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【海老名って、どんな街?】ピカピカなペデストリアンデッキと商業施設の陰に個性派カルチャー。古さと新しさを結ぶ“海老名愛”がくせになる!

さんたつ

海老名なひと

新宿駅から小田急線快速急行で45分の海老名駅は、3線が交差するターミナル駅。駅周辺は大型商業施設に囲まれ、沿線屈指のショッピングタウンが形成されている。都心でも人気の有名ショップやレストランがめじろ押しで、一見よくある郊外の新興住宅地のよう……だが違うのだ。ここには“海老名愛”に燃える個性的なスポットや独特のセンスが隠れており、その独特の味わいは一度ハマると抜け出せないほど。さながら、えびせんのごとく。

駅周辺は一大ショッピングセンター

海老名は小田急小田原線、JR相模線、相鉄本線が乗り入れするターミナル駅で、乗降客数は小田急全線で6位。これは登戸駅に次ぐ順位でなんと下北沢駅(8位)よりも上になる。 3線の駅は広大なペデストリアンデッキで結ばれ、デッキに寄り添うように8棟の建物をもつ複合商業施設「ビナウォーク」や「ららぽーと海老名」、『ロマンスカーミュージアム』が立ち、さらに動く歩道まで完備。休日に各沿線からとてつもない数の人が集まるのを見ていると、昨今の駅前再開発の代表例といっていい。

テーマパークのようにカラフルな「ビナウォーク」(撮影=武田憲人)。
ペデストリアンデッキからの夕景。

海老名がこうなったのはそう昔のことではない。2002年、海老名中央公園を取り囲むように「ビナウォーク」がオープン。これが海老名大改造の起爆剤になった。やがて次々と商業施設が誕生し、近年ではタワーマンションすらちらほら建ちはじめている。

「少し前までは、田んぼと畑だけだったのに、あっという間に開発されて……」と、海老名っ子である『Trattoria Legami』のオーナーシェフ・𠝏持恵一さんはその変貌ぶりを驚く。

『Trattoria Legami』に隣接する相模国分寺跡の広大の緑地(撮影=武田憲人)。

街の魅力は新旧のコントラスト

駅周辺ではさらなる開発が進行中で、他の街にはないフレッシュな息吹が感じられるが、その半面、相模国分寺跡や秋葉山古墳群など史跡が点在する歴史の街という面も併せ持つ。

古いものと新しいものが適度な距離感で同居する自然体の街なのだ。

高台にある秋葉山古墳群からの眺望。

これは住み心地の良さとして重要だ。海老名市では2018年から「住みよいまち条例」を施行し、一定の評価を得ているというが、その陰にはこの二面性があるのではないか。

長さ7.5mのローラー滑り台がある清水寺公園は緑陰が涼しげだ。

海老名を熱くする路上アーティストたち

今もっとも熱い海老名名物の一つに、ペデストリアンデッキに出没するアーティストたちの路上ライブがある。

海老名市では、市に申請を出せば、デッキ上の自由通路のステージでライブを行うことができる。結果、毎日誰かかが歌ったり踊ったりしているのが、風景の一部と化しているのだ。

こんなに近い距離で目の当たりにできるとは。アーティストにも観衆にも優しい街と言えるだろう。

毎週火曜日に路上ライブを行う幼なじみデュオ、ぽっぷこーん☆(撮影=どてらい堂)。

地場に 広がる”海老名愛”の輪

駅前からちょっと視野を広げてみよう。そこに広がるのは閑静な住宅地、そして大人が楽しめるレベルの高い店の数々だ。これらの店に共通するのは“海老名愛”が強いということ。

“海老名愛”とは?……例えばこういうことだ。

創業安政4年(1857)、海老名で酒米作りを行う『泉橋酒造』の専務・橋場由紀さんは、「海老名をふるさとと思ってもらえるような緑のある風景を残したい」と話す。

そして、この『泉橋酒造』の酒造りに賛同する人が多い。

『泉橋酒造』は煙突や白壁の建物などが酒蔵らしい雰囲気。

自家焙煎『Muu COFFEE』の店主・加藤宗将さんは「日本酒に漬け込んだ酒珈琲を試作中」といい、『海老名チョコレート工房CHOCOLATERIE SANDGLASS』の店主・石井好明さんは「酒粕を練り込んだチョコが人気」という。『泉橋酒造』を核として海老名ブランドが広まっていく、そんな予感がする。

『Muu COFFEE』の加藤宗将さん。
『CHOCOLATERIE SANDGLASS』の石井好明さん。

また、『EBINA BEER』のトーマス・レハクさんは、チェコから移住して駅前でマイクロブルワリーを開業した。このとき、この街で新しい人生を始めると決心したから店名に海老名を冠したという。いま、海老名で麦とホップを栽培する計画が進行中だ。

トーマスさん自らタップから注いでくれる。

そして緑に囲まれた一軒家レストラン『Trattoria Legami』の人気メニューは、海老名卵と自家製パンチェッタのカルボナーラ。伝統的なイタリア料理にこだわるオーナーシェフの𠝏持恵一さんの“海老名愛”が詰まった一品である。

一見、どこにでもありそうな郊外都市と思われがちだが、こうした隠れた愛が街をいい方向に熟成させていくのだろう。

『Trattoria Legami』オーナーシェフの𠝏持さん。

ダジャレタウン海老名?

えび~にゃの浸透力

もう一つ、海老名の特徴として、そこはかとなく漂うユーモアを挙げたい。

例えば、海老名市のマスコットキャラクターの「えび~にゃ」。

エビとネコからとったダジャレのネーミングも、特産品のイチゴをモチーフにしたデザインも、派手だがちゃんとなじんでいる。

親しみやすくて、キッチュで、ちょっとおいしそうなところがいいのだろう。

JR海老名駅西口にてお出迎えするえび~にゃ。
えび~にゃは交通安全にも大活躍。

ダジャレ炸裂の有鹿神社

海老名の総鎮守・有鹿神社もいい。相模国最古の神社といわれるが、境内で目を引くのは参心殿にあるパンダ宮司の人形。地域の人々に親しまれるようにとマスコットとして採用したもので、ネギ禰宜やレッサーパンダ宮司、さらには厨二病庭園(!)まで用意されている。

『散歩の達人』的にはとってもおいしい神社だが、ここまでやって大丈夫?とちょっと心配になった。

「私が出迎えます!」。リアルパンダ宮司に会いたいなら、神社の行祭事などが狙い目。
禰宜(ねぎ)という神職名を覚えてほしいと登場したネギ禰宜。かぶり物の長さは2mを超す。

海老名SAの海老グルメ

さて、海老名といえばサービスエリア(以下SA)、海老名SAの名物といえば「海老名メロンパン」という人も多かろう。

もちろん間違いではないが、海老名SAの隠れた名物に海老グルメがあることをご存じだろうか。

『海老名茶屋』で20年以上販売しているロングセラー「えびえび焼き」は、タコの代わりにバナメイエビとベニエビを入れたもの。『Hakone Bakery Select』の「海老名カレーパン」はプリプリのエビフライを丸ごと1尾はさんだ斬新な一品。 そして『PAOPAO』の「ゴロっと旨塩 海老名まん」は餡にも生地にもエビを使用するこだわり。

エビ好きにはたまらないSAとなっている。

『Hakone Bakery Select』の「海老名カレーパン」。

とまあいろいろあるが、いずれも“海老名愛”のなせる業に違いない。愛のかたちは人それぞれですね(人じゃないのもありますが)。

アビーロードじゃありません。ここはエビーロード。

海老名名物、まだまだあります

海老名の特産品はエビじゃないよ!

しつこいようだが海老名の名物はエビではない。イチゴである。

ストロベリーロードなる通りがあり、ビニールハウスのイチゴ農家が建ち並ぶ。観光農園としても営業しており、春にはファミリー連れでにぎわう。

海老名といえばイチゴが特産! まちかど公園には、イチゴをかたどったパラソル型の休憩スポットが。

また海老名みやげといえば海老せんではなく、特産のイチゴを使った『山口屋』のイチゴ大福、これを目当てに行列ができる。イチゴとは関係ないが、『ミュールハイム』のプルンダー(ドイツ版デニッシュ)も人気だ。

海老名にカルビーの工場はないが、営業所や工場を構える企業として雪印乳業とコカ・コーラ、さらにはリコーがある。特に雪印とコカ・コーラは工場見学も受け付けていて、地域の子供たちに大人気となっている。

そして子供たちに人気とえいば『ロマンスカーミュージアム』。2021年、海老名駅に隣接する施設としてオープン以来大人気を博している。

海老名駅に隣接する『ロマンスカーミュージアム』(撮影=武田憲人)。

最後になったが、ビナウォークの『三省堂書店』は売り場の約半分を占めるコミックが圧巻、『ららぽーと海老名』の『有隣堂』には「Do! Kids」と名付けられた児童書や知育玩具のある広々としたスペースが。両書店とも活気があり『散歩の達人』もよく売れる。こんな本屋さんのある街が、悪い街であるわけがない。

海老名で出会ったのはこんな人

この街で見かける人の姿は、平日と休日でずい分違う。

平日見かけるのは海老名住民。私鉄沿線に住む、普通に落ち着いた人々、そして最近居を構えたと思しきファミリー層だ。

だが、週末ともなると、駅のペデストリアンデッキに波のように沿線住民が押し寄せる。

中高生、若いカップル、子連れファミリー、子育てを終えた中高年まで、ショッピングセンターはあらゆる年齢層をまんべんなく飲み込んでいく。そして日が落ちるころには路上ライブとそれに見入る人々が増えてくる。

なんという懐の深さ!

時折、過激なおしゃれを決め込んでいる人の姿も見かける。そりゃそうだろう。これだけたくさんの人が集まってくるんだもの。海老名のペデストリアンデッキは沿線住民のハレの舞台でもあるのだ。

取材・文=塙 広明(アド・グリーン)、武田憲人(散歩の達人MOOK編集長)
文責=さんたつ/散歩の達人編集部
イラスト=さとうみゆき
撮影=井上洋平

アド・グリーン
編集プロダクション
1982年創業の編集プロダクション。旅行関係の雑誌・書籍、インタビューやルポルタージュを得意とし、会社案内や社内報の経験も多数。企画立案から、取材・執筆、デザイン、撮影までをワンストップで行えるのがウリ。

散歩の達人/さんたつ編集部
編集部
大人のための首都圏散策マガジン『散歩の達人』とWeb『さんたつ』の編集部。雑誌は1996年大塚生まれ。Webは2019年駿河台生まれ。年齢分布は20代~50代と幅広い。

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