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四国遍路のお寺の住職が考える、密教を「他者との共存」に生かす術【学びのきほんが聞いてきた】

NHK出版デジタルマガジン

四国遍路のお寺の住職が考える、密教を「他者との共存」に生かす術【学びのきほんが聞いてきた】

四国遍路のお寺の住職が考える「他者との共存」

お寺や神社などにお参りに行く方でも、「宗教を学ぼう」と言われると、なんとなく敬遠してしまうことが多くはないでしょうか。でも、宗教を信じる・信じないにかかわらず、歴史の中で積み上げられてきた教えたちは、現代社会の暮らしにおいても大きな学びにつながります。

2025年3月、近寄りがたいイメージを持たれがちな「密教」を、「今のみんなに必要な生き方のヒント」として読み解いた『NHK出版 学びのきほん みんなの密教』が発売後即増刷となりました。

著者の白川密成さんは四国遍路のお寺の住職を務めながら、多くの方に仏教・密教について伝え続けています。

今回は、前回の「おすすめの密教入門書紹介」につづき、さまざまな国籍・人種・バックグラウンドを持った方が訪れるお寺の住職として白川さんが考える、密教を「他者との共存」に生かす術について、伺ってきました。(聞き手:学びのきほん編集部)

密教は「他者との共存」をテーマにしている

『みんなの密教』でも全体を通してお伝えしたことですが、密教は仏教のなかでもかなり特殊な教えで、他の教えを否定せずに取り入れてきた歴史があります。そのうえで「自分とは何か」ということを表明してきました。ですので、密教には「他者との共存」というテーマが中心にあると思います。

 他者との共存って、現実的な生活の中でざっくりいえば「他の人に興味を持つ」みたいな話で、まず大切なのは、他の人がどういうことを考えているのか興味を持つこと。しかも、それを肯定する必要はありません。まずはその人の考え自体があることを認める。そのうえで、「自分はこう思っている」ということをはっきり表現する。そういったところが人付き合いのコアな部分ですし、私自身も気をつけています。

 これは数年前に高野山で一か月間の修行をしていたときのことなのですが、師匠との印象深いエピソードがあります。その修行をしているとき、ふと師匠が「いまの人は自分に忙しいな」ということを言っていました。自分のインナーワールドで遊んでしまって、そこにばかり忙しいというんですね。師匠は、「本当の意味で自分というものが分かるのは他者に対して自分をぶつけたときなんだ」と言っていました。要するに、「自分、自分、自分」という風に突き詰めて考えてみても分からないことが、他者に対して自分を吐露してみると見えてくるものがある。このエピソードは、他者との共存を考えるとき自分なりにヒントにしています。

人間関係の要点は「伝え方」

 密教は、「伝え方」をすごく気をつけている宗教です。たとえば「曼荼羅」ひとつとっても、お経の文字を読むだけでは分からないことをビジュアルにして表現しているわけです。「印」にしても同じことですね。本来文字で表現されていたものを曼荼羅や印などのビジュアルにすることで、いっきに伝わるものがある。そのように、密教というのは仏教のなかでも「真理というのは表現できるし、伝えることができるものなんだ」ということをすごく大事にしている気がします。

 やっぱり、楽しかったり美しかったりするものって人を惹きつけるんですよね。最近、「これが正しいんだ」みたいに論と論を戦わせて理詰めで論破することがよくありますよね。そういったものが象徴的ですが、そうではなくて、できるだけ楽しくて美しいものを大事にする。密教は、そこで開けてくるものがあることに賭けていると思います。ふつうに生きていると「私の方が正しいです」って考えてしまうことはどうしてもあると思います。そういう考え方をしてしまうときもあるけど、一方でできるだけ楽しかったりちょっと綺麗だったりすることに注目するのも大事なのではないでしょうか。

 私はテレビで人生相談をやっていたこともあるんですが、人の悩みってほぼ人間関係なんですよね。私は人間関係がなかなかうまくいかなかったときに、その人の「メンツ」みたいなものを大事にすることがあります。それって、要は「言い方」みたいな話だと私は思っていて、丁寧に話すとか、相手の立場を踏まえるとか、それってすごく安易な道徳的な話のようにも聞こえますが、本質的な表現に関することだと思います。たから私は、他者との共存を考えるときに、伝え方の部分を工夫することをもっと努力すればいいのではないかと思ったりします。自戒を込めますが、ここで意外と失敗している人が多いんです。むしろ相手のメンツをいかにつぶすことに一生懸命では、“炎上”するに決まっています。

人間のドロッとした部分を否定しない

 密教の特徴として、「怒り」であったり「性的な要素」であったり、そういう人間のドロッとした側面と対話を続けてきたことが挙げられます。これは仏教の中でも非常に特徴的な部分です。「こいつ殴りたいな」とか「自分は結婚しているけど、この人魅力的だな」とか、そういう人間のドロッとした部分の存在自体を密教は否定しないんですね。

 そういう密教の僧侶だからか、私は他者との共存とか人間関係を考えるときに、あまりスマートになりすぎないほうがいいと思っています。そのドロッとした思いをそのまま他者にぶつけることはないんだけれども、そういうものを抱えている自分を認めるというか、少なくとも単純に否定しない。そこはすごく大事なところだと思っています。

「身体・言葉・意識」のバランスを取る

 これは『みんなの密教』でも書きましたが、密教を語るときに必ず出てくる言葉に「身口意」というものがあります。身口意とは、身体と言葉と意識のことですね。現代では、そのうちの言葉と意識が肥大化している部分がかなりあると私は思っています。だから、身体、ボディーとかフィールの部分を補充してあげないと、どう考えてもアンバランスになっているところがあるんです。

 例えば私には子どもがいますが、私自身うまくいっているかは別にして、子どもと「ただ一緒にいる」ことはすごく大事なんだと感じることがあります。身体ごと一緒にいるとか、触れるとか、そういったことが現代人には足りなくなっている。だから密教が「身口意」というように身体を教えのなかに持ち込んだことのすごさは、今だからこそ私たちが見つめ直すべきだと思います。

 ただ、密教が言葉や意識を軽んじているかといえば、決してそうではありません。身体と言葉と意識はいわば「三巨頭」で、この3つのバランスを取ることが他者との共存においてすごく大事です。身体も暴走することがあり得る存在ですし、「言葉」「意識」というものも、もっと丁寧に練られることが大切です。

身体を使って実際にやってみる

 最近、身体の大切さを感じたエピソードがあります。この前、うちのお寺に小学生の遠足が来たんですね。うちの子どもも小学生なので、自分のお寺が遠足の場所であることにかなり悲しんでました(笑)。その遠足で、1時間なにかやってくれないかと学校から言われたのですが、最初はお寺の歴史とかお参りの作法とかを教えていたんです。

 すると、私の妻も僧侶なのですが、妻のアイデアでとにかく体験させてあげたほうがいいんじゃないかという話になりました。お寺には、鳴り物などの仏具がたくさんあります。なので、シンバルみたいな鈸(はち)という仏具を鳴らしてもらったり、鐘を打ってもらったり、お遍路さんの着物を着てもらったり、杖を手にもってもらったりしました。すると、やっぱり実際に体験する方が盛り上がるんですよね。

 そういった道具のなかには、大事なものも多いんです。でも、「これは江戸時代にできたものなんだよ。壊れちゃうと大変だよね。だから大切に使ってね、これも勉強だよ」と伝えると、みんなすごく大事に使うんですね。身体を使って実際にやってみる。壊れるかもしれないから、やらないじゃなくて、丁寧に気をつけてやってみる。このことは他者との共存のなかですごく大切なことだと感じました。

偶然性を重んじる

 これも『みんなの密教』でも書きましたが、密教には「偶然性を重んじる」という特徴があります。「花が落ちたところがあなたの仏様だ」とか、「偶然、師に出会う」とか、そういうことを大事にしている面があるんですね。

 この前、四国遍路を授業に盛り込んでいる高校と打ち合わせをした時に、「出会いをテーマに話してほしい」と言われました。理由を聞くと、子どもたちはグループを作って特定の人と付き合うことを決めてしまっている部分があるので、四国遍路をそうしたことを壊す場にしてほしいと言われました。いま、人間関係って「この人とはやっていける」「この人はやっていけない」と決めてしまっている部分がりますよね。だから、偶然性に身を投じることの面白さは他者との共存を考えるときに伝えたいことです。

『NHK出版 学びのきほん みんなの密教』では、「そもそも、密教って何?/密教の基本思想/空海の教え/密教はみんなのもの、といった4つのテーマで、密教を「現代の生き方のヒント」として読み解いていきます。

著者紹介

白川密成(しらかわ・みっせい)
1977 年生まれ。四国八十八ヶ所霊場第五十七番札所・栄福寺住職(愛媛県今治市)。真言宗僧侶。高野山大学密教学科卒業後、2001 年より現職。デビュー作『ボクは坊さん。』が2015 年に映画化。著書に『坊さん、父になる。』『坊さん、ぼーっとする。』(ミシマ社)、『マイ遍路』(新潮新書)、『空海さんの言葉』(徳間文庫)など。NHK こころの時代「空海の風景」(2023 年)に出演。
※刊行時の情報です

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