージック マーケット)』
ファイヤー通り沿いに2003年創業。レゲエ、スカ、ロックステディ、ルーツロックからダンスホールまでを網羅する、ジャマイカンミュージックの専門店。店内には重厚な音響を楽しめるサウンドシステムが備えられており、レコードの響きを体で浴びる体験ができるのも魅力。日本では希少なハワイアン・レゲエも豊富に揃う。
12:00〜21:00、火休。
☎︎03-3770-1909
中村さんおすすめの2枚
Bob Marley, Wailers「Smile Jamaica」
マーリーがジャマイカの人々に笑顔を取り戻すために歌ったアンセム。
Treasure Isle『Come Rock with Me in Jamaica』
ロックステディ黄金期を象徴する名門レーベルのコンピレーション。
レコードカルチャーを支え続ける老舗『Manhattan Records(マンハッタン レコード)』
1980年創業、渋谷を代表する老舗レコード店。ヒップホップやR&Bを軸に、最新のリリースからクラシックな名盤まで幅広く取り揃える。世界中の音楽ファンが足を運ぶカルチャー発信拠点として、アナログやカセットCDはもちろん、アパレルやオリジナルのマーチャンダイズも充実。渋谷の音楽シーンを体感するなら、まずはここへ。
12:00〜20:00、元旦休。
☎︎03-3477-7166
原田さんおすすめの2枚
宇多田ヒカル『First Love』
90年代を代表するJ-POPの金字塔。R&Bとの親和性が高く、クラブシーンでも支持を集め続けている。
NxWorries『Why Lawd?』
Anderson .PaakとKnxwledgeによるプロジェクトの最新作はデザイン違いの限定盤。
新しい音は、いつも渋谷から
高円寺や下北沢がバンドやライブハウス文化をレプリゼントする“生音の街”だとすれば、渋谷はクラブカルチャーとレコードショップとともにある街だ。
最盛期の宇田川町には200軒を超えるレコード店がひしめきあっていたという。その名残を探してシスコ坂を歩くと、いまも『Face Records』や『next. records』が営業を続けている。数は減ったが、当時を知る現役店の存在が、この街の土壌の強さを感じさせる。
それに、『TOWER RECORDS』のようなメガストアもある。振り返れば、よく聴いたあのアルバムもこのアルバムも、どれも渋谷のタワレコで手に入れたものだった。
久しぶりに足を踏み入れると、やはり物量に圧倒される。フロアを歩きながら「このすべてを一生かけても聴ききれない」と考えると、ぞっとするような、でもわくわくするような気持ちに駆られる。店長の青木太一さんは「これだけの商品を揃えるレコードショップは世界中でもここだけです。しかも、まだまだ増やすつもりですよ」と笑っていた。『TOWER RECORDS』がある限り、渋谷は「音楽の街」であり続けるだろうと確信させてくれる。
6Fの「TOWER VINYL SHIBUYA」に行くと、一角をNujabesの輝かしい作品群が占拠していた。僕はそれを見て、2012年、20歳になったばかりの頃に初めて行った円山町のクラブからの帰り道を思い出していた。
朝が来て、東横線に乗り込み、ジーンズのポケットからiPod nanoを取り出して有線のイヤホンを耳につっこむ。向かいの小綺麗(こぎれい)な服装をした人は居眠りをしていて、行きなのか帰りなのかは分からない。イヤホンから流れてきたのはNujabesの『spiritual state』という、急逝の翌2011年にリリースされたラストアルバム。発売日にタワレコの渋谷店に駆け込んで買ったものだ。不慣れな爆音に耳も心臓も疲れていたから、落ち着いた音楽が聴きたかった。イヤホン越しにかすかに発車メロディが聞こえてくる。始発の車内は人もまばらで、冬の空はうっすらと青くなってきていた。
Nujabesは生前ずっとこの街を拠点にしていた。初めて行ったクラブでどんな音楽が流れていたかはもう覚えていないが、イヤホンから流れる何度も繰り返し聴いていたはずの曲たちが、その朝は初めて耳にするような瑞々(みずみず)しさを帯びていたことは今でもよく覚えている。
取材・文=重竹伸之 撮影=オカダタカオ
『散歩の達人』2025年10月号より