自閉症1歳息子の大癇癪に「親なら泣き止ませろ」の声。親子で引きこもるほうが楽?でも外へ出てみたら…
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
外出先での癇癪、大泣き。通りすがりの人に怒られてしまい……
息子が1歳くらいの頃、ショッピングモールに連れて行った時のことです。息子が泣き出してしまい、なかなか泣き止まず困ったことがありました。その時はとりあえず、人のいない奥まった場所に連れて行ってなだめていたのですが、近くを通った男性に「うるさい!」と怒られてしまったことがあります。
また別の日に、いつものスーパーに行った帰り道で泣き始めてしまい、なかなか帰れなかったことがありました。困って立ち往生していたら、通りすがりの方に「親なら泣き止ませろ」と怒られたことがありました。
こんなふうに外で怒られることは何度かありました。泣き始めたらいろいろと対処してもうまくいかないことも多く、どちらかと言うと切り替えが上手くなかった息子なので、時間がかかることがほとんどでした。
親として対応に手を抜いているつもりはありませんでした。ただ、大声で怒ったり怒鳴ったりしても息子には無意味だと分かっていたので、穏やかな声かけだったり、タイミングを見ようと様子を伺って観察していたりすることも多く、周りの人から見ると、迷惑をかけているのにちゃんと対応していないように見えたのかもしれません。厳しくしているほうがちゃんとしているように見えるものなのかもしれません。
息子と外出するのが怖くなり、家にこもりがちに……
外で人から怒られてしまうと、私も外出するのがだんだん怖くなっていきました。買い物など家にいながらインターネットでいくらでもできる状況でしたし、外に出ず、家で息子と2人で引きこもって過ごしていたほうが、私にとっても周りの人にとっても良いのではないかと考えました。
でも、肝心の息子にとって、それが良いことなのかどうか考えるようになり、やっぱり私はちゃんと息子と外に出て、買い物をしたり遊んだりしたいと思いました。周りの人に迷惑をかけてしまうこともあるかもしれない。それでも私は、息子の成長のために行動していきたいと思ったのです。
困ったときには、助けてくれる人もたくさんいる
こんなふうに怒られる経験ばかりではなく、反対に周りの人から助けられたケースもありました。
息子は消防車が好きで、消防車を見かけると立ち止まってじっと見ていることがよくありました。ある日、消防署の前で立ち止まって動かなくなってしまったことがあります。帰らなければいけない時間になってもなかなか動くことができず困っていたのですが、その時に消防士さんが出てきてくれて、息子に「消防車好き?また見に来てね」と言って、消防車の形の消しゴムをくれたのです。消防車の消しゴムをもらって、息子はすんなりと帰宅することができました。
また、息子が幼稚園の年少の頃、私は生まれたばかりの娘を抱っこ紐で抱いて、息子の幼稚園のお迎えに行きました。帰り道で息子が私に抱っこしてほしいと泣いてしまい、私は娘を抱っこして息子をおんぶして何とか歩いていました。
その様子を見た通りすがりの方が息子に声をかけてくれて、「今買ってきたばかりだから」と言って、お菓子を息子に渡してくれました。その方は、「お母さんを助けてあげてね」と、息子に言ってくれました。
外で注意されたり怒られたりして、人の目が怖くなって、人とできるだけかかわらずに生活したほうが良いのではないかと考えてしまったこともありました。でも、困ったり落ち込んだりした気持ちを救ってくれるのもやっぱり人との関わりの中で生まれるものだなぁと、今では思っています。
小学生になった今、外で癇癪を起こすことはなくなったけれど
息子は今では小学生になり、外で大声で泣いたり癇癪を起こしたりすることはなくなりました。ただいまだに、びっくりしたり不安な気持ちになったりしたときには、思わず大きな声を出してしまうこともあるので、その都度注意して気をつけていっている現状です。
まだまだ教えることはたくさんありますが、少しずつ成長して、少しずつ社会に溶け込んでいっているのではないかと思います。
執筆/メイ
(監修:鈴木先生より)
スーパーなどで「うるさい!」と言う方はもしかしたら聴覚過敏がある方だったのかもしれません。世の中にはちょっとした音に敏感で、特にお子さんの泣き声が嫌いな方もいるのです。そういう時には「すみません」とひとこと言ってその場を去るしかありません。電車などの公共機関で静かにすることが難しい場合、周囲に迷惑をかけないように車で移動するケースもあるかと思います。世の中にはいろいろな人がいます。ひきこもるよりは勇気を出して外の空気を吸いながらいろいろな人に触れ合うことで子どもは成長していくものです。その中で相性の合う方がいれば、それだけでも救われますね。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。