時間の層を解く ― 千葉市美術館「Nerhol 水平線を捲る」(レポート)
田中義久(1980-)と飯田竜太(1981-)によるアーティストデュオ、Nerhol(ネルホル)。写真と彫刻、自然と人間社会、見えるものと見えないものなどの間を行き来するような独自の作品世界は、アートファンから注目を集めています。
これまでの重要作や未発表作に加え、千葉市の花である「蓮」を用いた大規模なインスタレーションなどを紹介する展覧会が、千葉市美術館で開催中です。
千葉市美術館「Nerhol 水平線を捲る」会場入口
Nerholはグラフィックデザイナーの田中と、彫刻家の飯田により、2007年に結成。人物の連続写真を重ねて彫るポートレート作品で注目を集め、活動領域を広げながら独自の世界観を深化させています。
今回の展覧会は、公立美術館では初めての大規模な個展になります。
千葉市美術館「Nerhol 水平線を捲る」会場風景
展覧会は、特徴的な展示計画もみどころのひとつ。建築家の西澤徹夫氏が協力し、美術館の構造を活かして計画されました。
千葉市美術館「Nerhol 水平線を捲る」会場風景
Netholの代表作ともいえるポートレートのシリーズは、2012年からスタート。人物をモデルに3分間かけて200枚の写真を連続撮影し、プリントした写真を重ねて、カッターで彫りこんでいます。モデルは完全に静止することはできないので、作品には身体の動きや揺れが現れており、いわば時間を内包したポートレートともいえます。
後に作品は、映像からコマ抜きした画像を彫るなど、従来の手法を活かしつつ発展していきました。
Nerhol《Girl》2021
Nerholは、2020年から帰化植物をモチーフにした作品を制作しています。
シロツメクサやコデマリなど、道端でしばしば目にするこれらの植物は、もとは国内には存在しなかった外来種。グローバリゼーションを礎に発展してきた人間の社会活動などの影響を受け、国内に持ち込まれ野生化しました。
コロナ禍による移動制限を経て、あらためて「移動」について問いかけます。
《Dysphania ambrosioides》2023
床に無数に置かれた石のような作品は、地中に埋もれた樹木に珪酸が浸透して化石化した珪化木(けいかぼく)を用いたもの。
太古の姿をそのまま残している「植物の化石」である珪化木を水平に切断し、内部に閉じ込められていた時間を切り開こうとする試みです。
千葉市美術館「Nerhol 水平線を捲る」会場風景
通常、千葉市美術館での企画展は8階と7階の企画展示室で開催されますが、今回は建物1階の「さや堂ホール」も利用。材料の一部に千葉市の花である「蓮(オオガハス)」を用いた大量の黄色い和紙を、床一面に配しました。
2000年以上前の古代ハスの実から発芽・開花したオオガハス。大賀博士がその快挙を成し遂げてから70年余。そして会場のさや堂ホールは、旧川崎銀行千葉支店として戦前に建築と、複数の時間が堆積したような展示空間です。
千葉市美術館「Nerhol 水平線を捲る」 さや堂ホール会場風景
会場後半では、ふたりが選んだ千葉市美術館のコレクションも展示。「Coexistence(共存)」のテーマのもと、近世から現代まで42のコレクションと、Nerholの作品が並びます。
ユニークな試みとして、館内6カ所に設置されたQRコードを読み取っていく「NFTデジタルスタンプラリー」も実施。コンプリート特典として、NerholによるNFT作品が獲得できます。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年9月5日 ]
千葉市美術館「Nerhol 水平線を捲る」会場より(左から)田中義久、飯田竜太