障害のある弟と兄の関係。我慢させてる?きょうだい児の言えない悩み…救いとなったのは
監修:鈴木直光
筑波こどものこころクリニック院長
何で一緒に遊べないの?弟には障害があると徐々に理解するきょうだい児
長男は、弟のPとは会話などコミュニケーションが取れず、一緒に遊びたくても遊べないし、療育園に通いながら訓練をしたり、通院をしたりしている日々を見てきたので、自分の弟には何かの障害があると徐々に理解していきました。長男が幼い頃は「Pは何でこうなの?」と不思議に思っていたようなことも、成長すると共に「Pだから仕方ないね」という考え方に変わり、知的障害(知的発達症)やASD(自閉スペクトラム症)であるということも自然に理解していったと思います。こうして長男にとってPの存在は、ただの弟ではなく「障害のある弟」となりました。
障害のある弟との日々で長男がつらいと思うことは?
そんな長男はPとトラブルになる度に、必ず親が間に入ってPの代わりに親が長男に謝るという形になるのがつらかったからか?本人は口には出しませんが、「お母さんはいつもPのことで大変だから僕まで怒ったり泣いたりして困らせてはいけない、不本意でも諦めないといけないしPを許さないといけない」などと思っていたのかもしれません。長男は成長するにつれ、何か嫌なことがあっても我慢をしがちで、わがままをほとんど言わない子になっていました。
また、Pと外出すると何かと目立ってしまうので、Pを見る周りの冷たい目を感じることが多く、一緒にいると恥ずかしいと思う場面も多々あるようです。大人の私でも人の目が気になりつらいと思うこともあるので、まだ子どもの長男にとっては私以上に人の目が刺さりつらい思いをさせてしまっていると思います。
そんな長男に対して私は「何か嫌なことがあったら我慢せずに話して!Pに怒っても良いんだよ?」「Pと一緒にいて人の目が気になるなら、無理して一緒に行動しなくても良いよ?」などと言ってきましたが、長男は「Pに対して僕が怒ってもPには伝わらないし、嫌だと思うことがあってそれを誰かに話したところでPの障害がなくなるわけじゃないでしょ?」と言い、また「Pと離れて客観的に見ていると、Pを冷たい目で見てる人たちがいることに気づきやすくなるからそれもつらい……」と話しました。
私はきょうだい児として育ったわけではないので、多感な年頃の長男のつらい気持ちや複雑な気持ちを本当の意味で理解してあげるのは難しいと思っています。でも、少しでも長男の気持ちに寄り添いたいと思うので、夫と共に意識して長男へのフォローをするように心がけています。
きょうだい児の心が救われるきっかけとなる出会い
そんなある日、長男の学校に長男と同じきょうだい児の友だちがいることが分かり「その子と一緒に『きょうだい児あるある』を言い合って盛り上がったんだよ!」と、楽しそうに話してくれたことがありました。
「誰かに話したところで……」と言っていた長男でしたが、同じような立場の子であれば、障害のあるきょうだいの話をお互いがすることで理解し共感し合えるしスッキリすることもあると思えたようです。
その話を聞いて私はとてもホッとしました。親には言いづらい話、ほかの友だちに話すのは恥ずかしいし隠したいと思うような話でも、同じような立場の友だちであれば安心して話せるのかもしれません。私が自分と同じような立場のお母さんたちと話をすることで救われているように、長男も自分と同じような立場の友だちの存在に救われることがあるんだと思いました。
きょうだい児として人生を歩んでいる長男から親が学ぶこと
また、「世間の冷たい目に気づいてしまう……」と言っていた長男ですが、「冷たい目だけじゃなく、優しい目もたくさんあると思ってるよ!」と話してくれたことがありました。
私はその視点にはなかなか気づけなかったので、そんなふうに思える長男をすごいと思いましたし、まだ子どもではありますがきょうだい児としてさまざまなことを考え、葛藤する日々の中で心が強く優しく育っているような気がします。そんな長男からPへの考え方や接し方を私のほうが気づかされたり教わったりすることもたくさんあります。
これから先も大変なことやいろんなことがあると思いますし、その度長男にはつらい思いをさせたり、悩ませてしまったりすることもあると思います。日頃はどうしても障害のあるPのほうに手がかかってしまいますが、親としてできるだけ長男にも寄り添いながら長男の心を守り、長男のための時間もたくさんつくって一緒に過ごしていければと思います。
執筆/みん
(監修:鈴木先生より)
私は以前から入院している患者さんのきょうだいを気遣っていました。きょうだいに病気や障がいのある方がいると、その子の通院や入院などでどうしても親御さんの時間が取られるため、きょうだいにはストレスが生まれることもあると思います。P君のお兄さんも、親御さんに甘えたいのを我慢することがあったかもしれません。時にはお兄さんのために時間を取って向き合うことも大事だと思います。最後にみんさんが書かれている、「Pが放課後等デイサービスへ行っている間などは長男との時間を大切にしていきたい」という言葉に、すべての答えが含まれていると感じました。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。