Yahoo! JAPAN

悪童会議『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場レポート&茅野イサムインタビュー 演劇の贅沢さと面白さを味わえる、女子たちの濃密な会話劇

SPICE

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より (左から)今村美歩、七木奏音

茅野イサム×中山晴喜によるユニット「悪童会議」の第3回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』が2025年5月21日(水)から上演される。4月下旬の某日、稽古がスタートしたばかりの稽古場を訪問。今回は、抜き稽古(一部のシーンを取り出して行う稽古)の様子をレポートするとともに、演出の茅野イサムのインタビューをお届けする。

永井 愛の名作戯曲を茅野の演出で立ち上げる本作は、明治44年の愛知県の女子師範学校を舞台に、教員を目指し勉学に励む少女たちの友情、恋、夢、そして別れを鮮やかに描き出す。教師たちから「国宝君」と呼ばれるほどの優等生・光島延ぶを七木奏音、延ぶとともに回覧雑誌の発行を計画する杉坂初江を今村美歩が演じるほか、フレッシュな面々が少女たちのみずみずしさを紡ぎ出す。

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

この日は、木暮婦美(MIO)の退学処分の撤回と良妻賢母教育反対を掲げてストライキを行うことに決めた延ぶたちが、参加を呼びかけた学生たちの賛同を喜ぶ場面の稽古が行われた。

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

夜、談話室で回覧雑誌の清書を行う梅津仰子(佐藤美輝)と石塚セキ(川原琴響)と北川 操(松本むち)。その横では、画用紙に表紙の絵を描いている初江がいる。清書の仕方で言い合う仰子とセキと初江。その間を取り持つように振る舞う操。そこに、ストライキの呼びかけを行っていた延ぶと大槻マツ(美花)、山森ちか(夏目愛海)が戻ってくる。

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

他愛もない会話が続くシーンに見えるが、茅野はセリフを掘り下げ、演出をつけていく。例えば、「筆ダコ」という言葉。現代ではあまり聞き馴染みがない。「(この物語で描かれている)明治と今では文化が違う。それを噛み砕いて、理解して演じなければ観る側には伝わらない」という茅野の説明を、役者たちは頷きながら聞く。そうしたやりとりはセリフ1行ごとに続き、何度も繰り返し、同じ場面の稽古が行われた。

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

茅野の演出を聞いた役者たちが、一つの場面を繰り返し演じることで、芝居がどんどん変わっていく。“優等生”でしかなかった七木が演じる延ぶは、奔放さも持ち合わせた、大勢から好かれる魅力的な女性へと変わり、今村が演じる初江は感情豊かで生き生きとした女性になった。そうして一つのシーンがブラッシュアップされていくのだ。

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

茅野の演出は、とことん丁寧で繊細だ。たった一語に込められた想いまで拾い上げ、役者に伝えていく。ときに、自身で演じて、何を伝えるべきなのかを体で表現して見せる。名作と呼ばれる戯曲だからこそ、茅野がその文脈通りに演じることを大切にしていることを感じた。その上で、「芝居は自由」「芝居を楽しんで」とも話す。人に思い切り意地悪をすることも、拳を振り上げて「やるぞ!」と勢いをつけることも、日常生活ではそうそうできない。だからこそ、そうした芝居を心から楽しんで演じてほしいというのだ。それが、役を生きることに繋がり、観客を楽しませることに繋がるのだろう。

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

その後、木原瑠生が演じる新庄洋一郎と、唐橋 充が演じる中村英助の対話シーンの稽古も行われた。稽古前に木原は茅野から小道具の懐中時計の使い方や持ち方を習い、何度か練習をする。その直後に行われた抜き稽古では、早くも木原は堂に入った様子で懐中時計を使いこなしており、その対応力に舌を巻く。二人の掛け合いは、テンポ良く、軽妙に進む。唐橋は空間を自由に動き回り、その場の空気を作り上げていく。すでにしっかりとキャラクターを捉えているようで、熟練の技を感じさせた。

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

それぞれの場面を丁寧に積み重ねるようにして作り上げていた稽古を見学し、ここからどう変わって本番を迎えるのか、期待が高まる。

演出・茅野イサム 稽古場インタビュー

ーーまだお稽古は序盤だと思いますが、現時点での手応えはいかがですか?

ご覧になってわかるように、序盤から細かく演出をつけているので、歩みは遅いですが、芝居の稽古をきちんと積み重ねていけているのではないかと思います。役者さんが変化していくさまが日々感じられるので、手応えは感じております。

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

ーー永井 愛さんが1997年に書かれたこの戯曲を今、そして悪童会議で上演することに対してはどのような思いがありますか?

悪童会議は、僕のお芝居の原点で、僕が以前に所属していた「善人会議」、現在の劇団扉座へのオマージュを込めて名付けたものです。なので、当初、旗揚げからの1作目、2作目は、(劇団扉座の主宰で劇作家・演出家の)横内謙介さんの作品を上演させていただいたのですが、もともと悪童会議ではいろいろな分野の才能ある役者さんが日本の素晴らしい戯曲と出会う場にしたいと考えていました。なおかつ、今のお客さんに、名作と呼ぶにふさわしい戯曲と素晴らしい役者さんに出会ってほしいという思いで続けてまいりました。今回、この作品を上演することに決めたのは、女子が中心となるお芝居だからです。僕は演劇を40数年やっていますが、昨今、本当に女子の活躍の場が限られてしまっていると感じます。普段、僕も男子のお芝居ばかりをやっているので、演出家として、演劇人として、このままで良いのかという思いもあり、あえて女子を中心に据えたお芝居をやりたいと思いました。この悪童会議でワークショップやオーディションをする中で、僕自身、力のある女優さんがたくさんいることを知り、ぜひ一緒に芝居づくりをしたいと思いましたし、彼女たちに活躍の場を作ってあげたい。そして、お客さんにも「こういうお芝居も面白い。素敵だ」と気づいていただき、少しでも今のこの演劇界が本当の意味での多様性がある世界になればという願いを込めてやっています。とはいえ、もちろん女子だけでなく、僕が大好きな大人の役者さんにも集まっていただいています。僕たちにはレジェンドのような女優の千葉雅子さん。そして、普段、僕が一緒にやっている木原瑠生くんや唐橋 充さんにも参加していただいています。きっと彼らにとってもいい経験になるのではないでしょうか。

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

ーー演出面ではどのようなことをお考えですか?

僕はミュージカル『刀剣乱舞』のような2.5次元ミュージカルをはじめとしたエンターテインメント性の高い作品の演出も手がけているので「エンタメ系の演出家」と書かれたりもしましたが、もともとは小劇場の俳優であり、そしてストレートプレイや会話劇を演出していました。なので、僕自身は、むしろそちらの方が自分のフィールドだと思ってやっておりますし、僕の原点はこうした会話劇や小劇場のような濃密な空間で、濃密なお芝居を作ることにあると思っています。もちろんそれは、いわゆる大きな舞台にも生かされているのですが、結局、やっていることは変わりません。そこに歌やダンスが入ることはあっても、ベースとなるのは人と人がそこにいて、人と人が心のやりとりをする。言葉のやりとりというのは、心のやりとりだと思います。演劇の良さは同じ空間で、そうした生の声を聞き、生の感情を感じ取ることで、それは演劇の贅沢さでもあります。僕はエンターテインメント作品も大好きですが、片やこうした濃密に作る演劇もやっていきたいと思っております。

悪童会議 第三回公演『見よ、飛行機の高く飛べるを』稽古場より

ーーなるほど。今日、稽古を見させていただき、濃密な会話劇でありながらも、とても親しみやすく楽しい、エンタメ的な魅力にも溢れた作品になるのではと思いました。茅野さんはどのような作品でも「楽しませる」ことに重きを置いていらっしゃるのかなと感じたのですが、それについてはいかがですか?

明治を舞台にしていますし、扱っているテーマを考えると先入観で「難しいものなのではないか。高尚なものなのではないか」と身構えてしまいますが、そうではないことは伝えていきたいと思っています。人間の愚かさや不完全なところを愛情たっぷりに書かれた作品なので、ちょっと困った人がたくさん出てくるんですよ。この時代、生徒から見たら怖い存在である教師も、実は滑稽な一面も持っている。永井 愛さんは、人間を観察する力が素晴らしい作家さんです。人間の面白さが書かれた作品なので、その面白さをきちんと届けたいと思っています。泣いたり笑ったりしながら、今に通じるメッセージ性が皆さんの中に少しだけ残ってくれたらいいなと。僕は、絶対に演劇は面白くなかったらダメだと思っているので、僕が作る以上、どんなお芝居も絶対に楽しめる面白いものにしたいと思っていますし、この作品もそうなると思います。

取材・文・撮影=嶋田真己

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 【来て】GW旅行に長崎を激推しする5つの理由 / インバウンドで混んでるかと思いきや快適すぎ…!

    ロケットニュース24
  2. 「やばい」「ひどい」と言われるスーパー銭湯『東京湯楽城』に行ってみた正直な感想 / 成田空港からバスで25分! ただし……

    ロケットニュース24
  3. 京都・東京で『文豪とアルケミスト』初の大規模展示会『文豪とアルケミスト展 -帝國図書館年鑑-』を開催 描き下ろしイラストのグッズ販売も

    SPICE
  4. 『やなせたかし兄弟の進路選択 』図案家を目指した兄、エリート養成高校へ進んだ弟

    草の実堂
  5. 【2025年晩春】手きれいって褒められる。50代こそ似合う最新ネイル

    4yuuu
  6. <フル>“豪快” 海外スターが大阪に集結 一世を風靡したあの人も! 『大阪コミコン2025』

    動画ニュース「フィールドキャスター」
  7. 『MURO FESTIVAL 2025』BIGMAMA、LACCO TOWER、w.o.d.ら第三弾アーティスト&出演日を発表

    SPICE
  8. 【ゾッ】ガラガラの新幹線車内で男性グループに話しかけられた結果 → 予想だにしない展開に震えた…

    ロケットニュース24
  9. 【西武】西口文也監督インタビュー 先制点に関して思うこととは?

    文化放送
  10. 【2025年5月】大人のこなれ感がハンパない。最新ローズピンクネイル

    4MEEE