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「ハラスメントと思われるのでは」 部下が怖くて指導に悩むあなたへ——信頼を育む“伝え方”

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「何を言ってもハラスメントと思われそうで、もう指導ができないんです」

近年、そんな管理職の方の声が増えています。ある課長職の方は研修で、「昔なら普通だった“注意”が、今は通報されるリスクもある。今の若手にはどう接すればいいのかわからない。何も言わないほうが安全に思えてしまう」と語ったそうです。

マイナビ転職の「管理職の悩みと実態調査」でも、管理職の悩みとして4人にひとりが「パワハラなど、ハラスメントと言われるのを避けたい」との回答を挙げたという結果が出ています。

そんな注意や指導が“通報リスク”と隣り合わせになった今、若手社員との関わり方に戸惑いを感じている方も多いのではないでしょうか。

一方で、マイナビ転職の「新入社員の意識調査」によると、新入社員の57.4%が「自分の職場はゆるい」と感じていることが明らかになりました。

これは、若手が「叱られない」「期待されていない」と感じている可能性を示唆しています。
また、ゆるい職場というと一見気楽に働けて良さそうに見えますが、指導を受ける機会の少なさに「ここでは成長できない」と焦りを覚え、より成長をできる環境を求め転職していく人も一定数いるそう。

つまり、管理職が“言わない”ことで守っているつもりの関係性が、実は信頼や成長の機会を遠ざけているだけでなく、若手の離職の一因になってしまうかもしれない、ということです。

もちろん、パワーハラスメントは決して許されるものではありません。けれど、その「恐れ」が強くなりすぎて、育成を手放すようになってしまっては、本末転倒です。

では、今の時代において、どのように「伝える」ことが求められているのでしょうか?

ハラスメントを恐れずに信頼を育むための“伝え方”について、管理職の方が安心して指導に向き合うためのヒントを、キャリアコンサルタントの林碧先生に伺いました。

キャリア・コンサルタント

林 碧(はやし みどり)
株式会社キャリアイズ 代表取締役社長、国家資格キャリアコンサルタント・キャリアコンサルティング技能士2級、両立支援コーディネーター。 企業人事経験および個別相談対応経験を活かし就職・転職の相談からライフキャリアビジョン構築、育児・傷病など個別事情との両立まで、幅広い相談に対応。通算4000件以上の個別面談実績、年100件以上の研修登壇実績を保有。特に若年層のキャリア形成支援を得意とし、大学での登壇実績が豊富である他、企業向けの育成者研修や若手定着支援、人材コンサルティングも実施。日経Xwomanアンバサダー。小学生2児の母。

※若手社員が「ここでは成長できないかも」と感じてしまう【ゆるブラック】な職場とは? 不安解消のヒントはこちらの記事でチェック
「周りに置いていかれる」若手がゆるい職場に不安を覚えるワケ - ミーツキャリアbyマイナビ転職( https://meetscareer.tenshoku.mynavi.jp/entry/20230713-ishikawa/data07 )


•「ハラスメントが怖い」管理職が抱える不安とは?
•「伝え方」次第で変わる——ハラスメントとの境界線
•委縮せずに伝えるために——“事柄にフォーカスする”という基本
•「何も言わない」ことで生まれる、別の問題
•育成の本質は「味方であること」——信じて関わり続ける
•育成は「言葉」だけでなく「日常の信頼」から
•「何をもってハラスメントと感じるか」のギャップに向き合う
•伝えることに向き合い続けるリーダーであるために

「ハラスメントが怖い」管理職が抱える不安とは?

ハラスメントへの懸念から指導をためらう管理職が増えている……その背景には、複数の不安が複雑に絡み合っています。

たとえば── ●どこまでが「指導」で、どこからが「パワハラ」なのか線引きが難しい
●相手の受け取り方次第と思うと、何を言っても不安になる
●SNSや社内通報制度の存在が、監視されているようで委縮してしまう
●過去に「パワハラでは」と指摘された経験がトラウマになっている

さらには、「今は寄り添いの時代だとわかっている。でも、自分は厳しく育てられてきたから、どう変わればいいのかわからない」という葛藤も多く聞かれます。

こうした不安が蓄積していくと、「指導しない」という選択肢に流れてしまいがちです。しかしそれでは、組織としても、部下本人にとっても健全な状態とは言えません。

「伝え方」次第で変わる——ハラスメントとの境界線

厚生労働省では、パワーハラスメントの要件として以下の3点を挙げています。

パワーハラスメントの要件 1.優越的な関係を背景とした言動であること
2.業務上必要かつ相当な範囲を超えていること
3.相手に精神的・身体的な苦痛を与える、または職場環境を悪化させること

重要なのは、「怒ってはいけない」「厳しくしてはいけない」という話ではないということです。“業務上必要”かつ“合理的な範囲”で、相手の人格ではなく行動にフォーカスして伝える——この基本さえ押さえていれば、指導そのものを恐れる必要はありません。

委縮せずに伝えるために——“事柄にフォーカスする”という基本

指導において最も大切なのは、「人格」ではなく「行動や事実」に焦点を当てることです。

たとえば、「だらしない人だね」と言うのではなく、「この資料が提出されていなかったため、進行に支障が出ました」と、ファクトと影響を冷静に伝えることが求められます。

「この行動をどう変えてほしいのか」「なぜ今伝える必要があるのか」といった目的や指導意図を自分でも言語化できているかがポイント。 言葉の背景が説明できることは、指導者としての信頼につながります。

そしてもう一つ大切なのが、相手の背景を想像する姿勢です。

結果だけで判断せず、「何か事情があったのではないか?」「こう伝えたらどう感じるだろうか?」と相手の立場を想像することが、誤解の回避にもなります。

加えて、判断に迷ったときは、同等の立場の第三者に相談することも効果的です。 独りよがりにならず、冷静に「伝え方」を整える手助けになります。

「何も言わない」ことで生まれる、別の問題

「ハラスメントと受け取られたくないから、あえて何も言わない」——これは一見“リスク回避”のように見えますが、実は職場にとって深刻な弊害を生むことがあります。

たとえば、問題行動に対して誰も指摘しなければ、本人は気づく機会を失います。小さな誤りや態度のズレが修正されないまま広がり、やがて周囲の不満や不信感が蓄積していきます。

結果として、「あの人は何をしても許される」「上司は見て見ぬふりをしている」という空気が職場全体に蔓延しかねません。

また、成長機会を奪われた本人にとっても、それは不幸なことです。厳しさを伴うフィードバックをもらえなかったことで、次のチャンスに備えた力をつけられない。そんな状態が続けば、本人の評価も、そして自信も、じわじわと下がってしまうのです。

「言わないこと」もまた、実は“影響力を持つ選択”であることを、私たちは忘れてはなりません。

育成の本質は「味方であること」——信じて関わり続ける

よく聞く声に、「今は寄り添えって言うけど、自分は厳しく育てられてきた。どう接すればいいかわからない」というものがあります。

けれど、育成において求められているのは、“優しくすること”でも“叱らないこと”でもありません。それは「この人の成長を信じ、そばで支えようとする姿勢」であり、“一番近い味方”であることです。

管理職に求められる「育成」の姿勢 ●言うべきことを伝えながらも、見捨てない
●一方的に評価せず、対話を通じて理解しようとする
●背中を押すときも、踏みとどまらせるときも、相手の未来を信じている

こうした関わりの積み重ねが、部下にとっても「安心して成長できる環境」につながっていきます。

育てることを諦めない。伝えることから逃げない。その姿勢こそが、時代が変わっても管理職に求められる本質的な力ではないでしょうか。

育成は「言葉」だけでなく「日常の信頼」から

適切な指導を機能させるために、日常の何気ない関わりが土台になります。

たとえば、相手の強みを見つけてフィードバックしたり、小さな進捗に気づいて声をかけたり、ちょっとした雑談の中で共通点を見つけて笑い合ったり——。こうした積み重ねが、「この人に言われたことなら聞いてみよう」「厳しくても自分のためを思って言ってくれている」と、部下に受け止められる“心理的安全性”につながっていきます。

指導が「一回限りのイベント」になってしまうと、どうしても一方通行になりがちです。だからこそ、日頃の関係性づくりこそが、最良のハラスメント対策でもあるという視点を忘れずにいたいものです。

「何をもってハラスメントと感じるか」のギャップに向き合う

さらに最近は、「これは注意ではなくハラスメントだ」と、若手側から訴えられるケースもあります。

たとえば、目の前で深いため息をつかれた、目を合わせずに冷たくされた、という行動ひとつを「圧をかけられた」と受け取られてしまうこともあります。

このような“感じ方のギャップ”に戸惑う管理職も多いですが、大切なのは防衛ではなく対話です。誤解が生まれたと感じたら、しっかりと説明し、相手の感情にも耳を傾けること。「そんなつもりはなかった」と突っぱねるよりも、「どう受け取ったかを知りたい」と一歩踏み込むことで、関係性は修復されやすくなりますし、若手側もどう捉えるべきか、捉え方が修正されていくでしょう。

若手の感受性が高まっている今だからこそ、相互理解の“橋渡し”役としての上司の姿勢が問われているのです。

伝えることに向き合い続けるリーダーであるために

ハラスメントに関する不安を持つことは、自分の身を守りたいという気持ちの現れ。誰にでもある自然な感情です。それでもその不安に向き合い、「どう伝えるか」「どう信頼関係を築いていくか」を自分なりに考え続けることが重要で、そこに、これからの時代に必要なマネジメントの姿があります。

正解のない時代だからこそ、必要なのは誠実さと、相手に向き合おうとする意志。それさえあれば、多少言い方が拙くても、理想通りの振る舞いが急にはできなくとも、思いが伝わることはあります。

ハラスメントを恐れて黙るのではなく、相手の成長に寄り添う「味方」として、伝え方を磨き続けること。それが、信頼される管理職としての第一歩になるはずです。



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( https://tenshoku.mynavi.jp/content/declaration/?src=mtc )

文・マイナビ転職編集部

【出典】
マイナビ転職「管理職の悩みと実態調査」( https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/21/ )
マイナビ転職「新入社員の意識調査(2023)」( https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/15/ )


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