「アクアポニックス」って何?魚も野菜も育つ未来の箱庭
最近、魚と野菜をいっしょに育てる「未来型農業」が注目を集めています。その名も「アクアポニックス」というモノなんですが・・・。
アクアポニックス、どんな仕組み?
一体どんな仕組みなのか、株式会社アクポニ 代表取締役の濱田 健吾さんに伺いました。
株式会社アクポニ 代表取締役 濱田 健吾さん
アクアポニックスは魚の養殖と野菜の水耕栽培、これを循環で繋げたものなんですね。過密に魚を飼育するとすぐ水汚れちゃいます。それを養殖場の外に捨てちゃうんですよね、水替えの時に。アクアポニックスはその水を捨てずに、微生物で野菜の肥料に変えて、野菜を育てて、きれいに肥料分が抜けて浄化された水をまた魚の水槽に戻してあげるんですね。なので生態系の循環をうまく利用して、無駄なく魚と野菜をバランスよく育てていく、そういった循環型の農業になっています。何が環境面に嬉しいことかというと、水と肥料と電気、この3つがすごく節約できるっていうのがアクアポニックスなんですね。持続可能な形で食料を育てるっていう、そういったエコ農法であるアクアポニックスに注目が集まっているなっていうのは感じますね。
では実際に、どんなものを育てられるのでしょうか。
レタスの水耕栽培/設備の様子:(株)アクポニ提供
野菜はレタス・トマト・ハーブなどに加え、イチゴなども!
養殖で育った魚:(株)アクポニ提供
魚はティラピア、チョウザメ、サーモンなどの食用淡水魚がメイン。(株)アクポニさんでは最近、海ブドウ、シーアスパラガスとエビなどの海水コンビにも挑戦中!海水は難易度が高いんですが、海ブドウやシーアスパラガスは国産がほとんどないため、ニッチだけどニーズは高いそうなんです。
環境に良いというメリットの他にも、野菜の栽培では農薬、化学肥料を使わないのでまず野菜がとっても美味しいんです。また、水耕栽培なので土づくり、水やり、除草が不要。魚の養殖に関しても水替えが不要などのメリットあり、一度生態系が回り始めると手を加える必要があまりありません。アクアポニックス農業を始める人は農業初心者の方も多いそうですよ!
アクアポニックス野菜を収穫する様子:(株)アクポニ提供
農業以外にも?アクアポニックスの可能性
新たな農業として広がりを見せるアクアポニックスですが、農業に全く関係のない、水族館にも、このアクアポニックスが導入されているようなんです!それが、東京・池袋にあるサンシャイン水族館なんですが、なぜ展示を始めたのか、サンシャイン水族館 アクアポニックス担当の三田優治さんにお話伺いました。
サンシャイン水族館 アクアポニックス担当 三田優治さん
水族館でやる意味っていうのは、やっぱりシステム自体とか物質の流れに興味を持っていただくっていうのと、アクアポニクスの売りって、やっぱり持続可能な農業っていう部分だと思うんですよね。お魚の育成とお野菜の栽培を同時に進めていくっていうところが、肥料だったりとかに頼らない有機農薬的な部分があると思うんですけど、それを実際に着目して興味を持ってもらう部分と、あとは収穫したレタスとかを水族館の中で暮らしているリクガメとかに与えたりしてるんですけど、リクガメ担当いわく普通にあげてる小松菜より全然レタスの方が食いつきが良いそうで。なのでそういった部分で、水槽単体で見ると植物は循環してないように見えるんですが、水族館全体で見ると植物自体はリクガメに消費してもらっているので、循環ができているっていうことになっています。
水族館全体で循環させるって発想は面白い取り組みですね。リクガメもアクアポニックス野菜がお気に入りみたいですね~!
サンシャイン水族館のアクアポニックス展示/6つの水槽を使用した分かりやすい展示に。
水槽の中には魚が泳ぎ、その上部で野菜が育っているというユニークな風景で、自然の循環を目で見て学べる仕組みとして子どもたちにも人気!アクアポニックス自体を知って貰うことと、子供たちへの教育の一環としても活躍しているようでした。
誰が見ても分かりやすい説明に
現在は、3種類の淡水魚とレタス・ホウレン草・トマトなどを育てていて、見て楽しい展示になるような植物、魚の組み合わせを意識しているとのことで、この組み合わせも定期的に変えているそうです!
水族館内で暮らすリクガメの食事に!:サンシャイン水族館提供
アクアポニックスは水族館以外にも、ビルの屋上やカフェ、学校などで稼働する鑑賞用モデルも登場していて、魚や植物の種類など組み合わせも広がりを見せています。
アクアポニックス、日本展開の課題
ただ、日本ではまだ広がり始めたばかりという事で、この技術が日本でより広まるためには何が必要なのか。解決すべき課題について、再び株式会社アクポニの濱田さんに伺いました。
株式会社アクポニ 濱田さん
アクアポニックスってアメリカ発祥で、今アメリカがどういう状況かっていうと、すごく大規模化が進んでる。大規模化をするとスマート化が生きるんですね。日本のアクアポニックス農園っていうのは年々大きくはなってきてますけれども、(農園を大きくして)テクノロジーを入れてコストをどんどん効率化して下げていくっていうところが一つ技術的な課題かなというふうに思ってます。もう一個の課題の方が実は大きくてですね、アメリカだとアクアポニックス産の野菜っていうのはオーガニックスーパー、そういったところで非常に高く売られてるんですよね。負荷価値が高いものですので、日本だとまだまだアクアポニックス野菜って言っても認知がすごく低くて、そこに対してのブランドっていうものがまだないので、そっちの方が大きな課題かなというふうに思ってます
日本は今後、大規模化と「都市型アクアポニックス」の2つの方向性があるそうで、都市型アクアポニックスは、高層ビルの屋上や空きテナント、マンションの一角など、狭いスペースでも設置可能というメリットがあります。
アクアポニックスで育ったイチゴ/(株)アクポニの濱田さん:(株)アクポニ提供
例えば都心の飲食店の屋上でアクアポニックスを導入、そこで獲れた野菜を提供メニューに使用したり・・・このような仕組みを作る飲食店もちらほらあるようです。やはり実際に見て、仕組みを理解して、美味しく食べる。このような体験型の取り組みが、認知度アップにつながっていくのではないかと思いました。
技術だけじゃなく、「知ってもらう工夫」も今後のカギになりそうです。
(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:糸山仁恵)