【お花見の起源】実は最初は「梅」の花見だった?ソメイヨシノはクローン桜
先月下旬から気温の高い日が続き、都内は一気に桜が開花。
すでに満開となった場所も多く、桜の名所とされる各地は、多くの花見客でにぎわいを見せています。
暖かくなると一斉に「桜」の話でもちきりになりますが、意外と知られていないストーリーもあります。
そこで今回は、「お花見の起源」や、日本の桜を代表する「ソメイヨシノの誕生秘話」についてご紹介します。
奈良時代「お花見」といえば「梅」だった
「お花見」といえば、ほとんどの人は「桜」を思い浮かべるでしょう。
けれども、そもそも「お花見」の習慣は中国の唐文化の影響を受けた奈良時代(8世紀)に始まったそうで、当時は「桜」ではなく「梅」が主役だったそうです。
貴族たちが梅の下で宴を開き、詩を読んだりして楽しむのが主流で、万葉集にも「梅の花」を読んだ作品が多く残っています。
例えば、有名なところでは……
「わが園に 梅の花散る ひさかたの 天より雪の 流れ来るかも(大伴旅人)」
意訳:私の庭に梅の花が散っているのが、遠く広がる天から雪が流れてくるようだ。
「春されば まづ咲き出づる 梅の花 独り見つつや 春日暮れなむ( 山上憶良)」
意訳:春が来ればまず咲き始める梅の花。一人で眺めながら春の日が暮れてしまうのか。
これ以外にも、万葉集には梅を詠んだ歌が約120首ほどあり、桜の約40首を大きく上回ります。
読まれているのは「紅梅」より「白梅」が主でした。
梅は寒さに耐えて早春に咲くため「高潔」「忍耐」の象徴とされて、宮廷や寺院の庭園に植えられたそうです。
平安時代に入り「桜」のお花見が主流に
平安時代に入り、日本独自時のお花見文化がスタート。
山野に自生するヤマザクラが身近で親しみやすかったため、徐々に注目され「山桜」がお花見の主流になっていったそうです。
平安貴族の文学「源氏物語」「枕草子」にも、桜は頻繁に登場しています。
「さても 春ごとに 咲くとて 桜をよろしふ 思ふ人やはある(清少納言/枕草子)」
意訳:毎年春に咲く桜を、『いいよ、もう』みたいに思う人いる?いないよね?
これは、現代でもそのまましっくりくる感覚の歌ではないでしょうか。
貴族の「桜の花見」は風雅な社交行事で、花を鑑賞するだけではなく桜の下で宴を開いて、和歌を詠み音楽や舞を楽しむというように、自然と芸術を融合させたイベントでした。
弘仁3年(812年)に嵯峨天皇が神泉苑で開催した「花宴の節」が公式な花見の初例だそうです。
花見の宴は主に、貴族・公卿・女官など上流階級が参加していました。
平安時代の文献では「庶民の桜の花見」について記録されているものは少ないそうですが、間接的な記述などから、庶民も桜の花見を楽しんでいたものと推測されています。
また、奈良時代から桜は「田の神」が宿る木とし、農民が桜の下で豊作を祈る習慣があったので、平安時代もその風習は続いていたようです。
桜の下で持参した酒や食べ物を飲み食いして過ごし、桜の色や開き具合を見て、その年の豊作を占うこともしていたそうです。
その後、江戸時代になり貴族の花見スタイルと農民の花見スタイルが融合したものが、庶民の娯楽として都市部で定着していきました。
ソメイヨシノの意外な誕生秘話とは
日本の「桜」として知られる品種には、実はさまざまな種類があります。
たとえば、日本固有の原種で、奈良時代から平安時代にかけて貴族たちに愛されたヤマザクラ。気品ある花姿とともに、古典文学の中にもたびたび登場します。
また、長寿の大木として知られ、各地で“一本桜”として親しまれ、天然記念物に指定されている個体も多いエドヒガンザクラも、代表的な存在です。
さらに、エドヒガン系の変種で、枝がしだれる姿が「優雅さ」や「哀愁」を感じさせるシダレザクラも有名です。
このように、桜は品種ごとに異なる魅力や歴史を持ち、それぞれに深い物語があるのです。
日本を代表する桜といえば、ソメイヨシノ(染井吉野)を思い浮かべる人は多いでしょう。
ソメイヨシノは自然に生まれた品種ではなく、人工的に交配されて作られた桜です。
誕生したのは江戸時代末期から明治初期にかけての頃で、東京・染井村(現在の豊島区)で植木職人たちによって、オオシマザクラとエドヒガンを交配して生み出されました。
当時、桜の品種改良はブームだったそうです。
「染井」は交配した地名から、「吉野」は奈良の吉野山の桜にちなんで名付けられたといわれています。(ただし、吉野山の桜はヤマザクラが主で、ソメイヨシノとは別種)
ソメイヨシノは、接ぎ木でしか繁殖できないいわゆる「クローン」です。
つまり、全国のソメイヨシノは遺伝的にほぼ同一なために、病気や老化が一斉に進むリスクが指摘されています。
ソメイヨシノの寿命はおおよそ60年から80年程度とされており、戦後に一斉に植樹された木々が現在、次々と老木化しています。そのため、各地では植え替えや代替品種の導入など、さまざまな対策が進められているのです。
以下は、日本の「桜守(さくらもり)」として知られる植藤造園の16代目・佐野藤右衛門さんの言葉です。
「山桜と違い、人が植樹したソメイヨシノは人間が関わらないと生きていけない。
自力で跡継ぎを残せない桜で並木を作り名所を作っているのが今の日本。それでも人の都合で植えたなら最後まで面倒をみてやらなければいけない。綺麗な時だけチヤホヤするのでは、可愛そうや。」
引用:『植藤造園 佐野藤右衛門』
人が作り、育て、守ってきた桜。その美しさの背後には、こうした静かな責任と向き合う姿勢があることも、私たちは忘れてはならないのかもしれません。
少しずつ咲く時期が異なる、さまざまな桜
「桜」と聞くと、多くの方が「一斉に咲いて、あっという間に散ってしまう」というイメージを抱くかもしれません。
しかし実際には、桜には多くの品種があり、それぞれ開花時期が異なるため、早咲きから遅咲きへと、長い期間にわたってその美しさを楽しむことができます。
年ごとの気候条件にも左右されますが、例を挙げると、以下のように順を追って咲いていきます(あくまで大まかな目安です)。
1月下旬〜2月下旬:カンヒザクラ(寒緋桜)
2月中旬〜3月上旬:カワヅザクラ(河津桜)
3月上旬〜中旬:オカメザクラ(岡見桜)
3月中旬〜下旬:エドヒガン(江戸彼岸)
3月下旬〜4月上旬:ソメイヨシノ(染井吉野)
3月下旬〜4月中旬:シダレザクラ(枝垂桜)
4月上旬〜中旬:ヤマザクラ(山桜)
4月上旬〜中旬:オオシマザクラ(大島桜)
4月中旬〜下旬:カンザン(関山)(八重桜)
4月中旬〜下旬:ウコン(鬱金)
4月下旬〜5月上旬:フゲンゾウ(普賢象)
このように、品種の違いを知ることで、より長く、より深く、桜の季節を楽しむことができるのです。
開花時期に時差があるさまざまな桜の品種を追いかけながら、それぞれの土地を巡り、異なる花の表情や風情を味わう――
いつかは、そんな多彩で贅沢な花見を、ゆっくりと満喫してみたいものです。
参考:
農林水産省「日本の桜」
植藤造園 佐野藤右衛門
文 撮影 / 桃配伝子 校正 / 草の実堂編集部