【逗子発】「おかん革命」子育てや家事をラクに! 母親が“得意なこと”で輝く「ママユニット」の挑戦
息子への思いをラップにして呂布カルマ賞を受賞した「マイクラおかん」こと下崎真世さんインタビュー。第2回は、母親たちの「やりたい」を実現させる「YES! OCAN(オカン)」の取り組みについて。全3回。
写真▶おかんラッパーのステージ姿を見るラップは全くの初心者ながらも、育児の苦悩や不登校の息子へのリアルな思いをリリック(歌詞)で綴り、ラップコンテストに出場し、呂布カルマ賞を受賞した「マイクラおかん」こと下崎真世さん。YouTubeに上がっているコンテスト動画には、「逃げない姿に勇気をもらった」「リアルでかっこいい」などのコメントが多く寄せられています。
第1回では、息子が不登校になるまでの歩みについて伺いました。第2回では、下崎さん主催の「おかん万博」の開催から「YES! OCAN(オカン)」結成までの話を伺います。
母親こそ挑戦し楽しめる場を──「おかん万博」開催
小学3年生の息子が不登校になり、会社を辞めた下崎さんが「自分にできることを」と始めたのが、ゲーム大会でした。週1回、息子と一緒にオンラインでマインクラフト(マイクラ)をプレイし、その様子をYouTubeで配信するというものです。
「一般的に子どもの居場所を考えたときに、海や山など自然の中にはその場があるのに、“ゲームの居場所”がないと感じました。インドア派の子どもたちが安心して過ごせる場所を作りたかった」(下崎さん)」
下崎さんは、子どもの“ゲームの居場所”を作ろうと、地域の子育てイベントにも積極的に参加し、ママたちの声に耳を傾けてきました。すると、子どものことには一生懸命だけど、自分のやりたいことが見えなくなっている母親が多いということに気づいたのです。
「子どもを変えようとするのではなく、まずは母親が変わらなければ」と一念発起。今はできないけど、いつかやりたい──ではなくて、「今やってみよう」と、2023年8月に「おかん万博」を開催します。
2025年7月、「YES! OCAN」のおかんクルー「ひるね」による間借りカフェ(逗子市)がオープン。右が下崎さん。
おかん万博開催にあたり、フリースクールに通う児童の母親や、PTAの仲間など7人の“おかんクルー”が集まった。 写真提供:下崎真世
「おかん万博」とは、ママたちそれぞれが特技や好きを活かしてパビリオンを開く“おかんのチャレンジ博覧会”。息子が週2回通う、フリースクール「cas!ca(カシカ)」(逗子市)を借りて、下崎さんによるマイクラ親子ゲーム大会をはじめ、占いやガラス細工のワークショップ、水餃子やスイーツの販売など個性豊かなパビリオンが並びました。
「裏テーマを“サイバー”とし、会場内を暗くしてミラーボールを回し、打ち込み系の音楽を流し、蛍光ジュースを振る舞いました。ここで言うサイバーとは、朝や昼のまっとうな光ではなく、夜のネオンのような光をイメージしています。普段は見えない光や愛が、誰の中にもあると思うんです。そんな一面を解き放てる場にしたかった。
おかげでパビリオンの扉を開けるたびに『なにこれ!?』と驚くような、カオスでユニークな世界が広がりました」(下崎さん)
ネオンのような妖しい光に包まれた会場内。
下崎さん主催の「マイクラ親子ゲーム大会」も大盛況。初心者から上級者まで集った。 写真提供:下崎真世
これは誰のためのイベントかと聞かれたら、「自分のため。まずは自分たちが楽しまなくちゃ」と下崎さんは答えます。
結果、開催は1日のみで約200人が来場。このイベントの成功を皮切りに、「やってみたい」をかたちにする流れが動き出します。
おかんたちでキッチンカー運営をスタート
「おかん万博」を成功させた下崎さんは、母親が活躍できる身近な料理で「次はキッチンカーをやってみよう」と考え始めます。
ちょうどそのころ、逗子市の商工会が創業支援としてキッチンカーの貸し出しを開始。1日2,500円で利用でき、最長3ヵ月間運営できるという企画でした。
下崎さんはプレゼンを経て権利を勝ち取り、キッチンカーの運営を始めます。もともと7人だった“おかんクルー”はさらに増えて13人、未就学児から大学生までの子どもを育てる30~40代のママたちでした。
これが、ママユニット「YES! OCAN(オカン)」の始まりです。掲げたスローガンは、「おかんもできる、ゼロ(0)からできる」。ここでも裏テーマは“サイバー”とし、キッチンカーにネオンを灯し、平日の日中は毎日、逗子市役所前に出店しました。
おかんたちによるキッチンカー。カレーや中華などの日替わりメニューはいずれも好評だった。 写真提供:下崎真世
やがてこの活動は、家族を支える日々の食事へと形を変えていきます。2025年7月現在、おかんクルーは6人。メインの事業は夕飯のデリバリーサービスです。
「コンセプトは『夕飯くらい手を抜いて、自分と子どもの時間にしようぜ』です。私は料理が得意ではないので、誰かが作って届けてくれないかなってずっと思っていました。
一方で、作るのが好きな人はたくさんいる。私は売るのが得意なので、料理が得意な人と配達ができる人とを組み合わせればいいと考えたんです。
何かをやりたいママたちが、それぞれできること・自分の得意をいかして輝ける場所を作りたい。私はそのための仕組みを作っている感じですね」(下崎さん)
子育て中の母親だからとあきらめるのではなく、できることを形にしていく。下崎さんの歩みは、そんな希望を映し出しているのではないでしょうか。
生きやすさのヒントは「シェア」
「YES! OCAN」の活動は、「食」だけにとどまりません。その根底には、「シェアできる文化を広げたい」という強い信念があります。
「得意なことをシェアし合い、助け合えたら暮らしも気持ちも軽くなる。誰かが苦手なことは、別の誰かの得意で補えばいい。時間も、場所も、子育ても、いろんなことをシェアできるほうが、社会ももっとやさしく回っていくはずなんです。
今、子育てでつらい状況にあるママやパパがいたら、例えば夕飯を手放してみませんか。デリバリーや外食もいいし、ママ友パパ友といっしょに作るのでもいい。
孤軍奮闘していると、シェアする方法が見えなくなってしまうから、まずは少し周りを見てみてほしいですね。手放す代償としての出費はあるかもしれないけれど、一歩踏み出すことで状況も変わると思います」(下崎さん)
そんなシェアの精神が、キッチンカーの運営やデリバリーサービスには息づいています。
3ヵ月間のキッチンカー運営を終えたころには常連も増え、「自分たちのキッチンカーがほしい」という思いが芽生えた下崎さん。しかし必要な資金は100万円──。
どうするか悩んでいたときに目にしたのが、優勝賞金100万円のラップコンテストの募集記事でした。賞金目当てで応募した下崎さんは約400名の応募の中からファイナリスト10人に選ばれ、みごと、呂布カルマ賞(審査員特別賞)を受賞します。
次回は、下崎さんが挑んだラップコンテストと、その裏にある想いなどについて伺います。
●下崎 真世(しもざき まよ)PROFILE
ラッパー、イベントオーガナイザー、母親たちによるユニット「YES! OCAN(オカン)」代表、“ゲームの居場所”支援。「マイクラおかん」として、2023年開催の「NIKKEI RAP LIVE VOICE」(日本経済新聞社主催)に出場。ラップ未経験ながら審査員・呂布カルマ氏の心をつかみ「審査員特別賞」を受賞。
取材・文/稲葉美映子