チュウオウ・ディビジョン『.言の葉党』全員インタビュー、勘解由小路 無花果役・たかはし智秋が語る”ヒプノシスマイク”と新曲への想い
音楽原作キャラクターラッププロジェクト『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』の新作CD7ヶ月連続リリースをチュウオウ・ディビジョン『.言の葉党』が華麗に締めくくる。言の葉党の各キャラクターのソロ曲、ドラマトラックは、ヒプマイのファンの心を動かすこと間違いなし。来年の2月21日に公開される映画『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』に繋がる背景を知るためにも、ぜひ聴いておきたい作品だ。内閣総理大臣補佐官/警視庁警視総監/行政監察局局長/中王区 言の葉党 党員・勘解由小路 無花果を演じている智秋が、ソロ曲「Get Freedom」に込めた想いを語ってくれた。
――中王区のCDは、今回が第2作目です。作品のリリースを重ねていることに対して、どのような感慨がありますか?
前回の CD が最後かと思っていたら、今回はチュウオウ・ディビジョンとしての1枚じゃないですか。全く想像もしていなかった展開になっていますね(笑)。もしかしたら、最初の CD の時は言の葉党がこうして楽曲などをリリースすることに疑問を抱くファンのみなさんもいらっしゃったのかなと、少し懸念しておりました。しかし、ドラマトラックを聴いていただくと分かっていただけるかと思うのですが、前作をリリースした時と較べたら、「平和」に向かって生まれ変わった3人になっているんです。だから前作よりも、今回のリリースの方が少しだけ唐突感がないのかなと。ファイナルバトルを発表した今だからこそ、言の葉党のメッセージを聴いていただくことは、これからの『ヒプノシスマイク』にとって、とても大切なことだと思います。
――初期は、どうしても各ディビジョンの敵としての印象が強かった中王区ですけど、かなり変化してきていますよね。
そうなんです。男性のキャラクターがたくさん登場するコンテンツに女性キャラクターが登場するのは禁忌みたいなところがありますけれど、『ヒプノシスマイク』を皮切りに変化してきているようにも感じますね。それが嬉しい反面、やはり難しいところもあるのかなと思っています。中王区の3人には各々のバックボーンとなるストーリーがあり、そこに行き着くまでのプロセスや生き様が女性ファンの皆様の共感を呼び、少しずつ受け入れていただく環境が出来上がったのかなと思います。気がついたら、たくさんの方々に応援していただき、それがとても嬉しくて、私自身の励みにもなっています。
――中王区で起こっている変化は、最近の『ヒプノシスマイク』で非常にドキドキさせられる要素です。
勧善懲悪のストーリーは「悪」を倒して終わりですけれど、その「悪」とは何なのか? 「悪」とされていたものを倒して本当に終わりなのか? 本当のピースとは一体何なのか? そういうことをドラマトラックからも感じていただきたいですね。「争いからは何も生まれない」ということが今回の CD の3曲でも描かれていますし、それは他のディビジョンも同じだと思っていて。各ディビジョンの彼らも争いたくて中王区に歯向かっていたわけではなくて、「ピースフルになって、みんなで良い世界を作ろうよ」という願いが込められていると思うのです。「男性」「女性」ではなくて「人間」として共存しながら良い世界を作っていきたいという、「平和」に向かってのストーリーが、これからの『ヒプノシスマイク』の醍醐味ですね。中王区が「悪」として倒されて終わりだったら簡単なんです。そうではなくて、それぞれの立場から見た世界線があって、それぞれの葛藤の末に、悲しみや苦しみを乗り越えながら「平和」へ向かって進んでいくストーリー。そんな展開も、これからの『ヒプノシスマイク』の魅力だと思っています。
――勘解由小路無花果の過去や背景も詳しく描かれてきましたが、どのようなことを思いながら演じるようになっていますか?
彼女は妹の棗を亡くしていますし、基本的には男性の XY 染色体に限界を感じているというか(笑)。でも、そういうレベルで男性を嫌っていたところから変化してきているのだと思います。妹の幻影を合歓ちゃんに重ねていましたが、合歓ちゃんは妹ではないですし。
――合歓が無花果様に及ぼしている影響は、とても大きいですよね。
そうですね。合歓ちゃんはマインドハックが解けていて、中王区から抜け出そうと思えば抜け出せたはずなんです。それなのになぜ中王区で働き続けるのか? そこはまだそれほど描かれていないのですが、合歓ちゃんは最初からピースを求めていたからなのではないかと私は思っています。お兄さんの左馬刻に対しても中王区を憎むのではなくて、共存することを願っているのではないかと。乙統女様や無花果様と一緒にディビジョンを組んで楽曲を歌っていますが、実はどちら側の味方をするのでもなく、わかり合って共存することを願ってきたんじゃないかなと。前回のCD の合歓ちゃんの曲「Independence day」でも、ピースフルな世界に向けた強くて前向きなメッセージを感じました。
――これまで描かれてきた様々な要素を踏まえながら考察をしたくなるのが『ヒプノシスマイク』ですよね。
そうなんです。無花果様は合歓ちゃんに棗の幻影を重ねて、妹のように可愛がってきましたけれど、彼女がピースと共存を願っていることを徐々に感じていくんですよね。中王区の「WINK」は、まさにそれを表している曲だと思います。3 人でお茶会をする時の無花果様の笑顔とかもそうでしたが、合歓ちゃんが彼女の人間的なところをどんどん引き出すことによって、「合歓ちゃんは妹ではない」と、どこかの段階で気がついたのかなと。「かわいそうな妹を私が守ってあげなきゃ」「ひどいことをした男性を妹も憎んでいるに違いない」と思い込んでいたけれど、合歓ちゃんが妹ではないと認識する中で、「果たして棗は、今のような私を望んでいたのだろうか?」というところにまで考えが至るようになっていったのかなと、私は思っています。
――キャラクター各々の心情が変化してきている中、中王区が大きく揺れ動いているのも、最近のドキドキさせられるところです。
乙統女様が行方不明になりましたからね。でも、無花果様は「私が舵を取る」とも言えないんです。なぜならば、「妹の幻影を追ってきた私の考え方は合っているのか?」と自問自答をしていて、自分に自信が持てなくなっているから。「今まで信じてきたこと、私が胸を張って伝えてきたことは何だったのか」と。その先にあるものを見出していく大きなストーリーが、今回の CD の3曲とドラマトラックなのです。
――無花果様の心情の変化は、どのように捉えていますか?
彼女は以前とは異なる「強さ」を手に入れつつあるのだと思います。過去の憎しみや苦しみ、痛みから生まれた独裁的な力の「強さ」ではなく、人間の尊厳や道徳的な真の「強さ」に気がついたのだと。それによって、私の演じ方や歌い方も変わってきましたね。
――今作の「Get Freedom」は、変化しつつある無花果様の姿を伝えてくれる楽曲です。
そうですね。作詞をしてくださった LUNA さんは、実は20 年くらい前から知り合いだったかもしれないんですよ。
――初耳です。そうなんですか?
そうなんです(笑)。私は昔からブラックミュージックが大好きで、DJ などの友だちもたくさんいるんですけれど、その友だちの友だちが LUNA さん。私とその仲間たちとは、もう20年来の友だちなのですが、LUNAさんとその仲間たちも20年来の友だちだということが判明して。LUNAさんは当時からステージに立っていらっしゃいましたから、レコーディングの時に、「どっかで会ってるよね?」という話になり、めちゃくちゃ盛り上がりました。私たちがずっと女子トークをしているから、なかなかレコーディングが始まらず(笑)。スタッフの皆様も「そんなに仲が良かったんですか?」とびっくりしていましたね(笑)。
――(笑)。スタッフさんもLUNAさんとさんの繋がりをご存知なかったんですか?
知らなかったです(笑)。
――ものすごい偶然ですね。
私もびっくりしました。LUNAさんは、同じ時代を生きて、同じ遊び場にいた、完全なプライベートの仲間ということで…いつものレコーディングとはまた別の緊張感があったというか。プロと一緒にカラオケに行く感じに近かったかもしれません(笑)。LUNA さんは…中王区はもちろん、『ヒプノシスマイク』の他のディビジョンのドラマトラックも全部聴いて、アニメも全部観て、コミカライズも全部読んで作詞をしてくださいました。作品にすごく向き合ってくださっていて、無花果様に関する解釈なども完璧でした。その理解してくださる感覚がなければ、この「Get Freedom」という素晴らしい曲は生まれなかったと思います。また、同じ時代を生きて、同じ遊び場にいたLUNA さんだからこそ、私のことを理解しながらディレクションをしてくださった部分もあり、本当に「二度嬉しい」という感覚ですね。
――この曲のさんのラップ、とてもかっこいいです。
ありがとうございます。この曲は、自分自身だけではなく、大衆に向けての応援歌というイメージですね。「平和」ってとても難しくて、どちらかを立てればもう一方が立たないというのが世の常。現実の世界でも難しい「平和」というテーマに『ヒプノシスマイク』が挑んでいて、それが嬉しくもあり、同時にとても大変なことでもあります。どんなに作品を通じてメッセージを発信したとしてもなかなか聴いてもらえない非力さを、私は 28 年目の芸歴の中で感じてきたんです。でも、小さなことでも訴え続ければわかってくださる方々は少なからずいるのかもしれない。そんなことを『ヒプノシスマイク』は改めて私に教えてくれたような気がしています。
――現実の世界と重なる事柄も『ヒプノシスマイク』の様々な楽曲は描いていますよね?
そうですね。「Get Freedom」も、大切なメッセージを伝えている楽曲だと思います。「憎しみや戦いではなく、解放された先に“平和”はあるんだよ」という強い想いを感じます。「解放」とは、好き勝手、身勝手に行動するということではなく、より良い未来のために、痛みや苦しみを引きずった自分を捨て去り、新たな世界に向けて歩き出すこと。自分達だけが満足する世界を創るのではなく、皆が安心して共存できる社会を皆で創り上げていこうという「平和」への第一歩。エンタテインメントは非力かもしれないですが、我々にできることは、こういう歌を力いっぱい歌ってみなさんに聴いていただき、何かを感じていただくことだと思います。『ヒプノシスマイク』という作品を通じて私にできることを一生懸命やらせていただけることは、とても光栄なことだと思っています。
――乙統女様の「Mic rewrites the ending」、合歓さんの「Do the right thing」は、どのような印象で捉えていますか?
今回の3曲は、通ずるものがありますよね。どの曲でも《正義》が歌われていて、ピースを求めているんです。中王区がチュウオウ・ディビジョンになった理由、そこに至るまでの心の移り変わりみたいなものも、とても描かれていると思います。
――『ヒプノシスマイク』はたくさんのファンに支持されていますが、ブラックミュージックが昔から大好きなさんの観点で作品全体に対して何か感じることはありますか?
ラップが音楽認定されたのって比較的最近で、もともとは貧しいエリアで暮らしていた人々が「こんな世の中、間違っている。俺たちだって人間だ!」と世の中に訴えかけるものだったんですよね。綺麗な何かを届けるというよりは、理不尽から這い上がる音楽性というか。『ヒプノシスマイク』には、そういう根源的なものが世界観に入っていて。日本でのラップミュージックはポップス的なものが比較的多いイメージですが、『ヒプノシスマイク』はラップのルーツに則った画期的なコンテンツであるからこそ、ラップミュージック界の重鎮のようなアーティストの皆様が楽曲を提供してくださるのだと思います。そんなところも、『ヒプノシスマイク』の大きな魅力ですね。
――ラップのマナーに則った気持ちいいライミングも満載ですからね。
ラップミュージック界の権化のようなアーティストの皆様が楽曲を提供してくださっていますからね。ポップスの世界のクリエイターが作っていたらまた全然違っていたと思います。声優業界には、もともと「ラップを歌う」という文化がなかったんです。ブラックミュージックの文化ではなくて、メタルやロック、あるいはアイドルソングの文化なんですよね。そういう中でこの『ヒプノシスマイク』が受け入れられる時代になったのがとても感慨深いです。
――十数年前だったら、こんなにも支持されるようにはならなかったかもしれないです。
そうですよね。私は約20年くらい前、声優ユニットや声優コンテンツの企画で、ラップの曲やダンスホールレゲエ調の曲を歌ったことがあるのですが…さっぱり受けなくて(笑)。私が好きな音楽のジャンルをこの声優業界でやるのは難しいことなのだと諦めていたんです。しかし、時代が変わって、声優という職業が裾野を広げ、様々な音楽のジャンルがアニメやゲームで起用されるようになりました。この『ヒプノシスマイク』という作品を知り、声優業界にもブラックミュージックやラップをやる世界線がやってきたのかとワクワクしていたら、何と!?その作品に携わらせていただけることになり…!!約20年が経った今…まさかこんな日がやってくるとは夢にも思いませんでしたね。人生、何があるか本当にわからない!こういう機会に恵まれたのも、声優を長く続けさせていただいているおかげです。私を支えてくださっているファンの皆様、関わってくださっているスタッフの皆様には心から感謝しております。いつも本当にありがとうございます!
――『ヒプノシスマイク』はアニメ、コミック、ゲーム、舞台作品とか、どんどん広がり続けてきましたが、来年の2月21日についに映画が公開されることになりました。日本初のインタラクティブ映画なんですよね。
はい。インタラクティブって、賛否両論になることもあるシステムだと思うんです。エンディングが難しいですから。ストーリーの結末が 1 つに決まっていたら、それは公式のものとしての落としどころになるんですけれど、インタラクティブだと、「私の選んだストーリーでも良かったんじゃない?」っていう意見が出てきちゃったりするかもしれないですよね。でも、逆に言うと、それが面白さでもあると私は思っています。『ヒプノシスマイク』は、中王区が新しく生まれ変わり、他のディビジョンのみんなも「平和」(ピース)を目指すようになっていますから、「みんなで作ったものは最後までみんなで作ろうよ」という意味も持っているインタラクティブだと思います。ある意味多数決ですから、みんなで公正にストーリーを決めましょうという画期的な試みですよね。
――映画ではファイナルディビジョン・ラップバトルが描かれることになりますが、どういう展開を迎えるのかが楽しみです。
ラップってその場の空気と即興で決まっていくところがありますけれど、『ヒプノシスマイク』も、ある意味型破りな展開をしているコンテンツですので、我々出演者も、スタッフの皆様も、どんな展開になるのか分からない結末に、今からドキドキしていると思います。
――攻めた展開を重ねていますよね。
そうですね。まさにラップのようにコンテンツの展開も即興といった感じで(笑)。この作品に携わる全員が、とにかく自由な発想から生まれてくるものを大事にしていて、みんなで気合いを入れながらワクワクできる空間が出来上がる。『ヒプノシスマイク』の真の魅力はこういうところにあるのだと思います。だから映画も「どんなストーリーが生まれるんだろう?」と、私も皆様も、今からめちゃくちゃワクワクしている。「また冒険ができる!」じゃないけれども(笑)。『ヒプノシスマイク』は、みんなと一緒に繰り広げる、先の展開が読めない壮大な冒険。どんな逆境にも負けない強いハートで立ち向かう。そういう船にお客さんも乗っているんです。この作品に注目してくださった時点であなたも素敵な仲間。そう考えると、改めて、この『ヒプノシスマイク』というコンテンツのかっこよさを実感しますね。
取材・文=田中大 撮影=大塚秀美