ひまわり号37号乗車レポート(2024年5月26日開催)~ 障がい者とボランティアが共に作り上げた倉敷発着姫路への旅
自分の限界を、自分で決めてしまっていませんか。
そう問い直される旅が、倉敷駅を起点に毎年開催されています。
障がいのある当事者と介助ボランティア数名が一つのグループを作って、目的地を観光するひまわり号が今年も無事に開催されました。
ひまわり号37号姫路の旅
ひまわり号は、年に1回運行する倉敷駅発着の障がい者専用の貸切列車です。
新型コロナウイルス感染症などの理由で中止した年もありましたが、1982年から毎年のように続いており、2024年は37回目の運行となります。
旅先も毎年変化があり、2023年度は岡山県津山市へ、今年度(2024年度)は兵庫県姫路市へ行きました。
大変人気のある企画で、障がい者からの申込は110人もあったとのことです。
申込者のなかから抽選で選ばれた50名の障がい者と10名の付き添い家族、ボランティアの総勢201名で倉敷駅から姫路を目指します。
障がい者のなかには、医療的なケアが必要な参加者も想定されるため、ボランティアには医療スタッフも帯同していました。
当日の流れ
当日の行程は以下のとおりです。
参加者によっては「電車に乗ること」が目的の人もいれば、屋外でゆっくりお弁当を食べることが目的の人もいます。興味の対象だけでなく体力も人によって異なるので、姫路市内での観光は各々自由にまわれるよう設定されていました。
出発セレモニーから解散まで参加者の写真を撮りながら一緒に参加してきたので、当日のようすを紹介します。
出発セレモニー
倉敷駅北口で受付を済ませると、かわいらしいバッジをもらいました。
このバッジもボランティアによる手作りなのだとか。ひまわりと電車が書かれたバッジは4種類。すべて探しながら歩くのも楽しいですね。
倉敷駅北口広場では、岡山県下初の消防音楽隊「倉敷市消防音楽隊」による記念演奏に合わせて、倉敷バトンフレッシュトワラーズの演技の披露がありました。
ステージには、真備町の障がい者就労継続支援B型事業所「倉敷市まびの道」で丹精込めて作られた花々が飾られ、これからの旅への期待が膨らみます。
倉敷駅→姫路駅 ひまわり号
セレモニーが終わると、各々ホームへ出発します。
ボランティアだけでなくJR倉敷駅の職員たちも全員がスムーズに乗車できるよう、電車の入り口にスロープを設置したりエレベーターの誘導をしたりしてくれました。
車内では、障がいのある当事者と介助ボランティアが旅のしおりを開いて行き先を相談するようすもありました。
この日が初対面の当事者と介助ボランティアがほとんどなので、行きの電車のなかはまだ少し緊張した雰囲気です。
適宜ギターの演奏や腹話術などの車内レクリエーションも開催されながら、姫路へと向かいます。
お弁当
姫路駅に到着すると、それぞれのペースで姫路城下の家老屋敷跡公園を目指します。
姫路駅前には、介護タクシーや姫路市社会福祉協議会のボランティア65名も待機していました。
全ボランティアが倉敷発着ではなく、姫路の地を熟知しているボランティアが「迎えてくれる」環境は大変心強いですね。
当日はお天気にも恵まれ、青空の下で食べるお弁当に障がいのある当事者もボランティアも箸がとまりません。
姫路城周辺散策
旅のしおりを読むと「車いすでも備前丸広場まで案内します」と記載されています。
たしかにスロープが設置されているとはいえども、天守閣までは急な坂道が続きます。どうやって登るのだろうかと気になり、まずは姫路城に向かいました。
入り口を抜けると、ユニバーサルマップをもったスタッフが待ち構えていて、天守閣への道のりの見通しを説明してくれます。
ユニバーサルマップ:車いすに乗った状態でも、姫路城が美しく撮影できるおすすめのポイントや、くつろいで休憩できるポイントが掲載されたマップ。姫路ユニバーサルツーリズムセンターが作成。
車いすに乗っている人は、自分の足で歩く人にルートを委ねることが多くなりがちですが、見通しが掴めないと体力的にも精神的にも不安ですよね。介助ボランティアだけでなく障がいのある当事者本人に向き合って説明する姿に、あたたかさを感じました。
備前丸広場までは、車いすがまるでリレーのバトンのように各スポットにボランティアが待ち構えていて、力を合わせて車いすを備前丸広場まで誘導してくれました。
青い空に「白鷺城」の呼び名をもつ白いお城が映えて、皆さんうれしそうに写真を撮っていたのが印象的です。
姫路城下の迎賓館では、天守閣まで登庁するガイドのライブ中継もおこなわれました。「備前丸広場までの登頂には自信がないけれども登った気持ちになりたい」という参加者のニーズにも対応したサービスですね。
続いて、姫路市立動物園に行きました。アットホームな広さかつ日陰も多いスポットなので、ここで飲み物休憩をしている参加者も多くいましたよ。
考古園では、視覚障がいのある参加者が、ガイドヘルプボランティアと共に園内を散策していました。甲冑(かっちゅう)を身にまとった園内スタッフも、快く甲冑に触れさせてくれたので参加者も満足そうにしていました。粋なサービスですね。
姫路市立美術館にも足を延ばしたかったのですが、そろそろ姫路駅に戻らねばならない時間になったので、次回の姫路旅のお楽しみにしようと思います。
姫路駅では、自分や家族へのお土産をゆっくりと選んでいました。介助が必要な障がい者にとって、旅は非日常な一日。お土産も大奮発している参加者を多く見かけました。
姫路駅→倉敷駅 ひまわり号
帰りの車内では、クイズ大会やビンゴゲームをしたり、旅の思い出をしおりに記入したりとゆったり過ごしました。
ビンゴゲームの景品は、非売品の電車グッズや姫路のお土産が用意されており、障がいのある当事者もボランティアも大盛り上がりでしたよ。
夕焼けがきれいな時間帯に、倉敷駅へ無事到着。
帰りを待つ家族にお土産を渡したり、介助ボランティアと障がいのある当事者の家族が楽しそうに語り合ったりする姿が、駅構内のあちこちで見られました。
大きなけがや事故もなく無事に倉敷駅に戻ってこられてひと安心。
障がいのある当事者もボランティアも、出迎えた家族も、みんな出発したときの緊張した表情からは想像できないほどやわらかい表情で解散を迎えられました。
今回のひまわり号37号姫路の旅は、障がいのある当事者とボランティアが互いに刺激を与えあう姿が多々見られました。
障がいのある当事者とボランティアがともに行きたい場所を相談する旅
行きの車内で写真を撮りながら、各グループに「今日はどちらを観光する予定ですか?」と尋ねると、障がいのある当事者の多くが「動物園に行きたい」と言っていました。
「姫路城は登らないんですか?」と尋ねると、ほとんど人が「そんな遠くまで行けないわよ!」と苦笑い。
しかし、お弁当の時間になるとボランティア側から「私たちも姫路は久しぶりなんです。せっかく来たんだから備前丸広場まで行きましょうよ」と、障がいのある当事者を説得しようとする姿がちらほらと見られはじめます。
最初は及び腰だった参加者も「しょうがないわねぇ。でも、連れて行ってもらえるなら行ってみようかしら」と、備前丸広場へ行き先を変更したグループが増えていきました。
行き先を動物園から備前丸広場に変更したグループのボランティアに、なぜ行き先変更の相談をしたか尋ねてみると、
「ここが倉敷市内だったら、いつでも来られるしと思って当事者の意見を尊重したと思うんです。でも、姫路って、私たち健常者にとってもじゅうぶん旅行先で。だから、私も姫路を堪能したくてついお願いしちゃいました」
と笑いながら答えてくれました。
障がいのある当事者とボランティアが対等な「観光者」だからこそ、ともに自分の体験したいことを相談して、新しいことに挑戦する姿が見られたように思います。
障がいのある当事者同士が刺激を与えあう旅
実は、備前丸広場に向けて多くの参加者が登頂しはじめたのは、最初の登頂者が下山した頃。
お弁当をゆっくり食べていた参加者や行き先をゆっくり考えていたグループの人たちのもとに「〇〇さん、備前丸広場に行ってきたらしいよ」のような情報が届いたのがきっかけで、自分たちも備前丸広場を目指すことにしたグループも多くあったのだとか。
肢体不自由、知的障がい、視覚障がい、聴覚障がい……さまざまな障がい種の参加者がいたので、「自分と同じ障がいのある人が行けたなら自分も行けるかもしれない」「ほかの障がい種の人も頑張っているのだから、自分も挑戦してみたい」と互いに触発される姿がありました。
「ひまわり号」を次の世代に伝えていく旅
ひまわり号は、37回も続く歴史ある貸切列車です。
そのため、毎年この旅を心待ちにしているリピート参加者も多くいました。このリピート参加者は、障がいのある当事者はもちろんボランティアのなかにも多くいるようです。
私は、親子三代で乗車しているご家族に出会いました。このご家族は、おばあ様が障がいのある当事者、お母様がボランティアとして乗車、ご本人は子どもの頃からボランティアとして乗車し、大人になった現在はボランティアをまとめる担当として活躍しているそうです。
彼女は「家族旅行のように親しみのある旅だからこそ、続いていってほしい。今日参加した子どもたちにも、ひまわり号が楽しい旅だと伝わってくれたらうれしい」と語っていました。
このように、長年ひまわり号と共に育ってきた人たちの想いも載せたひまわり号37号姫路の旅。今回もきっと、参加者一人ひとりにそれぞれ大切なエピソードが刻まれたのではないでしょうか。
おわりに
私自身も障がいのある当事者で、特別支援学校で教員をしていたからこそ、障がいのある当事者や家族だけで旅をすると、自分たちの限界を勝手に決めてしまう気持ちがよくわかります。
しかし、この旅では初めて出会ったボランティアと障がいのある当事者が歩み寄ったことで、互いに「これならできるかも」と新しい挑戦にチャレンジできました。
まさに、「障がいのある当事者とボランティアが、ともに旅をしたからこそ見えた景色」に出会えた一日だったように思います。
ひまわり号が、毎年貸切列車で遠くまで、新たな参加者とボランティアを募集して歴史を重ねてきている理由を実感した旅でした。
来年も再来年も、この旅を必要としている人たちのためにあり続けてほしい企画です。