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【特別養子縁組】 「養親」久保田智子が生みの親に「産んでくれてありがとう」とは言わなかったワケ

コクリコ

養子縁組で育ての母となり子育て中の久保田智子さん(兵庫県姫路市教育長・元TBSアナウンサー)インタビュー第3回。娘と初めて出会った日と特別養子縁組を発表した理由、兵庫県姫路市教育長として奮闘する今について。全3回

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4月4日は「養子の日」。兵庫県姫路市の教育長で、元TBSアナウンサーの久保田智子さんは、この春(2025)小学校に入学した長女・ハナちゃん(仮名)が0歳のとき、特別養子縁組を経て家族となりました。夫婦で何度も話し合いを重ね、家族として迎え入れることになったハナちゃんとの出会いの日は、今でも忘れることができないと語ります。

生みの母との対面を経て感じたこと、ハナちゃんを育てて6年が過ぎた今、その思いを聞きました。

生みの親との対面!「言わなかった・言えなかった」

愛娘・ハナちゃんの話になると笑顔があふれていた久保田智子さん。日々ふたりでいろいろな話をするそうです。  オンライン取材にて

特別養子縁組のあっせん団体から赤ちゃんが生まれる連絡を受けた数日後、久保田さん夫妻は生まれたての赤ちゃんを迎えるために産院を訪れました。そして、赤ちゃんと会う前に生みの母との対面を果たします。

「私が登録していたあっせん団体では、生みの親と育ての親の双方の同意があれば一度だけ対面することが可能でした。赤ちゃんと会う前の数十分でしたが、産院内でお話しすることに。

何を話せばよいのか、前の日から夫といろいろと相談していましたが、実際にお会いしてみると、まったく思うようには話せませんでしたね。

相談員さんが間を取りもってくれて、妊娠中の体調や、妊娠にいたる経緯や赤ちゃんお父さんのことなども教えてもらいました。私たち夫婦からは『頑張ります』とか『産んでくれてありがとうございます』とかは言わないようにしようと決めていたんです。

頑張ることは当たり前だし、生みの母は私たちのために赤ちゃんを産んでくれたわけではないので。

でも『大切に育てます』ということだけは最後にしっかりお伝えしました」

今振り返ると、かなり緊張していたという久保田さん。ただ、生みの母に会ったという事実はその後のハナちゃんの育児においても、大きなプラスとなったそうです。

「私にとっては生みの母にお会いしているっていうのはとても大きいです。見えないものとか、わからないものに対する不安って少なからずあると思うので、その点では安心して娘にも話すことができています。こういう雰囲気の人だったよって、娘にすごいポジティブに伝えられているんじゃないかなって思います。

ただ、私はたまたま生みの母も、私たち夫婦に会いたいという気持ちをもってくれたから実現したことなので、必ず会ったほうがよいということではありません。それぞれのご家庭での考え方を尊重していくことが、何よりも大切だと思います」

かわいくて小さな命に感動

生みの母との短い対面の後、いよいよハナちゃんとの対面を果たします。

「本当にかわいかったです! すごくかわいかった! 赤ちゃんってこんなに小さいんだって思って、大切にしなければと心から思えました」

その後、育児に奔走する日々が続くなか、久保田さんの中で養子縁組したことを世間に向けて公表していきたいという気持ちが徐々に高まっていきます。

「アメリカから帰ってきて間もなかったということもあり、養子縁組した家族であることを隠すことにとても違和感をもつようになっていました。

ある日、友人に食事に誘われ、子育てをしているから難しいと答えると『いつ妊娠してたの?』と驚かれたので、養子縁組をしたことを伝えると『そうなんだ……』と少し含みをもった反応が返ってきたんです。

誰に伝えて、誰には伝えないとか、その境界線って難しいですよね。おおやけに発表していたら、もっと当たり前のこととしてみんなに受け入れられるんじゃないかなと考えるようになりました」

ただ、夫の平本典昭さんは公表することに最初から賛成という訳ではありませんでした。

エッセイを書いたら「悲しすぎる」とボツに

「夫は、将来、娘がどう思うかわからないのに、親の判断だけで公表してもいいのかと気にしていました。もちろん夫婦で何度も話し合いをしました。

娘が3ヵ月くらいのときにこれまでのいきさつについてエッセイを書き、雑誌『Newsweek(ニューズウィーク)日本版』の編集者だった友人に読んでもらいました。すると、友人から『このエッセイは悲しすぎて今は公表できません』と言われてしまったんです。

おそらく、娘がやってきてくれて本当にハッピーなんだけれど『産んでいない私は本当に母親と言えるのだろうか? 母と呼ばれていいのか?』という私自身の葛藤が文面にあふれていたのだと思います。

それをマスメディアで発表すると、読んですごく悩んでしまう人がいるかもしれないという友人の判断でした。確かに、当事者だからこそ客観的に書くというのはとても難しいと自分でも思いました。

それなら私の言葉で発信するより、私たち家族の生活を記者に見てもらい、客観的に発信してもらうほうがよいのかもしれないという考えに至ったんです」

2020年12月『Newsweek(ニューズウィーク)日本版』でハナちゃんと夫の平本さんと3人で誌面に登場し、養子縁組を公表しました。

その後は、育児と仕事を両立しながら、養子縁組や里親制度への認知度や理解度を高めるための活動にも積極的に取り組んでいます。

2024年姫路市の教育長に

養子縁組をはじめ、子育て支援や子どもの教育支援などの活動を評価され、兵庫県姫路市の教育長に抜擢。2024年4月に就任しました。

「お話をいただいたときは、びっくりしました。行政の経験もなかったので、こんな選択肢があるのかと驚きましたが、なにか私で力になれることがあるのであればと思い、お引き受けしました。

日常的に先生や市職員たちと接することが多いのですが、話すときには保護者目線でもお話しするということを大切にしています。

もちろん、子どもたちと関わることもありますので、機会があるときには私が特別養子縁組で子どもを迎えたということも児童、生徒たちには伝えています。

生徒たちにとって今はピンとこなくても将来的に1つの選択肢となることもあるかもしれないと考えて伝えています。私も高校生のとき、授業で聞いた養子の話が巡り巡って、自分の人生の道を示すことになったので、いつか何かのきっかけになるといいなという思いはあります」

2024年、姫路市教育長として小学校の授業を視察中の久保田さん。  写真提供:姫路市教育委員会

子どもを0歳から育てて6年(2025年4月現在)。最後に、特別養子縁組について、今の考えを伺いました。

「私自身、特別養子縁組を選択するまで不安がなかったわけではありません。本当にこれでいいのかな、ちゃんと育てられるかな、赤ちゃんが好きになれなかったらどうしよう……といった不安はもちろんたくさんありました。

でも、今思えばそれらは見えないものに対する不安であって、実際に赤ちゃんに会った瞬間からそういった不安は本当になくなりました。

ただ、もし養子縁組を検討するなら、夫婦で同じ方向を向いていないとうまくいかないことが多いと思います。なので、夫婦間で養子縁組に関してきちんと話し合いをしておくことは、重要です。それでも答えは出ないのかもしれない。

夫婦ふたりだけでも幸せだと思うことも正解だし、やはり子どもがいる生活を望みたいというのも正解。その思いを夫婦間で確認することが、大切なのだと思います。

どちらかが強く望むから、片方がそれに付き合うというスタンスでは、なかなか難しいことだと思います。特別養子縁組に限らないと思いますが、子育ては大変なこともたくさんありますから。

いろんな選択肢がありますし、どの選択にも不安があるのは当然です。それでもやっぱり子どもを育てたい、子どものために何かしたいという思いがあるのであれば、特別養子縁組は本当に素晴らしいものだと、私は胸をはってお伝えできます」

─・─・─・─・

終始、ハキハキと明るい笑顔でお話ししてくれた久保田さん。今は、ハナちゃんとふたりで姫路市で暮らしており、東京で働く夫の平本さんが週末、姫路に来る生活を送っています。忙しい中で、家族のベストな形を模索しながら向き合っている姿に、大きなパワーと強い覚悟が伝わってきました。

悩みながらも歩みを進めたことで、違った景色が広がっていったという久保田さんの言葉に、不安でも臆することなく、まずは一歩を踏み出してみること、その大切さを教わりました。

●久保田智子PROFILE
1977年生まれ。東京外国語大学卒業後、2000年TBSに入社しアナウンサーとして活躍。2015年に結婚、2016年に退社を発表し、その春に夫と渡米。2018年に帰国後、TBSの報道局に復職。2019年には特別養子縁組制度にて、1児の母となる。2024年4月からは兵庫県姫路市の教育長に就任した。

取材・文/関口千鶴

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