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【奈良古代史にみる絆】(vol.7)「無事でと言ったのに…」―弟への挽歌 大伴家持

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【奈良古代史にみる絆】(vol.7)「無事でと言ったのに…」―弟への挽歌 大伴家持

【奈良古代史にみる絆】(vol.7)「無事でと言ったのに…」―弟への挽歌 大伴家持

『天皇との絆で訪ねる古代史―日本古代のLGBTQ!?』(日本橋出版、2024)の著者で日本歴史文化ジェンダー研究所代表の難波美緒が、古代史より「絆」をひもとき、奈良に関連するエピソードを紹介するシリーズのエピソード7。

この連載が始まってすぐの頃、青年海外協力隊で遠い異国(ホンジュラス)に派遣されていた同級生を亡くした。私は今38歳なので、彼女とは21年もの付き合いになる。
訃報を知った時、真っ先に思い出したのが、次の歌になる。大伴家持が弟の逝去を悲しんで詠んだとされる『万葉集』十七巻の3958首だ。

(哀傷長逝之弟歌一首)
十七/三九五八  麻佐吉久登 伊比之物能乎 白雲尓 多知多奈妣久登 伎気婆可奈思物
ま幸くと 言ひてしものを 白雲に 立ちたなびくと 聞けば悲しも

無事でと言ったのに、白雲になって棚引いていると聞けば悲しい事よ…と弟の死を悼んで詠んでいる。

彼女の出立前には、無事に帰ってくると思っていたし、元気で帰ってきてね!というような言葉も伝えたので、よりこの歌が心に迫るのだろう。続く歌も似たような意味合いでの歌で、

十七/三九五九可加良牟等 可祢弖思理世婆 古之能宇美乃 安里蘇乃奈美母 見世麻之物<能>乎
かからむと かねて知りせば 越の海の 荒礒(ありそ)の波も 見せましものを

右天平十八年秋九月廿五日越中守大伴宿祢家持遥聞弟喪感傷作之也

こうなると前から知っていたら、越後の海の荒れた波も見せるのだったのに…というところだろうか。二つとも弟の大伴書持(ふみもち)への挽歌である。親しい誰かが亡くなった後に、こういう経験をさせてあげればよかったと後悔する気持ちを上手に詠んでいて、うるっとくる。大伴家持の28~29歳よりも弟は若いだろうから、今の感覚では、随分若くして亡くなったようだ。

大友書持は、その後奈良の佐保山で荼毘に付されたとされる。

佐保山=那富山の墓(首皇子の墓に比定)への道。奈良時代の火葬場。下の写真は那富山の墓の遠景。

大伴家は平城京に佐保宅・坂上里の宅・田村里(現在の芝辻町三丁目、近鉄の新大宮駅や奈良中央郵便局、佐保川小なども含まれる範囲)を所有していたと推定され、佐保山とも近い。詞書からは家持自身は越中で弟の訃報に接したものの、葬儀に駆けつけることは叶わず、遥か越中で喪に服していた間に詠んだものと思われる。

上記の友人も諸事情からホンジュラスで荼毘に付され、ゆかりの地に生えた木の下に葬られたと聞く。本人もまさか異国で死ぬとは思っていなかっただろうし、帰国後は経験を活かして活躍しただろう人財だったのにと思うと、惜しい人を亡くしたと惜しまれる。
長く良好な「絆」を保ち続けることは難しいと、この年になると実感される。長年の友情に心から感謝し、この記事を挽歌としたい。

聖武天皇陵は佐保山南陵に葬られた。写真は比定地。 
聖武天皇陵の360度写真。天皇陵の拝所は大体このような造りで、参拝可能。 

写真:難波美緒

《参考文献》
『天皇との絆で訪ねる古代史―日本古代のLGBTQ⁉』(日本橋出版、2024)
『万葉集』巻17、3945首・3954首・3958首・3959首

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